魔神と憂鬱と姉妹
約一ヶ月振り……orz
かなり遅れました、すみません
その割りに進んでません、すみません
「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
ジークがルシフェルを倒したことで、連合軍から歓声が上がる。
「アンチ・ブレイズ、倒したぞ!」
だが同時に声を上げた者がいた。大魔王軍、魔王の一人ベルゼブルだ。その手には首だけの眼鏡微ケメンが握られており、すぐに光の粒子となって消える。
「……何だよ。大して体力減らせないでやられやがったのか、あの野郎」
連合軍の歓声が止む中、ジークは少し面白くなさそうに呟いた。
「気にすんなよ、ジーク! お前の仲間は確かに弱かったが、俺が強いってだけだ!」
ジークの呟きが聞こえたベルゼブルが、ニヤリと笑って言う。
「……まあ、あいつは確かに雑魚だぜ? アンチ・ブレイズでも指折りの雑魚だ。だが、リューシンを雑魚呼ばわりしていいのは俺達だけだ!」
ジークはそう叫ぶと、ベルゼブルを蹴り飛ばした。それは片腕でガードされるが、吹き飛ばした。
理不尽に聞こえるそのセリフに、現実でのジークを知る者は相変わらずだと苦笑した。
「……そこは、俺のギルドに雑魚なんていないと言って欲しかったが」
真の姿を現したサタン相手に何とか耐えているカナは、ジークの心情を知っていてもそう呟かずにはいられなかった。
すると、カナの一人がサタンによって袈裟斬りされ、消えていく。
それを見たカナ七人は、端整な顔を歪めて険しい表情を作る。
柳田流刀術奥義――その過程の最中である。
柳田流刀術の奥義は現実では誰もが継承出来ない、いつ途絶えてもやむなしとされる程強力なモノである柳田流刀術最強の技であるが、それ故に発動させるまでの時間が長くそれを稼ぐために考えられたのが今カナが使っている、陽炎である。
揺らいだ影をいくつも出現させ、奥義発動までの時間を稼ぐのだ。その技術は秘匿とされているが、見事にゲーム内でも再現されていた。
溜め時間が長いので発動はまだ。ということで、他を見てみよう。
空で戦う白い炎の不死鳥と黒い海竜はまだ勝負が着きそうにない。拮抗しすぎているせいで、一向に勝敗が分からないのだ。
他の魔王では、勝負が着きそうな戦いがあった。
憂鬱を司る隠れ魔王アセディアと、アンチ・ブレイズのメンバーであるカレンとカリン姉妹である。
巫女服を着込んだカリンと、黒一色な服装のカレンを合わせたような、黒の巫女服に身を包むアセディア。
手には黒だがカリンと同じく薙刀を持っており、その実力は達人であるカナが認めたカリンと同等――いやそれ以上である。
だがカリンが薙刀での戦いで押されているのに未だ戦えているのは隣で戦う自分と似たような姿の少女――というか、姿形はカリンそっくりである。それはもちろん、カレンの使う人形だからだ。
しかしカリン二人分とカレンの弓矢による援護射撃があってもアセディアを仕留めるには至っていない。
それは小悪魔的なカリンとは違うカレンと同じような暗い表情のアセディアが、二人いるからである。そのためカリン二人とアセディア二人が薙刀で戦っていて、その周囲にも大量のアセディアがいてそれをカレンが召喚した人形達とカリンが使役する精霊達が迎え討っている。
アセディアの下に駆けつけた二人は、何故か増殖をし始めたアセディアに戸惑いつつも人形と精霊と共に戦いを開始した。
「はははっ!」
ジーク人形が楽しそうな笑いを零し、アセディア二人を倒す。だがすぐに他のアセディアと戦うことになる。
「姉さん!」
「……うん!」
姉妹は一言で意思疎通を交わし、カレンは弓を背負って剣を抜く。
カレンがカリンの隣まで駆けていくと、カリンが無防備にも薙刀から左手を放し、カレンへと手を伸ばす。カレンもカリンの左に並ぶと、指を絡めるように右手でカリンの手を取った。
「……まさか、ユニゾン……?」
戦いの最中だというのに奇妙な行動を取る姉妹に対し、アセディア全員が怪訝そうな顔をする。その隙を見逃さず、応戦している人形と精霊は大きな攻撃を仕掛け、アセディアを押し返す。
「……いくよ、姉さん!」
「……うん」
姉妹はアセディアの疑問には答えず、二人で頷き合って武器を前――アセディアに向け、絡めさせた手をその反対に伸ばす。二人の周囲を清らかな風が逆巻き、土の精霊・ノームがアセディア達の足止めを行うと、人形と精霊が二人の周囲に集まっていく。さらに周囲の足元に魔方陣が描かれ、新たな人形達が出現する。
「「……ユニゾン・レイド《精霊と人形の祭典》」」
充分な信頼と共闘の数が一定を超えると習得することが出来るユニゾン・レイド。二人以上で放つ性質上、かなり強力だがMPの消費も大きい。
召喚された人形と顕現した精霊が一斉に攻撃を放ち、大量にいたアセディアを蹂躙していく。
「……っ!」
ユニゾン・レイドは一発逆転一撃必殺のモノであるが、この二人の場合は違う。MPが続く限り、任意に解除しなければ終わらない、ゲーム内でも数少ない継続型のユニゾン・レイドである。
だが一人のアセディアが一斉攻撃の中から飛び出し、逃走していた。
「……こんなに相手が強いなんて、ホント」
アセディアは走りながら二人を振り向く。
「……憂鬱」
憂鬱の境地のような顔をしたアセディアに、二人は悪寒が背筋を這うのを感じた。
憂鬱が高まったことにより、アセディアが真の姿を現す。
下半身が丸い身体をした鳥のようになり、そこに目と巨大な口があり牙がズラリと並んでいる。その上に生えたような上半身は女のそれだったが、黒く輝く肌をしていて、長い腕が六本あった。その手には黒い薙刀を持っている。頭には角が生え完全に化け物を化している。体長は五メートル程。
そんな化け物が、五十体もいたのだ。
いくらユニゾン・レイドといえど、これでは分が悪い。
だが手を緩める訳にはいかず、真アセディアが下半身にある口から黒い波動を放つのに対し、一斉攻撃を続ける。
だが、互角。ユニゾン・レイドと真の姿を現した魔王が互角だった。
「……これでも互角なんて、ホントに憂鬱。力を分散しない方がいいかも」
アセディアの一人が言うと、五十体いたアセディア達が、一体へと集合していき、巨大化していく。
腕は地面に着く程長いのが五十本、元のままのが五十本、計百本になり、下半身はボコボコと気持ち悪く元々あった顔のようなモノがいくつも集まったようになっている。黒い身体にはヒビのように赤い線が入っている。
「……消えて」
アセディアは巨大化したその身体で腕を振るう。長い片側二十五本の腕を一気に振り、その衝撃で精霊と人形が攻撃ごと消し飛んだ。
「「っ!?」」
もちろんその周囲にいた二人も衝撃で吹き飛ばされる。
「……ノーマディン、お願い!」
土の上位精霊・ノーマディンに巨大な土の壁を築かせて、それでしかしMPを切らす。
二人は作った一瞬の隙に紫色の液体が入ったビンを取り出すと、せっせと飲む。程なくしてMPが全快する。――魔力回復薬だ。
「……相手が一体で強力なら、これだよね。――精霊達の遁走曲」
「……うん。――人形達の葬送曲」
カリンを幻想的な虹色の光が、カレンを黒いオーラが包む。精霊達の力を、人形達の力を、全て自分に集中させた精霊使い系と使い魔術師系職業最強のスキル。
もちろんレベルがMAXではないので人形の上限や使役する精霊の強さによってさらに効果を上げていくのだ。
そして姉妹と魔王アセディアの戦い第二ラウンドが始まった。




