魔神と孤高の魔王
結局、三人はギルドに入れ、一通り自己紹介も済ませた。
「そう言えば、姉さんが言ってたけど」
ふと思い出したようにカリンが言う。カレンは少し離れた場所から顔を出している。
「お兄ちゃん達の高校の生徒会とか色々な人がいるけど、クラスメイトはお兄ちゃん、シアスさん、モブと姉さん、委員長さんくらいなんだって」
リューシンのことをモブと呼ぶとは……わかってるな、カリン。
「でも、一回だけもう一人を見かけたことがあるんだって」
俺達の他に、もう一人? まあ、プレイヤーは多いし不思議じゃないが、俺も見たことないな。
「姉さんも一度しか見てないから、一回見ただけじゃ見間違いかもって」
カレンが一度しか見てないクラスメイトで、あまり印象的じゃない、のか? ってか、ウチのクラスにまだ数回しか来てない不登校って言えば、あいつしかいないんだが。
「……まあ、いるってことだけ覚えとくか」
どうせ、会わない可能性の方が高い。
「おい、ジーク! 大変だ!」
「お前の脳ミソよりか?」
「俺の脳ミソは大変じゃねえよ!」
建設中のギルドホームの周りで雑談してるところに、リューシンが来た。
「で、何の用だ?」
「セイア達のいるセントラルエリアに大魔王軍が攻めてきた! 手練ればっかで、籠城戦は苦戦を強いられ、ソロプレイヤー達が駆けつけたりしてるが、魔王が二人いてピンチだ!」
「へぇ」
ま、精々頑張れよ。
「いやいやいや! 俺達もそこに加わんないと、こっちの最重要拠点がやられるんだよ!」
「……ああ、そうだな。だが、スレイヤのじいさんがいれば十分じゃねえの?」
「確かにスレイヤのじいさんは大魔王軍相手に無双してるけどさ、あんな強いんだな、スレイヤのじいさんって。ーーって、そうじゃなくて! セントラルエリアの中心、ギルド本部のあるキャピタルシティを落とされたら、かなり不利な状況から最終決戦に挑まなきゃいけなくなるんだぞ!」
そうなのか。
「じゃあ、メンバー全員召集しろ」
「っ! おう!」
リューシンは急いで散らばったメンバーに召集をかける。
▼△▼△▼△▼△
「全員集まったな?」
俺は未来のギルドホームの玄関という少し高い位置に立って言う。
「これから、大魔王軍が攻め込んでいるキャピタルシティに総攻撃をしかける!」
「違うわよ。大魔王軍だけでいいわ」
俺が言うと、シュリナがそれを止めた。
「……そうだったな。まあ、いいや。これから、大魔王軍を全滅させに行く! 全員で全滅させてやるぞ! 俺達アンチ・ブレイズ総勢十六名、出撃だ!」
「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
何人かが雄叫びを上げて、俺達アンチ・ブレイズは出撃した。
▼△▼△▼△▼△
「はっはぁ! 死ね死ね死ねぇ! 敵味方関係なく、死ねぇ!」
セントラルエリアは攻め込まれ、キャピタルシティにまで進軍され、大魔王軍と盟約城騎士団、LORD、レギオン、虚夢の宴、昼寝王国、ソロプレイヤー達が入り乱れて乱戦中の中、空から俺は魔神の波動を放って敵味方関係なく吹き飛ばしていく。
「ジーク! 味方まで倒してどうすんだよ!」
「はっはっは! メチャクチャにしてやるぜ!」
俺はリューシンを無視し、飛行しながら波動を放つ。
どうやら、行軍中の大魔王軍は先頭に魔王がいるようで、どんどん先に進んでいく。
「……あの野郎はどこだ?」
俺は先頭の方に向かって飛びつつ、あの野郎を探す。
仲間達は大魔王軍相手に奮闘してるが、俺はそれどころじゃない。
「……いた!」
俺は目当ての人物を見つけ、急降下する。
そこには、魔王二人とセイアとガイアが対峙していた。
「見つけたぞこの野郎!」
俺はその間に着地する。
「セイア! 何こんなとこまで攻め込まれてんだよ!」
俺はセイアに文句を言う。
「……ジークか。ここは俺とセイアに任せて、他を援護してやれ」
ガイアが大剣を構えて言う。
「……そうもいかねえんだよな。ってか、そっちのヤツ誰?」
魔王だと思うが、どの魔王だかはわからない。
「男の派手な方がベルゼブル。暴食を司る。悪魔公爵を名乗っている。小さな少女がレヴィアタン。嫉妬を司る。海竜悪魔を名乗っている」
異様な雰囲気は本物ってか。まあ、別にいいや。
「ひゃっは! てめえがジークってヤツか! 俺と気が合いそうだぜ!」
ベルゼブルは楽しそうに笑って言う。
「……危険人物」
二人は俺を知ってるようだ。俺も有名になったもんだな。
「……悪いが、この二人は俺に殺らせろよ。俺は私用で、ちょっとかき回すんだ」
「かき回す?」
「……ああ。俺はこの戦いをかき回しに来たんだ。ーー魔神ソウル“第三形態”」
俺は化け物のような姿になる。
「実はな? 俺、今回は大魔王軍と人間側の両方を全滅させようと思ってたんだが」
「なっ!?」
「それはウチの副マスターに止められてな。だから、ここに来たんだよ」
「……どういう意味だ?」
ガイアが聞いてくる。
「どういう意味? それはお前がよく知ってんだろ? ガイア」
ここからが俺の見せ場だ!
「……」
ガイアは答えない。
「答えろよ、ガイア。ーーいや、敵側にたった独り潜入している“孤高の魔王”さん?」
「……」
ガイアは何も言わず、静かに笑った。




