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春嵐墨田の川面竜駆ける
平成二十一年三月
グループホームに入居しようと思い患い、相談に行ったのは、丁度、一年前のことだった。
「象の墓訪ねきし旅・・・」という句を詠んだ。
下五は、季語で「青嵐」で結んだ。
表記の句を詠んだのも、春一番が吹き荒れた一日だった。
快適な東京都心の、しかも高層の部屋を出て行くことは躊躇があった。
「此処で寝ているのも、豊橋で寝ているのも同じ。やりたい事はやった。乗りたい車にも乗った。旅行もした。着たいものも着た。赤塚冨士夫の言葉じゃないが、「これでいいのだ!」という心境……今がチャンス」とワイフが言った。
いざとなると男は優柔不断となる。煮え切れない気分で、銀座から新宿、そして丹沢、秩父連山を眺めていた。
春一番が、眼下の隅田の川面を遡り、金波銀波の鱗を持つ龍と化して決断を迫ってきた。




