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冬の日や友病巣の影重し
平成二十年七月
ステルス性癌という言葉を初めて知った。
本人の口から直接聞いたのだ。
「それって、どういうこと?」
何故かそんなことを聞いてはいけないと思った。
いかにも気楽そうに、しかし的確に説明する彼を訝った。
彼は東大の工学部から大企業の経営者に成った男だ。
「今の化学治療がわたしに合っていて、最近調子がいいんだ」と言う。まさか本気で信じているとは思えない。
その後、突然、電話があって、チャイムが鳴った。
ドアを開けたら皺だらけで土気色の彼が立っていた。
「最近、旅づいている」と言う。
なに? 旅だと?
何も食えないと言っていなかったっけ?
とても独りでは帰せなかった。
直りつつあると信じたいのか? それとも生死を越えて達観の境地で「さようなら」を言いに来たのだろうか。




