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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
189/222

ウィリアム編・Ⅳ―2

                 冒険者探偵ウィリアム Ⅳ―2


               森の奥深くに広がるは、隔絶された神秘



                 ≪森の美女と、秘境の滝≫



エメの見つけた木は、もう化石化した木が大地の裂け目から投げ出されたものだった。 中身は空洞で、思いの外に冷たい内部。 だが、彼方此方に出入り口の穴が開いていて、ネズミやリスの仲間が走っていた。


だが、倒木とは云え、樹齢千年は越えそうな大木が元。 ギルディとアクトルが真っ直ぐ立てないぐらいで。 他は普通に立って動ける大きさだった。


虫除けの煙を焚き、野営の準備をし終える頃。 一同が焚き火の周りに揃い、空腹だけを満たそうとし始める。


が、此処で。


ーカァーーーっ!!! カァーーーーっ!!!-


夕日も消えて、夜が支配をしている闇の中で。 けたたましい鳴き声、バサッバサッと云う羽音を立て。 西方の空中に獣の気配がする。


焚き火を囲む皆が、ウィリアム以外が暗くなった星空を見上げる。


ギルディが、


「ウィリアムっ、何か来たぞ」


と、鋭く言う。


リネットは、槍を手に。


「敵か?」


だが、ウィリアムは、


「可笑しいですね。 カラスの鳴き声をした鳥なんて、読まなかったけど・・」


と、立ち上がって振り向いた。


その時である。 ゴウゴウと音の来る底の見えない崖側から。


ー何者か? 人か?-


と、奏でる様な女性の声が。


ウィリアム以外、大人の一同が武器を身構える。


「ジョンっ、こっちにっ」


ウィリアムの後ろに掴まるジョンへ、フランクが言うのだが・・。


ウィリアムは、皆に“待て”と手で合図しながら。


「はい、冒険者・・・です。 解りますか?」


すると、闇の中から。


「この様な場所に人が・・・。 以前に人を感じたのは、随分と前だ。 腐った森林、崖の山を越えて来たのか? 東の森が騒がしかったが・・」


次々と云われる事を聞くウィリアムは、自分達の行動を相手は知っているのだと。


「良くご存知で。 もう9日と云う日にちを掛けて、此処まで来ました」


すると、闇の中から緑色の美しい瞳だけが見えた。


「目的は、何だ?」


すると、此処でジョンが。


「滝を見に来たんだよ。 昔、ご先祖様が住んでた土地に在ったって言う・・」


少し声を震わせながらも、そう言った。


闇の中に光る目は、ジョンを一瞥してから。


「目的は、滝だけか?」


ウィリアムは、穏やかに。


「薬草採取も込みでしたが。 その方は、もう粗方終わっています。 明日の朝には、此処を去って滝を見に下ります」


すると、緑色の眼は、ウィリアムの眼を見て。


「お前だけ、敵意が無い。 私が・・怖くないのか?」


言われたウィリアムは、ただただ薄く笑い。


「読んだ本や伝書に、貴女の記述が在りました。 もしかして、森に住まう夜のニンフ。 ヴォールヴォでは?」


「・・・知っていたのか」


「いえ、今・・考えているうちに浮かびました」


「ふむ・・、興味深いおのこじゃ」


此処で、ジョンは。


「あ・あのっ・・」


と、ジョンが声を出す。 ウィリアムの後ろに隠れながら、何か聞きたいらしい。


緑色に光る目は、ジョンを見て。


「なぁに、幼いおのこ」


ウィリアムの脇に出るジョンは、震える手をウィリアムの手に繋げながら。


「ぼ・僕、ロファンソマの街の湖の畔に広がる森に暮すジョンと言います。 本当に・・ぼっぼぼ・僕達の先祖は、こんな危険な森に・・・住んでたんですか?」


と。 祖父マドーナ老人から昔話の如く聞かされたのは、本当に正しかったのかを知りたかったらしい。


すると、緑の瞳は、ウィリアム達が今まで来た原生の森を見て。


「ホラ・・、あの彼方。 森の海原に立つ塔が見えるかい?」


ウィリアムも、ジョンも、警戒をせずに来た森を見た。 高い断崖を下ったので、森など見えないと思ったのだが・・。


「あ・・」


「あら・・まぁ」


「あ、光る・・・」


森の方を見上げる一同の瞳に、森側の断崖の彼方天空に緑色に光る尖った上部の塔が聳えて映った。


ウィリアムは、その塔を見つつ。


「あれが貴女方の御住いである、夜だけに現れる“森の塔”。 別名を、グリーン・ソフィーア?」


緑の眼は、穏やかに頷き。


「そう・・。 森が出来た時から、あの塔は在る。 そして、我々夜のニンフも、精霊も、あの塔で毎夜現れ戯れた。 音楽を我等が奏でるなら、あらゆる生き物が穏やかに聞き惚れる。 最初は、人も居たのだ・・。 あの大地の大きな営み・・うねり・・。 噴火、大地震、地割れ・・・。 この森が封印される為に起こった様な、大地の異変だった・・」


何か、凄く悲しい話を聞く様な気持ちに成ったジョン。


「じゃ、僕達のご先祖は、その時に逃げ出したんですね?」


ジョンがこう云うと・・。 スルスルっと、闇の中から緑色の瞳をした何者かが出て来た。


「うわ・・」


ロイムが、思わず驚く。


緑色の光る瞳、澄んだ蒼のオーラに光る髪、闇色の黒い漆黒の肌、そして・・豹柄に煌く衣服。 森のニンフ、宵闇の狩人、狼達の女神、様々な異名を持ったヴォールヴォが、その姿を見せたのだ。


ジョンと、ヴォールヴォが見合っていた。


「元の森の民の子孫よ。 それは半分正しく、半分は間違っている」


ジョンは、ヴォールヴォが不思議と怖くなかった。 寧ろ、美しいと。 優しくも、神々しいと感じた。


「意味が・・・解りません」


そう言ったジョン。


そして、そんなジョンの頬を触るヴォールヴォは、銀色に光る鋭く長い爪をシュルシュルと短くさせ。


「森の民は、皆が大地の怒りだと死ぬ覚悟をしたのだ。 だが、あの大地の営みは・・・怒りではない。 大地は、変化と安定を繰り返す千変万化の床なのだ。 精霊の怒りでも、大地の神が熾した怒りでも無かった。 だから・・、我々は逃げろと告げたのだ」


「え? 貴女が・・?」


「そうじゃ。 我々、ヴォールヴォは、人を逃がした。 あの時、大地の怒りと信じた民達は・・大地の動きに呑まれた。 地割れや、溶岩に・・。 だが、逃げてくれたそなた達は、生き残ったのだ」


この話に、ウィリアムはやや違和感を覚え。


「その信じた方々は、森の精霊の頂点に立つ貴女方をどうして信じなかったのですか?」


と、問う。


すると、ヴォールヴォは、顔を背け。


「それは・・・」


ウィリアムは、その反応に何かを悟る。 だが、敢て。


「まだ古代の頃の話でしょうからね。 色々な価値感や・・宗教観が在ったのでしょうね・・」


ヴォールヴォは、この話にウィリアムを見る。 ウィリアムの瞳を見て、少なく笑い。


「・・人には、奇妙に食えぬ者も居る様じゃ。 が、その気遣いは、イヤではないぞ」


そして、ジョンへ向き直し。


「幼いおのこよ。 この森は、あの異変から昔より凶暴になったが。 人の手を逃れて悠久の時を生きている。 もし、まだ森を少しでも愛でる気が残るなら、このままにしておくれ」


ヴォールヴォを見つめるジョンは、頷き。


「僕は、この森の事は・・秘密にします。 僕達は、今でも・・・森の民です」


ヴォールヴォは、その言葉に。


「嬉しいことだ・・・」


と、その背中に黒い翼を宿す。 夜の訪れの様に、何時の間にか現れた翼だった。


「冒険者・・・、森を抜けても街までは気を抜くな。 最近、西方の疎らな森では、モンスターの動きが隆盛を極める。 この幼き森の民を、その餌食にはしてくれるな」


ウィリアムは、ヴォールヴォがあの塔へと戻るのだと解り。


「それが約束ですから、必ず護ります」


ヴォールヴォは羽ばたき始めながら、その目をジョンに向け。


「幼き森の民よ。 今宵の出会いを、妾は忘れぬぞ」


と、言葉を残し。 フワリと宵闇の宙へ消える。 皆が見上げる輝きが綺麗に見える星空に、その影すらも無かった。


アクトルは、今一何がなんだかと云う気持ちのままに。


「手付かずの森ってのは、色んなのが住んでるな」


スティールも。


「・・イイ女だったな。 ま・・、ジョンに譲って遣ったがな」


「マジかよ」


義兄弟の脱線した会話を他所に、ウィリアムが。


「凄い森だ。 太古の自然とその精霊力に満ち溢れている。 ニンフが、他と交わらずにエレメンタルとして存在してるなんて・・」


そのウィリアムへ、ロイムは身震えをしながら。


「で・でも・・、気配すら感じなかったよ? もしかして、僕達を排除しようとしてたのかも・・」


だが、ヴォールヴォの消えた宙を見上げるままのジョンは。


「違うよ。 僕達が森を荒らしに来たのか、確認したかっただけだよ。 この森を護る為なら、排除も仕方ないんだよ。 僕達が街の田舎に住む様に、あの人たちも・・・同じなんだ。 この森は、森に生きる生き物の居場所なんだよ」


と、言い切った。 


エメは、横で固まるフランクに。


「どうやら、我々がこの森から逃げたのは間違いないらしい。 それに、もう戻れる場所でもない様ね」


「・・あぁ。 私は・・・怖かったが。 ・・・あの子は、怖くなかった様だ。 森の精霊に、好まれたのか」


「幼く素直なだけに、向うも手玉に取り易いとでも思ったのではないか?」


エメがそう言うのだが、フランクはそうと言い切れるかどうかと黙る。


ウィリアムにジョンが、ニンフの存在を聞く。 焚き火の前に戻って話すウィリアムの話にジョンが齧り付く。 そのジョンが寝る頃には、語りべのウィリアムに見張りの最初を任されるスティールとギルディを残して全員が寝ていた。


火の前で、ゴロンと寝転がるスティール。


「ふぁ~~あ、このご時勢に、森の中で“ニンフ”たぁ~~~ね。 流石、ン百年、ン千年にも亘って、人が殆ど入らなかった森だわな」


すると、ギルディも。


「だな。 ニンフなんぞ、もう伝説の中でしか聞かぬと思ったぞ。 エレメンタルのままで、精霊と同格にして、神の作り出したままの姿を取るニンフ・・・。 フッ、これは神秘な体験だ」


頷いてるウィリアムを前にして、火を挟んで対峙に居るスティールは、もうギルディにも慣れたので。


「ギルディのダンナほどでも、ニンフをそんなに珍しがるのか。 こりゃ、俺達も相当な貴重体験なんだろうな~」


スティールの扱いは解らぬが、その実力は見たギルディ。 馬鹿にするには、自惚れるのは自分だと、ウィリアムの相方にピッタリのいい剣士と認識していて。


「フフフ、当たり前さ。 人の手で長く均されたこの世界。 精霊の力も随分と均等化して、今ではニンフの様なエレメンタル・フォースは居無い。 この森の存在が、それだけ貴重と云う証よ。 それに、ニンフは人を嫌うと読んだ。 それが会話し、交流するなぞ・・。 全く、新しい事ばかりを体験してる、実に楽しいな」


水の心配が無い事をイイ事に、スティールは水筒をチビチビしながら。


「あ~~、酒が飲みてぇ」


すると、ギルディも。


「全くだ」


「ギルディのダンナよ」


「ん?」


「戻ったら、旅立つのか?」


「どうだろうな。 仲間の回復具合に因るか」


「そうか。 一回ぐらい、一緒に飲もうゼ」


「構わんぞ。 酔い潰れた貴殿を、ワシが引き摺ってやる」


「へっ、一夜ぐらいの飲みで潰れるかよ」


「ほほっ、よし。 アクトルと一緒に、勝負だ」


「それは、受けた」


薪の小枝を多く投げたウィリアムは、その場に寝転がり。


「さて、戻ったら、どうしましょうかねぇ~~」


と、だけ。 だけだった・・・。




                        ★



次の日。 昼過ぎである。


「ウホッ! ほぉ~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!」


驚嘆の声を上げるスティール。


「まぁ・・・」


「なんと、これが・・・」


滝を見上げるままに、その清純な美に酔うクローリアとリネット。


階段の様な下る段差を、ラングドンの力を借りて降り。 縄なども使わずにスイスイと進んだ一行。 行き着く先で皆が目にするのは、幻のままに成っていた或る滝である。


奈落の様な底の見えない大地の裂け目の北側に、急斜面で雲に突き抜ける鋭い三角の岩山。 その山の斜面片側の面を、どの辺から出ているのか撫でる様に水が流れ、ゴウゴウと音のする大地の裂け目へと落つる。 水の飛沫が霧を生み、下を見えなくしている。


だが、この滝を生み出す岩山の後ろに回り。 ボコボコと軽石の様に穴の開いた奇妙な山岳地帯を越えると、夕方には滝の全容が見えた。


急斜面の岩山の片面を撫で落ちる水の行く末は、立てに近い形で水が渦巻きして岩山の内部を砂時計の様に疾走し。 その出口として、渓谷の最上流に当る岩山の下部の中に在る大湖へと落ちているのだ。 そして、岩の中の湖から溢れる水は、南側の岩山の壁に入った亀裂から溢れ出て。 泥の上に薄い水が溜まり、その水の中でも腐らない森を形成する水森すいりんへ、渓谷を産む川へと滑り出す様に溢れ出てゆく。


「一泊して、下の滝も見て行きましょうか」


ウィリアムの提案で、西側のやや乾いた森に向かう山道の一角で休み。 次の日の朝を迎えて。 一同は、昔に学者が見たと云う大滝を見た。 岩山の最下層の亀裂より流れ出る水は、そこから半円状の広大な斜面を流れている。 水の美しい音を奏でて、シャラシャラ・・サラサラと涼やかな音色が、ドロと固有の植物で作られる水林、水深の浅い水に森が出来ている水森を流れて行く。 羊歯、蔦、藻、水草、水生木の生い茂る森の大地を、渓谷へと。


水の生むその自然の風景美は、低い台地の山を去る前の、最後の土産だった。


その水の流れに沿い、水の中に林や森が浮かんでいる様な景色を進めば。 その行き着く大地の切れ間。 巨大な龍のアギト(顎)の様な裂け目へ、水林、水森を生み出した水が爆音を上げて流れ落ちる滝が在った。 滝の西端に立って見る一行に、その東端は遥か彼方で見える訳も無い。


その滝を見て、フランクは。


「これだっ。 父とその昔に協力した学者が見たと云う大瀑布は・・・。 嗚呼、この滝だけでも凄いのに。 我々は、この滝を生み出す大自然までも見てきたのだ。 あぁ・・、森の神よ。 この幸運に感謝します」


と、その場に跪いて祈る。


ジョンも、父親と共に自然へ感謝を示す。


自然魔法を遣うラングドンは、このエネルギーに圧倒されてか。


「この力に身を任せれば、水の最凶奥義の秘術も可能かものぉ。 素晴らしい、ただただ・・・素晴らしい」


そんな中、スティールは。


「なぁ、ウィリアムよ」


「はい?」


「この流れ落ちる水、何で西側に流れてないんだ? この水の量にして、西方の乾燥地帯なんか在り得ないだろう?」


「いえ。 西側の乾燥地帯とは、周りの高地に囲まれた陥没した盆地らしくてですね。 高地から水気の抜けた風が、足を速めて高温化を招いている様です。 しかも、この大きな滝。 此処では平面に見えますが、地形を考えるに、原生の森側に傾いて渓谷を築いている様です。 水の流れが、東の方に強く音を出していますから・・」


「ふぅ~~ん。 しっかし、今日からはモンスターも気ぃつけんといけないんだろう?」


「はい。 ま、山を降り切ってからだと思いますがね」


が。


その滝を離れて、水の流れの無い枯れた渓谷の裂け目を西へ西へと・・。 狭い幅を探して岩を渡したり、ラングドンの自然魔法で乗り越えたり。 山を下るごとに森の密度は薄くなり。 赤土が剥き出す大地に、木が疎らな・・と云う間隔を空けて生える乾燥した森林地帯を歩き出す頃。


水を呑み過ぎたスティールは、ギラギラと照り付ける太陽を見上げ


「もうロファンソマの街まで、1日か2日で戻れる頃合いなんだろうが・・・。 以外に此処は暑ぃ~~なぁ。 汗が出る出る」


ウィリアムが、これから行く赤土の大地を見渡せる丘にて。


「此処からは、森の中の様に涼しく無いですよ。 それにしても随分と地形の変化に富んだ山だ」


と、感想を漏らしてから少しして。


ーギャーーーーーーーーーーーッス!!!!!!ー


十数泊目の昼になろうか・・。 疲れた一行の頭上で、咆哮が爆発。 その声の主は、森を跳躍して移動するドラゴン、グゥアバンダであった。 二階建てのやや部屋数の多い建物と変わりない巨体であり。 その助走は犬の様、体つきや跳躍の様はカエルの様と云われ。 この西方の乾燥森林では恐れられる暴君であった。


奇声を上げて、ウィリアム達の行く手を阻む様に待ち構えに居るグゥアバンダ。


ウィリアムは、攻め込まれて相手にするのは面倒なモンスターなので。


「今まで戦えなかった分、此処で運動してください」 


と、一同に。


此処で、ロイムが珍しく。


「よぉ~~し、僕も頑張るぞぉ~~~」


と、スティール達に付いて行き。


直後に。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! デカいよぉぉx~~~~っ!!!」


と、泣き声が聞こえる。


しかし、ギルディとハレーザックも先頭に出た。


「ザック、森のヘマを此処で返せよぉぉーーーっ!!!! うおおおおおおおおおおーーーーーーっ!!!!!!!」


モンスターキラーの異名を背負うギルディは、スタークィンダーを一閃して。 六角の先端部を光らせると、グゥアバンダに突進する。


大型のモンスターを相手に、真っ向から突撃など一見無謀な戦い方だが。


「うらぁっ!!!!」


その棍棒スタークィンダーを、グゥアバンダの前足に薙ぎ付ける。 相手も、ギルディの武器を薙ぎ払おうとし。 振り上げるグゥアバンダの爪が、スタークィンダーに当った瞬間である。


ードンっ!!!-


空気を震わす程の爆音が出て、スタークィンダーを払い除け様としたグゥアバンダの前足の爪が、ドス黒い血を撒き散らして吹き飛んだ。


痛がって後退するグゥアバンダ。


「ヒュー。 さあ~っそく行くかネェ」


ギルディの後ろに追従したスティールは、口笛を吹きながらグゥアバンダの側面にまで走る。 ギルディがグゥアバンダに歩いて威嚇する間に、その身体の側面に畳まれる皮膜を斬った。


更に嫌がり、勢いに任せてカッパリと大口を開けて、ギルディに喰らい付くグゥアバンダだが。 その自分を一口で食い千切りそうな大口の鼻頭を、サッと引きながらスタークィンダーでブチのめすギルディ。


ドンと魔法の衝撃が起こり。 殴られた鼻頭の上皮が千切れ血を被るグゥアバンダは、悲鳴の様な声を上げて飛び退こうと身を起こす。


だが、スティールがその跳躍に使う皮膜を斬っていたので、大きく森の奥か木に飛び退こうとしたグゥアバンダは、飛行能力を失って赤土の地面に途中で落ちた。


アクトル、スティールが左右に分かれて今度は先行し、ギルディがグゥアバンダに向かって行く。


この間。


「フンっ、ハッ。 お前達は、この私一人で十分だ」


ハレーザックは、奇妙なモンスターを相手にしていた。 赤土の地面に空いた蟻の巣穴のような細い穴から、シュルシュルと現れ出る赤い色をした人型の生き物を相手にする。 ハレーザックは、その優れた集中力と魔想魔術の衝撃波の性質を利用し。 格闘の攻撃が当る時に、魔想魔術特有の衝撃波を乗せるのだ。 また、魔法で生み出した武器を、攻撃に乗せて繰り出すなども可能なのだ。


赤い人型の生き物は、“アリャカシャテー”と云う細かいハエの集合モンスターで。 生き物を取り巻いては、鼻や口からその体内に入り込もうとするのだが。


ハレーザックは、手の甲にダガーの魔法を出し、アリャカシャテーに格闘術の素早い身のこなしでぶつける。 魔法が当るだけでもハエは死に。 その追い討ちで蹴りや拳の突き込みで当る衝撃波で次々と赤土の上に落ちてゆく。


しかも。


「魔想の力は、創造の力・・・。 幾重にも生み出されし盾よ、僕を護り敵を蹴散らせ」


ロイムは、今までに無く防具を作り出す。 防具は精神的なイメージからすると、その性質は幻惑術に近い。 ロイムは、どちらの適正も上級の様だ。


「このっ、来るなっ!!」


自分を取り巻こうと来るアリャカシャテーを、生み出した数個の光る盾で追い払おうとするロイム。 アリャカシャテーは、その巣毎に潜む群れが一つの固体として蠢く。 魔法をぶつける事で、削られて行く魔力が衝撃波を生んでアリャカシャテーを撃ち落す中。 ロイムは、必死に集中して、魔法を存続させて頑張った。


動き回るハレーザックと、その場で魔術師らしく戦うロイム。 魔想魔術師の異端者と、オーソドックスな両者による戦いである。


その様子を、ウィリアムは見守るのみ。


ジョンをフランクと護るエメは、


「アンタ、リーダーなんだろう? 前に出なくていいのかい?」


しかし、疎らな生え方で木々が広がる森をを見つめるウィリアムは・・・。


「さぁ。 それより、まだ気を抜かないで下さいよ。 モンスターの襲来は、まだまだ直ぐに続きますから・・」


と、冷めた言葉で言い切った。

どうも、騎龍です^^


ご愛読、有難うございます^人^

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