43 吸血鬼との交渉
宿喰い茸のいる森まで何度も魔物と戦い、すべて余裕を持って撃退していった。全員戦いなれていて、薬でのフォローも上手くいったのだ。
多尾狐の炎だが、火の補助薬で威力が上がった。異能と違い魔力を使っているので、効果を出せたのだろう。水竜の攻撃にも効果を発揮しそうだとわかり、常備しておこうと裕次郎は考える。
炎の威力が上がったことで、多尾狐は両親が使っていた炎の使い方を会得することができた。炎を凝縮して小さな太陽のようになった炎球を投げつけるのだ。コントロールを炎球の維持に取られるため、自在に動かすことはできないが、威力は目を見張るものがあった。弱めの巨体種ならば一撃で致命傷を与えられるほどだ。真っ直ぐにしか進まないので、避けられることもありえる。
あとは魔法や魔術も教えておいた。生活するのに覚えておいた方が便利なのだ。ヴァインやフォーンに教えた経験が生きて、教授はスムーズにいった。多尾狐もケンタウロスも平原の民よりは魔力があり、使い勝手も悪くはないだろう。
両者の魔力総量は平原の民以上セリエ以下だ。
そうやって行程を消化していき、森に着いた一行は茸狩りを始める。以前のようにまとまって襲われることがなかったため、収獲量は以前ほどではない。茸の大きさも本来のものだった。
「集まりが悪いなー」
三日ほどかけて集まった茸は三十個だ。
それを一緒に覗き込み多尾狐が足りないのかと聞く。
「足りなくなれば取りに来てもらえばいいから、気にするほどではないんだけどね」
「それでどれくらいもつの?」
「短くて三ヶ月くらい。リハビリが上手くいけば、薬もいらなくなるんだけど。どれくらいでリハビリが終わるのかわからないしねぇ」
「冬前にもう一度くればいい」
離れてはいたが、会話は聞こえていたケンタウロスが言う。
「そうする? 次は俺は来るかわからないけど」
余裕がありそうなら一緒に行こうとは思っている。
「馬車を借りて、薬さえ準備してもらえれば大丈夫だろう」
「だねぇ。疲労回復薬とか能力上昇薬とかないときついだろうけど、あれば僕たちだけでもどうにかなりそう。薬ってこんなに便利だったんだね」
「平原の民が非力さを補うために長年培ってきた技術だしね」
今回はこれで帰るということになり、一行は森から出る。
森から少し離れたところで、多尾狐がなにかに気づいたように口を開く。
「そういえばあの茸を育てることってできないの?」
「できたらいいんだろうけど、そのために色々と準備しないといけないから今は無理だね。下手するとあっちの森が宿喰い茸に操られた魔物で溢れかえる。この先何年かすれば可能になるだろうけど、その時にはさすがにヴィアシーは動けるようになってるはず。あれば便利だから栽培したくはあるんだけどね」
茸をつけてふらふらと歩き回る仲間たちを想像し、多尾狐は顔を顰めた。
しばらくはここまで取りにくることになるだろうと考え、また裕次郎と来たいなと考える。そしてまた膝枕で寝て、家族のことを思い出すのだ。実現すればいいなと思いつつ、多尾狐は床に寝転んだ。
深淵の森まで後三日というところまで来て、一行は野宿の準備をしていた。食料も調味料も残り少ないが、なんとかもつと予測できている。
裕次郎とケンタウロスは狩りと採取にでかけ、多尾狐は水浴びに、ヴァインは留守番だ。
夕暮れに染まった草原を獲物を探して歩く二人は足を止めた。ケンタウロスが北から魔物の気配を感じ取ったのだ。気配の先には小さな黒い影があり、こちらには気づいていないのか、西へと歩いている。
望遠鏡は村に置いてきており、裕次郎は目を細めて姿を確認しようとする。
「あれは……ハインド?」
十中八九そうだろうと思い、大きく声を出し呼んでみる。知らない魔物ならば警戒し去っていくか襲いかかってくるだろう。危険な雰囲気はないので、二対一ならばどうにかなるだろうと呼んでみたのだ。
声に反応した影は、足を止め周囲を見渡し、手を振る裕次郎に気づく。警戒した様子で近づいてきて、互いに顔が判断できる距離まで近づいた。
裕次郎だとわかるとハインドは驚いた様子で頭を下げる。
「このようなところで会うとは思ってもいませんでした」
「俺もだよ」
「これから森へと向かうところだったのですよ。そちらはなにか用事で外へ?」
「薬に必要な材料を取りに出てたんだ」
「そうでしたか。ちなみにそちらの方は?」
「ケンタウロス。村の新しい住人の一人。馬車には多尾狐もいるよ」
ケンタウロスに、ハインドを紹介する。村ができる前に賢狸から紹介され出会ったと聞き、納得した様子となる。
立ち話もなんだからと馬車に戻り、話し出す。少しして髪と尾を湿らせた多尾狐が水浴びから戻ってきた。
「誰? 危険はないみたいだけど」
「吸血鬼のハインド。以前からの知り合いなんだ」
紹介しつつ、多尾狐を手招きする。
近寄ってきた多尾狐の湿った毛を魔法で乾かしていく。乾燥の魔法がまだ使えない多尾狐の髪などを乾かすことは、もう何度もやっていた。目を細め鼻歌を歌っている多尾狐の様子から上機嫌だとよくわかる。
「森に行くところって言ってたけどなにか急用? それともいつもの挨拶参り?」
「後者ですね」
「ここで会ったことだし、用事は終わりかな」
「そうなりますね……よければここに滞在してもらえませんか。当主様が一度会いたいと言っていたので、連れてこようと思うのです」
「こちらから行くのが礼儀ではないのか?」
ケンタウロスの言葉にハインドは首を横に振った。
「サワベ様を連れて行くと魔力の香りに我慢できず、血を吸おうとする者がでてきますので」
「もてなしどころではなくなるのか。お互いのためにも行かない方がいいのだな」
「はい」
そういう理由ならば当主を動かしても失礼には当たらないかと頷いた。
「どうでしょう? ここで待ってもらえますか? 駄目なら駄目で仕方ないと思えるのですが」
「んー、一度は直接礼を言いたいと思ってたし俺は待っていたいけど、滞在時間によるかな。二日三日だと食料が足りなくなるんだ」
「それならば問題はありません。明日の昼前には戻って来れますので。食料も二日分持ってきましょう」
「だったら俺は問題ないよ。二人はどう?」
「その件については、俺たちがいなかった時のことだからどうこう言えはしない。食料さえ問題ないのならば滞在してもかまわない」
「僕もケンタウロスと同じだよ」
滞在することに決まるとハインドは頭を下げて、北へ去っていった。
三人は野営の準備を再開し、のんびりと過ごす。弱めの魔物避けには慣れてきたので、それを撒いて雑魚払いもしている。
夜が明けてものんびりと過ごし、午前十一時前にハインドが六十過ぎに見える吸血鬼を伴い戻ってきた。白髪交じりの赤茶の髪を短く刈り上げ、手入れのされた口と顎を覆う髭を持つ、意匠をこらした毛皮のコートを着た老人だ。長く生きた重みというのか、押しつぶすような水竜の雰囲気や包み込むようなドライアドの雰囲気とはまた違う、どっしりと地に根をはった大樹のような雰囲気を持っていた。
「こちらが坊ちゃまの祖父にあたるケーオット・シュミセン様です」
「薬師をしています沢辺裕次郎と言います。その節はお世話になりました」
「うむ、ケーオットと申す。こちらこそ孫が世話になった、礼を言う」
骨に響くような渋い声が発せられた。ケーオットも吸血鬼だ、裕次郎の魔力の誘惑を感じているはずだが、そういった様子は一切見せずにたたずんでいる。
雰囲気におされたように、ケンタウロスと多尾狐は裕次郎の背後で静かに立っていた。
初めて会ったタイプの人物になにを話せばいいのか思いつかず裕次郎は無言となり、ケーオットもまた無言で裕次郎を見ている。
とりあえず共通の話題をと裕次郎は口を開く。
「えっとキットレーゼ君は元気でしょうか?」
「ああ、すっかり元気になって屋敷の者たち皆喜んでおるよ」
表情を少し崩しキットレーゼの近況を淡々と語っていく。細かな行動もよく見ていて、孫好きお爺ちゃんなのだなと思える。
その後ろでハインドがお茶の準備を進めており、準備が整ったところで当主に近寄る。
「当主様、あまり話しすぎると皆様にご迷惑かと」
「ああ、すまんな。他家の子供の日常を聞いたところで反応に困るか」
「いえ、元気に過ごせているとわかってよかったです」
「サワベ殿のおかげだ。改めて礼を言う」
再度頭を下げ、裕次郎が慌てて頭を上げるように言い、ハインドの口添えもあり茶会が始まる。
退いていく兵の状況や、補給所の様子や、裕次郎の作ることのできる薬といった雑談をしていき、話は村についてになった。
「異なる魔物が共に暮らすか……難しいことだと思うのだがなにか問題は起きていないのか? 同種族のみで集まっている我らも問題は起きるのだ」
「そうですね、細々としたものですが起きてます」
起きている問題は、生活習慣の違いからだったり食事の味付けだったりだ。言い争いが主で殺し合いにまではなっていない。問題がでるたびに知恵の薬を飲んだゴブリンの次期長やフォクシンの長が解決に動いている。宥め叱り、時には酒で懐柔してと問題を一つ一つ潰しているのだ。たまーに回復薬を持ち出して、思いっきり喧嘩させる時もある。
ゴゼロが動くと時もあるが、いい経験だと次期長に多くを任せている。
「今は村づくりという仕事を共にやっているため連帯感が生まれているのでしょう、そのおかげで大きな問題はないのですが。一段落ついた時になにかなければいいなと思っています」
「……日々問題を解決しているのならば、早々大事など起こりはしまいよ。大問題というものの多くは解決されず積み重なった不平不満が爆発して起こるものだ」
「そうですか、毎日頑張ってくれている長たちには感謝ですね」
「ああ、労わってやるといい」
話題を変えるためお茶を一口飲み、ケーオットは口を開く。
「話は変わるのだが、協定というものに関心はあるかね?」
「協定ですか? 吸血鬼一族と繋がりを持つということですよね?」
今とさほど変わらないのではと思い聞く。
「うちもだが、よその魔物の集団ともだな。今うちが協定を結んでいるのはハーピー、マーマン、アイスード、セイルフといったある程度知恵があり無闇に暴れない魔物たちだ」
「協定の内容も気になるんですが、マーマンとアイスードについてどのような魔物か聞きたいんですが」
「私が説明しましょう」
ハインドが片手を上げ、それにケーオットが頷く。
マーマンは魚人や人魚だ。大きな湖や海に生息しており、ここらでは南にある琵琶湖ほどの大きさの湖で暮らしている。雑食で人も襲うが、住んでいる湖に人間が近づくことは少ないので主に魚や動物を食べている。
海の民と似ているが、海での暮らしに適応していき今に至る彼らと違い、マーマンは最初から水の中で暮らしていた。互いに住み分けており、争いは避ける方針だ。わずかながら交易をしてもいる。
陸地で見られるのは魚人で、人魚は下半身を人のものに変化できないため陸上活動は困難だ。
アイスードは氷の魔物だ。見た目はガラスでできた人形といった感じで、ここらだと北にある洞窟で暮らしている。核が体のどこかにあり、食事はしないでも生きていけるが、水を補給しないと五日で溶けて死ぬ。ほかに核を潰されても死ぬ。けれど少々の傷ならなにも問題ない。綺麗な水ほど体にあうため、アイスードが住んでいる場所では水棲生物が生きていられないことが多い。
体は氷で、少々の暑さでは溶けない。しかし夏場は辛いため洞窟の中からでないで眠る。冬眠ならぬ夏眠をして過ごす魔物だ。
今はぎりぎり起きている者もいるだろうが、もう十日もすると洞窟を閉じ全員眠るだろう。
「そういや海の民ってのもいたんだ。会ったことないから忘れてた」
海辺にでも行けば出会う機会はあったかもしれないが、こっちの世界に来て海を見たことは一度もない。海の民は陸上でも移動できるが、住み着くことはない。両者がそんなでは会う機会はないといっていいだろう。
「次は協定の内容だが。そう特殊なものではない。なにか困ったことがあれば力を貸す。協定者同士で物の交換をしようといったものだ」
「物の交換といってもうちから出せるのは、促成栽培の野菜くらいですよ。味はじっくり育てたものより落ちますし」
「安定して食料が得られるのは強みだと思うがね。それにそちらの強みは君がいることもだろう? その村にいけば怪我病気が治る。それは自身の近くに医者がいない者にとってはありがたいことだ。聞くところによれば、魔物用の薬もなんなく作ることができるらしいではないか、その価値は贔屓目に見ても決して低くはない」
「魔物用の薬が作れるってのは賢狸から聞いたんですか?」
「賢狸からもだが、こちらも独自に調べたのだよ」
「なにか警戒されるようなことしましたっけ?」
「ん? 警戒などしてはいないさ。いや最初はあったが、今はない」
人間が魔物の森で暮らすなどありえない。なにか目的があるのではと考えたが、調査を進めていくうちに警戒心は下がっていた。
本来ならば敵だらけの場所に住み着くなど並大抵の度胸ではないし、そこで無闇に魔物狩りをしているわけでもない。ただ静かに暮らしていて、危機には協力してことにあたっていれば警戒心などなくなるのに十分だ。
「そういったわけで私の周りで君を害そうとする者はいないな。認めていなくとも、逃げられるより利用する方が得だと考えているはずだ」
「協定を結ぶといいましたが、よその魔物たちは俺のことを知らないから警戒するんじゃないかなと思うのですが。それによってあなた方が既に結んでいる協定に不利益が発生するかもしれませんよ」
「我らや賢狸からサワベ殿がやってきたことの情報を流す。それでも疑うだろうが、その時は力を見せつけてやればいい。魔物というのはわりと単純でな。強い者の言葉は無碍にはできん。大きな戦いを潜り抜けたのだ、ある程度の強さは持っているのだろう?」
「薬を使っていいのなら」
実のところ素の状態の強さで十分なのだが、ケーオットの言うある程度の強さがどれくらいなのかわからず、そう答える。
その返答はセイルフの関係では正解だ。
「魔力の高さに見合った魔法が使えるのならば問題はないかと」
フォローするようにハインドが言う。
「森の民が使う竜巻の魔法と平原の民が使う炎の矢というのを改良したものを習得中なんだけど」
「十分でしょう」
改良型炎の矢はマカベルが作ったものだ。マカベル自身は使わないが、裕次郎に教えてと頼まれれば嫌とは言わない。
「でどうするかね?」
「俺だけで決められるようなことはないので、長たちと話し合ってからでもかまいませんか?」
「村の代表者は君だと思っていたのだが」
「俺もその一人かもしれませんが、あの村は俺一人では作ることはできませんでしたよ。ゴブリンとフォクシンたちの助力あったからできたのです。なのでなにもかも俺の独断で決めることはできません」
「では後日ハインドを村へ寄越す。その時に返事を聞かせてもらえるか?」
「はい」
「ではここらで失礼するとしよう。実のところ吸血の衝動が我慢できなくなってきてね」
そうは言うものの目にからかいの意思が光っていた。
わかりやすい変化だったので、裕次郎も見逃すことはなくおどけたように怖いですねと返す。
「良い返事を期待している」
「失礼します」
主と従者は歩いて北へと去っていく。その背が小さくなるまで三人は見送っていた。
話しても聞こえない位置まで移動しただろうと判断し、三人はその場に座る。
「どうするんだ?」
「ケーオットさんに言ったことそのままだよ。爺さんたちと話して決める」
「薬師さん自身はどう思ってるの? 僕は繋がりを持っていて損はないかなと思うけど」
ハインドが残していったドライフルーツをひょいっと口に放り込みつつ聞く。
「協定になにか欠点があって、それが致命的なものじゃなけりゃ結んでもいいかなと思う。それに戦いで力を貸してもらったっていう恩もあって断りにくいんだよね」
「欠点か……人間ということで難癖つけてくる者はいそうだが、言っていたように力を示せばある程度はなんとかなる。リュオーンを圧倒できるんだ問題はないだろう。ほかになにかあるか?」
人間社会に戻った時の足かせになるかもしれないと裕次郎は思うものの、戻って生活する気がないので無視していいと切り捨てた。
「無茶振りされないように事前に言っておいた方がいいかも? たくさんの薬を作れるって言ってもできないものはあるんだよね?」
「死者蘇生の薬を作れって言われても無理だね。あとは新たに発生した病気を治せって言われても難しいな。過去の病気なら材料さえ揃えばどうにかなるけど」
帰って皆で話してみようと決めて、出発の準備を始める。
帰り道に魔物との戦い以外でハプニングはなく、無事に森へと帰ることができた。
かかった日数はケーオットたちとの遭遇を含めて二十二日で、だいたい予定通りだった。
森に入った三人は留守中なにかあったか聞こうと村に向かう。
皆仕事中で、子供たちの面倒を見ていたラミアに話を聞く。近くには日向ぼっこ中のヴィアシーがいる。帰ってきた多尾狐を見ると笑みを浮かべ、手を振る。多尾狐はヴィアシーに走りよって、無事を知らせている。
「腕を振る程度なら辛そうな様子を見せなくなったか。リハビリは今のところ順調らしいね」
「うむ。この調子でどんどん元気になってほしいな」
「そうね、何事もなく治ってほしいわ」
ラミアは嬉しそうに話している多尾狐とヴィアシーを微笑みつつ見ている。最近は体の調子が良いせいか、明るくなってきたヴィアシーを良い傾向だと保護者のような思いで見ていた。
「俺たちが留守にしている間になにか変わったことはあったか?」
「賢狸が来たわね。他所から巨体種が来たんだけど、こっちに近づく様子を見せないから今のところは放置している。時々様子を見に行ってるから警戒は解いていないわ。あとはアルマネイドから仲良くしないかって打診があったみたい。最後にセリエとマカベルが寂しそうだったってところね」
「それは一大事! セリエとマカベルを探してくるよ。協定についてはまた後でっ」
ヴァインを馬車から放し、裕次郎は走り出す。協定よりもセリエとマカベルのことが大事なのだ。
魔物たちに居場所を聞き、まずは薬の処理をしていたマカベルを見つけテンション高く抱きついて、喜ぶマカベルをそのままにしてセリエを探しに向かう。護衛に出ていて村の中にはいないということなので、マカベルを背負い元フォクシンの集落に向かって走る。十分ほどマカベルと話しながら走ると、村へと向かう一団を見つけセリエもいた。
「セリエーっ」
「ユージロー? え? ちょ、ちょっと待って」
勢いよく走ってくる裕次郎の姿を確認し、勢いを落さない様子にぶつかるのではと身構えた。
裕次郎はそのままただいまと言いつつ、セリエに抱きつく。
「久しぶりのセリエの匂いと感触! はっはっはーっ堪能するぞ!」
日本ならばセクハラで訴えられそうなことを、躊躇いなく行い満面の笑みで抱き、セリエから発せられる香りを胸いっぱいに吸い込む。
顔を赤くしたセリエは恥ずかしいやら嬉しいやらで固まり、抱かれたままだ。そういった裕次郎に負けじとマカベルも背中にぎゅっと抱きつき、所用で同行していたノームは何をしているんだと呆れた目で見ていた。
三分はそのままだったが、恥ずかしさが上回ったセリエが裕次郎を突き放したため抱擁の時間は終わった。
「もう少し抱きたかったんだけどな」
「十分でしょ。おかえり」
「ただいま!」
マカベルを背中から下ろし、皆で村に戻る。マカベルがもう少しくっついていたいと言うので、かわりに手を繋ぎ、空いた手でセリエとも手を繋ぐ。
留守中のことを話していると、ツアの話が出てきた。
「向こうの遺跡に着いたんだ」
「三日前にバグズノイドからそう聞いたわ」
「だとするとすぐにプラッカ作らないとね。その前に戻ってきたことを知らせてもらう必要があるか」
「そうした方がいいわね」
出発前に作り溜めしておいた回復薬を使えば、プラッカは一日でできる。ツアを長く待たせることはない。夕食後にでも作り始めようと決めた。
村に戻ると、家族団欒といった感じに見える裕次郎たちを多尾狐が少し羨ましそうに見ていた。それをヴィアシーに指摘され、なんでもないと誤魔化す。
置きっぱなしにしていた馬車をケンタウロスたちの力を借りて村の片隅に移動し、荷物を遺跡に運ぶ。馬車はそのまま村に置くことにした。頑丈に作られたこれを参考にして、フォクシンたちは馬車の作り方を学んでいく。
荷物の整理をしてから村に戻り、ゴゼロたちが戻ってくるのを待つ。
一時間ほどで話し合いが始まる。ゴゼロたちのほかに水竜もいた。水竜は代表者というわけではなく、話を聞くだけのつもりでその場にいる。意見を求められれば答えるが、積極的に意見を出すつもりはない。もとから君臨すれども統治せずといった方針だったのだ。
「協定? 吸血鬼がそう言っタのか?」
直接話を聞いた三人は頷く。
どうしたものかと皆考え始める。村ができあがっていない状態で他所との交流を行う余裕があるかわからないし、そもそも交流の経験自体そう多いものではない。新たな問題が起こるだろうと半ば確信した様子で悩んでいる。
「利点と欠点を上げてみましょう」
ドライアドがそう提案し、皆が思いついたことを言っていく。
「人手が増えるかもしれないから村づくりが進むよね」
「人が増えれば問題も増えるぞ?」
「食べ物も足りるかな?」
「なにか新しいことを知ることができそう」
「決めたルールをめんどくさいといって従わない人もいそうだ」
「そういった場合、殴って解決するしかないのかなー」
意見をまとめると、利点はこの村では手に入れられない物や技術を入手できる可能性があること。賢狸の紹介以外で魔物がやってくるかもしれず、村づくりがさらに進むこと。
欠点は、新たな住人たちとの間で問題が起きるだろうと予測されること。食料消費増加に対応するため、野菜の生産量を増やす必要があるかもしれないこと。
「村をどういった方向で育てたいのかで決めればいいのではないか?」
話を聞いていた水竜がそう漏らす。
「もっと大きくしたいのならば積極的に交流していき、現状維持がいいのなら人材交流を断り最小限の交流ですませる」
「交流自体は賛成?」
裕次郎の確認に水竜は頷く。
「今回のように他所から攻めてくるといったことが今後あるかもしれない。その時のため情報が入ってくるようにしておいて損はない。早期の情報入手の大切さは、今回のことで思い知ったのだろう?」
自分が死んだ後は、この森と村がリュオーンたちを護る鎧となる。今後この森で生きていくだろう、二人の子供のためにも護りの手段は増やしておきたかった。
「そういった面でも協定は役立つのか」
「これハ結んでおイた方がいいのかもな」
水竜の提案で、協定を結ぶという方向で話が進みだす。人間との戦いを経験した者たちは、準備の大切さを知っている。多少の問題が起きても、情報を手に入れたいと思えた。
方向性が定まったことを確認し、ドライアドが次の議題に進める。
「じゃあ、次はどの程度交流するかだけど」
「最初は様子見で最低限でいいんじゃないかな」
こちらは悩む素振りを見せない裕次郎の意見に、皆頷いた。大きな問題が起きそうだとわかればそのままで、自分たちの能力で解決できる問題で収まるのならば交流を深めていけばいい。
慎重に一歩ずつことを進めていくと皆の意識を統一し、話し合いは終わりとなった。
それぞれの家に戻っていき、裕次郎たちも遺跡に戻る。村の家はそろそろできあがる。そのため荷物をまとめ始めたほうがよいだろうと三人で話している。
家は三人で暮らすに十分な広さを持っていた。これは診療所も兼ねているためだ。患者を寝かせるためのベッドも置かれる予定だ。フォーンは三人が村に引っ越すと、仲間たちと一緒に暮らすことになっている。
「夕食作るからマカベル手伝って」
「うん」
「んじゃ、俺はバグズノイドに帰ってきたことを伝えて、プラッカを作り始めるよ」
キッチンに向かう二人と別れて、バグズノイドを探すため廊下を進む。いくつかの部屋を回ればバグズノイドは見つかり、明日ワープ装置を使わせてもらえることになった。
効果が高い回復薬を選び、必要材料を取り出していく。材料の下処理をしたところで、夕食ができたと呼びにきて中断する。
セリエたちの手料理に舌鼓をうちつつ話していると、今日は一緒寝ようとマカベルに誘われた。寂しかったと裾を握って言われれば、無闇に断れるものではない。
「どうせならセリエも一緒に寝よう」
「え?」
「集落だと一緒に寝てたから久々にいいよね」
「あの、えっと……わかった、一緒に寝るわ」
一緒に眠るのは初めてではなく、ただ寝床を一緒にするだけでなにも恥ずかしがることはないと頷いた。
セリエたちの部屋でベッドをくっつけて眠ることになり、それまでにプラッカ作りに一段落つけることにする。
夕食後、早速部屋に戻り作業を進めていく。セリエとマカベルが風呂に入り、ヴァインの汚れも落とした後に、熟成段階まで作り上げる。あとは明日の朝に回復薬と下準備した材料を混ぜるだけでいい。
小さく溜息を吐いて、腕と首を回してこりをほぐす。
「そろそろ寝ない?」
寝巻きに着替えたマカベルが、扉から顔だけ出して部屋を覗き込む。
「風呂入ってくるからもう少し待って」
「わかった。部屋に行ってる」
「あいよー」
着替えなどを持って風呂に行き、旅先でとれなかった汚れを落とし、さっぱりとした様子で風呂から上がる。
その足でセリエたちの部屋に入り、マカベルに腕を引かれ、ベッドの真ん中に横たわる。
旅先であったことをせがまれて話す。多尾狐に対してやったことに、セリエはむっとして、マカベルは羨ましげな声を上げた。
三人が眠ったのはベッドに入って二時間ほど経ってからだった。裕次郎の手を二人が握り眠る。しっかりと握られた手は三人の絆を示しているようだった。
翌朝、裕次郎はセリエが起きる振動で目を覚ます。爽快な目覚めで起きることができた裕次郎は、まだ眠っているマカベルの手をそっと離す。
「まだ眠ってていのに」
「プラッカの仕上げするからちょうどいいよ」
マカベルを起こさないように小声で話し、二人とも部屋を出る。
セリエは朝食準備のため、裕次郎はプラッカを仕上げるため自室に向かう。
回復薬と混ぜると、薄い緑のトロリとした液体ができた。知識にあるとおりのできだ。あとは渡して、ツアが連れてきているはずの鍼灸師が治療するだけだ。
薬を持ってバグズノイドが待つ、ワープ装置のある部屋に向かう。
「きたか」
「これを向こうにいる人間に渡して。ついでにこれも」
プラッカと一緒に、占い神殿に入るためのペンダントと手紙をバグズノイドに渡す。
今後占い神殿に行きそうにないので、この機会に返しておこうと思ったのだ。ツアにソルヴィーナまで運んでもらうつもりだが、それが無理なら山の遺跡にいる調査隊に報告書と一緒に運んでもらえばいい。
「わかった」
空間の向こうにバグズノイドが消えたのを確認し、裕次郎は部屋を出る。
朝食を食べ、いつもどおりの日々が始まった。
感想脱字指摘ありがとうございます
》茸狩りで茸に狩られたり………しませんよね
狩られるどころか、狩る場面すらとびました
》彼は同種族から見たら裕次郎のお陰で凄く強く賢い超優良物件~
数少ない同族ですから、すごく相性が悪くなければ仲良くしますよね
》多尾狐が女の子だということに愕然~
セリエの反応は嫉妬だけですみました。やってることが親じみてたのでこれくらいですんだのでしょう
》セリエもすっかり素直になったようで、家族3人+1匹って感じですね~
このまま何事もなかったら当分幸せ家族でいられそうです
》薬で魔物とも意思疎通できるのがあればかなり良いのでは
以前アイデア出してもらって考えてたんですが、セイルフに会うとわかっているわけでもないのに事前に準備するのもおかしいと思い、薬の出番がなくなりました
》そういえばユウジロウって魔力とか強さって今どのくらいの~
この世界にきてからそうかわってないです。エルフ並だったか
数値で表すと平原の民が60くらい、森の民が300。セリエは120くらいだったはず
炎の矢の消費魔力が15くらい
》破軍犬と人間との子で、妖怪の犬夜叉みたいなのができないかね
完全に犬型の破軍犬とは子はなせないですね
》おお、ユージローに父性じみたオーラがで始めたのですかね
関係あるかと
》第1話途中でお気に入り解除
前向きに善処すると思います
》性別女が近づくだけで警戒するセリエには妾は容認できないですよね
できませんね。でもハーレムを形成する前にこの話は終わるんで、好きなように想像できるかと
》魔物と人は子供を作れるんですか?
多尾狐やハーピーやセイルフといった人に近い魔物ならできます。けれどハーフとして生まれるのか、人と魔物のどちらかになるかは考えてないですね。種としての違いから出生率は低いそうです
》主人公って、理論派で若干インテリ派な性格なんですか?
初期設定では、好奇心強い、執着心強いと書かれてました
少なくとも理論派ではないと思います




