悪魔とチート職
「よっ」
「えっ? えーっと、真紅?」
「ああ。こっちではジークだ。ログイン、したんだな」
「うん。ゲームやってみたかったし、ジークと一緒にいたいから」
「……ま、普通に楽しんでる場合じゃねえけどな」
「そうだね。でも、ログインしてすぐに転移って、ビックリしたよ」
「もしかしたら、お前がログインしたせいで百万人のプレイヤーが揃ったのかもしれないぜ? だとしたら、感謝感激雨霰ってな」
「ジークなら喜ぶけど、他の人は恨むよ?」
「ま、気にすんな。んで、ステータスは確認したか?」
「ううん。ジークはどうしてここに?」
「お前を鍛えてやろうと思ってな。これでも強い方だと思うぜ?」
「ありがと、ジーク」
「任せとけ、シアス」
名前:シアス
職業:増殖士
種族:ヒューマン
レベル:1
HP 20
MP 30
STR 17
DEF 13
AGI 22
DEX 30
INT 30
MDF 30
VIT 12
LUK 9
振り分けポイント残数:10
装備欄 防具
頭:なし
腕:なし
胸1:狩人の衣
胸2:狩人の上衣
腰:ミニスカート
脚:スカーレット・ブーツ
武器
両手:巫女の大弓
スキル
『増殖』
『矢の創造』
『全魔法』:【ファイアボール】
【ウォーターボール】
【ボルトボール】
【サンドボール】
【アイスボール】
【ライトボール】
【ダークボール】
【ウインドボール】
【リーフボール】
『色気』
増殖士:その者が放つモノは全て増殖する。増殖数はレベル×10。数が武器なら最強。人間は投げても増殖しない。モンスターも然り。
「……」
「ど、どうだった?」
シアスは不安そうな上目遣いで俺を見てくる。
「何でこんなに強いんだよ!」
俺より強い出だしじゃねえか!
何だよ全魔法って! チート職か!
「えっ?」
「ったく。強いぞ、これは。ついてるな」
「ホント? ジークの役に立てる?」
「ああ。ってか、これならソロでも強そうだな。よしっ。広大な草原でレベル上げだ」
「うん」
▼△▼△▼△▼△
「あれは?」
「ゴブリンの群れだ。俺にとっちゃ雑魚だがな。まず俺が戦うから、見てろ」
俺はシアスに言って、歩いていく。
「悪魔ソウル“合成悪魔”」
お気に入りのソウルを使う。
「わぁ、カッコいいね」
シアスは目を輝かせて言う。
「そりゃどうも」
言いつつ、歩き進んでいく。
「さあ、いくぜ」
俺はいつも通りに、ゴブリン共を狩り始めた。
「ふーっ。終わったか」
キングがいない外れの群れだったな。第一、これの上位と戦ってたんだから、弱く感じるのもしゃーないか。
「ジークはやっぱり強いね。昔と変わんないよ」
「……悪いな。シアスの前ではやらねえようにしてたんだが」
「ううん。ジークは昔から私のことを守ってくれてたもん。怖くないよ」
……ま、あん時は怖がってたけどな。
「んじゃ、次の群れはシアスがやれ。すぐ終わるから」
「うん。ゴブリンの群れって、あれ?」
シアスは少し遠くを指差す。
「ああ。じゃあ行くか」
▼△▼△▼△▼△
「ゴブリンって何属性が一番効くの?」
「知らん。リューシンのヤツなら知ってるだろうが、特に気にしてない」
「そうなんだ。弱点を突いて倒すんじゃないの?」
「ああ。力押しだな。ゴブリンは雑魚だし」
他でも力押しでやってたな。今度からはそういうのも気にした方がいいんだろうか。
「ふーん。とりあえず、何を試そう?」
「矢だろ。ちゃんと射てるのか? 当たるのか?」
「射てるし当てるよ。これでも弓道部です」
ちょっと拗ねたように言う。……そういや、そうだったな。
「じゃあ、矢の創造を試そうぜ。どんな矢が創れるのかとかあるだろ?」
MPの消費量も覚えとくといいし。
「……」
大弓を構える。
「えーっと、これが巫女の大弓だから、巫女の矢」
適当に名前を付けていた。
「ん?」
シアスの構える大弓に矢が出現する。
「名前付けると創れるんだな」
「うん。……ふっ!」
気合いの声と共に矢が放たれる。
弓道部の割りには集中する時間が少なかったが、これでも仮入部の初心者の癖にいきなりど真ん中に当てたラッキーガールだ。それでスカウトされたんだが。
それに、今回は届けば当たる程的がいる。
矢は真っ直ぐにゴブリンの群れに飛んでいく。手前のゴブリンの頭に向かって一直線だ。
だが、そこで矢が増えた。十本になり、狙ったゴブリンの周囲のゴブリンにも突き刺さった。
「やった。結構距離あるから不安だったけど」
……結構な腕前だな。
「気付かれたぞ。もっと射て」
「うん」
シアスは頷いて、「巫女の矢」と呟いて次の矢を創る。
「っ!」
今度もゴブリンの頭を狙って射っている。……一撃死のせいでグロテスクなことになってるけどな。
「えっ?」
今度は矢がかなり増えた。十本どころじゃない。百本はありそうだ。
「……レベルが上がったんだろ。10レベってとこか」
「あっ。そういえば、レベル×10の数に増えるんだよね」
今思い出したようだった。
「……ま、そのチート使って魔法撃てよ」
「チートって……。否定出来そうにないけど」
だってレベル100で×10だったら1000だぜ? 強すぎだろ。
「ま、さっきので大半のゴブリンが殺られたし、自分の意思で増えるタイミングを変えられるかやってみろ。撃ってすぐ、とかな」
「うん。ファイアボール」
右手を伸ばして呟く。手元に小さな魔方陣が現れ、拳大の火の玉が飛んでいき、撃ってすぐに増殖する。
「……成功だな。色々応用が効きそうだ。あとのエリートゴブリンとキングゴブリンは弓を試してみな。どんな矢が創れるかってのをな」
「うん。やっぱりジークは頼りになるよ」
「ゲームの中じゃリューシンを頼ってくれ。俺よりもあいつの方が詳しい」
「それはそうだけど、今はジークが教えてくれたんだから」
シアスは嬉しそうにはにかんだ。




