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Dive in the world   作者: 星長晶人
最終章

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101/108

魔神と死神の決着

放置していてごめんなさい……。

ちびちびと更新していく予定です……。

「うらぁ!」

「はぁ!」


 俺の拳とフリードの鎌が激突する。


 渾身だったおかげか吹き飛ばされはしなかったが、本気の拳を相殺されてしまった。

 一応普通に殴り合うなら最強の攻撃力を誇っているはずなんだが。


 俺がもう片方の拳を振るうとフリードの鎌が相殺に間に合ってきた。速さまで段違いになっているらしい。その後も鎌と拳をぶつけ合うが一発一発が渾身のせいで隙が大きい。対するフリードは片手で鎌を振るって相殺できているので、禍々しくなった左腕を使っていない。つまり向こうはまだまだ余裕ってわけだ。


「なかなかやるじゃねぇか!」

「当たり前だ!」


 今度は拳をぶつけ合う。左腕の一撃は重く、俺が押されるほどだった。……ホントに強ぇ。いや、最初っからわかっていたことだ。


 俺は喧嘩中だけは回る頭を活かして思案する。

 真っ向勝負は不利だ。拳をぶつけ合うと俺の方が押されてダメージを受けてしまう。しかも俺は防御力とHPが低めのステータスだから相殺だって痛手になってしまう。つまり俺がこいつに勝つには、今の俺とほぼ同じような速度で動くこいつの攻撃をかわしながらダメージを与えていかないといけないってわけだ。


 こういうのをあいつなら、無理ゲーって言うんだろうな。


 ……切り札をまた一枚切らなきゃいけなくなっちまうな。一応あるにはあるんだが、一日一回十分という使用制限があるから取っておきたいところはある。


「……まぁ、仕方ねぇか」


 俺は後退して苦笑し魔神ソウルを解除する。


「……どういうつもりだ?」


 強化状態を解除した俺に、フリードは怪訝そうな目を向けてきた。


「どうもこうもねぇよ。てめえが本気出したんなら、俺も全力全開で挑まなきゃならねぇってだけだろ」

「なに? 貴様の強化状態は『全盛期の最も強い状態』に変わる魔神ソウル“最終形態(ファイナル・フォルム)”ではないのか?」

「流石によく見てやがる」


 フリードの推測に感心する。確かに、それは間違っちゃいない。俺は確かに中学を卒業して不良を辞め真面目に過ごそうとした。まぁやんちゃすることもなくはなかったが、それでも大人しく過ごしていた方だったと思う。


「確かに喧嘩は中学の頃の方が強かっただろうな。だが人の成長ってのは中学卒業で止まるわけじゃない。特に筋力ってのはな」


 もちろん身体のことなので個人差がある。中学で成長が止まるヤツもいるし、大学に入ってから成長するヤツもいる。

 俺の場合は、今のところ身長も伸び続けているし、体力測定も上がっていっている。


「俺は、単純な身体能力だけで言うならあの頃より伸びてるはずなんだよ。けどまぁ、喧嘩が強いっていう点で言えばあの頃の方が強かったってだけの話だ」

「……」

「ならさ、あの頃より身体能力が上がった俺がゲーム内で喧嘩しまくって勘を取り戻した今ならどうだ? あの頃より強い状態(・・・・・・・・・)になれるんじゃねぇか?」


 にやりと告げた俺の言葉を聞いて、フリードの顔に理解が広がっていく。


「まさか……」

「そのまさかだ。……いくぜ、フリード。これが正真正銘、今の俺の全力だッ!!」


 俺は言って、それを唱える。最終の更にその先へ。


「――魔神ソウル“限界突破(ブレイクスルー)”!!!」


 大仰な名前とは裏腹に、俺の服装は現実の俺そっくりの、なんの変哲もない姿へと変わっていく。

 白いシャツの上に黒いジャケットを着込み、黒の長ズボンという普通の恰好だ。ただ普通でシンプルというか地味な恰好からは想像もつかないような力が湧き上がってきている。


「……ふん。普通の恰好だな」


 バカにしたように言いながら、構えを解かず警戒するのはこいつの人柄なのだろうか。


「ああ、そうだな。……ゲームで色々な姿をしてきたが、現実の姿がやっぱりしっくりきちまってな。それが反映されてるんだろうよ」


 俺は言って拳を構える。地面を強く踏み締めると足場が少し陥没した。


「待たせて悪いな」

「全くだ。待った甲斐のある力なのだろうな?」

「それは保証してやるよ」


 俺は笑って言い、全力で懐に潜りこむ。


「っ!?」

「強ぇからな、今の俺は」


 フリードがなにかをする前に無防備な腹部に拳を叩き込んだ。悶絶し身体をくの字に折って吹っ飛んでいくフリードを見つつ、拳を見つめて手応えに浸る。……よし、これならこいつとも渡り合えそうだ。


「……なるほどな、不足はないようだ」


 フリードは立ち上がって歩き戻ってくる。HPの減り具合は一発直撃して十分の一ってところか。まぁまぁだな。フリードが硬いのか俺が脆すぎるのかはわからないが。

 対する俺は脆すぎてヤツの攻撃を直撃するとHPの三分の一くらいは削られてしまう。


「じゃあもう言葉はいらねぇよな?」

「ああ。戦って勝てばいい」


 俺とフリードが互いに歩み寄って、最終的に三メートルくらいの距離まで近づいた。


「さてと、因縁にケリつけるとするかぁ。俺とお前、どっちが強いか」

「ああ。ここで決着としよう」


 視線を交わす。合図なんていらない。そんなモノがなくても、同時に動いた。


 俺が左脚を蹴り上げる。フリードが左腕を振るう。

 蹴りは鎌の柄で受け止められ、左腕を右拳で相殺した。


 互いに武器を引く。俺は溜めを作って両の拳打を連続で叩き込んだ。フリードはそんな弱連打では俺を倒せないと言わんばかりに禍々しい左腕を豪快に振ってくる。左腕も含めて殴りつけるが無理矢理持っていかれたせいで回避が間に合わず薙ぎ払われた。腕を振り切ったところで強引に左脚だけで地面に踏ん張り、追撃を防ぐために思い切り右脚で地面を踏みつける。周囲の地面を大きく陥没させてフリードの体勢を崩してやった。その間に自分の体勢を立て直し逆に体勢を崩したフリードへと襲いかかる。だがフリードも鎌を振り回して距離を詰めさせずその間に体勢を立て直してしまう。それでも突っ込んでいけば鎌と左腕の攻撃に真っ向から突っ込むことになってしまった。だが俺は身体能力にモノを言わせて攻撃を紙一重、一部掠りながらも突破する。そして懐に到達して鳩尾に膝をめり込ませた。怯んだところへ拳と蹴りを叩き込んでフリードのHPをごりごり削る。だが俺はこのままこいつを倒せるとは思っていない。俺のHPは既に半分を切っているということもあり、一撃受ければ一気に形勢が逆転してしまう状況だ。だからと言って逆転を許してやる筋合いはない。容赦なく攻撃できないように攻撃を加えていった。

 だが、突如振り被った俺の左腕がなくなる。鎌で斬られた、と気づいたのはその後だ。HPがごっそりなくなっていくが、なんとかレッドゾーンまでで止まってくれた。だから俺は怯まず右の拳を引いてフリードの顔面に渾身の一撃を届かせた。殴られたフリードは吹っ飛び、鎌を落として倒れ込む。


「……はっ……はっ」


 俺は荒く息を吐きながらフリードの残りHPを確認する――間違いなく全損している。


「……俺の負け、だな」


 身体が消えかかっているフリードが気の抜けた声を上げた。


「……ああ。また俺の勝ちだ」

「……そうだな。また、勝てなかったか」


 呟いた言葉は悔しそうではあったが、どこか清々しいモノも持ち合わせている。

 だから俺は、以前と同じように告げた。


「楽しかったぜ、またやろうな」

「――ふっ。何年経っても変わらない野郎だ」

「お前ほどじゃねぇよ。仮想だって現実だって、いつでも受けて立ってやる」

「そうか。なら、次は勝つ」

「二連敗してんの忘れんなよ? 次も俺が勝つ」

「俺が勝つと言っているだろう」

「一回も俺に勝てたことないヤツがなに言ってやがんだ」


 言い合って、どちらからともなく笑い出す。


「……で、根暗野郎」

「なんだ、戦闘狂?」


 俺は前回聞き忘れていたことを尋ねることにする。


「楽しかったか?」

「……」


 俺の問いに、フリードは答えない。しばらく待っても答えないので答える気はないのかと背を向けた。


「……楽しかったぞ」


 そこに声が聞こえる。おそらく、顔を見られるのを嫌がったのだろう。気に食わないヤツだ。


「そうか」


 俺はそれだけを答えて、歩き場所を変える。落ちていた鎌が消えたので、フリードの身体も消滅したのだろう。あいつの高いポイントをごっそり奪ったのでかなり順位も上がっているだろう。消耗しているところを漁夫の利しようとしてくるヤツもいるかもしれない。

 フリードならきっと、「俺に勝ったんだから誰にも負けるなよ」くらいは言ってきそうだ。


 そうなったら、俺も「元よりそのつもりだ」とか返すんだろうな。

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