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Dive in the world   作者: 星長晶人
第四章 魔界大戦争編

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魔神と黒神と虚飾

遅くなりました、すみません


ご都合主義満載の結果となります、すみませんm(__)m

 黒いシャツに黒いズボンという地味な格好だが、その全身には黒いアクセサリーがところ狭しと装着されている長髪の青年。


 両手には二本の黒いレイピアを持ち、高速の突きを連続して放っている。


 虚飾を司る魔王、スパーヴィアである。


 対するは漆黒のドレスに身を包み無表情という仮面の下に倒すという意思を隠した美少女。


 両手には漆黒の鎌を一本ずつ持ち、敵の放つ高速の突きを何とか受けている。


 アンチ・ブレイズ、ティアナである。


 スパーヴィアはチャラチャラと音を立てながら、しかし高速の突きを淀みなく繋げている。


 対するティアナはリーチの差もあって防戦一方を強いられていた。


 武器のリーチの差である。鎌という接近戦でもやや中距離よりの武器でさらに前に広範囲な、つまりは射程距離のあるスキルが多いティアナと、射程距離は短く攻撃範囲も狭いが近距離で戦うことを得意としているスパーヴィア。


 必然的に、ティアナは後退しながらの応戦となる。相手の距離に詰められれば、戦いにくいのはティアナの方なのだ。


 もちろん後退する際には魔法と使って牽制をするのだが、他のプレイヤーなら兎も角魔王が相手ではそれは無意味であった。少しぐらいは時間を稼げても、一気に詰められてしまう。


「……イビルノヴァ」


 ティアナは後ろに大きく跳びながら、両手の漆黒の鎌の真っ直ぐ相手に向け、先から漆黒の波動を二つ放った。


「……暗黒速射砲」


 だがスパーヴィアは突っ込みながら両手のレイピアを高速で突いて切っ先から漆黒の光線を放ちそれを連続して重ねると、漆黒の波動二つと相殺した。


「……っ」


 ティアナはじわじわと追い詰められていく戦況に小さく舌打ちした。


「……イビルカッター」


 続いて鎌を振るい漆黒の刃をいくつも放ち牽制するがスパーヴィアは冷静だ。二本のレイピアで器用に自分に当たる分の刃だけを破壊していく。


「……黒神憑依」


 ティアナは巨大な漆黒のオーラを纏う。そのオーラは長い髪をした女のようにも見えた。


「……っ」


 その異様な風貌を目にしてか、それとも警戒してかスパーヴィアは攻撃せず足を止めて距離を取る。


「……かかってこないならこっちからいく」


 ティアナは言って両手の鎌を下げたまま突っ込んでいく。


「っ……」


 ティアナの今までとは違う速度にスパーヴィアは修正を余儀なくされ、突っ込んでくるティアナを避ける。だがティアナは後方に跳んだスパーヴィアを加速して追い地に足が着く前に四本の鎌で切り裂く。


「……っ!」


 四本の内二本の鎌はレイピアで受けることが出来たが、漆黒のオーラで作られた鎌に左右から斜めに切り裂かれて後退する。


「……油断大敵」


 ティアナは言ってさらに追撃をしようと前方に鋭く跳ぶ。


「……黒雷突」


 だが今度は地に足を着けたスパーヴィアが突っ込んでくるティアナの顔に黒い雷を纏わせた高速の突きを放つ。


「……甘い」


 ティアナはオーラの髪を束ねてそれを薙ぎ払った。


「……影突き」


 しかしその影に隠れるようにしてもう一本のレイピアがティアナの右肩を狙う。


「……」


 ティアナはその攻撃を避けずに肩を貫かせながら突っ込み三本の鎌で深く切り裂いた。


「……っ」


 スパーヴィアはティアナの捨て身とダメージの大きさに目を見開きガクンと減ったHPを呆然と見つめる。


「……っ」


 だがティアナも無事では済まなかった。それはティアナの運の悪さにあるのだが、偶然にもクリティカルヒットとなりほとんどかからないような確率の状態異常、呪いというモノにかかりHPがなくなるまでぐんぐんと減っていき身体の動きが鈍ってしまう。


「……このままではマズい」


 スパーヴィアは虚飾であるので相手の行動で左右されるようなことはないのだが、真の姿にならないとHPが回復しないということもあって真の姿を現すことを決める。


 それは、漆黒の体躯を持つ三つ首の獅子。高さが十メートル程もある巨大な獅子である。


「……」


 ティアナは自分の劣勢を悟る。HPが次第に減っていき、身体の動きが鈍っている。しかも相手はHPを回復し今までよりも強い。


「……負けない」


 だがティアナは逃げない。呪われたのは自分が油断したから。だからこそ自分が真似いた劣勢の中で自分が出来ることを探る。


 動きは鈍くなっているが、オーラの動きはそのままだ。フォローに回せば問題ない。


 HPがぐんぐん減っていく。早急に何とかしたいところではあるが死ぬまで効果が続くとなれば、せめて目の前の敵を倒してから死ぬべきだ。


「……暗黒獅子砲」


 三つ首の獅子の三つの口に黒いモノが集束していきティアナに向けて光線を放った。


「……ヘルインフェルノ」


 地獄の怨霊達が沸き上がっているようなドス黒い波動を放つ。


「……ツインヘルノヴァ」


 三つと一つでは太刀打ち出来ないと思ったのか、ティアナはMPが大幅に消耗するのも構わずに追加で二本の鎌の先から漆黒の波動を放つ。


「……足りない。虚飾が、足りない……!」


 口は全て使っているのに喋ると三つ首の獅子は次々とアクセサリーを出現させて身に着けていく。するとその分三つの光線が太く勢いを増していく。


「……っ!」


 ティアナはどんどんと増えていくアクセサリーに比例して上がっていく攻撃力に険しい表情をする。


「……私は、負けない……! イビルノヴァ! イルフェルノ! ブラック・デスストリーム!」


 ティアナはしかしどんどん攻撃を重ねて対抗する。……その視界の端で捉えたスパーヴィアのHPがどんどん減っていることに気付いた。アクセサリーで身体が埋め尽くされていく程に減少していく。


「……虚飾、虚飾、虚飾!」


 狂ったように叫び続けるスパーヴィアの六つの瞳は曇っていた。


「……可哀想に」


 スパーヴィアとは逆に無表情だが決意を瞳に宿すティアナは憐れんだ目でスパーヴィアを見た。


 アクセサリーの加算でどんどんHPが減っていくスパーヴィアと威力が上がり続ける光線を何とか同等以下の波動で凌いでいるが呪いによりHPが減っているティアナ。第三者から見ればどちらが勝ってもおかしくはない戦いである。


「……虚飾虚飾虚飾虚飾虚飾虚飾きょ――」


 狂ったように虚飾と羅列したスパーヴィアはついに、アクセサリーに押し潰される。だがその直後、ティアナのHPもレッドゾーンに達し残り数分と経たない内に死ぬだろう。


「……」


 だがティアナは何とか勝った、という思いが強く清々しい表情をしていた。


「……よくやったな、ティアナ」


 だから気付かなかった。何とも呆気ない幕切れで終わったスパーヴィアとティアナの対戦の近くまで来ていて、目の前にいてぽん、と自分の頭を撫でてくれる少年に。


「っ……」


 ティアナは声をかけられてやっと気付きビックリしたような顔をする。


「……あとは休んでていいぞ。俺達がやっとく」


 黒い怪物と化したジークは優しげに笑う。


「……だがまあ、ティアナが満足しないってんならまたこっち来てもらうけどな」


 そう言ってニヤリと笑う。


「……ん。必ずいく」


 徐々に尽きていく自分の命を見て駆けつけてくれたのかもしれないジークにティアナはこくん、と頷く。


「……そっか。んじゃ俺はここで待っててやるから。絶対来いよ」


 ジークは言ってティアナのHPが消え、ティアナ自身も光の粒子となって散っていくまで頭を撫で続けた。


「……」


 ティアナはその頭にある手の感触を忘れないようにと目を閉じて味わいつつ――消えていく。

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