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Dive in the world   作者: 星長晶人
最終章

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魔神と喧嘩祭

昨夜の更新を忘れていました。

 このゲームに囚われてから何日が経過しただろうか。ログイン日数の表示がないためどれくらいの時間が経ったのか見当もつかない。現在時刻だけはわかるのでログアウト不可能になった日付を覚えていれば良かったのだろうが。

 戦い続けられるというゲーム内での期間が楽しくて、残念ながら俺は覚えていなかった。


 かなり長い時間やっているようにも感じるが、短かったようにも思う。


 そんなDIW内、おそらく最初で最後になるであろうプレイヤー主催(・・・・・・・)のイベントが始まろうとしていた。


 なぜプレイヤーが主催しているのかがわかったのかというと、新イベント開催の告知があったところに記載されていたからだ。


 主催者:リューシン


 ってな。


 まぁ最初見た時は驚いたが、納得もした。主催側に回らなければ全プレイヤー参加型喧嘩祭の開催を予告するなんて不可能だからな。


 ログアウト不可能なゲームと成り果てた時と同じように、プレイヤー達は広大な草原に集められていた。


 頭上には大きな投影モニターがいくつもあって注視する場所を映し出している。注視するのは、今回のイベント内容を説明するために空中に浮いている、リューシンだった。

 あいつも俺と同じようにできるだけの準備を整えてきたようで、装備品が一新されていた。紋章をセットするためのガントレットも新しくなっているので、職業も進化したのだろう。最近見かけなかったから生まれ変わったかのように見える。


 説明を十時から始めると告知されているので、それまでの僅かな時間リューシンは堂々と腕組みをして待機しているようだ。


 そして十時になったところで、存在しないはずの鐘の音が鳴った。俺のいる位置からだと本体は見えないが、モニターに映るリューシンが大きく息を吸っているのが見えた。


『これより、第一・五回番外グランドクエストの開催を宣言する!』


 リューシンのヤツはシステムの関係上大声で、そう叫んだ。

 その本筋なのか脇道なのかよくわからない宣言にざわめきつつも、じっと次の言葉を待ってみる。


『今回のクエストは参加しなくてもいい。だが参加した方がいいと思うぜ。なにせ、プレイヤーである俺が報酬を考えたクエストだ。お前らの欲しいモノもあるだろうしな』


 そこに関しては自信があるとばかりの態度だ。まぁ真実だろう。あいつはゲームばかりやってきている。


『と、言うかだな。俺が交渉して報酬をいい目にしてもらったから、期待しとけ』


 交渉、ということはやっぱりこいつは女王か運営と手を組んだらしい。可能性が高いのは女王の方だろうか?


『じゃあまずはクエスト名の発表だ。ずばり! ――喧嘩祭だっ!!』


 まんまだった。なんの捻りもないネーミングだ。


『捻りもない名前だと思っただろ。けどそれでいいんだ。こういうのは、余計なもんをつけるだけ無駄だ。シンプルでわかりやすく、なにをやるのか明確なのがいい。つーことで、内容は参加を表明した全プレイヤーによるサバイバルバトルだ。参加プレイヤーにおけるDIW全土での安全区域の廃止とデスペナルティの変更がある。まず安全区域の廃止だが、例えば街中でも戦闘可能にする。ただし、NPCや不参加のプレイヤーには攻撃できない上に建物の破壊も認められていない。要は宿屋に泊まってるヤツを眠っている間に倒すとか、そういうのも可能になるってことだ』


 プレイヤーの宿泊位置を把握していれば、簡単に勝つこともできるってわけか。


『次にデスペナの変更だが、今のデスペナルティはこうだ。レベルが無条件で一下がって、途中まで経験値を溜めていても初期化される。あと装備またはアイテムのランダムドロップがあるな。これを変更して、レベルのダウンをなくす。経験値も変わらずにする。ただアイテム系のドロップはそのままだ。加えて新たにステータスのダウンがかかるようになる。具体的に言うと死に戻ってから二十四時間の間、装備品やスキルによる強化されたステータスが半減される効果だ。でかいだろ? ちなみにこれらの変更はイベント中にしか適応されないから安心してくれ』


 たった一度の死がその後の活動を大きく左右するのか。


『あとデスペナ発生中に死んだ場合はペナルティなしになる。あと参加プレイヤーの死に戻り地点は完全にランダムとする。まぁ一応半径百メートル以内に他プレイヤーが存在しない地点、っていう決まりはあるけどな。死に戻り場所が今のままだと、死に戻ったプレイヤーを狙うヤツが出てくるだろうから、その配慮となる。念のためだが死に戻りを経た後には十分間の無敵時間を設ける予定だ。これによって死に戻ってすぐのプレイヤーが詰むことも少なくなる。この辺は実際にイベントをやってる中で調整する可能はあるからそのつもりでな』


 まぁそこは普通だ。対処しなかったらレベルの低いプレイヤーが延々と死に続けるイベントになりかねない。


『肝心のイベント内容だが、参加プレイヤー全員でのサバイバルってのはさっき言ったな? ただ死に戻りもあってどう勝敗つくのかわからないと思うから、その辺りの説明をする。簡単な話だが、ポイント制だ。一人倒したら一ポイント加算。倒されたら一ポイント減算。最初の持ち点は十ポイント一律で、上位百名のランキングは常時街中の投影モニターで確認できる。ランキングがあるってことはランキング報酬があるってことになるが、一位への報酬がこの――経験値の塊だ』


 リューシンは説明を続けながら右手の上に一つの青白い光の玉を出現させた。


『これはトッププレイヤーであってもレベルが十くらいは上がるほどの経験値でな。レベル上げが捗るぞ』


 彼の言葉に一部からおぉという声が上がる。ただRPGなのでじっくりレベル上げをする楽しさを持っている人もいるだろうから、モチベーションが下がるプレイヤーもいそうだ。


『まぁ俺も地道にやってくのが好きだったりするからな、経験値はいらないって人もいるだろう。まぁその辺りは交渉次第だ。このゲームからの脱出――は交渉難易度が高そうだが、まぁいい装備品とかスキル追加とかならなんとかなるだろ。なにせ交渉相手はこの世界における万能の神みたいな人だ。なんでもできるぜ』


 リューシンがにやりと笑って説明している中で、彼の横からぽんと煙が出てきて幼女が飛び出してきた。


『やぁやぁ皆、交渉相手ことクイーンちゃんだよーっ!』


 にぱっと明るく笑って手を振っているのは、以前は巨大だったが間違いなく“乗っ取り女王(ハッキング・クイーン)"その人だった。

 彼女の登場にイベント内容とは別のどよめきがプレイヤー中に広がる。


『いや、クイーンさんは今日出てこないでください、って言ったじゃないですか。せっかく夢にまで見た俺の晴れ舞台をぶち壊さないでくださいよ』

『ごめんねー。でも久々に元気にしてるかなって思って』


 驚いていないのは隣に立つリューシンだけだ。落ち着きを払った様子に、あいつがクイーンと交渉して今回のイベントに至るのだと理解させられた。


『まぁ、説得力は出たと思うんでいいですけど。ってことでクイーンさんと交渉して、今回のイベントを開催するようにしたから。で、クイーンさん。脱出とかって一位の報酬になります?』

『えー? せっかく捕まえた子を逃がしちゃうなんて嫌だけど、まぁ交渉次第かなー。場合によっては考えてもいいよ、ゲームからの脱出』


 このゲームがログアウト不可能になった原因を作り出した張本人が、そう言っていた。それに俺達なんかとは違って絶望していたプレイヤーの目にも光が宿る。


『と、いうことなんで皆さん頑張っていきましょう。参加報酬もあるから参加だけは表明した方がいいぜ。ついでに言うとポイント制はイベント後半から激化させるために敗者のポイント半分を奪い取る方式に変更するからな。ちゃんと考えて動けよ? まぁイベント開催中零時、つまりは日付が変わった瞬間にその日参加するかどうかが求められるから、安全な前半にポイントを集めまくって後半勝ち逃げするみたいなこともできるからな。加えて大事なことだが、ギルドやパーティ内での騙まし討ちが可能になる。複数人というメリットを取る代わりに、裏切られるという可能性を孕んだスリルある形だ。なにせ、仲間だと思って油断してるところに攻撃すればポイント稼ぎ放題だからな。そういうのも戦略の内だ。だから、よく考えて動けよ』


 リューシンはイベント中の重要事項に入りそうなことを説明していた。……仲間同士でも攻撃が当たるのか。まぁ単騎で突っ込むことほどこういうイベントで楽しいことはないと思うし、俺はどうでもいいと思うが。


『このイベントには共闘するという概念が薄い。今まで隣で戦ってきたヤツと、全力の戦闘ができる。そんな機会だと思ってくれ。DIWにはPvPのコンテンツがないからな。その一環だと思ってくれればいいさ。まぁクリアなんてモノがないから面倒だとは思うが、せっかくの機会だから楽しんでくれよ。ランキング報酬とかの細かい部分はこれからイベント告知の方に載せとくからな。じゃあ、俺も参加するから当たったら是非戦おうぜ』

『じゃあねーっ』


 リューシンはそう締め括ると説明を終えた。クイーンのヤツも今回はなにをするでもなく、手を振って去っていった。


 予想以上に楽しそうなイベントになりそうだ。ギルドとかは話し合ってどうするかを決めるだろうが、混沌としていて確かに俺好みではある。

 一応俺もギルドを率いる身なので、俺がどうするかとかは話しておく必要があるだろう。せっかくなら仲間達とも戦いたい。


 俺は内心でやる気を漲らせながら、ギルドホームへと戻るのだった。

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