魔神とギルドの領土
「……」
俺は悪魔ソウル“ブラッドデビル”で空を飛び、見渡しのいい場所で浮いていた。
リーニャはウリ、ファル、ユザに敵襲警戒巡回を任せてギルドホーム建設場所を探している。
クアナは糸を最大限に伸ばし、張り巡らせている。糸にかかったヤツがいれば、敵かもしれない訳だ。
シュリナは炎の翼で飛び回っている。真面目にやっているらしい。
「……風通しがよくて、水が近い所がいいんだが」
川か湖があるとか。
……軽い別荘だよな、それ。
「理想は湖だが、そんなとこあったっけな?」
俺は辺りを見渡してみる。
「……フィールドにはあるんだが、フィールドにギルドホームって作れるのか?」
答えは返ってこないが、気になるところだ。
俺はリューシンへの強制通信をする。
「リューシン、フィールドにギルドホームって作れるのか?」
『ん? ……まあ、作れることは作れるが、面倒だぞ』
作れるのか。
「いい場所を見つけた。でかい湖があるとこだ。そこに皆集合させてくれ」
『湖? はいよ。まあ、面倒でもいいんならいいさ』
呆れたようにリューシンは言って、俺は通信を切る。
さて、行くか。
▼△▼△▼△▼△
「「「……」」」
「どうだ? いいと思うんだが」
黙り込む皆に聞く。
「俺はいいと思うぞ。まあ、面倒な手続きがあるのが難点だが」
「その手続きってのを教えてくれ」
「……まず、ここら一帯のモンスターを全部狩らなければならない。もちろん、湖の中のヤツもな。それが俺達の領土になり、モンスターは出てこなくなる。んで、マスターが領土申請すれば完了だな。ちなみに、領土にする場合、領土ボスってのを倒せば大丈夫だ」
「へぇ。まあ、面倒じゃねえな。一番面倒なのは、領土申請だろ」
「「「申請書類とか書くの苦手そうだ」」」
その通り、苦手だ。
「申請って言っても、マスターの名前と場所を書くだけだから大丈夫だ。俺が言う面倒事ってのは、モンスターを狩る方だ。領土ボスを倒さない限りモンスターは現れるからな。周りのモンスターを抑えつつ、領土ボスを狩るんだ。湖も含めるなら、二体倒さなきゃいけないしな」
へぇ? ま、俺らなら大丈夫だろ。
「領土ボスってのは強いんだろうな?」
「ああ。とりあえず、ヒューマンゴブリンよりは強いな」
……何か、ビミョー。
ヒューマンゴブリンって、帝国攻めた時の、俺が一瞬で消し飛ばしたヤツだろ?
「……あいつだってホントは強いんだよ。魔法も武器も使えるし、PvPみたいな感じで戦えるんだよ。お前が不意打ちで消し飛ばしたけどさ」
リューシンが頭を抱えて言う。
「まあ、楽勝だろ。んで? 領土申請ってのは俺がしなきゃいけねえのか?」
「当たり前だ。マスターなんだからな。それより、モンスターを全滅させなきゃいけないんだ」
「そんなの簡単だろ?」
とりあえず、片っ端からぶっ飛ばせばいい。
「いや、言う程簡単じゃねえよ。領土ボスを倒す人と、雑魚を倒す役に分けねえと」
「何でだ?」
「だから、領土ボスを攻撃すると、雑魚モンスターが一斉に寄ってくるんだ。さすがにボスと雑魚共を一気に相手すんのは面倒だろ?」
まあ、確かにな。
「じゃあ聞くが、水中戦出来るヤツが何人いる?」
「俺は出来るぞ」
まず、リューシンが手を挙げた。
「私は無理よ。水中じゃあさすがに役に立たないわ」
炎を司る不死鳥、シュリナが残念そうに言う。
「……多分、無理」
「俺も無理だな」
「私も無理ね」
「僕も無理かな」
「無理、だと思います」
「無理れすね」
「……同じく」
「紙を使う私は無理ですね」
「私も皆も無理ね」
他のメンバーも首を振る。
「だろ? 必然的にリューシンが雑魚、俺がボスをやることになる」
「……俺が雑魚をやるのは決定なのな」
「……そうね。じゃあ、陸の方は任せて。私達で何とかするわ」
「おう。よろしくな」
「いや、ジーク。湖には領土ボスと普通のフィールドボスがいるんだぞ。二体同時は無理だろ」
「余裕だ。ってか、領土ボスってどうやって出現するんだ?」
「領土申請すれば出てくる」
そうか。
「じゃあ、ちょいと申請してこようぜ。リューシン、行くぞ」
「はいよ」
リューシンを連れて、領土申請に向かった。
▼△▼△▼△▼△
領土申請はあっさり終わった。
範囲ってのがちょっと面倒だったが、適当に湖の周りを囲って、家建てる所をちょっと広く取った。
「ん?」
シュリナ達が石で出来た巨人、ゴーレムとかいうヤツ三体と戦っていた。
「何やってんだ?」
「ジーク! 急にゴーレム三体が寄ってきたの!」
シュリナがそいつらと戦いながら叫ぶ。
ゴーレムは茶色と赤と青がいる。属性で変わるんだろうな。
「悪魔ソウル“合成悪魔”。だらぁ!」
悪魔の姿になってゴーレム三体に波動を喰らわせる。
「くっ! ゴーレム、ファイアゴーレム、アイスゴーレムだ! 中ボスレベルだぞ。領土ボスに連れられて来たんだ!」
リューシンは走ってゴーレムと皆の間に立ち塞がる。
「リューシン、お前はそっちやってろ。湖は俺一人でやる」
「少しの間だけだ! こっちを倒したら行く!」
ゴーレムのパンチをガードしながら叫ぶリューシン。
「いらねえよ」
俺は皆に背を向け、湖に近付こうとする。
「っ!?」
ゴーレム達がいるその上空。そこにいる三つの影が皆に向かってナニカを放とうとしていた。
「ちっ!」
俺は舌打ちして影の背後まで飛ぶ。下に集中して俺に気付いていない。
「デビルブラスト!」
両手から青黒い波動を放つ。
「ぐっ!」
呻いて、しかし無傷だった。
「……結構やるじゃねえか」
真ん中にいる、漆黒の鳥のような六枚翼を持ち、頭の上に漆黒の輪が浮いている。金を基調とし、黒が入った長剣を持っている。
両側にいるのは三ッ首の悪魔、だろうか。蝙蝠のような一対の翼に獣のような顔。二足歩行だが、どこか獣じみている。
「我、天から堕ちし者なり」
「あん?」
何わけわかんねえこと言ってんだ?
「ジーク! そいつは堕天使・ルシファーだ! 魔王並みの実力を持ってるぞ!」
リューシンが気付いて叫んでくる。
「……へぇ? ルシファーって魔王じゃねえの?」
俺は一旦降りてリューシンに聞く。
今回のグランドクエストの大魔王軍にもルシファーって魔王がいるとか何とか。
「魔王の方はルシフェルな。大魔王軍は大魔王の下に七つの大罪を司る悪魔の王、魔王がいるんだが、その中のルシフェルの双子の兄貴らしい」
堕天使も魔王もいる設定なのか。
「多分、領土ボスだ。ルシフェルがいるから、限定とかだな」
「まあ、ゴーレムとあいつらに分けて戦えよ」
「ジーク!」
リューシンの叫びに反応してルシファーを見ると、剣を構えて突っ込んできていた。
「ーー空中で鳥とやり合おうなんて、十年早いわよ」
だがそれは、割って入った者に阻まれた。
「ナイス、シュリナ」
我らが副マスター、フェニックスのシュリナだ。
「ガアアアァァァァァ!」
二体の悪魔も飛びかかってくるが、
「ヒュイイイイイ!」
「グガアアアァァァァ!」
ファルとユザが阻んだ。
「こいつらは私達に任せていいわよ。ジークが水中戦やってくれないと終わんないんだから」
「ああ。頼りにしてるぜ」
俺は安心して背を向ける。
「……ジーク、頑張って」
「誰に言ってんだ? ティアナこそ、頑張れよ」
通り過ぎる時にティアナが声をかけてきたので、笑って返す。
「悪魔ソウル“水穿悪魔”」
水中に住む悪魔。水系悪魔何種類か狩るとゲットした。合成悪魔に似てるな。ヒレのようなものが身体の所々にあり、翼はない。鎧のような堅い鱗に覆われていて、全体的に水色が多い。
俺は水中に飛び込む。
「ーーさあ、湖のモンスター共。一匹残らず駆逐してやる!」
俺は飛び込んできた俺に目を向ける雑魚と、湖底深くにいる二体の強者見て、面白そうに、猟奇的な笑みを浮かべた。




