魔神と騎士団長
「はぁーっ……はぁーっ……」
流石の俺も、盟約城騎士団全員と戦うのはキツかった。
もちろん楽しかったのでテンションが上がれば疲労なんて感じることはないが、それでも相手はトップギルドの一つだ。正直なところ手強い面子が多い。俺がただ拳のみの戦い方で挑んでいたら、とっくに負けていただろう。
「チッ……やっぱやりやがるな、てめえら」
雑魚を掃討する、なんてことはできなかった。単純な力押しで倒せる相手じゃなかった。一々弱点や欠点を探しながら戦う必要があり、正直に言って疲れた。
「……それは、こっちのセリフだよ」
ギルドマスターのセイアがやや苦々しい表情で返す。
「まさか、たった一人で盟約城騎士団の精鋭を倒すなんてね」
そう。彼の言う通り最初大勢いたメンバーは一人残らず倒してやった。おかげでセイアと一対一に持ち込めたが、時間がかかりすぎた。今日はこの一戦で最後になりそうだ。
「……はっ。わざと手を出さずに静観してたヤツがよく言うぜ」
普通に考えれば騎士系職業であるセイアがここまで残っているのはおかしい。無論俺は周りのヤツから倒すだろうが、それでもセイアがしつこくついた場合はイライラして先に殺りたくなっちまいそうだ。
「少し、君がどこまでやれるのか見てみたくなってね。事前に話して、君が単独で来た場合には俺抜きで対処するように、って」
彼は「でもここまでやるとは思ってなかった」と肩を竦めた。
「狙いをつけるとこまでは読まれてたか」
「君の思考は単純だから」
「……おちょくってんのか」
「気に障ったら謝るよ。これでも褒めてるつもりなんだ。ゲームってのはもっと、色々考えてプレイしないと勝てないモノだと思ってたから」
そう言うセイアの顔はどこか寂しそうだった。だがどんな面持ちだろうとどうでもいい。俺はセイアと話しに来たんじゃない、戦いに来たんだ。
「そりゃ人それぞれ向き不向きがあるからな。戦い方に差が出るのは当然だろ」
やや投げやりに答えて、拳を構える。
「ほら、さっさと戦おうぜ。俺はお前と、殴り合いに来たんだからな」
俺の言葉に苦笑して見せたが、すぐに表情を引き締めて剣と盾を構えた。
「ああ。存分に戦おう、ジーク」
セイアがやる気になったのを確認してから、俺は勢いよく飛び出した。
喧嘩祭通算二回目の、トッププレイヤーとの戦いが幕を開ける。
俺は既に魔神ソウル“最終形態"を使用している。中学の時、俺が血塗れの真紅と称された頃からそのまま背が伸びたような姿だ。金に染めて逆立たせた髪にカラーコンタクトで金にしていた瞳。学ランの上を脱いだ恰好で暴れ回っていたせいか、黒い長ズボンに腕捲りされたYシャツという服装だ。
この形態の最大の特徴は、圧倒的なパワーである。
最終に至るまでの形態ではMP消費なしで波動をぶっ放せたり場合によっては空を飛べたりするのだが、そういうファンタジーが一切ない。
それらの特殊な機能を全て省いて身体能力に注ぎ込んだようなモノだった。
なにが言いたいかというと、“最終形態”は圧倒的身体能力で成り立っているのだ。
まずは一発正面から叩き込む。セイアは重い騎士甲冑で首から下を覆っており、持っている盾も大きい。守りを固める代わりに動きが鈍重で、俺の攻撃を避けるには至らないだろう。そんな読み通りに、正面からの拳を盾で受け止める。……正面から思い切り殴って受け止められたのは初めてかもしれない。
セイアは流石に五十センチほど地面を擦って後退したが、ただそれだけに留まった。俺がイメージしやすいところで言うとリューシンが前線で敵の攻撃を受ける役割だが、あいつが俺の拳を受けるとなると避けるか受け流すで対処するだろう。正面から受け止めようなどとは考えない。
その点セイアは受け止められると見込んで構えていた。しかもなにもスキルを使っていない状態で、だ。加えて盾を持つ手は片手だ。なかなかに堅い。HPの減り具合も微量でしかなく、ほとんど減っていないようなモノだ。流石にパッシブスキルはいくつか持っているだろうが、ここまでしっかり受け止められると楽しくなってくる。
「ははっ! いいな、セイア。流石は騎士団長様だ!」
俺が背後に回って蹴りを放つのに対し、向こうは最小限の動きで盾を割り込ませて受け止める。きちんと俺の動きが追えているらしい。これは、ギリギリの勝負になるかもしれないな。
「おらおらおらぁ!」
しかし防御に手いっぱいで攻撃に回れないと判断し、連打でセイアに猛攻を仕かけた。きっちりガードされはするが少しずつ、本当に少しずつセイアのHPが削れていく。
「セイントヒーリング」
俺が考えなしのバカでも、流石にこのまま押し切れるとは思っていない。
セイアは全身に白い光を纏った。すると僅かに減ったHPが少しずつ回復していく。……チッ。回復速度と俺の攻撃速度から考えて、全力で殴り続けても減らねぇな。
「ナイトウォール」
更に防御力を上昇させるスキルを使ったのか、HPの減り具合が落ちて回復量に上回られる。まだまだ向こうのMPにも余裕はある。このまま延々と戦っていては拉致が明かない。
「ソードカウンター」
ある程度俺の攻撃に対して対応できるようになったからか、セイアから攻撃をしてきた。俺は絶えず攻撃しているが、それを無視して攻撃のモーションに入った。名前からして敵の攻撃に合わせて攻撃を放つ技なのだろう。その一発を行っている間にも二発ほど拳を叩き込んでやったが、全く怯まない。どんな身体してやがんだ。
仕方なく攻撃を回避することになり、結局防御をされなかったとしてもスキルを使われたことでHPの減りはカバーできるようになったようだ。セイアもそれを確認したのか、攻撃の手が増えていく。攻撃力の高さが随一の魔神ソウル“最終形態”ですら大幅に削れないとはな。長期戦になるだろうとは思っていたが、まさかここまでとは。
……これは、俺の切り札を切ることも考えとかないとダメだな。




