魔神と死神と因縁の相手
「くそっ! あの野郎ふざけやがって!!」
イベントの都合上誰もいない草原へと死に戻ってきた俺は、俺を殺したリューシンへの怒りに燃えていた。
だがあいつの思うままに動くのはもっと嫌だ。
「……チッ。胸糞悪いが、デスペナが終わるまでは参加しねぇでおくか」
明日一日は休みにしよう。んで、明後日の後半から不参加分を取り返す。後半の所持ポイント半分強奪ルールなら追いつけるはずだ。だが簡単にはいかないだろう。奪われるためだけに参加するヤツはいない。奪う自信があるから参加するんだ。つまりこれまで以上に強敵との連戦になる可能性が高い。
「上等だ。やってやろうじゃねぇか」
あの野郎はあからさまな挑発と合わせてデスペナ状態で突っ込んできた俺をまた倒す、みたいな感じで俺の順位を落としまくるつもりだろう。そう思い通りにさせてたまるかってんだ。
「……明日はレベル上げと素材集め、だな」
一日だけの休みとはいえ貴重な時間だ。なにもしないで待つよりはレベルを1でも上げておいた方がいい。
「……ただあいつは絶対ボコってやる」
俺はそう決意しつつ、怒りを溜めるように過ごすのだった。
◇◆◇◆◇◆
そうしてようやくデスペナが終わった後の参加日では、既に後半戦が開始されていた。
参加者はかなり減ってしまったが、トップと言われるような連中は残っているようだ。
俺は結局昨日参加しなかったので、かなり順位が落ちてしまっている。とはいえ色々俺の知っている範囲外でも激しい争いがあったのか順位の変動が激しかった。
というか未だに一位でい続けてるあの野郎はどういう了見だ? まぁ多少強いっちゃ強いとして考えても確かどっちかというと防御寄りの性能だったはずだ。そんなばっさばっさとプレイヤーを薙ぎ払えるようなモノはなかったはずだが。ランキングを眺めていても、着々とポイントを増やしているとは思う。トップ連中と一人で渡り合えるような戦闘力はないはずなんだがな。ま、それは実際に会った時に聞いてみるとするか。
「今の上は個人だとリューシンとスレイヤ。ギルドだと大魔王軍と虚夢の宴が優勢だな」
アンチ・ブレイズも頑張ってはいるが、ギルドでは五位と一歩劣る。
「喧嘩祭などという催しがありながら、貴様が意気揚々と暴れ回らないとは……変わったな。血塗れ」
落ち着いた声音と気取った口調。その声を俺は聞いたことがあった。背後から降ってきた声に振り向くと、頭に思い描いた通りの人物が立っている。
重厚な翡翠色の鎧に首から下を全て包んだ青年だ。亀の甲羅のような盾と蛇腹剣を扱う。現実では流石に鎧を着てなかったんだが、タフネスでは誰も勝てないと言われたほどだ。足を止めての殴り合いなら俺も負けてたかもしれねぇな。
「よぉ、“玄武"。お前一人か?」
「いいや。皆いるぜぇ」
笑って尋ねると、ここぞとばかりに他の面々も姿を現した。完全に包囲された形だ。
俺が喧嘩祭開催前にリューシンに連れられて戦った、現実でも因縁ある六人。
玄武、白虎、朱雀、青龍、麒麟、黄竜。
水、風、火、雷、空、火と土。それぞれ伝説上の逸話に由来した能力と宛がわれた属性を操る強敵だ。こいつらとゲーム内でも戦えるってのは面白い。
この間は俺が勝ったが、あれからかなり強くなっていると思われる。
「まさか全員がかりで負けるとは思わなかったからよぉ。みっちり鍛えて再戦に来てやったぜぇ。感謝しろよぉ」
にやにやと笑いつつ言ってくるのが、短い白髪に鋭い白目をした少年だ。小柄だがパワーもあり、尚且つ滅茶苦茶に素早い。“白虎”と呼ばれるようになったその戦い振りは嵐のようだと称された。こっちの拳を避けつつ殴ってきやがるからイラついたが、高速の戦闘ってのもなかなか悪くねぇと思ったもんだ。
「はっ。そりゃご苦労なこった。まぁ丁度いいハンデだ。また全員がかりで来いよ。一人残らずぶっ潰して、てめえらのポイント根こそぎ奪ってやるから」
負ける気がしねぇ、とまでは言えないが負けるつもりはねぇ。
「そう上手くいくとは考えないことだ。俺達も強くなってるんでね。連携の練習もした。もう負けないよ」
黒髪で精悍な顔つきをした男だ。俺よりも明らかに年上で、当時俺が中坊だった頃既に大学を卒業した後だったか。白銀の鎧を身に纏い槍を携えた恰好だ。なにを思ってか大学卒業と同時に貯めていた金を手に全国を旅していた人で、歩く先々で武勇伝を作り話題となった人だな。“麒麟”と称されていた。話してみると普通にいい人なんだが、戦いになると容赦がねぇのがまたいい。
「リベンジとかはあんま興味ないけど、参加しないと煩くってね。悪いけど勝たせてもらうから」
実際に会った時は本当にこいつが? と思ったモノだが。なにせ田畑で働く普通の田舎娘にしか見えなかったからな。ただまぁめっちゃ強い。力が。生まれる世界を間違えたんじゃねぇかってくらいに強い。溝に嵌まったトラクターを一人で持ち上げて道まで運ぶくらいに力が強い。とはいえ喧嘩慣れしてなくって良かったと思ったもんだが。
今は黄金の衣装にガンブレードを携えていた。戦い方が加わった上に力も強いままなので以前とは全くの別人レベルの強さだ。焦ることなくいつも余裕の最強娘、ってことで便宜上“黄竜”と呼ばれるようになった。一番新参というか最後に名づけられたので、なんていうか“麒麟”と対称な人が欲しかったんだろうとは思う。
「今日こそは負かしてやるんだから」
気の強そうな朱色の髪と瞳を持つ少女は“朱雀”だ。別にこいつらは不良だからそう呼ばれてたってわけでもねぇし、実際スケバンじゃない。むしろそういうのを毛嫌いするタイプだ。見た目といい能力といい元になっている生物といいどこかシュリナを連想される。まぁあいつはこんなにツンツンしてねぇけど。
一回喧嘩した後はなぜか俺んとこまで来てはシアスと喧嘩してたな。俺と喧嘩しに来てくれたんじゃねぇのかよ、と呆れるばかりだったが。毎回毎回なんのために来てるのかよくわからんヤツだった。
「ってことで、てめえはここで終わりだ」
最後は青龍。青髪にトゲのあるイケメンだ。こいつは割りとこの六人の中では悪い人間だったりする。夜な夜なイケメンさを利用して高校生を釣ったりしてたとかいう。まぁ俺がボコボコにしてやったんだけどな。それからは失墜して何度かリベンジを挑んできたが返り討ちにしてやった、というヤツだ。俺に執着しなければ毎回顔が不細工にならずに済むってのにな。プライドが高いんだろ。
「上等だ、前みてぇに返り討ちにしてやんよ!」
俺は後半開始早々の遭遇に気持ちを昂ぶらせながら魔神ソウル“最終形態”を発動させる。
とそこで、遠くからどでかい鎌が飛んできて蒼い雷を纏わせる青龍に直撃、一瞬でHPを消し飛ばして退場させた。……おいおい。この六人の中でも真っ先に倒された「俺は四天王の中でも最弱……」のポジションなのに大した出番もなく退場しちゃったよ。
冗談は兎も角、その鎌には見覚えがあった。
「ようやく会えたな、戦闘狂」
ざりっと地面に突き刺さった鎌を手に取り俺を見据えてくる、そいつ。
「随分派手な登場だな。てめえには似合わねぇよ、根暗」
黒いマントを羽織った全身黒ずくめの男。こいつもこいつで現実での因縁がある“虚夢の宴”ギルドマスター、フリードだった。
「悪いが助太刀じゃない。そこの煩い戦闘狂を倒すのは俺の役目だ。貴様らには譲らん」
「へぇ。まぁいいやぁ。邪魔するってんならてめえごとぶっ倒してやらぁ!」
こうして現実での因縁を引き摺ったヤツらとの戦いが始まるのだった。




