魔神と乱入者
喧嘩祭最終日前日。
俺は俺とリューシン以外のアンチ・ブレイズに勝負を挑まれていた。
「魔神ソウル“最終形態”」
中学時代の見れば不良とわかる容姿だった俺が顕現する。……この姿をすると何人かが目を輝かせるのだが、どういう理由だろうか。
まぁ多分、中学時代の俺を知っているヤツらなんだろうなとは察しがついているが、なぜなのかはよくわからない。気にする必要もないだろう。
「破魔の矢ッ!」
俺が準備した強化を発動した直後、シアスが弓を放ってきた。破魔の矢――確か悪魔とかに効果的な矢だったか。放った直後に増殖を発動させてきた結果高速で矢の雨が降り注いでくる。
「悪魔殺しの剣」
加えて矢とは逆側に純白の剣は無数に出現した。ディシアの力だ。それらも一斉に迫ってくる。回避しようとするが、
「囚土塊」
地面から土が湧き出てきて俺の足首までを覆い地面に縫いつけてきた。シャリアの力だろうか。
「紙片の龍」
更には頭上に紙切れが集まってきて、蛇のような長い身体を持つ龍を象る。口を開けて俺に襲いかかってきた。アレンシアだな。
「なるほど。動きを封じた上で全方位から攻撃、と」
有効な手だ。相手が俺じゃなきゃな。
「おらぁ!」
俺は渾身の力で右拳を地面に叩きつけるように振るう。同時に基礎能力である波動を暴発させて周囲に散らせ、迫っていた攻撃の全てを相殺する。当然、足を封じていた土も破壊できた。
「この程度で俺を倒せるとは思ってねぇよな?」
「ええ、もちろんよ」
挑発する俺の眼前に、シュリナが飛行して突進してきた。同時に他方向からも迫ってきているようだ。
左からは俺の今の姿に似た悪魔。カレンの人形だろう。右からはレア。距離はあるが彼女のステータスならほぼ同時に攻撃を仕かけられる。後ろからはティアナだろう。しかし本命は正面少し後ろにいる、カナだろうか。全盛期の俺と互角に渡り合える実力、というだけで心が躍る。一対一でないのは少し残念だが、それは別につまらないと思う理由にはならない。むしろ仲間達がこうして全力で俺を倒しに来てくれていることが嬉しかった。
「よし、やるか!」
最初に到達したのはシュリナだ。レイピアを構えて炎を纏い突撃してくる。切っ先をかわして手首を掴み後ろのティアナへとぶん投げた。ティアナの動きを遅くするのも含まれている。その間にレアが迫ってきていた。レアのステータスを考えれば油断はならないが、脆さは命取りだ。レアの振り被った拳を紙一重で回避しながら爪で二の腕を切り裂けば腕が千切れて飛んでいく。それが左から来ていた俺の人形に直撃して牽制となり、怯んでいる間にレアと殴り合いを行う。もちろん一発でも受ければ大ダメージになりかねないので、相手を片腕にしておいたおかげで回避しながら拳を当てて吹っ飛ばせた。脆い身体はボロボロになっているが、まぁそう簡単には退場しないよな。レアを撃退してから俺の人形が放った波動を掻い潜って左手を胸に突き刺し倒しておく。ついでに後ろへ波動を放ってシュリナとティアナを攻撃しておいた。
そして本命のカナが到着する。
「ふっ!」
「はぁ!」
鋭い呼吸と共に振るわれた刀を、拳を打ちつけて相殺した。
「相変わらず、生身だろうと斬れないのは不思議だな」
「鍛え方が違うんでな」
言い合って、何年か振りにカナと戦う。拳と剣、得物は違えど互いに実力を認め合った仲だ。カナは強化をあまり持っていないようだが、純粋なステータスで強化された俺と互角の戦いを見せている。
しかし当然、他のヤツが手を出してこないわけがなかった。
「ふんっ!」
背後に現れたガラドが木材を振り下ろしてくる。
「甘ぇ!」
俺は拳を突き上げて木材を殴りつけてへし折った。
「……そういう武器を持ったヤツとの喧嘩には慣れてんだよ」
「慣れているからと言って、へし折れるモノでもないがな」
「余所見は禁物だ、ジーク」
ガラドと目を合わせて言っている内に、カナが一旦刀を鞘に納めて接近してきている。
「――柳田流刀術三の型、螺旋迅!」
「食らうかよ!」
瞬時に動くカナの軌道上から跳び上がって逃れる。誤ってガラドに当たってしまい、カナはすまないと謝っていた。ただ空中では身動きが取りづらい。そこに紙吹雪が舞ってきてダメージを受けてしまう。些細なダメージではあったがこういうのは積み重ねだ。一人も減らせていない状況でのダメージはよろしくない。
しかも空中にはテイムモンスターであるユザとファルが待ち構えていた。待機しているらしいジンオウの銃火器も警戒する必要が出てくる。と思っていたらユザとファルが銃器で俺に狙いをつけ、ジンオウのミサイルが飛来してきていた。厄介極まりねぇ、ときらりと光る糸が足元にあったので一旦そこを使って更に跳び上がり弾丸を避ける。だがミサイルは追尾機能がついているらしく向きを変えて俺に向かってきていた。波動で相殺してやったが、その間にユザとファルが狙いをつけ直してしまう。加えて空から隕石が降ってきていた。別のテイムモンスター、ウリの力だな。
仕方がないので波動を両手から放ち二体の飛行モンスターの攻撃を阻害する。銃弾では波動を相殺できなかったので直撃はしたが、相手は強大なモンスターなのでダメージはあまり期待できない。あいつらを正面から倒すくらいなら、先にテイマーであるリーニャを狙うべきだろう。主人がいなければ強制退場させられるからな。まぁ、正面から戦うのもまた楽しいんだろうが、俺は今回負けるわけにはいかないので、またの機会にするとしよう。隕石は落下に身を任せていたら狙いが逸れてかわすことができた。
着地する直前から地面が隆起して俺に覆い被さってくる。攻撃ではなく、俺の視界を封じることが狙いだろう。拳で粉砕してやれば、すぐ近くに全方位から近接攻撃が可能な連中が迫ってきている。
「はっ」
俺は笑い、正面を受け持つカナへと肉薄する。カナが抜刀するよりも早く身体ごとぶつかるように突撃して倒し、包囲の穴を突いて抜けた。
「さて、最初はあいつだな」
俺は後衛の位置関係を把握して、にやりと笑う。そのまま他のヤツは無視してある一点へと向かっていった。
「アスラブラスト!」
一人を倒すだけで戦力が大幅に下がるリーニャは、ジンオウの後ろで待機していた。近くにはセリアもいたな。三人は屋根の上にいたので、建物を遠くから全て吹き飛ばして隙を狙おうというわけだ。
「アスラブースト!」
更に速度を上げて倒壊する建物の中を駆け抜ける。ジンオウは重いし翼を出すのに時間がかかる。落下には対応できないだろう。リーニャとセリアには戦闘力が皆無なので受け身を取ることもできないはずだ。
だが高速で駆ける俺の眼前に突如剣の切っ先が現れた。ディシアが俺の動きを読んで設置したのだろう。慌てて回避して三人の下に辿り着く。ジンオウを避けてリーニャを、と思ったがセリアが飛び出して両手を広げ立ち塞がった。
「ご主人様っ!」
訴えかけてくるような瞳で呼びかけてくるが、無視してぶん殴り戦闘向きではない彼女のHPを一撃で削り取る。
「……ご主人様なら、そうすると思ってました」
そんな呟きが聞こえたかと思うと、彼女の消えた向こうでジンオウが胸元のレーザーを集束させて佇んでいた。
「発射――ッ!!」
殴った直後の姿勢なので避けられない、と防御態勢を取る前に。
「ぐっ!?」
ジンオウの首に鎖が絡まり、横に引っ張られてレーザーが俺の横に逸れていった。
「……ボスを倒したことは水に流してやる」
顔を仮面で隠し、フードとマントで身体を覆った姿だ。名前も???と特徴的なので覚えている。フリードがギルドマスターを務めている虚夢の宴副マスターにしてフリードの右腕。
そいつがどうやらジンオウを引き倒した張本人のようだ。
呆けているリーニャを波動で吹っ飛ばし、そいつに目を向ける。
「助ける気はない。協力する気もない。だがこいつだけは貰う」
ヤツはそう言って、ジンオウを手繰り寄せて五メートル付近で離す。そのまま倒す気はないようだ。
こいつがどういうつもりなのかは知らないが、
「断るに決まってんだろ。全員俺が倒す。出しゃ張るんじゃねぇよ」
俺の喧嘩に手を出すつもりならてめえも一緒に倒すぞこら、という意味合いを込めて睨みつけた。




