魔神と退屈
めっちゃお久し振りな気がします
とりあえずこれが最終章になるんですかね
案が出てこないので、色々回収しつつ完結に向かってく形になります
一応続けて欲しいという方は、案を下さい
多分ですが、ショートショート的な感じになると思います
「……あー」
怠い。
「……あ~」
超怠い。
「何ダラけてるのよ。ギルドマスターなんだからちゃんとしなさい」
俺がギルドホームのプライベートビーチでぐったりと日光浴してると、副マスターのシュリナが呆れたように言ってきた。……さすがはアンチ・ブレイズのおかんだな。次男坊を注意するのもおかんの役目って訳か。
「……え~。だってもうやることねえじゃん? さすがに戦いばっかで飽きてきたし」
「お前が戦いに飽きるってどんな異常事態だよ」
俺がダレて言うと、アンチ・ブレイズのちょい役、リューシンが呆れていた。……チッ。リューシンの癖に偉そうな。
「だってお前苛めるのも飽きたし」
「お前が楽しくて苛めてんの!?」
「俺はやりたくないことはやらねえっての。まあそんなこんなで神も魔王も倒しちまったし、やろうと思うことがねえ訳だ」
驚くリューシンに何てこともないように言い、戦う相手がいなくてつまらないと言外に告げる。
「と言っても、第二回グランドクエストが始まる予兆みたいなのがあるわよ? そこで新しい敵探せばいいじゃない」
大魔王との決戦後、数日間もほとんど動かない俺を何とか動かそうと、シュリナが説得してくる。……そうじゃねえんだよなぁ。
「どうせ、また強い敵が出てくるだけだろ? 面白くねえじゃん」
グランドクエスト考えたヤツ誰だよ、って思うくらいにはつまらないストーリーだ。戦って勝った方の勝ち。シンプルでいいが、それだけじゃゲームは面白くない。苦労があって、勝てない敵がいて、そこから這い上がってこそのRPGだと俺は思う。ドラ◯エみたいにな。
あの超大作と比べるのは酷ってもんかもしれねえが、オンラインゲームにいいストーリーを求めるのも酷かもしれねえが、やっぱり薄いと言わざるを得ない。
「いやまあ、それがゲームだしな」
リューシンは苦笑して言う。そうかもな。だが、それだけじゃ売れるゲームにならない。何かしらの面白い要素があってこそ、商品になる。……俺はどの目線で文句言ってんだろうか。ってか俺は急にどうした。
「はぁ、どうしたもんか」
俺はため息をついて青空を見上げる。
……戦いだけじゃつまらない。俺はそう思ってるんだろうか。だとしたら、奇妙な話だ。誰よりも戦うことが好きだと自負してる俺が、戦い以外の何かを求めるとはな。皮肉が効いてる。
「……」
放置していた人間関係を掘り下げるか? いや、今更カッコ悪い。ってかさすがにヤる気も起きない。……う~ん。手身近に、誰かに喧嘩売ってみるか。
「……なあ、リューシン。そういや、大魔王軍がこっち来てるんだっけか?」
俺はそういえば、と思い出した事案をリューシンに尋ねる。
「ああ。グランドクエストが終わってから、ギルドとして追加されてるな」
情報以外では何の役にも立たないリューシンがその真価を発揮する。……そうか。じゃあちょっと喧嘩売ってくるか。暇だし。
「じゃあちょっとぶっ倒してくるわ」
よっ、と俺は起き上がり、ウインドウを操作して装備を水着から普通の服に変える。
「は!? ってか軽くぶっ倒すとかバカじゃねえの!?」
とか何とかぬかしやがったリューシンはぶん殴って地の果てまで吹っ飛ばす。大魔王軍のギルドホームがあるという新フィールド、魔界へと向かった。
「てめえ、ジーク!」
魔界にある厳かな暗黒の城に行くと、俺の顔を知っているらしい門番が怒鳴ってくる。
「おい、お前! アポ取ってんだろうな?」
続いてもう一人の門番が、社会に出た大人だが「最近の若者は……」と言われそうな感じでイチャモン付けてくる。……へぇ? 俺にイチャモン付けるたぁ、いい度胸じゃねえかよ。やっぱ戦いはこうでなくっちゃな。
「はっ」
俺はしかし鼻で笑う。
「誰が殴り込みにアポ取るかってんだよ」
言って、殴り飛ばす。魔神ソウルを使うまでもなく、ただのステータスで肉薄した。両拳を左右それぞれに突き出すように、二人の顔面にめり込ませてやった。「へぶぁ!」と情けない声を上げて吹っ飛んだのは爽快だ。
「……はっ」
ゾクリ、と身体の内側から湧き上がるモノを感じた。戦いに身を投じれば、一時的だが身体が熱くなる。思わず口元に笑みが浮かぶ。
ギルドホームへの殴り込みは、第一回グランドクエストが終わってから追加された要素だ。もちろん、道場をやっている場合はその機能をオンにする。しかし戦いたくないギルドはオフにする、というあまり意味のないシステムだ。ギルドホームでは戦闘行為自体を禁止に設定している場合もある。だが大魔王城は門番を立てて敵襲に備えている――つまり、殴り込み大歓迎って訳だ。
俺はそんな、俺のためにあると言ってもいい大魔王軍のギルドホームに殴り込みをかけた。たった一人で、しかもスキルなしに。
魔神ソウル使っての虐殺も気持ちいいっちゃいいんだが、やっぱり喧嘩は拳だ。
ああ、こうして大人数のいる城に乗り込むと、昔のことを思い出す。……中学の、やんちゃしてた頃のことだ。あの時もこうして、拳一つで軍隊に殴り込みをかけてたっけな。
俺は懐かしい心持ちになりながらも突き進み、大魔王がいる謁見の間に辿り着く。
「よく来たな、ジーク。リベンジマッチといこうか!」
大魔王は到着した俺を見て笑みを浮かべ、玉座から颯爽と下りる。
「高いとこから見下してんじゃねえよ、三下ぁ……!」
テンションがハイになった俺は楽しげに嗤って両拳を握る。
玉座へ向かうまでに数個の段差があり、少し大魔王の方が高い位置になっている。中央にレッドカーペットが敷かれ、左右の壁に松明が一定間隔で並んでいる。
「ぬかせ!」
苛立ったように、しかしどこか嬉しそうに、大魔王も俺と同じく拳一つで特攻をかけてくる。
「はっ!」
空気の読める大魔王に対して俺も突っ込む。拳と拳での殴り合いこそ真の喧嘩。それを分かっているらしい。嬉しい限りだ。
俺と大魔王は、再戦という名の殴り合いを交わした。




