魔神と他プレイヤー
人間界連合軍対大魔王軍の戦争は、激化の一途を辿っていた。
鳴り止まない剣撃の音。
乱れ飛ぶ魔法や飛び道具。
誰一人として同じ職業がないこのゲームでは、様々なモノが飛び交うこともある。
魔法や弓が飛び交うのはもちろん、卵やタライ、ボールが飛び交うこともある。
「はい、はい、はい」
「おら、おら、おらぁ!」
ここは本隊の中心からちょっと左翼側の場所。
そこには二人の男女がいた。
野球のユニフォームを着て帽子を被った少女は、ボールを召喚しては軽く放っている。
野球のユニフォームを着て帽子をヘルメットを被った少年は、少女が放ったボールを右利きの構えで持つバットを振るって敵に向けて放っている。
少女が野球部マネージャー、少年が野球部の四番バッターだ。
そういう職業で、少女は支援職、少年は攻撃職となっている。
ちなみに少年はピッチャーではないので自分でボールを召喚出来ず、ピッチャーかマネージャー、それか監督やコーチの支援があって、初めてボールを打てる。
少年の武器はバットとセンターのためグローブがあり、バットでの直接攻撃が出来るのだが、それはしない。
野球選手がバットで人を殴るなど、正気の沙汰ではないからだ。
四番ともなればバッターとしての自分に誇りを持ち、愛用するバットに感謝を感じる者も多いだろう。
彼の野球選手としてのプライドが、バットで直接攻撃することなど許さないのだ。
だからこうして現在片想い中のマネージャーに手伝ってもらい、ノックという形で敵を倒している。
彼の周りにいるのも、野球選手。
同じユニフォームを着る仲間だ。
四番の彼を支援する他にも、マネージャーが数人と監督、コーチがいる。
各バッターが全力のスイングを持って敵を倒していく。
その近くでは、六人別行動を取る仲間がいた。
その内二人は、双子の投手。先発で右投げの兄と、リリーフで左投げの弟だ。
二人は向かい合うようにして構えると、鏡のように全く同じフォームでボールを投げた。
その隣、アンダースローで投げるのはもう一人のリリーフ。
さらにその隣には、外国人のハーフの金髪の超絶イケメンで長身の、左投げの投手がいる。
爽やかな笑顔と整った顔とは違い豪快に脚を振り上げるフォームがギャップを生む、この野球部のエースである。
こうして遠距離から攻撃を加える野球部の中、近距離で敵陣に突っ込み戦う二人がいた。
一人はキャッチャーにしてキャプテン、大柄で優しく頼りになる少年だ。
キャプテンは敵陣に突っ込むと敵を掴んでは投げ、掴んでは投げ、時には敵の攻撃を自ら受けて後ろから援護する仲間を守っている。
それと正反対なのが、もう一人。
両手に一本ずつバットを持ち、敵を殴り倒していく。
運動神経はいいが暴力沙汰が絶えない、この野球部の問題児だ。
真面目に部活をやっていればかなりいい選手になったと言える彼は、バットを持って敵を薙ぎ倒していく。
ちなみに四番打者の彼が現在片想い中のマネージャーは、金髪長身の超絶イケメンにしてこの野球部のエースと付き合っているという噂があり、自分がゴツい顔をしているのは分かっているので、なかなか告白出来ずにいるのだ。
「月に代わってお仕置きよ☆」
場所は変わって右翼側中央。
フリフリのピンクの魔法少女風の衣装を着込んだ痛い女性。
手には先に星がついたステッキを持っている。
肩には使い魔のフィー(リスのぬいぐるみ)が乗っている。
……正直、身長の高さからして年齢的に痛すぎるコスプレだった。
言動も痛いし、ステッキを振るって星を操り敵を倒していくのはいいが、たまにタライを落とすのはどうかと思う職業である。
魔法少女。
この職業の名だった。
その名の通り男だろうが女だろうが魔法少女になりきらねばならず、女性だったのは不幸中の幸いだろう。
なりきらないとスキルが発動しないという制限があり、年によってはかなりキツい職業である。
「スターライトレーザー☆」
横ピースしながら片足を上げてポーズを取り、ステッキを真っ直ぐ向けて白い閃光を放つ。
……それでも「月に代わってお仕置きよ☆」と言う辺り、年齢が窺えないこともない。
全く以て痛い職業だった。
……ほう?
ルシフェルと剣を交えながら、ジークは内心で感嘆の声を上げる。
もちろん雑巾がいくつも投げられていたからではない。
面白い職業だと思ったからだ。
突如断頭台が現れ、そこに少女がいた。だが少女は消え、代わりに悪魔が断頭台に現れ、そして処刑される。
その他にも電気椅子や十字架に縛りつけての火炙りなどの処刑が次々と行われていく。
処刑されるのは最初、少女かと思われたが悪魔だったり魔族だったりに変わる。
大魔王軍が次々と処刑されていくことを考えると、あの最初に処刑されかける囚人服に手錠をされた少女は味方ということになる。
遠目から見ているので誰かは分からないが、面白い職業だとジークは思ったのだ。
……手錠をされている姿に、S心が刺激されたのかもしれないが。
魔戦百人隊の導入により、やや押され気味の連合軍は、トッププレイヤーが積極的に前に出ることによってなんとか耐えていた。
「……そろそろ頃合いか。残念だがジーク、お前達はここまでだ。全魔王を、参戦させる!」
ルシフェルは勝利を確信した笑みを浮かべてジークと鍔迫り合いをする。
「……残念はお前だ。ここで俺がてめえを押さえてりゃ、他のヤツらが倒してくれる。ま、てめは俺が倒してやるけどな!」
ジークは焦ったりせず、ルシフェルの剣を弾く。
「減らず口を! 望むところだ、お前をここで、倒す!」
「上等だ! 最強の称号まで、捨てた覚えはねえんでな、勝たせてもらうぜ!」
ルシフェルとジークの戦いは、力の拮抗にとり互角となり、どちらかが果てるまで続く死闘へと昇華していく。
戦争はまだ、終わらない。




