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Dive in the world   作者: 星長晶人
最終章

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105/108

魔神と反撃

大分遅くなり申し訳ありません。徐々に他の作品も更新していく予定です。

「シアス! 次はお前だ!」


 魔神ソウル“限界突破(ブレイクスルー)”まで解禁した俺は、高いステータスで次の標的に定めたシアスを狙いにいく。


「は、はい!」


 ……なぜかシアスは抵抗せずに返事をしていたが。

 肉薄すると頬が紅潮しており、どことなく嬉しそうな気配がする。ただ俺は容赦なく心臓の辺りを貫いた。


「……なんで喜んでんだよ」

「だ、だって久し振りにジークの現実っぽい顔見れたから……。やっぱりカッコいいなぁ、って」

「なんだそれ」


 それで倒されてちゃ意味ないだろうに。


「より、絶対戻すからね」

「……そうかよ」


 そう言ってシアスは消えた。……俺はより戻す気がないんだけどな。俺が好き勝手やるのになかなか難しいとは思ってるし。


「より戻させはしないよ!」

「……させないから!」


 今度は左右からカリンとカレンが向かってくる。全ての精霊と人形を呼び出しており、本人も戦う気満々だ。……ただ言葉自体はシアスの発言に関するモノだったが。

 まぁ戦ってくれるって言うならそれでいい。


 精霊と人形を迎撃しながら虚空から現れ飛んできた土塊を掴みやった本人、シャリアのいる方にぶん投げる。ステータスが高い今投擲すると物凄い威力を発揮するのだが、残念ながらHPを三割程度削るだけに留まった。急所は外しちまったらしい。

 乱戦故に他の近接職が手出しをできない状況で、シャリアも牽制して封じた。攻撃が当たる時もあったのでHPが半分を切ってしまったが、なんとか二人も倒すことができた。予定とは違ってカレンを先に倒してしまったが、まぁそこは臨機応変ってヤツだ。シアスは倒せたし、次はアレンシアか。あの紙吹雪が厄介なんだよな。細かいからまとめて一掃ってのも難しいし、なによりあいつのコントロールがいい。


「憑依・地縛霊」


 と思っていると地面から出てきた半透明の青白い手が俺の両足を持って地面に固定してくる。この特徴的な技は間違いなくレイナだ。足を持ち上げようとしても地面に縫いつけられてしまっているように離れない。地縛霊ってそういうことする霊じゃない気はするんだが。


「紙縛り」


 標的であるアレンシアの技だろうか、動けない俺の腕に大量の紙が纏わりついてきた。振り払おうとしても一つ一つが細かすぎて無理だ。結果、俺は両腕が動かなくなってしまう。


「貰ったわ」


 そこに正面からレイナが飛び込んできた。彼女はデフォルトが霊体なので物理的な壁を擦り抜けることができるが、対象を選択してそこだけに触れることができるらしい。つまり、心臓を握り潰して即死させることが可能なのだ。


「魔神ソウル“真幻形態(アスラ・フォルム)”」


 俺の心臓目がけて手を伸ばしてくるレイナだったが、魔神ソウルの形態を変えることで回避する。俺が巨大な悪魔のような姿になることで、レイナは股の下を通っていった。身体が巨大化したことによって霊が俺を留めてられず、また紙の量が足りなくなって拘束が解ける。


「嘘……」


 呆然と俺を見上げるレイナを屈んで片手で掴み、そのまま握り潰した。


「はっはぁ!」


 気分が高揚して笑う俺の全身に糸が絡みついてくる。バラバラにされる前に魔神ソウル“限界突破(ブレイクスルー)”に変えて身体を縮ませる。


「ジークならそうすると思っていた」


 すると俺の目の前にカナが現れた。そして俺達二人の周囲を糸がぐるぐる巻きにして簡易的なバトルフィールドを構築する。


「やっぱ一騎討ちを望むか」

「ああ。だが勘違いしないで欲しい。私はなにも、団体戦が苦手というわけではない」


 カナはそうくるだろうな、とは思っていた。だが彼女は頭を振る。


「チームワークも大切だ。剣道の団体戦とはまた(おもむき)が異なるが、共闘というのは面白い」


 彼女はそう言って少しだけ笑った。どうやらゲームの世界をなかなかに楽しんでいる様子だ。


「だが、君と戦うのであれば一騎討ちがいい」


 しかし彼女は笑みを深めた。共闘は共闘でいいが、俺とは一人で戦いたいという気持ちが強くなるらしい。まぁそれは俺もだ。


「だが他のメンバーのためにもすぐに終わらせなければならない」

「だな」

「だからこそ、この技に全てを懸けよう」


 カナは深く腰を落として鞘に納めた刀の柄を握る。俺も現実で受けたことがある技だ。油断できないとはいえ、一度見て軌道は覚えている。


「……柳田流抜刀術、奥義――」


 現実で見た軌道を思い返しながら、発動を待つ。


龍柳正華(りゅうりゅうせいか)!」


 それは猛々しい龍が如く、されど春の花の如く咲き乱れる。


「剣神刀来ッ!」


 しかし聞き覚えのない次の言葉によって、カナの姿がブレた。“限界突破(ブレイクスルー)”状態の俺でさえ霞むほどの速度へと加速したのだ。気づいた時にはカナの姿は俺の後ろへと回っており、左腕が斬り飛ばされていた。だが、首は斬られてない。


「……流石だな、ジーク」


 カナが後方でどさりと倒れる音がした。俺がなんとか右拳を当てていたのだ。加速した分こっちの攻撃が遅くても軌道上に置いておくとダメージが大きくなってしまうらしい。


「カナこそ。初見だったら腕一本じゃ済まなかったぜ」


 俺が首を落とされなかったのは、一度受けている技だったからだ。軌道がわかってさえいればいくら速くなったとしてもある程度避けることが可能だった。それでも腕一本持っていかれたのだから現実だったら戦闘不能でいいだろう。ゲームで良かった。まぁ流石にゲームならカナも木刀ぐらいにランクダウンするはずだが。

 とはいえカナのHPは削り切ったのでまた一人減らすことに成功した。しかしカナの姿が金の粒子となって消えた直後、周囲にあった糸の檻が狭まっていく。思い切り跳躍して回避した先に待ち構えていた紙の龍を拳圧で吹き飛ばして相手の現在位置を探る。

 空中での移動手段がないと思われているのか、炎の翼を生やしたシュリナと蝙蝠のような翼を生やしたティアナが突撃してきた。宙で身を捻って間一髪回避した後二人を蹴って足場にしてシャリアのいた方向へと向かう。


「ちょっ! ……あー、痛くしないでね?」

「抵抗しないのか?」

「発動時間の関係で接近されたら無理かなって」

「そっか」


 俺は苦笑いを浮かべるシャリアの胸を貫く。が、次の瞬間彼女の身体が金に変わった。俺の腕も金に変わっていく。


「だからと言って、攻撃しないわけじゃないけどね」

「なるほど」


 自分ごと金に変えて俺を道連れにする気らしい。まぁ当然俺は腕を千切って金に変わる前に離れたが。


「HPが赤ゲージだな。しゃあない、回復するか」


 “限界突破(ブレイクスルー)”が持つ能力の一つ、『俺の喧嘩はまだまだこれからだ』。一日に三回だけバトル中にHPを全回復できる。部位欠損なども修復可能。


「チートもいいところね」

「派手な技がない分の補填だと思ってくれ」


 残念ながら“限界突破(ブレイクスルー)”は現実の俺ほぼそのままなので、それまでに使えていた技の大半を失っている。代わりにステータスが爆上がりするので補って余りあるのだが。

 残るはジンオウを除き、クアナ、ティアナ、シュリナの三人だ。


「じゃあ実はクアナにするかな」

「ふふっ、ジークとは一回、本気で殺り合ってみたかったの!」


 戦闘時のSな笑みを浮かべてクアナは細い糸を操る。糸の全貌は今の俺でも捉えられない。だから捉える必要はない。急所を外してただ突き進む。

 走る度に身体のどこかが切り落とされる。見えた範囲は糸を掻い潜り、最低限の被害で突っ走る。そのままトップスピードでクアナの背後に回った。


「……ああもう、だから気が合うけど合わないのよ」


 そう告げる彼女に渾身の一撃を叩き込み、吹っ飛ばす。ある程度察していたのか糸で防御されてしまったためHPが残っている。確実にトドメを刺すべく倒れたクアナに近づくと、恍惚とした表情で両腕を広げられた。


「……ジーク君、優しく(痛く)してね?」

「ああ、わかった」


 Mな方の人格に切り替えて攻撃を受けたらしい。そんなことできたっけなとは思いつつ、思い切り腹を踏み抜いて残存HPを消し飛ばした。


「さて、後はお前ら二人だけだな」

「ええ、そうみたいね」

「……ん。でも、負けない」


 シュリナとティアナが俺の近くに舞い降りる。二人がクアナに加勢しなかったのもまた連携だ。クアナは糸を張り巡らせて戦うので、周りに人がいると気を遣う必要があり戦いにくいのだ。そこに注意をすれば共闘向きではあるのだが、向いていない点も多い。

 なによりあいつのことだから、俺とは一対一で戦いたかったんじゃないかと思う。誰かと協力して戦う、なんてあまり好まないタイプだったしな。Sな方の人格が俺やなんかと気が合って一緒に狩りをすることはあったが。


「不死鳥顕来(けんらい)

「不幸を司る女神は、此処に在りて」


 シュリナの身体が紅く燃え上がる。両手足に紅蓮の炎を纏い、同じような紅蓮の翼を広げた。発動した途端に対峙している俺にまで肌を焼くような熱気が襲ってくる。HPが徐々に減っているのを見るに、自分をも燃え上がらせているのだろう。おそらく、自傷ダメージがある分その効力は高いはずだ。

 ティアナは漆黒のドレスに漆黒の鎌を二本携えている普段に近い姿だったが、背中の左側から伸びている刃物のような翼と持っている鎌に禍々しいオーラを纏っているため不吉さが増していた。元々LUKの値がマイナス振り切っているのが彼女の職業の特徴なので、その辺りを踏襲していそうだが。


「……こっからが本番ってわけか。燃えてきたぜ」


 自分が知っているよりも強くなったらしい二人に不敵な笑みを浮かべて、拳を構える。

 いよいよ《アンチ・ブレイズ》との戦いも終盤だ。全力で喧嘩しにいかねぇとな。

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