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Dive in the world   作者: 星長晶人
最終章

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魔神と古馴染み

 ようやく、ようやくこの時が来た。


「随分と探したぜ? 手間取らせてくれやがったな……!」


 俺はイベントの最終日、ようやくリューシンの姿を捉えた。お(あつら)え向きに人気のない草原に入っていくところを見かけて、追いかけてきたというわけだ。


「おう、ジークか。遅かったな。俺を倒すとか言って、随分時間かかってるじゃないか」

「あぁ!?」


 向き直ったかと思うとイラつく物言いが返ってくる。


「まぁその方が俺も扱いやすいってモンだ。ほら、その足りない頭で考えてみろよ。……ここで会ったのも偶然じゃなく、俺の罠だって可能性を」


 リューシンはニヤニヤと笑いながら言ってきた。……ムカつく態度だな。ここまでわかりやすいと苛立つのとは別のモノが出てくるんだが。こいつ、俺を怒らせてなにか企んでやがるな?


「……周りに隠れてるヤツらのことか? 気配からして弱そうだし、俺を袋叩きにするには足りねぇと思うがな」

「なんだ、気づいてたのかよ。じゃあいいや。――やっちまえ」


 リューシンの合図の直後、俺の周囲に魔法や矢が飛んでくる。ただ魔法も威力の高いモノじゃない。これだったらシアス一人の方が手強いくらいだ。


「邪魔すんじゃねぇよ」


 俺はスキルさえ使わずに避けると放った元の位置を把握して大体の配置を察する。そのまま駆け出してより多くの遠距離攻撃職がいるらしい場所を目指し、見つけたプレイヤーを殴り飛ばして倒していく。いくら俺のステータスが攻撃寄りとは言っても前線のプレイヤーなら素手で殴った程度では大したダメージにならない。なんのスキルも使ってない状態なら尚更だ。つまりここにいるプレイヤーは比較的初心者に近い低レベルプレイヤー、ということになる。なんでそんなヤツらがリューシンに協力しているのかは考えてもわからないが、とりあえずリューシンをボコる邪魔になりそうなので手当たり次第に全員倒しておく。その間リューシンはなにもしてこなかった。一応不意打ちも警戒してはいたんだがな。


「流石だな、ジーク。この人数を相手に無傷かよ」

「心ないこと言うんじゃねぇよ。俺どころかうちのギルドメンバーなら漏れなく無傷で勝てるようなレベル帯のプレイヤーしかいなかっただろうが」

「おっと。流石にそれを考えるだけの脳味噌は備わってたか」

「当たり前だろうが。……てめえもそれなりに長い付き合いなんだからわかってるだろ。俺は戦いに関しちゃ、頭悪くねぇよ」


 喧嘩になると途端に頭が冴え渡るような感覚が訪れるのだ。自分でも不思議と言うか、なんでだろうなとは思ってるんだが。


「あー……やっぱ仮想にもそれ持ち込んでやがったかぁ。チッ、めんどくせぇ」

「なんだよ、確信持ってなかったのか?」

「そりゃそうだろ。現実と仮想は違うんだ。……ま、つってもお前の場合ほとんど一緒と言うか強くなる度現実に近づいていってやがるからもうよくわからないんだけどな」


 確かに、魔神ソウルは“最終形態(ファイナルフォルム)”で中学の時の俺の姿になったし、“限界突破(ブレイクスルー)”は今の現実の俺の姿ほぼまんまだし。……リアルバレとかいう概念ガン無視のゲームなんだが、それはどうなんだろうか。現実に戻ったら史上最悪の不良として警察に捕まったりしねぇだろうな。


「いいから、やんぞリューシン。てめえを倒す。そんで俺が一位だ」


 改めて、リューシンに人差し指を向けて宣言する。順位を上げるために死力を尽くし、遂に俺は個人ランキング二位にまで追いついていた。……いやぁ、大変だったぜ。強いソロプレイヤーやギルドしか残ってないような現状で、どれもこれも俺の喧嘩歴史に残る凄まじいバトルだったからな。こういうのをあれだ、リューシン風に言うと漫画何巻とかって言うんだったか。まぁ俺はどのくらいの長さが何巻分に匹敵するのかわからないから確かなことは言えないんだけどな。


「……ふっ。ジーク、そういやお前とこのゲームで一対一で戦ったことなかったよな」


 自分ではカッコいいと思っているらしい気取った気持ち悪い笑みでそんなことを言ってくる。


「そうだったな。……その顔やめてもらっていいか? キモい」

「……おい。今いいとこなんだから水差すんじゃねぇよ」


 正直な感想を述べたら責めるような目を向けられてしまった。嘆息して先を促す。リューシンは「締まらねぇな」と思っていそうな顔でため息を吐くと、改めて不敵な笑みを浮かべる。


「そういやお前とこのゲームで「いやそこ繰り返すか普通?」……だからっ! 遮るんじゃ、ねぇって!」


 同じセリフを繰り返そうとしたリューシンにツッコんだら、ぷるぷると身体を震わせ始めた。


「……はぁーっ。もう、いいや。なんにせよお前とこのゲームでこうして戦うのは初めてだろ? だから、一対一で戦った時の俺の強さ知らないってことだよ」


 リューシンは諦めたらしく、自棄のように言った。……一人で戦った時のリューシンの強さ?


「そういや知らないな。あんまりお前が一人で戦ってるとこ見たことねぇし」

「……いや、実際はボス戦の最中俺一人で戦わされたこととかあったんだけどな? まぁそれをお前に言っても仕方ねぇ。ってことは、俺がアンチ・ブレイズの中でも型破りなお前の対になるように堅実として有名なことも知らないってことだよな?」

「ああ、知らないな」

「……知らないとは思ってたけどやっぱり知られてないのが悔しい……!」

「いいから話進めろよ、締まらねぇヤツだな」

「お前が余計なツッコミ入れなきゃこんな流れにはならなかったんだよ! ってかそもそもこの戦いはこう、もっと俺とお前の雌雄を決するようなシリアスめな最終決戦になる予定だっただろ!? それがなんで、こんなぐだってるんだよ……」

「俺に言うなよ。そういうの考えるのも俺の役目だったろうが」

「そうだけどさ!」


 なんだこれ。こんなのがイベント最後の戦いでいいのか? まぁいっか。


「じゃあやるか、リューシン。うだうだ言ってても仕方ねぇ」

「……おう。ここで決着つけようぜ。俺とお前、ゲーム得意と喧嘩得意。その二人が、ゲームの中で喧嘩したらどっちが強いかってことをなぁ!!」


 なるほど、リューシンはそれが言いたかったらしい。なら仕方ねぇ、俺もそれに応えてやるか。


「上等だ、喧嘩である以上、俺に勝てると思うなよ!!」

「はっ! ゲームである以上、俺が勝つ!!」


 言い合って、互いにニヤリと笑う。そのままそれぞれにスキルを使用した。


「プレイヤーソウル“リューシン”!!」

「プレイヤーエンブレム“ジーク”!!」


 どうやら考えていたことは同じようだ。


 俺の顔に黒縁眼鏡が現れ、右手にガントレットが装着される。

 リューシンの額に角が二本生え、背中に蝙蝠の翼が、尾てい骨辺りに尻尾が現れる。


 互いに互いの能力をプラスした形だ。……気に入らないことこの上ないが、俺とリューシンの能力はかなり似ている。職業がランダムで、が売りのゲームにしちゃあ変な偶然だなと後から思ったモンだが。更に気に食わないことに、同じような能力だからこそ重ね合わせた時の相乗効果が凄まじく、この上で魔神ソウルを使うととんでもなく強くなる。

 ま、リューシンのソウルが最強だなんて嫌だから他のプレイヤーの前じゃ一切使わないんだけどな。


「魔神ソウルエンブレム“限界突破(ブレイクスルー)”!!!」

「戯神エンブレムソウル“反転世界(オルタナティブ)”!!!」


 現実世界の俺とほぼ同じ姿になり、右手に禍々しいオーラを纏った漆黒のガントレットを装着する。リューシンがつけているモノと似た眼鏡は少し邪魔だが、色々な情報を解析してくれる優れモノなので多少は我慢だ。

 リューシンは逆に現実からかけ離れた姿になっている。ほとんどが黒と白を基調としており、髪の毛の左が白、右が黒なら服装は左が黒、右が白。翼も悪魔が持つ漆黒の蝙蝠のような翼が左翼で、天使が持つ純白の鳥のような翼が右翼になっている。リューシンにしちゃカッコいいデザインの恰好だ。


「いくぞジークッ!!」

「来いやリューシンッ!!」


 互いに突っ込み、拳と拳が激突する。その衝撃だけで周辺にあった障害物が消滅していった。


 ――そこからの戦いは実に、実に楽しいモノだった。


「アスラレイ!!」

「跳ね返せ!!」


 俺が幾重もの光線を放てば、リューシンはガントレットを掲げて障壁を展開し威力を倍化させて跳ね返してくる。


「おらぁ!」

「ぐっ、この野郎っ!」


 俺がリューシンの顔面をぶん殴れば、踏ん張って殴り返してくる。


 ――本当に、このゲームをやっていて最高の戦いだと思った。世辞抜きに。……まぁ、リューシンには絶対言わないけどな。


 今までで一番手強い相手で、今までで一番楽しい喧嘩だった。

 なにせ現実のリューシンとは、殴り合いにならないほどの力の差があったからな。ただゲームでは俺が連戦連敗、どう足掻いたって勝てなかったんだが。

 それがどうだ。今俺と殴り合って最高の喧嘩をしているヤツは誰だ? その、現実じゃ殴り合いにすらならなかったリューシンだろうが。


 ……ああ、クソ。こいつの思い通りなんだろうが、こう思う。


「……ゲームって、楽しいだろ?」


 そんな時リューシンが尋ねてきた。偶然なのか俺が顔に出していたのか、奇しくも俺が今考えていたことと合っていた。


「ああ……!」


 力強く頷いて、俺はリューシンの顔面をぶん殴って吹っ飛ばす。それで丁度HPが削り切れた。俺の勝ちだ、と勝ち誇れるような差じゃない。俺のHPもあと一撃食らってたら負けていた程度しか残っていない。


「……ああ、クソ。負けちまったか」

「おう、俺の勝ちだ。潔くポイント渡して死にな」

「酷ぇ言い草だな、おい。……まぁいいか。じゃあ精々、ヘマして一位獲られんじゃねぇぞ。俺も一応どっちが勝っても漁夫の利させねぇよう計算してはおいたけどよ」

「そんなことしてたのかよ」

「当たり前だろ? ここで『最後の戦いだ!』ってやって生き残った方が誰かに倒されてそいつが一位! みたいなの超恥ずかしいしなによりダサい」

「まぁな。じゃあ、優勝してくるわ」

「おう」


 言ってから、俺はリューシンに背を向けて立ち去っていく。リューシンの身体はもう消えかかっていて、なにもできないだろう。回復アイテムを取り出してHPを補充しつつ、ぴたりと足を止める。


「……楽しかったぞ」


 もう残っているかもわからないが、とりあえずそれだけは告げておく。返事は聞こえなかったので、聞こえてなかったのかもしれない。それを確認するのに振り向くのも嫌だ。


「……さてと。じゃあ一位のまま終わるとするか」


 こうして俺は、喧嘩祭の個人ランキング一位になり、イベントを終えることができたのだった。

巻数収録の関係で大幅に端折らされた打ち切り漫画みたいな決着の仕方。

しかし次話で完結します。

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