魔神と本気
アンチ・ブレイズと戦っているところに突如乱入してきた、何者かもよくわからない???。どうやらジンオウと一騎討ちがしたいようだが、全員俺が倒したいので拒んだところだ。
「「「……」」」
これには全員が黙り込んでしまう。いや、これまでの付き合いでこれくらいわかんだろ。
「……いや、先程乱入しなければ危なかったように思うのだが?」
「それはそれ、これはこれだ。一人で勝てないからって誰かに頼るわけねぇだろ。なにより、一撃じゃ倒れないようにはするつもりだった。なら勝ち目は消えてない。だから問題ねぇ。それに、」
言ってから口端を吊り上げて笑う。
「スキルやなんかを把握してた俺を上回ることがあったんなら、こいつらの作戦とかそういうのが良かっただけだ。そういうのも楽しめるだろ?」
「……まぁ、そういう人よねジークって」
俺の言葉にシュリナは嘆息混じりにそう言った。そうそう、俺はこういうヤツなんだよ。
「……うちのボスを倒したことは水に流す。だからジンオウだけは寄越せ」
だが向こうも譲る気はないのか、同じことを繰り返す。
「だったらフリードの仇討ちで俺にかかってこいよ。俺はお前とも戦ってみたかったんだ」
俺も自分の信念、というほど立派ではないが、根幹は変えることができないのでそう返す。
仮面の奥の瞳と視線が交錯した。
「私達がそう簡単に倒されるわけないでしょ? 揉めてるなら、一緒に倒してあげるわ」
ばさっ、と朱色の翼を生やしたシュリナが舞い降りてくる。
「シュリナ。こっちはこっちで対処する。だからジークは任せた」
「ええ、そのつもりよ」
リーニャを倒しておいたことで戦力は大幅に削れたが、まだまだ楽勝とはいかない。アンチ・ブレイズの皆がジンオウに???を任せ残りで俺に挑んできたら、俺は二人の戦いに手は出せないだろう。まぁそれは仕方がない。喧嘩祭が終わった後か、運が良ければ祭の最中に戦えばいいだけのことだからな。
というわけで少し離れた場所でジンオウと???が戦い始め、俺はシュリナとティアナにその戦いから遠ざけるように攻撃されて移動した。
「……次倒しておきたいのはあいつだよな」
「リーニャの時もうそうだけど、ジークがそんな風に考えるなんて意外だったわ」
俺が二人の攻撃を回避しながら次の標的の位置を探る中、シュリナは手を止めずに言った。
「普段は頭を回さないタイプだからな。けど喧嘩なら別だ。勝つために頭回すくらいならするに決まってんだろ」
言いながら、右手を真横に伸ばして波動をぶっ放す。
「おっと、当たりだね」
とは言うがこうして普通に声が聞こえているということは、無事だということだ。予め警戒していたのか、紙の壁が築かれていた。それが解けていくとディシアの姿が現れる。
「バラバラ・マリオネット」
どこからかクアナの声が聞こえてきたかと思うと、まずレアの生首が飛んでいた。……いやホラーかよ。まぁレアは元々ゾンビか。続いて胴体やら腕、脚などバラバラになった部分が飛んできている。断面が鮮やかなのでクアナがバラバラに切り刻んで操っているのだろう。
「普段なら驚かせるくらいしかできないけど、レア相手なら別なのよね」
クアナはひょっこりと屋根の上から姿を見せて言ってくる。声に応じてレアの手が開いたり閉じたりしていたので、飛ばすだけで手を開くなどのコントロールは利かない技のようだ。とはいえ別にホラーが苦手というわけでもないので、飛んできた生首を鷲掴みにしてから地面に叩きつけて潰した。
「酷いれすよ、ジークさん」
だがレアの声が普通に聞こえてきた――俺の背後からだ。振り返れば拳を振り被ったレアがいる。ボロボロになっていたはずだが、クアナが繋ぎ合わせたのだろう。と思っていると潰したはずの生首がレアの人形の頭に変わっていた。どうやらカレンの人形だったらしい。あいつは人形を大切にしてるから、バラバラになんてさせないと思ってたんだがな。どうやら本気で勝ちに来ているらしい。
「……嬉しいなぁ、おい」
俺は言って、動いた後の隙を狙われたためレアに大人しく吹っ飛ばされる。一撃でHPを七割は持っていきやがったが、まぁ残っているだけマシだ。
「……あー、クソ。やっぱ強ぇな、お前らは。しかも本気で勝ちに来てるときた。なら俺も本気で殺りにいかねぇと、いい勝負にはならねぇよな」
吹っ飛ばされて家屋に突っ込んだ俺は、瓦礫を蹴っ飛ばして外に出てきながら言った。
「当たり前でしょ。私達はあなたに、怒ってるんだから」
シュリナは少しむっとしたような表情で言った。
「そうだったな。……よし、じゃあ今からディシア、シアス、アレンシア、カレンの順で倒してくから、身構えとけよ?」
先に宣言をしてから、フリードの時にも使ったアレを発動させる。
「――魔神ソウル“限界突破”」
現実の俺、そっくりそのまま使ったような姿だ。なぜこの姿が技になっているのかは、多分女王が原因だと勝手に思っているのだが。まぁ気にしてないのでいい。
「そ、それって現実のジークそのままじゃ……」
馴染み深いからかシアスが驚いたように漏らした。なぜ頰が赤いのかはツッコまない方が良さそうだ。
「ああ。これは言っちまえば、不良だった時の俺がそのままの強さで成長したと仮定した時の姿だ。言っとくが強ぇぞ?」
「なら先手必勝だね」
俺が笑って告げると、ディシアが瞬時に俺の周囲へと剣を出現させてきた。これの欠点は、直接貫くように出現させられないところだ。つまり出現してからすぐ動けば避けられる。
今の声でディシアの現在位置が割れたので、その背後に回り込んで心臓のある位置を手で貫いた。
「……嘘。強くなりすぎじゃない?」
「中坊で魔神なら、高校生になってもっとヤバいって発想だろ」
一撃死のシステムで血を流しながらディシアは消えていった。
「ぬんっ!」
そこにガラドが鉄骨を持って突っ込んでくる。
「逃がさないれすよ」
レアも俺の動きについてきていた。まぁこの二人なら当然だろう。ステータスだけは高いからな。強化した俺と張り合うだけはあるはずだ。
「甘ぇな」
鉄骨を殴り飛ばして体勢を崩したヤツの胸元を抉る。一撃死したのか鮮血が飛び散った。
レアへは蹴りを放って突き出された拳を相殺、身体が脆いせいで彼女の腕が千切れ飛ぶ。
「限界突破みたいなヤツは使わないのか?」
「もう使ってまふよっ!」
身体のリミットを外して戦う強化があったはずだが、と思っていると自棄気味な拳が返ってきた。
「そうか、そりゃ残念だな」
何発もの拳で応えて脆い身体をバラバラにしてから、アスラブラストで消滅させる。バラバラにするだけじゃクアナに治されちまうからな。
「さぁて、次いこうか?」
俺は魔神らしく、悪魔のような笑みを浮かべて辺りを見渡した。アンチ・ブレイズのヤツらの警戒度がぐんと上がったのがわかって、楽しくなってくる。
次の標的は矢や魔法が増殖する殲滅力の高いシアスにするんだったな。向こうにもそれを言っているので何人かつくようだ。もちろん、他の俺が言ったメンバーの守りも忘れない。まぁ、順番通りに行くつもりだけどな。




