魔神とアンチ・ブレイズ
フリードと決着をつけた翌日。
身体を休めて万全の準備を整えた俺の前に現れたのは、なにを隠そうアンチ・ブレイズの面々だった。
ランキングは見ているのでその活躍ぶりはわかっている。
ギルドのランキングでは俺とリューシンがいないながら、最終日前日の今日までトップ10を守り続け今日の時点で色々なギルドが脱落していった結果もあり、五位まで上り詰めていた。
ランキングの偏移から考えて、こいつらだけで大魔王軍を殲滅したらしい。大魔王軍が昨日ポイントを大幅に失って落ち、アンチ・ブレイズがその失った分のポイント分を増やして上にいったという状態のようだ。
「ここにいたのね」
ギルドマスターにされてしまった俺は別にギルドメンバーを率いていたわけではなかった。ギルドを動かしていたのは実質、副ギルドマスターである彼女、シュリナだ。
しばらく見ない内に少しだけ装備が豪華になっている。彼女はジョブを進化させることで装備品も変わっていくタイプだ。以前と同じだと思っていると痛い目を見るだろう。
それは当然、他のメンバーも一緒だ。
副マスター、シュリナ。フェニックスの力を有し、朱色の鎧を装着した少女。炎とレイピアを操り翼を生やすことも可能。炎の化身にも姿を変えることができる。生真面目な性格でしっかり者。一番重要なのは、バランスが良くて高いステータスだ。死ぬことでレベル上限と共にステータスが上がる性質を持っていて、ジョブが進化すればするほど死に戻った時の上がり幅が上がる。炎に対する弱点以外の弱点が見当たらない。相当に厄介な相手だ。
ティアナ。シュリナと仲が良く、二本の鎌を振り回し漆黒のドレスを纏った少女。感情があまり表に出ないタイプだがそれ故に冷静で、ステータスは攻撃寄り。偏り具合は俺と似たようなモノだが、特徴的なのがその運のなさ。敵とのエンカウント率やクリティカル攻撃の出なさなどに関係してくるため、戦いでは難しくなる。しかも相手の攻撃を運悪くクリティカルヒットしてしまうこともあるので、ヒット・アンド・アウェイの戦法が基本。だがそれをフォローするのが他のステータスなので油断はできない相手だ。なにより火力が高い。
ジンオウ。ガタイのいい巨体の男で、サイボーグ。腕が変形して兵器になる。ただし改造されかけた身体なので兵器として重くなっていく体重に耐えられず、動きが遅い。確か飛行能力は持っていたので機動力については改善されているはずだ。遠くからミサイルとかぶっ放されたらかなり面倒な相手ではある。
ディシア。小柄な少年といった風体で、剣を操る。とは言っても近接戦闘は得意な方ではなく、剣を虚空に出現させて飛ばす、というのが主な戦い方だ。厄介なのは剣を出現させる範囲にあまり決まりがないことだろうか。いきなり首の後ろに出現させたることもできるし、到底届かない上空に出現させることもできる。奇襲という点では強みが活かされるだろう。全方位常に気を配らなければならないのは厄介だ。
シャリア。しっかりしてそうに見えて若干適当な少女。魔法とは別に五行という、火、水、木、金、土の五つを自在に操ることができる特異な力を持っている。属性の幅広さもあるが、なかなかよく相手を見ているので隙間を狙われると厄介だ。ステータスはまぁ一般的な魔法寄りなので彼女だけなら勝ち目はあるが。
クアナ。両手の指から細い糸を伸ばして戦う少女。二重人格なので戦闘になると文字通り人が変わる。裏の人格はどちらかと言うと俺に似ている気がしなくもない。糸を操る神がかった器用さを持ち合わせているため、最大限の注意が必要。
レア。ゾンビっ娘で血色が悪い。まぁ死体だからな。死体故に人体が持つリミッターを解除しとんでもない身体能力を発揮する。その代わり、死体なので脆く物理攻撃に弱い。それを身体能力で補わなければならないのだが、その身体能力が高すぎるのが特徴だな。殴り合いは神経を使う相手だ。
ガラド。巨漢。大工で俺達のギルドホームを造ってくれた人。鉄骨やら丸太やらでぶん殴ってくるとんでもないヤツだが、戦闘では建物を壊さないというポリシーがあるらしい。同じ建築に携わる者として思うところがあるのだろう。魔法に途轍もなく弱いので、狙うならそこだ。
アレンシア。色々な場面で使い分けていたら、という設定で多重人格。紙を操る力を持つ。紙吹雪のように細かい紙片を扇子で操る小洒落た能力で、紙を折り紙で作ったなにかに変えることもできる。紙は刃のように切れ味が鋭いので注意が必要。細いクアナの糸は別の意味で細かい紙を操るので厄介だ。二人揃って戦闘時がドSなのは偶然か。
シアス。俺の幼馴染みで元カノ。全プレイヤーの中でも最後の方にログインしたのだが、その職業はとんでもない強さだった。特筆すべきは“放ったモノを増殖させる能力”。彼女が武器としている弓も、得意としている魔法も、全て増殖させられるのだ。今ではとんでもない数に増殖させられるため、殲滅戦においては間合いの長い剣を操るスレイヤの爺さんの魔法職バージョンとも言えなくもない。魔法は全属性、通常の魔法が使用可能だ。文句なしのチート。ただ体術はそこまででもないのでそこに付け入る隙がある。
リーニャ。テイマー。本人はクッッソ弱い。ただしテイムしているモンスター達はとんでもなく強いので要注意だ。隕石すら振らせる猪ウリに、翼にガトリングを装着した鳥ファルに、小型の竜でありながら銃器を装着したユザに、骨で出来たドラゴンのカル。特にユザはなかなか切れるヤツなので注意が必要だ。まぁテイムモンスターは本人さえ殺っちまえば問題ないんだが。
レイナ。幽霊。怨霊を呼び出したりポルターガイストを引き起こしたりできる。お化け嫌いなヤツには天敵と化す能力を持っている。本人もそういうことにノリノリな様子だ。物理を擦り抜けるのが厄介なところだが、俺には関係ないので忘れないようにしておけばいいだろう。
カナ。剣の達人。現実の剣の腕をゲームにも持ち込んできたような人。超強い。俺が全盛期だった中学の頃、真っ向から戦って引き分けた数少ない人物だ。普段は誠実なお姉さんなのだが、最近敵を殺して血を浴びることに快感を覚え始めたらしい危険人物。正直言って単独でも俺と互角に戦えるというだけで、複数人相手では厳しい一因だ。
カリン。カレンの妹。小悪魔めいた言動をするタイプで、意外と油断ならない。精霊使いで精霊の力を借り様々な現象を引き起こすことができる上に、本人の薙刀も相当な腕を持つ。どちらか片方ではない上に精霊達に頼み込んで戦わせ、自分も自分で戦うということができるのが面倒なところだ。魔法戦士とは違う利点としては、精霊達がカリンの指示なしでも攻撃をするという点。考えが他に左右されないので自分の戦いにも集中できるのだ。
カレン。内気でよく物陰から窺っているのを見かける。カリンの姉。人形使いで作った人形を巨大化させて戦わせることができる。俺達ギルドメンバーの人形も作ってあるので、戦力をほぼ二倍にできる、かもしれない。まぁ流石に二倍はないだろうが。俺自身との戦いパート二を実現できるいい子だ。是非戦いたい。
セリア。戦闘力皆無なメイド。給仕はできるが戦闘能力が全くないため戦いに関しては警戒する必要がない。とはいえ武器を持って突き刺すぐらいはできると思うので、近づいてきても警戒だけはしておくべきだろう。
別行動をしている俺とリューシンを除いた総勢十六名が勢揃いしていた。
大魔王軍との戦いで敗北したヤツもいるのかポイント数にはムラがあったのだが、ギルド全体として競っているなら問題はない。仲間を倒したプレイヤーも倒せばポイントの大半が返ってくるんだからな。
なんにせよ、強敵揃いなのは俺が一番よく知っている。油断ならない“敵”だろう。
「勝負しましょう、ジーク。まさかあなたが逃げるなんて言わないわよね?」
シュリナが珍しく挑発的な物言いをしてくる。
「当然だろ? 挑まれたら逃げねぇよ」
「ええ、でしょうね」
俺がにやりと笑って返すと、彼女は当然のように頷いた。それくらいは互いのことをわかっている。
「でもただ勝負するだけじゃつまらないから、賭けをしましょう」
「賭け?」
「ええ」
シュリナは頷く。俺としては強い仲間達と全力で戦えるというだけで充分なんだが。つまり彼女達にとっては利点になる賭けということだろうか。
「私達が勝ったらギルドの一員として戦って。ジークが勝ったら今まで通り好きにしていいわ」
「よし、わかった。じゃあ殺るか」
賭けの内容を受け入れ、手をぼきぼきと鳴らす。
「……随分とあっさり受けるのね」
「ああ。だって俺は、てめえらとも戦いたい」
普段より冷たく振る舞っているシュリナの仮面が少しだけ剥がれそうになっていた。返答は、よく言われる戦闘狂の笑みと共に。
「……っ。やっぱり、ジークはそう言うでしょうね」
苦いとも嬉しいともつかない複雑そうな表情で言って、臨戦態勢に入る。他のメンバーも同様だ。
「総員戦闘準備! 思い上がったマスターをぼこぼこにしてやるわよ」
シュリナが炎を纏って号令すれば、皆は威勢のいい返事をした。
……最初の方にも思ったんだが、やっぱ俺よりシュリナの方がマスターに向いてるんじゃないか?




