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Dive in the world   作者: 星長晶人
最終章

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魔神と死神

「ふんっ!」


 一番でかい武器を持ったフリードが開始早々にその巨大な鎌をぶん回してくる。相変わらずどんな力してやがんのか、軽々と振り回しやがる。

 昔喧嘩した時も武器を折ってやったら落ちてた鉄骨を振り回してきやがったからな。懐かしい。


「はっ! 相変わらずてめえは武器に頼んなきゃ戦えねぇってか?」


 挑発しつつ後退し避ける。ついでに俺に襲いかかってきたヤツを掴んで放り投げてやった。玄武のヤツだったが、鎌での攻撃を受けた結果半分ものHPが持っていかれている。……マジかよ。一応六人の中じゃ最大の防御力を誇ってんだぞ? それが一撃で半分も、ってことは他のヤツは一撃持つか持たないかってところか。青龍は一撃で沈んだが、あいつが弱かったんじゃなくフリードの野郎の攻撃力が高ぇってことなのか。


「あいつは絶対に回避だ! 白虎、頼んだ!」

「ったり前だこらぁ!」


 麒麟が指示を出して一撃が強力なフリードの下に最速の白虎が迫る。


「小賢しい」


 フリードは吐き捨てつつも簡単には倒せないのか、攻めあぐねるようになった。


「その隙に全員がかりでやれ!」

「わかってる!」


 白虎がフリードを抑えている内に俺を殺っちまおうという算段のようだ。ま、そう簡単にはやられねぇんだけどな――俺も、あいつも。


「がぁ!?」


 俺を囲う四人だったが、白虎の呻き声が聞こえたことではっと振り返ってしまう。当然俺はその隙を見逃さず厄介な麒麟に肉薄し、


「しまっ!?」

「まずは一人ぃ!」


 心臓のある場所を手で貫いて退場させる。


「……ふん。俺が速い相手の対策をしてないとでも思ったか」


 つまらなさそうに呟いたフリードは、鎌を握っていない左手で白虎の頭を掴んでいた。そして握力だけで頭蓋を握り潰し、白虎を消滅させる。


「てぇい!」


 直後、フリードへと黄竜が向かっていった。怪力という点ではいい勝負になりそうな二人だ。俺へは体勢を立て直した玄武と朱雀が挑んでくる。


「今日こそあなたを更生させてみせる!」

「無理だっつってんだろうがよ」


 朱雀は朱色の翼を出して特攻してきた。そういうところもシュリナと被るんだよなぁ。

 相手が女子供でも容赦なくぶん殴れる俺は、躊躇いなく顔面へと拳を叩き込もうとするが、翡翠色の盾が突如現れて拳を防いできやがった。玄武の野郎か。殴った後は残さずすぐに消して朱雀の攻撃のチャンスを作り出す。連携するとホントめんどくさいんだよな。


「甘ぇよ」


 俺は朱雀の手首を掴んで身体を引き寄せる。なぜか身体を硬直させていたがそんなことはどうでもいい。そのまま朱雀の身体をぶん回して背後から迫ってきていた玄武へとぶつける。


「きゃっ!」

「くっ!」


 手を離して追撃しようとすると、黄竜を下したらしいフリードが二人に対して鎌を振り被っているのが見えた。……チッ。やっぱやりやがるな。


「まとめて消し飛べ! アスラカノンッ!」

「貴様だけには負けん。ヘルズ・ドア!」


 俺が両手から黒い波動を放ち、フリードが背後から首筋に向けて鎌を振るう。そこでようやく挟まれていることに気づいたらしく、慌てて対応しようとするがもう遅い。

 後ろの玄武は俺への攻撃に対応しようとしていたがフリードに命を刈り取られ、防御を失った朱雀が俺の波動に呑み込まれた。


「おらぁ!」

「ふんっ!」


 だが俺達はそれで終わらない。一番に倒さなきゃいけない相手が、目の前にいるからだ。

 俺の蹴りとヤツの鎌がぶつかり合って互いに弾かれる。


「ここで白黒つけようじゃねぇか、フリード!」

「当然だ。そのために来たのだからな!」


 楽しくなってきやがった。やっぱり強いヤツとの喧嘩ってのもいいな。

 それから俺とフリードは因縁の喧嘩を始めた。当時も、武器使えなくして拳で殴り合って、ギリギリで俺が勝ったんだ。つっても俺もへろへろで倒れ込んで、「また喧嘩しようぜ」って言った覚えがある。


「おらおらおらぁ!!」


 根暗だなんだと突っかかりはするが、一応こいつの実力はわかってるつもりだ。正直強さだけで言えば拮抗してると思う。それくらいには認めてる。

 だがヤツの攻撃はどうしても大振りだ。隙ができやすくて、俺の攻撃が入りやすい。とはいえ白虎ですらすぐに捕まったんだから懐に入ったとしても油断はできない。身のこなしはなかなかなので、俺が拳と脚で襲いかかっても最小限の動きでかわしやがった。


「シャドウ・ハンド」


 とはいえ接近戦を仕かければフリードは鎌を振れない。そこでヤツがしてきたのは、自分の影から黒いうねうねした手を出すという行動だった。接近戦をカバーするための技だろう。ウザいが直接攻撃してくるモノじゃない。多分拘束するタイプの技だ。


「そんな小細工が俺に通用すると思ってんのかよ!」


 だが俺にとっては無意味なモノだ。拳一発でまとめて吹き飛ばしてやる。


「思ってないが、距離を取るだけの時間は作れるだろう?」


 フリードは俺が影の手に対応している間に後退した。……あん? こいつなら対処してる間に俺の首を狙ってくるぐらいはやると思ってたんだがな。

 怪訝に思っていると、フリードは鎌を右手で持って肩に担いだ。


「その懐かしい姿は強化状態なんだったか。貴様が強化された状態なら、俺も強化しないとな」

「へぇ? お前が強化持ってるなんて知らなかったぜ。てっきりゲーム的にステータスがバカ高いだけなのかと思ったんだがな」


 巨大な鎌を縦横無尽に振り回すために、ステータスが高い。その代わり強化状態にはなれないもんだと思っていた。逆に俺は色んな姿があって、そういうとこで対比になってんのかと思ってたんだが。


「最初はそうだった。現実と同じように、でかい武器を振り回して戦うだけの、な。だが俺はその戦い方で貴様に負けた。だから今まで以上の強さを身につけたいと願った。その結果を、今見せてやる」

「そりゃ楽しみだな」


 ゲームの中でまで、俺との決着に拘り続けた結果らしい。なら、俺がしっかり目に焼きつけてやらねぇとな。


「貴様が魔神なら――俺は死神だ。終わりを告げる黒衣エンド・オブ・ブラック


 フリードがそれを唱えると、黒いモノが地面から噴き上がりヤツの身体を覆っていった。


 普段のフードつきローブは変わらない。だがフリードの身体自体に黒い線が這っていく。そして鎌も覆うと更に巨大化し形も禍々しいモノへと変わっていった。極めつけは鎌を持っていない左腕だ。指先からローブの袖ごと肩までを黒いモノが覆っている。造形は怪物の腕にも見えるか。


「その厨二感満載の恰好が最大強化ってわけか?」

「そうだ。俺唯一の強化にして、最大の強化。これで貴様を超える」

「はっ。やれるもんならやってみやがれ」


 全身にひしひしと威圧感を感じる。明らかに先程までとは違う。

 ……ああ、やっぱり。こいつは俺の好敵手になるヤツだった。本気の喧嘩、心ゆくまで楽しむとしようか。


 俺は笑みを深めてフリードとの喧嘩を再開した。

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