魔神と両軍、激突
どんよりと黒ずんだ暗雲の下、薄暗い大地で激突する者があった。
大軍で押し寄せる形の蝙蝠の翼や鳥のような翼を生やす悪魔及び魔物契約者、角があったりはするが翼はない悪魔。
人間界を侵略せんと行軍してきた彼らだが、まだ本格的な戦争にはなってない。
それは、人間界側の先陣突撃部隊にあった。
「ははははははははっ! てめえら全員、皆殺しだぁ!」
空中で高笑いしながら黒い雨を降らせる少年がいた。
……悪魔や魔族側ではない。人間の、ソウルイーターだ。
先陣突撃部隊を任せられた二つのギルドの内、アンチ・ブレイズと言う少数精鋭ギルドのマスター、ジークである。
両手から黒い波動を放ち、無慈悲に地面の魔族を狩っていく。……どっちが悪魔だか分かりはしなかった。
ニタリ、とした残忍な笑みを浮かべてのこの行動、言動である。悪魔よりも悪魔である。
ちなみに、アンチ・ブレイズの盾役を務めるリューシンが正面の魔族の足止めを行っていた。元々、先陣突撃部隊は足止めしつつ敵陣に切り込んでいく役目があり、殲滅が目的ではない。
空中には悪魔などがいるのだが、ジークが安心して地面に向けて攻撃しているのには理由があった。
まず、白く輝く炎の身体をした不死鳥、フェニックス。副マスターのシュリナであるが、容赦なく焼き尽くしている。
カレンの召喚したジーク人形とシュリナ人形とレイナ人形及びその他の新たに召喚した飛べる人形達。彼らもかなり強い。ゲームでは使役するモノは弱くなるのだが、プレイヤーを蹴散らしていく。
レイナは呪ったりポルターガイストで翻弄したり、時に火の玉で焼き凍えさせたりしながら順調に数を減らしていた。
リーニャの呼び出した、テイムモンスターの内ユグドラシルエグザドラゴンのユザとガトリングファルコンのファルが圧倒的な空中移動を見せながら、銃器による攻撃で圧倒していた。
彼らが周囲の敵を倒していっているおかげで、ジークの安全な殲滅は行われているのだ。
先陣突撃部隊が見事、大魔王軍に切り込んでいく中、その後方から主力部隊が雄叫びを上げ、士気高く突っ込んできている。
それを視認した大魔王軍はたった数十人に苦戦を強いられている最中だと言うのに、さらに一気に敵が増えては困る、と僅かに士気が下がり、半歩後退する。
「ーー下がったな?」
そんな大魔王軍に、嫌味な声が降る。
「下がったってことは、それだけ押されるってことだ。戦争において最も嫌な軍団ってのは、どれだけ負けていようが恐れず向かってくるヤツだ。ーーそれがてめえらには、ねえ」
ニヤリ、と嫌な笑みを浮かべたジークがいた。
「ってことは、だぜ? 殺られたら、一気に押される!」
ジークは楽しげに言って両手を上に上げ、漆黒の巨大な球を作り出す。
「っ……!」
「アスラ・ボール!」
アビリティ名を言い放ち、それをぶん投げた。と言っても割りと緩やかに飛んでいくのだが、おそらくは爆散するだろうそれが落ちてくるのを見て、絶望した表情をする。
だが。
スパァン!
「あ?」
それが真っ二つ、一刀両断され霧散していった。
大魔王軍の先頭、そこには黒い和服を着込んだポニーテールで、目が開いているかも分からない糸目の男が、左腰にある日本刀の柄に手をかけ、腰を低く構えた格好だ。
……こいつ、できる!
一般的にこういう場合は顔を寄せて呻くのだが、ジークはさらに笑みを深めて残酷に笑って思った。
……魔王の一人か? 手始めにぶっ殺すか。
などと楽しげに物騒ことを考えるジークだが、まず疑問から霧散していく。
「サタン様!」
サタンと、そう呼ばれた男のおかげで助かった悪魔の一人が、嬉々としてその名を呼んだ。
……サタン? こいつも魔王の一角か。何の魔王だろうな。魔王は七つの大罪を司るとか言ってたが。
ジークはリューシンからの前情報を元に推測を立てようとするが、如何せんリューシンの話を聞かないので、推測にさえならなかった。
「ジーク! そいつは憤怒を司る魔王、サタンだ! 気を付けろ! かなり強いぞ!」
リューシンがジークに向かって叫ぶ。リューシンの位置はサタンからかなり近いが、前線の悪魔を退けるだけで手一杯。サタンに攻撃されたらピンチである。
「……憤怒?」
ジークはリューシンのピンチなど知ったこっちゃないので、憤怒と言う言葉に首を傾げる。
糸目と言えば、冷静沈着、いつでも平静なキャラが多い気がするし、ジーク自身サタンから憤りなどは感じられなかった。
「……剣士と聞いては、じっとしていられないな!」
そのサタンに対し、向かってくる影があった。
「柳田流刀術三の型、追の字!」
黒い長髪ポニーテールに切れ長な黒い瞳。紺の和服を着た長身の巨乳美人で、地面を跳ぶように疾走していく。
「螺旋迅!」
急加速し、サタンの後ろへと駆け抜けた。一瞬の間を持って、ギイィン! と言う金属の擦れ合う甲高い音が、遅れて聞こえた。
「ぐあっ!」
悲鳴を上げて倒れたのは、どちらでもない。サタンの近くにいた不運な悪魔だ。
「「っ……!」」
そして二人同時に、驚きを表す。
和服の右肩に、一筋の切れ目が入っていたのだ。
「……これは一筋縄ではいかないようだな」
とカナは汗をうっすらと滲ませて苦笑した。
「……強敵発見。直ちに排除せん」
とサタンは眉を寄せて言った。
「「っ!」」
再び甲高い金属音を響かせて、振り向いた二人はほぼ同時に互いの刀を交わらせた。
「……ほほう? んじゃま、あの糸目侍はカナに任せるとしようか」
……カナとまともにやり合える剣士がいるとはな。
ジークは軽い口調で言いつつ、内心で素直にサタンを称賛した。
「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
そこに、人間側主力部隊が到着した。
雄叫びを上げ、地響きを起こしながら今ーー。
激突した。




