悪魔と魔神=弟
遅くなりました。
ほぼ一ヶ月振りくらいの更新になりますね。
「おらぁ!」
俺は魔神に殴りかかる。
「あめえよ!」
魔神は楽しそうに俺の拳を避ける。
「はっ!」
シュリナが魔神の後ろに回ってレイピアを突き出す。
「……」
それに加え、ティアナが鎌で横から追い打ちをかける。
「あめえっつってんだよ! 俺は仮にも魔神だぜ!?」
魔神は俺の拳を避けたその体勢から、二人の攻撃を避けた。
俺の拳を首を曲げて避け、シュリナのレイピアを身を捻って避け、ティアナの鎌を上体を反らして避けた。
「魔神なら、魔法でも使ってみろや!」
俺が言って、三人同時に飛び退く。魔神の視界には両手のマシンガンを構えたジンオウが写ったハズだ。
ズガガガガガガガガガガガ!!
連射されて、土煙が魔神のダメージの有無をうやむやにする。
「……ちょっとはダメージあったんだろうな」
相手は俺の過去をパクってても、仮にも魔神、神だからな。機械じゃ無傷ってのも有り得なくはない。
「……ったくよ。死ぬかと思ったぜ」
煙が晴れると同時に魔神の声がした。
「……さすが。魔神は腐っても魔神かよ」
俺は苦笑して呟いた。
魔神は自身の周りに障壁を張って弾全部を防いでいた。
「当たり前じゃねえか。俺は魔神だ。その程度の攻撃は効かねえよ」
「……お前の倒し方がよくわかんねえな。第一、序盤に出てくるような敵じゃねえよ」
今までゴブリンだけを狩ってきた俺らだぜ?
「……おいおい。すっかり丸くなっちまって。お仲間は飾りか? 十二対一でかかってこいよ」
……やっぱ、こいつは仲間の意味を知らねえな? まあ、俺のコピーじゃしゃーねえんだが。
「残念だが、仲間がいるのもそいつの強さの内だぜ」
「捕らえたわよ、魔神さん?」
クアナが糸で魔神の全身を固定する。
「……紙龍」
アレンシアが紙吹雪の龍を動けない魔神に喰らわせる。
「……ドSコンビ誕生ってか」
恐ろしい限りだぜ。
「あら。それならジークが入ってないとダメよ」
……聞こえてたか。
「んじゃ、デビルズブラッド・レイン!」
というわけで、俺も攻撃してみました。
「はっ! いい感じじゃねえかよ!」
魔神は楽しそうに笑って、デビルズブラッド・レインも紙龍も、クアナの糸を引きちぎって素手で薙ぎ払われた。
「ちっ! これじゃ拉致があかねえ!」
全然攻撃出来ない。
「……じゃあ、ハンデやろうか? 両手を使わないであげるよ」
パクリでそう言い、獰猛な笑みを浮かべた。
「……いらねえよ。だが、随分優しいな?」
「はっ! てめえのお仲間とやらがよえぇからだろうが! 魔神なめてんのか?」
魔神が嗤う。……おぞましい威圧を放ちながら。
「……あん?」
俺は濃い殺気を込めて、魔神を睨んだ。
▼△▼△▼△▼△
「っ!?」
俺は俺のオリジナルのジークから放たれた殺気に寒気を覚えた。
「……てめえ、今何つった?」
俺の一言でキレたのか? ……まあ、面白ぇ。
「はっ! てめえの仲間ってのは雑魚だって言ったんだよ!」
俺はオリジナルをさらに挑発する。
「……」
オリジナルは俺の後ろに回り込むように跳ぶ。……見えてんだよ!
「後ろだ!」
俺は後ろを向く。
「おらあああぁぁぁぁぁぁぁ!」
が、オリジナルは俺のすぐ後ろ、俺の眼と鼻の先にいた。
ちっ! これじゃ近すぎる!
俺は一旦後方に跳ぶ。
ザクッ。
「っ!?」
俺の腹から細い刃が出ていた。
「死ねや!」
俺が混乱している間にオリジナルが俺に殴りかかってきた。……いくら魔神でも人間がベースなんだぜ? 避けられねえよ。
「がっ!」
顔面に一発。だがそれで終わりではなく、俺の身体はくまなくオリジナルに殴られた。
「あああぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は吠えて、オリジナルとその仲間達を怯ませる。その隙に逃げて身体の再生を待つ。……再生は出来ても体力は回復しねえんだよな。
「いいぜぇ? もっと楽しみてえとこだが、俺は体力が半分になると、プレイヤーを現実の姿にする!」
俺はAIだしな。
「いくぜ?」
ーー虚無現の鏡。
カァとオリジナル達が光に包まれ、おそらくは現実の今の姿である格好になっていた。
「……へぇ?」
オリジナルは驚かず、感心した。
「ちなみにステータスも現実で、スキルも現実のヤツを元にしてあるんだぜ。個人情報なら手に入るからな」
俺は得意気に笑う。
「はっ! じゃあ失敗したな、魔神」
オリジナルが楽しそうに笑って言った。
「あん?」
どういう意味だ?
「……現実の俺はてめえの元になってんだぜ? 弱いわけねえだろ?」
「……」
確かに。だが、人間には限界があるだろ。
「皆、いくぜ」
「「「イエス、マスター」」」
オリジナルが言って仲間が答える。
「ん?」
「後悔すんな、とは言わねえ。ただ、俺の仲間をバカにしたことを後悔しろ」
オリジナルが笑って、戦闘が再開される。
ーーそこからは一方的だった。明らかにオリジナルの動きが良くなり、きちんと連携も取れている。……ボロ負けだった。
▼△▼△▼△▼△
「……はっ!」
魔神は弱々しく笑う。やっぱ使い慣れた身体が一番だな。魔神を倒せたぞ。
「……時間か」
魔神の身体が透けていく。
「……ったくよ。現実の方で俺を倒すとかバカじゃねえの?」
「俺は元血まみれの真紅、通称ジークだ。なめんなよ」
俺は魔神に手を伸ばす。
「……」
魔神は黙って俺の手を取った。
「……面白かったぜ? そろそろ消えるからよ」
見ると、魔神が足元から粒子になって消えていた。
「……ちっ。オリジナルはいい仲間持ってんじゃねえかよ」
少し寂しそうに笑う。
「当たり前だ。俺はお前のオリジナルだぜ? フェイクの先を行くのがオリジナルだ」
「……だな。俺はこれで消えるが、じゃあな」
「……ふっ。俺はこっちでは全ての魂を継ぐ者。てめえの心残りも受け継いでやるよ」
「……偉そうに言いやがって。ありがとな」
……まさか礼を言われるとはな。
「おっと。もう時間だ。ーーじゃあな。俺の分まで生きろよ、血まみれの真紅、ジーク」
魔神はもう消える寸前で、首までは完全に消えていた。
「ああ。ーー俺が受け継いでやるよ、魔神ジーク」
俺は消える寸前の魔神の頭をくしゃくしゃに撫でてやる。……弟がいたら、こうしたんだろうな。
「ーーおう」
魔神ジークは満足したように、満面の笑みで消えていった。
ーーじゃあな、ジーク。




