大魔王と孤独と反省
これで長~いこの章が終わります
ですがこの続きは何とか出来ても、次のグランドクエスト案が思いつきません
急募します
この章に繋がっていなくても、こんな感じがいいとかそういう要望でも募集します
関連作りはこっちでしますんで、お願いします
これは唯一完結を考えてなかったので、急募します
完結はしますが、アイデアを下さい、すみません
大魔王は目を覚ました。
「……」
負けたのだ。
自分が青空を見上げて倒れていることで、自身の敗北を悟った。
「……?」
ふと、大魔王は疑問符を浮かべた。
周囲に人がいなかったのだ。
周辺を見渡し、ここがどこなのかを把握する――間違いない、魔界にある大魔王軍が住む魔王城、その城下町。そこにある生還ポータルだ。死に戻りによってここに来たのは初めてだったが、知っている。
「……」
そこに誰もいないのは、おかしな話だった。
大魔王が自身の記憶を遡ると、ネシスオクスの戦場での戦争に負けたのを思い出す。苦々しい思いに駆られるが、冷静に思考を続けるとなおのこと周囲に人がいないのは不思議だった。
大魔王の固有スキル『死者の糧』は、自分が殺した相手を怨念として力に加える。肉体も精神が大魔王に留まるため、死に戻ることはない。だとすれば大魔王が死に戻ってから、もしくは一足先に死に戻ってからどこかへいなくなったということになる。
死に戻った場所が違うということも考えられるが、それにしても、誰もいないというのはおかしな話だった。
死に戻る生還ポータルは、もちろん一つではない。だからと言って自分一人だけがここに転移させられたなどとは、考えにくいことだった。仮にそうだとしても、何故なのか。理由が分からない。
「……」
大魔王はとりあえず、異様な静けさに包まれた城下町を歩き出し、自分の城へと向かった。
「……何故だ?」
魔族、悪魔、そして魔王。誰もがいない。大魔王一人だった。
「……」
大魔王は次第に事態を怪しんでいく。何故誰もいないのか。何故誰も自分を迎えに来ないのか。自分は大魔王として軍を率い、戦った。特大の魔法で助けてもやった。最後には負けたとはいえ、ジークに対抗する手立てを使って戦った。結果論だが、大魔王があれを使わなければ全員の魂を受け継いだジークとは渡り合えなかっただろう。敵味方問わず怨念を背負って戦い、そして負けたのだ。もしジークが先に行動していたら、なす術もなくやられていたのは明白だ。
むしろ、褒め称えられてもいいとさえ思っていた。
それなのに誰もいない。
「……全く」
自分達の最高権力者を置いてどこへ行ったのか。そんなことが頭に浮かぶ。
「……」
しかし、いない。城下町には一人もおらず、魔王城に入っても気配を感じなかった。大魔王には『領地索敵』という治めている範囲内であれば敵味方を察知することの出来るスキルを所持しているが、それにも反応はない。
というよりも、魔界自体に一人もいないようだった。魔界全体も、魔王達が治めている領地を含めて大魔王の領地として収束される。つまり、魔界全体で見ても大魔王以外に人はいない。
「……何故だ」
大魔王は玉座に座り、誰かが来るのを待っていた。しかし誰も来ない。
「……何故だっ」
苛立ちが募る。しかし一向に誰も来ない。魔界には人の影すらなく、『領地索敵』に誰かが引っかかった様子もない。
そもそもが、おかしい話だった。何故プレイヤーがいないのは兎も角として、NPCまでいないのか。頭に熱を持った大魔王はそこまで思考が回らず、ただ誰も自分という大魔王を、従っているハズの魔界軍が向かえに来ないことへの苛立ちが募っていく。
「……」
数日が経った。大魔王も次第に飽き始め、魔界中をブラついたりもした。しかし、誰もいない。
この時点でもまだ、大魔王の頭に自分から魔界を出て探すという案はなかった。自分が大魔王で、他は従士だから。自分が探しに出るのではなく、向こうが探すモノだからと決めつけているからだった。
魔界にはモンスターも、プレイヤーも、NPCもいない。それは大魔王自らが足を運び、一つ一つ潰していく形で確認済みだった。
一ヶ月が経って、大魔王は違和感を覚える。傍からすればあまりにも遅い。
ゲームとして、モンスターが出現しないのはおかしい。もし大魔王軍全員がボイコットし、それにNPCが追従したとして、モンスターを従える力を持ったプレイヤーもNPCもいるが、全てのモンスターを従えて大移動など出来るハズもなかった。
つまり、戦争終了後の、それも敗戦後のイベントの可能性が高い。
しかし何故このような、大魔王一人だけが囚われるようなイベントに陥ってしまったのか。それが分からなかった。イベントが起こった原因を突き止めなければ、イベントは解決しない。
大魔王は思考を巡らせる。仮にも大魔王として策を巡らせ、軍を率いてきた。バカではない。
「……」
だがそれから数日が経っても、数ヶ月が経っても、一向に原因が分からない。自分だけがこうなった、ということは自分かその周囲に原因が存在するということなのだが、大魔王には全く心当たりがなかった。いや、自覚がないと言った方がいいのかもしれない。
「……」
数年が経った。大魔王は考えるのを止め、ただ玉座に項垂れ孤独に苛まれるだけ。
大魔王も、ログアウトすればただの高校生。悩み多き十代である。だからこそ道を踏み間違え、時には逆走することもある。
そしてそれは誰かに教えられるのではなく、自分で見つめ直すのが一番だった。
「……ぁ」
大魔王は孤独に蝕まれた心で、一点の光を見つけた。ふと思い浮かんできた大魔王軍との日々――から一転して恐怖に歪んだ表情。怨念と化して自分の糧になった者達が、自分をどう思ったのか。
「……あっ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
大魔王は長い年月をかけて、ようやく理解した。いや、自覚した。自分が何をしたのか、何でここにいるのか。
「……っ」
大魔王は、自分に付き従って慕ってくれた大魔王軍のプレイヤーを殺して自由を奪った。
大魔王は、慕ってくれた味方を切り裂き仲間を持たずに戦った。
だからこそ周りに誰もいなくなり、孤独を味わう羽目になったのだ。
「……」
しかし、と大魔王は思う。『死者の糧』というスキルがあることにより、どうしてもあのジークと対抗するには敵味方を問わずに殺す必要があった。仕方がないことではないかと思ったのだ。
だがそれをしてしまえばまた自分は孤独になってしまう。孤独から脱却するなら、その答えを導かなければならない。
「……」
大魔王は考えた。必死になって考えた。そもそもが、数年も孤独に耐えた大魔王は運営の予想を遥かに上回っている。大魔王は運営が考えた職業でも、最も難しい。最強であり、大魔王なので軍を率いることも出来る。だが分岐ルートがいくつも存在し、選択肢を間違えることで覇道から踏み外し、今のようになってしまう。
大魔王はそれらを乗り越え、しかし乗り越えてしまったからこそ、このような失敗を犯してしまった。
例えばの分岐点として、大魔王として他の大魔王軍から尊敬される存在かどうかという時に、否となってしまえばそこで終わる。大魔王抜きで人間界との戦争に挑むことになっただろう。もちろんそこで復活ルートも用意してあるが、この大魔王は是となった。
それは大魔王を演じるプレイヤーが持つ本来のカリスマ性。
大魔王という肩書きを外して大魔王というプレイヤーだけで見ても、ついていっていいと思わせるだけのカリスマ性がそうさせているのだ。
ゲームなので、大魔王だから付き従う、ということはない。ちゃんと従うに値する人物かどうかを判断してから追従する。
大魔王にはそうさせるだけのモノがあった。
しかし道を踏み間違え、こうして孤独に陥っている。
「……俺は……っ」
大魔王は頭を抱えて思考していく。
難しいことばかり考えて、次第に思考が鈍っていく。そうなると簡単なことしか考えられないが、それで答えは導き出せた。
「……頼めば、よかったのか」
ハッと大魔王は顔を上げる。説得しても、断られたかもしれない。だが一言断りを入れるだけで印象は違って見えたハズだ。
答えが導き出せたのなら、後は後悔するだけ。
「……俺は、何てことを……」
大魔王として担ぎ上げられ、そして「大魔王」となって自分勝手に動いてしまった。それが孤独を招いたのだ。
それを理解し大魔王は床に崩れ落ちる。
「……ごめんなさい」
大魔王は頭を垂れて謝った。普通の感性を持つ高校生であり、反省したら行動を起こす。
「……やっと、分かりましたか」
パキィン、と世界が割れていく。ハッと大魔王が顔を上げると、そこは魔王城の城下町の、生還ポータルだった。
九人の魔王達や悪魔と魔族達が、勢揃いしていた。
「……時間にして二十分ぐらいですね。結構長くいましたね」
そう言って笑うのはルシフェルだ。
「……ルシフェル」
「大魔王様。あなたは俺達魔王や軍隊の者を何の説明もなしに殺し、そして怨恨に捕えた」
「……」
「ですが、許します」
「……えっ?」
「顔を上げて下さい、大魔王様。あなたは大魔王です。それに、独りでは何も出来ないと分かったことでしょうから、充分反省しているでしょう」
「……ああ」
「なら、許します。これからは俺達の望む大魔王でありますように」
ザッ。
右手を心臓の前に翳し、片膝を着いて頭を垂れる。敬服の礼だった。
「……ああ、ああ……! すまなかった、お前達」
大魔王はこんな自分を見捨てなかった軍勢に感激し、立ち上がって深々と頭を下げる。
「……はい。それで、次はどうしますか?」
「そうだな」
尋ねるルシフェルに、
「とりあえず、人間界の観光にでも行こうか」
爽やかな笑顔で答えた大魔王。表情も心も晴れやかで、もう孤独に追いやられるようなこともないだろう。
それでも若干数の減った大魔王軍は、人間界へと向かった。




