魔神と怠惰と暴食
遅くなりました
数日間貧血気味でめまいに襲われ、書く気力が起きなかったんですが、今日から随時更新していく予定です
「……シュリナ」
白と紅の炎の爆発を見て、ジークが感慨深げに呟いた。それは仲間の死を惜しんでいるようにも見えた。
「……てめえが感傷に浸るなんざ、似合わねえんだよ!」
そんなジークにベルゼブルが突っ込んでいく。その陰に隠れて二丁の銃から弾丸を放つベルフェゴール。
「……だな。てめえらをぶっ倒さねえといけねえからな」
ジークは言って、ベルゼブルの拳を掴み弾丸の盾にするようにぶん投げた。
「チッ!」
「……怠いな」
ベルゼブルは舌打ちし、ベルフェゴールの弾丸を受けてしまう。仲間同士ならダメージはないが、ベルフェゴールは怠そうに呟いた。
「……しゃーねえ。喰い散らかしてやるよ!」
ベルゼブルは舌打ちしつつニヤリと笑い、真の力を解放する。といってもそこまで変わった様子はない。ただ蠅のような翅が背中に生え、尻辺りから悪魔に多い細長く黒い先がスペード型になった尻尾が生えている。それだけではあったが、見た目以上に迫力が増した。両手の黒いクローも禍々しい黒いオーラを纏っている。
「……」
一番変化がないヤツが一番厄介な能力を持っている。それは最終的なプレイヤーバランスを等しく設定しているDIWを知っている者なら当然の予測だが、ジークはただベルゼブルの身体から放たれる気迫に警戒心を露わにしただけだ。
「……怠惰が世を支配する」
ダラン、と上半身を垂らしたベルフェゴールが呟く。その声はゾッと聞いた者が底冷えするような声音だった。
ベルフェゴールの姿が変わっていく。両腕の肘から先だけが黒い毛に覆われた大きな熊の手に変わり、肌の色が血色の悪い肌色から浅黒いモノへ変わっていく。ただ目だけが怪しい赤色を湛え、凶暴な笑みを浮かべていた。
「……いいじゃねえか、てめえら。二人同時に相手してやるから、かかってこいよ!」
だがジークは先程より数倍強くなった二人に相対しても、ニヤリとした笑みを引っ込めずに言う。むしろ強者と戦えることが嬉しいようでもあった。
「……嘗めんな! 真の姿になった俺は、無敵なんだよ!」
ベルゼブルは言い、身体を分裂させた。いや、正確には無数の蠅となって散ったのだ。
「……殺す」
ベルフェゴールもあとに続いて突っ込む。蠅が飛ぶ速度よりも速く、ジークに到達する。
「……やってみろよ」
巨大な熊の腕を携えたベルフェゴールとジークが、衝突する。両手を突き出すような形で、互いに手を組み押し合う。
「……結構やるじゃねえか、俺と互角なんてよ」
ジークは細腕でベルフェゴールの巨大な手と互角に押し合いながら言う。
「……グリズリー・マグナム」
だがベルフェゴールがそう呟いた瞬間、熊の掌が爆発しジークの手首から先が吹き飛ばされる。
「……チッ!」
ジークは思いっきり舌打ちして距離を取ろうとするが、ベルフェゴールと組み合っている間に蠅の群れが到達していて、ジークを襲う。
「……らぁ!」
ジークはしかし慌てない。渾身の力で地面を踏みつけると、地面が陥没し暴風が吹き荒れて蠅の群れの突進を乱す。
「……ま、なかなかやるってことは分かったがよ」
ジークは戻ってきた両手をプラプラさせながら笑う。
「てめえらは、まだまだだな!」
一瞬の間にベルフェゴールの懐に潜り込んだジークは神速ともいえる速度で拳を三発ずつ叩き込み、吹っ飛ばす。
「……てめえ!」
そこに無数の蠅達が襲いかかるが、地面への蹴撃で起こした衝撃を暴風とするような身体能力を持つジークがその程度で焦る訳もなく、両拳で十発拳を放ち、拳を解いてパラパラと蠅の死骸を落としてニヤリと笑う。残る蠅達はジークの放った拳撃の余波で塵と化している。
「……グリズリー・マグナム」
吹き飛ばされたベルフェゴールが離れた位置で両手をジークに向けて突き出し、呟く。そこでジークが見たのは、高速で熊の肉球から放たれた小さな弾丸達。ジークが試しに本気が拳を振るって遠当てをすると爆発を巻き起こした。身体能力と共に頑丈さも上がっているハズのジークの両手首をいとも簡単に吹き飛ばす程の威力を持った爆発である。つまりあれを至近距離でくらってしまい、ジークのHPは三割も一気に減ってしまっている。
「……おっと」
しかし見えていれば回避は簡単で、連発してこなかったことからもすぐに次弾が装填されないと見たジークは、一気にベルフェゴールに突っ込んで殴り合う。といっても殴り合えているのは僅かで、腕が長くなっているベルフェゴールの懐に潜り込んだジークが押している。今のジークの拳一つで魔王のHPが一割減少する。すでにベルフェゴールのHPは減っていた。
「……トドメだな!」
ニヤッと笑うジークが顔面に叩き込んだ左拳により、ベルフェゴールは敗れる――その直前。
「……よくやった、ベルフェゴール」
割り込んだ人影が、ジークの拳を片手で受け止めていた。
「……大、魔王様……」
ベルフェゴールは残り一割程度しか残っていないHP同様傷ついた姿で割って入ってきた人物を見上げる。
その人物は漆黒の豪勢なマントを羽織り、漆黒の王冠を被っている。腰には一振りの刀を提げており、姿は人間とそう変わらない。
だが連合軍にとっては最悪の、魔王軍にとっては最高の。
大魔王が、戦場に姿を現した。




