虚夢の宴とソロプレイヤー達
「……ふん」
虚夢の宴のマスター、フリードはアンチ・ブレイズ、昼寝王国、レギオンが無事に防衛に成功したと言う報告を受けて、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「どうされた?」
「いや。アンチ・ブレイズが防衛に成功したようだ。忌々しいあのギルドがな」
「……失礼だが、何故そこまでアンチ・ブレイズ、いやジークを目の敵にする?」
虚夢の宴は男女関係なくフード付マントで全身を覆っている。
「……誰が付けたのかは知らないが、俺が中学生の時に有名人には二つ名が付いていた。出身地が様々だろうが聞いたことはあるハズだ。沖縄の朱雀。北海道の玄武。大阪の白虎。東京の青龍。京都の鳳凰。長野の黄竜。旅人の麒麟。各地で最強とも言われていたヤツらだ。老若男女関係なく強いヤツは二つ名を誰かが考える」
そこでフリードは一旦間を置き、
「血まみれの真紅、通称ジーク。あいつの現実での呼び名で、東京一の不良だ。事実上、青龍を倒して東京最強だと言う話だがな。当時の俺は学校をサボって強いヤツを探していた。四国出身なんでな。東京まで行った時はさすがに疲れた。だが、そこでジークと会った。あいつの噂は耳にしていた。青龍を倒したヤツにも興味があったからな。俺はあいつにケンカを挑んで、ボコボコにされた。圧倒的にな」
「だから、目の敵にしていると?」
「違う。俺を倒したあいつは『はっ! おもしれぇケンカだったぜ。また殺り合おうぜ』と言って去った。俺はそこで四国に戻り、あいつに勝とうと修行した。だが、ゲームの中で会ったら何だ? 『うわっ。お前暗いな。気に食わねえ』だと? ふざけるな」
フリードは珍しく怒っている姿をメンバー達に見せる。
「……ボス。どれくらい強くなったかを見せてやればいい」
フリードをボスと呼んだ虚夢の宴で二番目に強く、しかし副マスターではない???(名前)が言う。
「……どうでもいいが、そろそろ名前変えないか?」
「……いえ。俺が誰かを、ある人物に見破られるまでは。ジン、と呼べばいい」
ジンを名乗る???(名前)は鉄の仮面を被っている。
「ジン。今回は俺が一人で殺る。他のヤツも手を出すな」
フリードは言って、背にある巨大な鎌を手に取る。
その鎌はフリードの身長の三倍以上、五メートルもある巨大で歪な鎌だった。
「……相変わらず、よく片手で振り回せるな」
ジンは感心したように言う。
「ふん。俺の愛用武器だ。現実でも、これに近いモノをな」
銃刀法違反だ、とジンや他のメンバーは思うが、口には出さない。
その後、本当にフリードは四方八方から来る大魔王軍をその鎌で一人残らず狩った。
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「結局、集まったソロプレイヤーは四人。罪深いな」
ソロプレイヤー筆頭レフィは独り言を呟いた。
「……恨めしいけどね」
筆頭の三人の他に集まった一人、呪殺怨霊という物騒な職業の幽霊少女だ。肌は雪のように真っ白で(そして氷のように冷たく)透き通った細い身体(半分透けてる)。生気のない(もう死んでる)黒い瞳に腰辺りまで伸びた黒髪。前髪で左目は完全に隠れている。白い逆三角を頭につけていて、格好は真っ白な着物だった。ちゃんと脚はあり、しかし微妙に地面についていない。
「……噂には聞いている。君はアンチ・ブレイズに入りたいそうだが」
「……まあ、そうね。面白そうなのよ」
幽霊少女、レイナは少し微笑んで言う。
「……罪深いな」
レフィはいつものように呟き、ため息をつく。
「来たよ。あなたなら心配ないけど、私が牽制するから」
レイナは言って三十センチ程浮き、地面に黄泉の門を描く。
黄泉の門は丸く、真ん中が開くようになっている。死神のような紋章もあり、門が開いた場所は漆黒だった。
「怨霊祭り」
レイナは薄ら笑いを浮かべて呟く。
黄泉の門から、ムンクの叫びに似た人魂のようなものが一斉に出てくる。
「全員、呪ってア・ゲ・ル♪」
向かってくる大魔王軍に怨霊が襲いかかる。憑依して自殺させ、殺し合わせ、恐怖させていった。
「俺の仕事は残党狩り、か。さすがは幽霊。罪深い」
レフィはいつものセリフを呟いて剣を抜く。
レフィの職業は断罪人。攻撃力が相手の罪によって変わる職業だ。美しさは罪。弱いことが罪なら強いことも罪。モテることは罪。生きるは罪。
罪の数だけ攻撃力が上がっていくので、どこかのゴブリンの群れを討伐しまくったギルドなんかは一撃でデスするだろう。
モンスターはモンスターでも、殺しは殺しだ、ということだ。
あと、敵モンスターは人に害をなす、過去どれ程の被害を出したかなどで攻撃力が決定する。
ソロプレイヤー四人は三ヶ所に分かれ、それぞれが向かってくる大魔王軍を撃退していく。
レフィの攻撃力は大魔王軍の人間に仇なす罪深い心で決まり、当然一人残らず倒した。
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「ふん。死刑に値する」
厳格そうなおじさん、ガイストだ。
空飛ぶ木製の椅子に座り、空飛ぶ木製の机に腕を置いている。机の上には木槌と受け板が置いてあり、何故か羽ペンとインクもある。
大魔王軍があと数十メートル先まで迫っている。
「罪状。大魔王軍である。ーー死刑に値する」
ガイストの職業は裁判長。相手の罪状を適当に出し、刑を執行する。
ガイストが罪状と言うと、机に紙が出現した。
「天罰」
カン!
木と木がぶつかり、鋭い音が響き渡る。
次の瞬間、空から降りる円柱の光が大魔王軍全てを消し飛ばした。
「ふん」
たったそれだけで、全滅した。
一見攻略不可能なガイストだが、罪状を出す、木槌で叩くという動作をしなければならないので、それさえさせなければいい。
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「ほっほっほ。老人に一人で立ち向かわせるとは、最近の若者は」
ソロプレイヤー筆頭のスレイヤが朗らかに笑って言う。
レフィ、ガイスト、そしてレイナ。ソロプレイヤーでも能力が割れている者は少なくない。だが、スレイヤは人前では戦わない。全プレイヤー中、自身しか能力を知らない、謎のプレイヤーなのだ。
というか、スレイヤの強さを知っていれば、最強のプレイヤーはこの老人である。
「……目測五十メートルを切ったの。引き付けるぞい」
佇む老人に一斉に襲いかかる大魔王軍。
「一閃!」
腰に差してある長剣を抜き去って一閃する。俗に言う居合いだった。
その斬撃は大魔王軍全ての胴体を真っ二つにするまでの範囲に及んだ。
スレイヤの職業は剣聖老騎士。全ての剣技を扱い、レベル×一メートルの射程を持つ、五三レベル。
穴のないチート職で、レベルはトップスリーに入り、DIW現最強プレイヤーと言っても過言ではない。
“孤高の魔王”と呼ばれるガイアと並ぶ実力の持ち主だった。




