魔神とギルド会議
活動報告にて各作品のこれからなどを記載しています。興味のある方はご確認ください。
グランドクエストかどうかもよくわからない全プレイヤー参加の喧嘩祭の発表があった後。
俺を含む仲間達はギルドホームに戻ってきていた。
アンチ・ブレイズの面々が全員集合している――つまりは今回の主催者であるリューシンもだ。
リューシンがいるせいで若干緊迫したというか、ぴりついた空気になっている。だが普段とは違ってリューシンの顔には自信が溢れている。密かに足が震えていたり挙動が怪しかったりもしなかった。
「とりあえず、ギルドとして今回のイベントに対する方針を決めるか」
気まずい空気が流れつつあったので、仮にもマスターである俺が口火を切った。
「今回、俺はギルドとして参戦しない」
俺が言おうとしていたことを、リューシンが真っ先に告げてきた。そのせいでより空気が張り詰める。特に副マスターであるシュリナの顔が険しい。眉間に皺が寄っていた。
「俺はソロで一位を目指すことにしててな。今回はギルドとして参加しない。それに、後ろからどっかの戦闘狂に倒されちゃ敵わないしな」
「一理あるな」
リューシンは俺に視線を合わせて挑発的に言ってきたが、他ならぬ俺自身が肯定した。……なんとなくで後ろから攻撃しそうだからな、今までの行動を省みてもやらないとは言い切れない。
「……お前が肯定すんのかよ」
「そうね、否定はできないでしょうけど」
呆れたようなリューシンと、困ったような顔で頷くシュリナ。他の面々も俺がやりそうということに関しては同意見のようだったが。
「まぁな。だがお前にしては珍しいな。一位を獲るだなんて」
「ああ。そのための算段もつけてある。実際に始まってからのお楽しみ、ってヤツだ」
「そうかよ。つまりそれは、俺への宣戦布告だと受け取っていいんだな?」
俺はリューシンに向けて好戦的な笑みを浮かべる。こいつとは長い付き合いになるが、喧嘩したのなんて遥か昔のことだ。
「冗談言うなよ、お前にじゃない。少なくとも俺は、全プレイヤーに向けて宣戦布告したつもりだぜ?」
いつからだったか俺に喧嘩で敵わないと見て引くようになったリューシンが、自信満々に笑って返してきた。いつになく堂々としている。俺の威嚇にも全く怯まず、むしろその程度じゃないとばかりに煽ってきやがった。
「そうか。じゃあイベントが始まったら覚悟しとけよ?」
「ああ。他のプレイヤーと同じように、倒してやるまでだけどな」
俺達は笑い合って、このイベントで戦う約束をした。
リューシンはさっさと立ち上がって、踵を返す。ギルドとして戦わない以上、ここにいる意味がないからだろう。
「……最後に教えて。いつからクイーンと組んでたの」
ティアナが立ち去るリューシンの背中に問うた。
「最初から、とか言えたら黒幕っぽくて良かったんだけどな。一、二週間前に今回のイベントを思いついて、運営宛にお問い合わせフォームから意見したらクイーンさんから返信が来て、実現するから主催しろって言われただけだからな」
「ショボいな、背景」
「ショボい言うな。けど俺の案をたった十日で実現可能にしちまうんだから、あの人はやってることは兎も角としてホントに凄ぇよ。しかもチームじゃなくて単体でやってるってんだ。俺には、到底敵うとは思えないね。あの人に挑もうなんて、バカの所業だよ」
リューシンは最後にそう言い残して、アンチ・ブレイズのギルドホームを後にした。きっとこのイベント中はここに戻ってくるつもりがないのだろう。場を張り詰めさせていた張本人がいなくなったため、僅かに空気が弛緩した。
「今回だけどな、俺もソロでやるから」
だが俺が放った一言で再び戻ってしまう。
「……あなたはギルドマスターでしょう。イベント中くらい協調性を持ちなさい。ある程度縛られるのもギルドの仕方ないところよ」
シュリナが端整な顔を険しく歪めて、リューシンに対してと同じような視線を送ってくる。
「だとしたら俺はギルドにいる意味がねぇな。お前らとはいい仲間だと思ってるが、俺のやりたいことができないってんなら話は別だ」
強くて頼りになる仲間達だからこそ、本気で戦いたいという気持ちもある。俺の発言にシュリナは若干寂しそうな目をしたが、
「そう。じゃあいいわ。今回だけソロを認めてあげる」
静かにそう言った。完全に副マスターの方が立場が上になってるとか気にしてはいけない。
「悪いな。俺も、お前らと本気で殺り合うのが楽しみで仕方なくてな」
笑って正直な気持ちを口にした。
「ジークはやっぱりそうだよねぇ」
リューシンの次に長い付き合いであるシアスが呆れたように苦笑している。シュリナは厳しい言葉を口にしたが、他の面々もある程度はわかっていたようで、全体的に苦笑いの雰囲気だ。一部俺が本気で戦うと言ったせいか興奮気味に頬を染めているヤツもいたが。まぁあまり正面から戦ったことのない仲間達と全力で戦える機会だ。存分に楽しむとしよう。
「じゃあ俺も準備とかで帰ってこないだろうから、お前らも好きにしろよ」
俺が身勝手に言って立ち上がると、シュリナが嘆息してから苦笑する。
「わかったわ。その代わり、覚悟しなさいよ」
「おう。楽しみにしてる」
実際の運営どころかギルドのまとめ役すら任せてしまっているので、正直なところもうマスターはシュリナでいいんじゃないかとすら思えてくる。副マスターをティアナがやればいいギルドになりそうだ。
とはいえ俺も仲間に愛着がないわけでもない。一緒に暴れ回るのもいいんだが、今回は戦いたい欲が勝ってしまった。
俺はそれからイベントが開催されるまでの三日間、寝る間も惜しんでレベル上げに勤しんだ。安全地帯がないイベントなので、おそらくイベント中も寝ずに戦うことにはなるだろうが。とはいえイベント開催期間である六日間程度ならトッププレイヤーほどにもなれば問題なく過ごせるだろう。最悪一日無駄にはするが、休みたい日だけ参戦しなければいい。
まぁせっかくの機会だし、色んなヤツとずっと戦闘できるように準備しておくけどな。




