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Dive in the world   作者: 星長晶人
最終章

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106/108

魔神と一つの決着

 俺の全力全開に、残ったシュリナとティアナは応えてくれた。


「はあぁ!!」


 シュリナが真っ向からレイピアを構えて突っ込んでくる。武器の全体にも紅蓮の炎が渦巻いており、触れれば大ダメージを受けてしまうだろう。なにより攻撃は兎も角防御には難のある俺なので、受けたら一溜まりもない。当然のように回避を選択。その上で迎撃を行えるように最低限炎に触れない程度の距離で避けて拳を振るった。速度、タイミングから見て確実に入った! と思うようなモノだったが、シュリナに当たらないすれすれを漆黒の鎌が通りそうだったので拳を止めて身体を引くしかなかった。


「はあぁ!!」


 シュリナが気合いの声を上げたかと思うと、身に纏う炎が奔流となって俺に襲いかかってきた。どうやらアビリティを使わなくても操れるらしい。


「おらっ!」


 だがその程度なら拳で風圧を巻き起こし掻き消すことができる。

 炎は消したがティアナが飛翔しながら突っ切ってきた。刃に裂かれればHPを一気に持っていかれてしまう。刃だけはよく見て回避し、柄を蹴飛ばして距離を確保する。代わりにシュリナが突っ込んできた。


「フェニックスドライブ!!」

「……ブラッディスカー」


 シュリナが煌々と輝く炎を纏って突撃してくる後ろから、ティアナが黒い細かな斬撃を飛ばして即興の合わせ技とする。


 ……回避するなんて勿体ねぇ!


 俺は真っ向から迎撃することを選んだ。渾身の右ストレート。踏み込んだ足の指先から拳にまで筋線維それぞれが力を増幅しながら伝えた成果がシュリナの持つレイピアの切っ先とぶつかり合う。


「「……ッ!!」」


 互いに引く気はなかったが、視線を交錯させたまま少し衝突していると同程度の威力だったのか互いに後方へ弾かれてしまう。俺が体勢を立て直す前に、ティアナが追撃しようとしてくる。ゆらりとシュリナの後ろにあった姿が消えたかと思うと、背後からの怖気に背筋がぞくりと凍りついた。咄嗟に屈むと頭上すれすれを鎌が通り過ぎている。


「……避けられるとは思わなかった。野生の勘?」

「そんなとこだっ!」


 ティアナのあまり変わらない表情の中に確かな驚きが見て取れて、しかし勝負の最中だからと本気で蹴り飛ばす――俺のステータスとティアナの不運さ(ステータス)が合わさってクリティカル攻撃となり、HPを削り切った。運のなさはピカイチだな、ホント。


「……っ。やっぱり、強い」

「そっちこそ、そんな能力があるなんて知らなかったぜ」


 勘が良かったから避けられたものの、実際背後に気配を感じたわけではない。消えたのが見えたのと直感が合わさった結果だ。乱戦の最中にやられたら気づかぬ内に一撃死、なんてこともあり得るんんじゃないかと思う。もしかしたらそれを駆使してこれまでポイントを稼いできていたのかもしれない。


「……そう簡単には倒せないと思っていたけど、まさかここまでやるとは思ってなかったわ。結局一人になるまで追い詰められるなんてね」

「俺はまぁ、ただの喧嘩好きだからな。だからこそより長くより楽しく喧嘩できるために鍛えてたんだよ。今回に関しちゃ俺の方がモチベーションってヤツが高かったってだけだ」

「ええ、でしょうね。……最初に集まった数人の中の二人も好き勝手行動し始めて。一応副ギルドマスターの私はいたけど? 本来引っ張っていく立場のはずのギルドマスターもいないし、そのギルドマスターと一緒にやってきた人もいないし? それはもう、モチベーションが維持できなくなっても仕方ないわよね?」


 ……あれ、なんか凄ぇ怒ってる。


 拳を握り締めてぷるぷる震えていた。本当に燃えているのもあるが怒りのオーラが立ち昇っているようにも見える。彼女がこんなに怒っているところを初めて見た気がするな。普段はまぁほとんど俺や他のヤツのせいとはいえ呆れているようなイメージがあったから。


「怒ってる?」

「ええ、もちろん」


 恐る恐る聞いてみるとあっさり頷かれてしまった。……なんか凄い申し訳ない。


「……私はずっと、皆で一緒に戦いたかったのに。そのために副マスターが必要ならと思って、頑張ってきたのに……! それなのに……!」


 ゴゥッ! と炎が一層激しく燃え上がる。……これ、ヤバいヤツだ。普段あまり怒らないヤツの怒りが頂天に達したヤバいヤツだ。


「二人共好き勝手やってッ!!」


 シュリナは激情のままに突っ込んでくる。


「っとと!」

「私は皆で一緒にやりたいって、ジークにも一緒に戦う楽しさを知って欲しいって思ってたのに!」

「……」


 普段あまり聞かなかったシュリナの本音に、少し黙り込んでしまった。感情が昂って、というかキレて制御が利かなくなっているのかもしれない。攻撃を受ける気はないが、かと言って今のまま反撃して倒そうとする気も起きない。

 だが話そうにも今のシュリナは話を聞く状態じゃない。まずはそこからなんとかしないとな。……形だけのギルドマスターとはいえ、ギルドマスターっていう立場になったからにはメンバーのメンタル的な問題も聞いておくべきだろう。もちろん現実の話ではなく。


 やや強引だが、普段より荒々しくなったおかげで少しだけ雑になった動きにつけ入り、彼女の持っていたレイピアを叩き落す。激情していても武器を落とせば動きが一瞬固まった。その隙を狙ってシュリナの身体を引き寄せる。


「っ……!?」


 抱き寄せた形だ。一応腕ごと抱え込むような形にはしたので、抱き寄せたというより鯖折りを決めようとしているようにも見えるかもしれない。抵抗されたら面倒、という理由でのことだったが。


「な、なにするのよ!」

「いいから話聞いてくれって。……まぁ、なんだ。悪かったよ。今回は俺のやりたいようにやりすぎた」

「……」


 時と場合は弁えて、少し真剣な声で話す。シュリナは抜け出そうともがいていたが、大人しくなってくれた。


「俺好みのイベントだったこともあってはしゃぎすぎた。悪かったと思ってる。……ギルド投げ出したこともな」

「……うん」

「でも負けるわけにはいかねぇし、ここでお前らの手を借りるわけにもいかねぇ。悪いけど、我慢してくれ」

「……わかってるわよ、ジークともそれなりの付き合いだし。だから、我慢しようとしてたんじゃない」

「悪かったって。次は、多分ギルドで戦うから」

「多分じゃダメ。約束して、絶対って」


 シュリナは不満そうな顔で見上げてくる。……う~ん。喧嘩祭がバトルロワイヤルじゃなくって一対一とかだったら無理な気もするが。まぁそうなったらギルドの、とかもないか。なら大丈夫、か? 一応シュリナがそう思ってることがわかったんだからこれからは大丈夫だと思うんだが。


「……わかったよ、約束する。次は皆で一緒に、な」

「ええ、約束よ」


 嬉しそうに微笑んでくれた。これで良かったのだろう、多分。だがここからどう戦いに戻すか悩むな。流石の俺も「用件終わったしじゃあ死ね」とかはしづらい。


「……全くもう。ここまでされたら退かないわけにもいかないわね。ほら、倒しちゃって。その代わり、負けたら許さないから。もう一人の好き勝手やってたヤツを痛い目に遭わせてきてね」


 いい笑顔で存外怖いことを言う。元々こういうヤツだったのか、それとも少なからず俺達の影響を受けているのか。


「ああ、元からそのつもりだ」


 とはいえ俺もあいつをボコボコにする気満々だったので、快く頷いた。

 それからシュリナの身体を貫いて倒し、アンチ・ブレイズの面々全てのポイントを持って、次に臨むことができた。


 どんな手を使っているのかリューシンの野郎は未だ個人一位をキープし続けている。だが皆がかなりのポイントを持っていたので、その半分を獲得したとなると俺の順位も追い上げてきているはずだ。油断せず他のプレイヤーも狩りながらあいつを探していかないといけないな。


「……待ってろよ、リューシン……!」


 気合いを入れ直し、胸の前で拳を打ち合わせる。次に向けて動き出すのだった。

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