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Dive in the world   作者: 星長晶人
最終章

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88/108

魔神と退屈

めっちゃお久し振りな気がします


とりあえずこれが最終章になるんですかね

案が出てこないので、色々回収しつつ完結に向かってく形になります

一応続けて欲しいという方は、案を下さい


多分ですが、ショートショート的な感じになると思います

「……あー」


 怠い。


「……あ~」


 超怠い。


「何ダラけてるのよ。ギルドマスターなんだからちゃんとしなさい」


 俺がギルドホームのプライベートビーチでぐったりと日光浴してると、副マスターのシュリナが呆れたように言ってきた。……さすがはアンチ・ブレイズのおかんだな。次男坊を注意するのもおかんの役目って訳か。


「……え~。だってもうやることねえじゃん? さすがに戦いばっかで飽きてきたし」


「お前が戦いに飽きるってどんな異常事態だよ」


 俺がダレて言うと、アンチ・ブレイズのちょい役、リューシンが呆れていた。……チッ。リューシンの癖に偉そうな。


「だってお前苛めるのも飽きたし」


「お前が楽しくて苛めてんの!?」


「俺はやりたくないことはやらねえっての。まあそんなこんなで神も魔王も倒しちまったし、やろうと思うことがねえ訳だ」


 驚くリューシンに何てこともないように言い、戦う相手がいなくてつまらないと言外に告げる。


「と言っても、第二回グランドクエストが始まる予兆みたいなのがあるわよ? そこで新しい敵探せばいいじゃない」


 大魔王との決戦後、数日間もほとんど動かない俺を何とか動かそうと、シュリナが説得してくる。……そうじゃねえんだよなぁ。


「どうせ、また強い敵が出てくるだけだろ? 面白くねえじゃん」


 グランドクエスト考えたヤツ誰だよ、って思うくらいにはつまらないストーリーだ。戦って勝った方の勝ち。シンプルでいいが、それだけじゃゲームは面白くない。苦労があって、勝てない敵がいて、そこから這い上がってこそのRPGだと俺は思う。ドラ◯エみたいにな。

 あの超大作と比べるのは酷ってもんかもしれねえが、オンラインゲームにいいストーリーを求めるのも酷かもしれねえが、やっぱり薄いと言わざるを得ない。


「いやまあ、それがゲームだしな」


 リューシンは苦笑して言う。そうかもな。だが、それだけじゃ売れるゲームにならない。何かしらの面白い要素があってこそ、商品になる。……俺はどの目線で文句言ってんだろうか。ってか俺は急にどうした。


「はぁ、どうしたもんか」


 俺はため息をついて青空を見上げる。


 ……戦いだけじゃつまらない。俺はそう思ってるんだろうか。だとしたら、奇妙な話だ。誰よりも戦うことが好きだと自負してる俺が、戦い以外の何かを求めるとはな。皮肉が効いてる。


「……」


 放置していた人間関係を掘り下げるか? いや、今更カッコ悪い。ってかさすがにヤる気も起きない。……う~ん。手身近に、誰かに喧嘩売ってみるか。


「……なあ、リューシン。そういや、大魔王軍がこっち来てるんだっけか?」


 俺はそういえば、と思い出した事案をリューシンに尋ねる。


「ああ。グランドクエストが終わってから、ギルドとして追加されてるな」


 情報以外では何の役にも立たないリューシンがその真価を発揮する。……そうか。じゃあちょっと喧嘩売ってくるか。暇だし。


「じゃあちょっとぶっ倒してくるわ」


 よっ、と俺は起き上がり、ウインドウを操作して装備を水着から普通の服に変える。


「は!? ってか軽くぶっ倒すとかバカじゃねえの!?」


 とか何とかぬかしやがったリューシンはぶん殴って地の果てまで吹っ飛ばす。大魔王軍のギルドホームがあるという新フィールド、魔界へと向かった。


「てめえ、ジーク!」


 魔界にある厳かな暗黒の城に行くと、俺の顔を知っているらしい門番が怒鳴ってくる。


「おい、お前! アポ取ってんだろうな?」


 続いてもう一人の門番が、社会に出た大人だが「最近の若者は……」と言われそうな感じでイチャモン付けてくる。……へぇ? 俺にイチャモン付けるたぁ、いい度胸じゃねえかよ。やっぱ戦いはこうでなくっちゃな。


「はっ」


 俺はしかし鼻で笑う。


「誰が殴り込みにアポ取るかってんだよ」


 言って、殴り飛ばす。魔神ソウルを使うまでもなく、ただのステータスで肉薄した。両拳を左右それぞれに突き出すように、二人の顔面にめり込ませてやった。「へぶぁ!」と情けない声を上げて吹っ飛んだのは爽快だ。


「……はっ」


 ゾクリ、と身体の内側から湧き上がるモノを感じた。戦いに身を投じれば、一時的だが身体が熱くなる。思わず口元に笑みが浮かぶ。

 ギルドホームへの殴り込みは、第一回グランドクエストが終わってから追加された要素だ。もちろん、道場をやっている場合はその機能をオンにする。しかし戦いたくないギルドはオフにする、というあまり意味のないシステムだ。ギルドホームでは戦闘行為自体を禁止に設定している場合もある。だが大魔王城は門番を立てて敵襲に備えている――つまり、殴り込み大歓迎って訳だ。


 俺はそんな、俺のためにあると言ってもいい大魔王軍のギルドホームに殴り込みをかけた。たった一人で、しかもスキルなしに。

 魔神ソウル使っての虐殺も気持ちいいっちゃいいんだが、やっぱり喧嘩は拳だ。


 ああ、こうして大人数のいる城に乗り込むと、昔のことを思い出す。……中学の、やんちゃしてた頃のことだ。あの時もこうして、拳一つで軍隊に殴り込みをかけてたっけな。

 俺は懐かしい心持ちになりながらも突き進み、大魔王がいる謁見の間に辿り着く。


「よく来たな、ジーク。リベンジマッチといこうか!」


 大魔王は到着した俺を見て笑みを浮かべ、玉座から颯爽と下りる。


「高いとこから見下してんじゃねえよ、三下ぁ……!」


 テンションがハイになった俺は楽しげに嗤って両拳を握る。


 玉座へ向かうまでに数個の段差があり、少し大魔王の方が高い位置になっている。中央にレッドカーペットが敷かれ、左右の壁に松明が一定間隔で並んでいる。


「ぬかせ!」


 苛立ったように、しかしどこか嬉しそうに、大魔王も俺と同じく拳一つで特攻をかけてくる。


「はっ!」


 空気の読める大魔王に対して俺も突っ込む。拳と拳での殴り合いこそ真の喧嘩。それを分かっているらしい。嬉しい限りだ。


 俺と大魔王は、再戦という名の殴り合いを交わした。

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