二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~4
セイルとユリアの大冒険 4 第二章―1部
≪上陸・前≫
女船長ロザリーは、自ら船を降りる決意を示して島に上陸した。 彼女と一緒に降りたのは、セイル達4名。 ロザリーを慕う船員二名。 ルメイルと、彼女のチーム4名だった。 悪魔の蔦が打ちつけられた事で起こった船揺れで、強かに頭を打ったイーサーもダウンしたのである。
さて。 ルメイルの仲間も紹介して於こう。
「ふぅ。 悪魔の蔦って、動かないのぉ?」
こう言って蔦を伝って降りた女性が居る。 リーディンググラス(グラスの直径が短いメガネ)を掛けた若い金髪の女性で、地面に降りてから安堵混じりの溜め息をする。 蔦が、降りている途中で動きやしないかとドキドキしていたのだろう。
滑り台を滑る様に後から降りて来たルメイルは、そのリーディンググラスを掛けた金髪女性に。
「ビジュ、邪魔。 まだ、降りてくるんだから」
云われた金髪女性は、杖を持って退き。
「はいは~い、解ってまぁ~すぅ」
と、セイル達の居る島側に退いた。
甲板で、降りる前に挨拶をした一同だが。 この女性は、魔想魔法遣いのビジュニス・ハニガン。 まだ学院を卒業し立ての20歳。 母親が魔法遣いの薬師とかで、彼女も適正が在った為に憧れて魔法遣いに成った。 ローブを着ず。 古風な魔女が好んだと云う黒紫色のワンピースドレスに、先の長いとんがり帽子を被る。 何故かマントが白なのは、父親のお下がりだとか。 若々しさに似合う、丸い瞳の可愛らしい女性である。
次に・・。
「・・」
無言で先に降りたルメイルの前に滑り降りて来たのは、短髪の無口な剣士の女性。 やや赤みが差す瞳に赤い髪が混じるブラウンヘアーは、地方の田舎に住む特有だろうか。 セイルと同じ長剣遣いで、黒のインナー、黒のズボン、スケイルメイルを上半身に着て、下半身はプロテクターや金属の具足で武装する剣士そのものの出で立ちだった。
この女性の名は、リロビナ・ニッカテン。 ルメイルの紹介に因れば、無口だか腕は在ると云う事だ。 その鋭い目付きにやや高い特徴的な鼻を見るに、気性もそこそこキツイようだ。 少し骨った感じの顔をする、大人びた女性である。
そして。
「よぉ~しっと」
最後に降りてきたのは、脇の髪を胸元に流し。 後ろ髪を頭部の上に左右二つの玉に成るように結っている女性だ。 年齢的には、ルメイルやロザリーと同じぐらいだろう。 灰色の髪が綺麗で、絶えぬ前向きな笑みは悪く無い印象である。 腰には、鎖に剣の柄が付いた武器を装備しているが、その全容は良く解らない。 具足や小手などは金属製の物だが、身体に着る鎧はベルトブレストメイルで、下はボディにビッタリの皮製プロテクターをしている。 恐らく、前面に出て戦う者だろうが、学者っぽい雰囲気も在った。
この女性の名は、アリナロヴィン・セレナード。 通称は、アリスと呼ばれているらしい。 生まれが良いのか、着ている衣服の上着が女性用の礼服で。 胸元には、フリルの目立つ襟が・・。 話し方もゆったりで、田舎から出て来た様な訛りも無い。
さて。
上陸した一同は、ロザリーの周りに集まった。
島を見るロザリーは、その林が見える様子や地面などの岩肌を見て。
「不味い、これは悪い方のホラーニアンアイランドかもしれない」
と、口走る。
セイルは、仲間を顔を見合わせてから。
「何かご存知なんですか?」
船員二人に武器を持つ様に指示するロザリーで。
「父上から聞いた事が在る。 本来、悪霊がとり憑く幽霊船やホラーニアンアイランドは、その岩肌や船にビッシリとフジツボなどの貝類が付着しているものなのだと・・」
クラークは、それが一般的だと。
「海に沈むから・・であろう?」
「うむ。 だが、ホラーニアンアイランドには、極稀に例外が存在するらしい」
「“例外”・・とな」
クラークの言葉に、非常に強張った顔を見せるロザリーで。
「大昔から、浮島には魔意がとり憑くと云われているとか。 その場合は、海に沈まないので普通の島に見えるらしい」
その話に。 クラークとセイル、更には、ルメイルも驚きの顔を見せて。
「イミテーターの亜種だ・・」
セイルは、その言葉を言った後に顔へ手をやって撫でる。
ユリアは、セイルに寄り。
「イミテター?」
ユリアを見る様に顔をやや上げるセイルで。
「“イミテーター”(擬態・ニセモノ・ものまね)だよ、ユリアちゃん」
「それ・・強いの?」
すると、近くで聞いていたルメイルが。
「強敵だわ。 宝箱や、古い朽ち掛けたタンスに憑依するイミテーターならいざ知らず。 部屋に擬態したり柱に擬態する大型は、暗黒魔法も遣う相手で大変なの」
セイルも続き。
「確か、イミテーターは悪魔と悪霊の境に位置する“姿無き悪魔”で。 その長寿には、構造物や人工物を超えて、浮島や洞窟にとり憑ける凄いのが居るって聞きました。 今回は、それが相手なんだ・・」
ロザリーは、その“魔意”と云うモンスターが解らず。
「セイル。 その魔意・・だかか。 一体どうゆうモンスターなのだ?」
「あ~・・、えぇ。 魔意とは、その名前の通りです。 魔に魅入られた意思・・と云うのが妥当でしょうか」
「それは、何処でも生まれるものなのか?」
「はい。 非常に大勢の方が亡くなった場所だったり、遺跡や迷宮など葬られる事無い場所で人が何人も亡くなっていると・・。 モンスターの棲む場所でも、亡霊や悪霊などが棲み付く場所で蟠っている無念が、時に悪魔の様な思念を持ち始めるのだとか。 魔法で、高位の悪魔やネクロマンサー(死霊呪術師)などが生み出す事も在ったと・・」
「思念では、実体が無いだろう?」
「えぇ。 ですからイミテーターは、実体を得る為に人工物や構造物にとり憑くんだそうです。 人が作り出した物は、とり憑き易いんだそうですよ。 特に、人の強い欲望や悪意が染み付いた場所ほどに・・」
「なんだそれは、意味が解らない」
セイルは、島を見ながら。
「人の欲望は、その使用された部屋などに残るんだそうです。 貴族の時代が長く続いた頃、没落した貴族の家で多数のイミテーターが出たと・・。 元が人の思念なので、そうゆう風に云われるのかも知れませんが」
「なんだか厄介な・・、倒せるのだろうか」
すると、晴れぬ霧を見上げているアンソニーが。
「しか無いだろう。 切り抜けるには、それ以外に無い」
ロザリーは、それもそうだと。
「確かに・・。 では、行こうか」
ロザリーの声で、自然とセイル達が先頭に出る。
ユリアが、島の奥を指差し。
「アッチから気味悪い感じするんだよね~。 イミテーターって、どんな攻撃するの?」
肩を並べたセイルは、
「もう相手の掌に乗ってると同じだから・・。 強いイミテーターって、魔法みたいな攻撃したり出来るみたい。 それに、暗黒魔法も遣えるんだろうね。 悪魔の蔦を発芽させられるんだから」
「掴み処無いなぁ~。 セイル、もっと勉強しておきなよぉ~」
この物言いには、クラークやアンソニーも苦笑い。
“出来るかーっ”
で、有る。
そんなセイル達を見るロザリーは、この緊迫した最中でも面白い面々だと思え。
(冒険者も、偶には面白いヤツが居るんだなぁ)
と、顔が少し解れた。
・・・。
しかし、一方で。
ルメイルは、簡単に思ってるという印象を受け。
「だけど、島の主がイミテーターだったとしてよ。 私達で倒せるかしら・・。 今までも、有力な冒険者が殺されてきた。 しなければ脱出出来ないだろうけど・・、勝てなきゃ終わりだわ」
と、個人的に小声で呟く。
ルメイルの仲間は、誰もが黙った。
さて、林の方に歩いて行くと。
「あ、歩く魔樹」
と、セイルのフツーな声。
ユリアも、根っ子を足の様にしてモゾモゾと進むモンスターが、視界の中を横切っているのを見つけた。
「あ、ホントだ。 うわぁ~、ホントに歩いてる」
セイルも、物珍しいものを見ている様に。
「本当だね~」
そんな二人のトーンに呆れて、自分達だけでもと戦闘態勢を取るルメイル達だが・・。
アンソニーは、林が左手に見える方に向き。
「フム。 何匹かのモンスターに、我々は狙われている様だ。 来るな」
流石に、この一言で槍を構えたクラークで。
「では、目の前の魔樹も此方を向いた様ですから、ササッと終わらせましょう」
「ほい」
ユリアが受け答え、足元に現れている真四角で石の色をした精霊に。
「キューブ君、一つコかすよぉ~」
ユリアの足元に転がる真四角の石は、コロコロと転がって前に出ると・・。 いきなりギラリと光る一つ目を見せた。 片手で掴める石ころぐらいしか無い大地の精霊ストーンキューブ。 一つ目しかない強面だが、温和な性格の精霊だ。
「キューブ君、パンチ行こうっ!」
ユリアが地面にステッキを打ち付けるなら。 ストーンキューブが飛び上がり、ドスンと云わせる様に地面へと踏ん張り落ちる。
すると・・。
急に魔樹の歩く真下の地面が突き上げた。 地面か盛り上がるとか、極部的範囲で飛び出した訳でも無い。 本当に地面が波打つ様に、ポンっと打ち上がったのだ。
「うわっ」
見ていたロザリーが何事かと驚く。
しかし、既に反応したセイルが魔樹に走っていた。 ひっくり返った魔樹の根っ子の中には、一際白く目立った根っ子がウニョウニョと動いている。
魔樹へと走り寄ったセイルは、その根っ子を素早く抜き打ちの一撃で切断した。
背の高いモンスターで在る魔草メジメトリーと云うモンスターを、歩く根っ子の辺りから刈り取る様になぎ払うクラークは、脇目だけでその様子を見て。
「ユリア殿、弱点を知っておいでだったかっ」
と、声を掛けた。
セイルが倒したのだが、コかせた事で得意げに胸を張るユリアで。
「魔樹ぐらい、お忍びで行ったボーケンで見た事あるわ。 幹は固いケド、身体の裏側に在る白いニョロニョロが弱点よ。 ま、歩いてるのは初めて見たケドさ~」
根っ子を斬ったセイルは、振り返らずに半笑いで。
(ボクが倒した話を、採取してたユリアちゃんにしただけなんだけどね・・。 ま、いいか)
林の中から出て来るモンスターは、歴戦の兵の様なクラークとアンソニーの敵ではなかった。 こう表現するのも悪いが。 寧ろ、他の者が邪魔臭いほどに腕の差が見られた。
その後、一同は更に島の中心に向かう。
ルメイルのチームの中でも、一番社交的でオープンな性格をした者が通称アリスと云われる女性だった。
石が剥き出しの凹凸が在る地面を歩きながら、アリスはセイルのチームに並んでいた。 ロザリーと肩を並べて歩く彼女は、先ずクラークに。
「エンジェルスターズの凄腕リーダーが、今はブレイヴ・ウィングの一員とはね。 その槍、有名なセイント・フォアケーズでしょ? 聖槍創りの巨匠フォアケーズの最後の一本だとか聞いたわ」
ルメイルの素っ気無さから、打ち解けあう気が起きないままのクラークで。
「随分と知られているな。 私は、そんなに有名人だったかな?」
と、前を向いて云うだけに留める。
しかし、ロザリーは興味を抱き。
「このクラークは、そんなに有名人なのか?」
と、アリスに問い掛けた。
クラークを見ながら、笑みで頷くアリス。
「あぁ。 冒険者の間でも、異名を含めた名前は知られてる。 “双槍のクラーク”、“瞬貫豪突・猛進のクラーク”と聞けば、誰でも。 国の武人でも知ってるさ」
「そんなに・・か」
ロザリーがクラークを見て感心する。
一方のクラークは、
“過去はもう捨てた”
と、首を竦める思いだ。
処が、仲間のユリアは寧ろ気分が良く。
「アタシ達が二人でチーム作ろうとしてた時に、ものすっっっ・・・・ごくバカにされてたけど。 クラークさんの御蔭で、このチーム作れたもんね。 有名人じゃなきゃ、200人近い冒険者の人相手にあんな啖呵きれないわ」
セイルも、岩や木の陰に注意しながら。
「ですよね~。 まさかクラークさんが加わってくれるなんて、あの時には思いもしませんでしたけど」
と、笑う。
ユリアとセイルにまで云われては、クラークも苦笑いし。
「オホン。 ま、チームを自分から捨てた私ですから、セイル殿とユリア殿に拾って頂き感謝しか御座いません。 このチーム名も、御二人が居なければ付けられない名前ですし・・」
ユリアとセイルは、何とも含みが一杯有る感想で返されたと笑うしかない。 だが、お互いに仲間に感謝をしていたのは事実だ。 セイルとユリアも。 クラークも。 そして、アンソニーも。
ユリアは、話を繋ぐ様に。
「でも、アタシ達って結成してから、まだ丸二ヶ月経ってないのよ。 こんな大事に遭遇するなんて、フツーじゃないわ。 クラークさんとアンソニー様が一緒じゃないと、今頃死んでるかも」
セイルも。
「あはははははは、その通りだね。 ホラーニアンアイランドに遭遇しちゃうなんて、ホント運が無い。 ・・あ、逆に有るのかな?」
そこで、ユリアは透かさずセイルの頭をパンと叩き。
「痛っ」
と、頭を抑えたセイルに、
「アホウっ、有るなら回避じゃっ」
と、怒るユリア。
だが、アリスも。
「でも、それならウチと同じくらいよ。 スタムスト自治国でルメイルがチームを結成して、私は国境の街で後から加わったの。 その時、クラークさんが抜けたエンジェルスターズにも会ったわ」
クラークは、その話に眉だけ顰め。
「そうか、会ったのか」
「えぇ。 リーダーの30ぐらいの剣士が、魔法遣いらしき美人さんと肩を並べて恋人みたいに成ってて。 そんでもって、無視してる周りの仲間~みたい面々の変な一団を」
クラークは、正しく自分が勝手にしろと居なくなった頃の様子だと呆れ笑い。
「そうか・・、自由にやっている様で何よりだな」
だが、このアリスは、実はチームの別な一面も見ていて。
「でも、他人の私が見ててもよ、あのチームは仲が悪過ぎる。 あの剣士と美人以外は、別れて別のチームでも作りそうな感じだったわよ? 貴方が抜けたのって、それが原因?」
問われたクラークは、既に信頼関係が揺らいで崩れそうだったチームの状態を思い出し。
「さぁ、な。 私は、チームを解体しても良かった。 だが、他の仲間は、チーム名に宿った過去の栄光や価値を欲した。 だから私は、皆にチームを託して一人で出たのだ。 過去に縋るくらいなら、新しい経験を作る事に望みたかった。 このセイル殿、そしてユリア殿は、私にその新たな場をくれた。 だから、私は活き活きとこうして冒険者をやって居られる。 この状況を乗り越えるなら、また新しい経験が出来る。 過去のエンジェルスターズで築いた経験など、それこそ、この霧の中に霞む様な物だったと思える程にな」
アリスは、クラークの眼が前にしか向いて居無いと解る。 言葉に、全く未練が無く。 今のクラークは、自然体で在るからだ。
「ふぅん。 でも、その手始めとしても、あのジェノサイダーを潰すなんて凄過ぎると思うけど?」
“ジェノサイダー”の名前が出ると、ハレンツァの事を含めた記憶がチームに甦る。 だが、クラークは敢て。
「戦ったから云うが・・、云う程に彼らは強敵では無かったよ」
アリスは、その一言に耳を疑う。
「まさかっ?! あの悪名高いジェノサイダーよ?」
「うむ。 彼らは、確かに悪名高かった。 だが、それは彼らの凶暴性と残虐性が先行した、本当に尾鰭や背鰭がくっ付いた噂に過ぎない。 面と向かって戦うなら、リーダーの男とブレイン役の女以外は、実に素人に毛が生えた程度。 一般人を平気で多く殺したり、奇襲や汚いやり方を平気で使えたから高まった悪名よ。 数を頼み、卑怯な真似に活路を見出していた輩には、実際にはそんな実力など有りはせぬ」
「では、大した相手では無かったと云うの?」
「うむ。 セイル殿が相手をした二人以外、然したる相手では無かった。 魔想魔法遣いは、アンソニー様の実力に脅え、精霊遣いもユリア殿の力の前で無力だった。 彼らの悪知恵ですら、セイル殿とテトロザ殿の用意周到な計画に騙されて失敗した。 大掛かりに事をする組織が関わった為に、犠牲が出たのが悔やまれる一件だったが・・。 ジェノサイダー自体は、人が言うほどにそこまで恐れる相手では無かった。 生きて残ったのが、我々であるのだから・・」
この淡々と吐かれる感想を聞いたアリスは、今度はセイルが気に成った。
「こんなに若いセイル君て、そんなに強いの?」
アリスの言葉に、ユリアはセイルの脇腹を肘鉄で突っ突き。
「強いのか、オイ。 お前は、そんなに強いのかぁぁぁ?」
と、弄る。
「あいやぁ~、ヤメテぇ~」
脇腹を小突かれ、バランスを崩しそうに成って緊張感の無い声を出すセイルだが。 セイルを見るクラークは、只静かに。
「何れ、私など足元にも及ばなくなるだろう。 齢16かそこらで、あの様々な経験を積んだジェノサイダーのリーダーを斬ったのだ。 紙一重の戦いで、それこそ手加減など出来様などない死闘だっただろうがな。 この歳で、色んな真似をして退ける大人に合わせて勝つのだ。 只の剣士では、そうも行かない」
この感想に、セイルは薄く本気で笑った。 あの時の戦いの全てが、この言葉に集約されていたからだ。
アリスは、若いセイルを見て。
「・・見えないねぇ。 そんな凄腕には・・」
クラークは、此処で。
「うはははは・・」
と、笑ってから。
「あのケルベロスストライカーとの戦いでは、私と二人でボロボロに成ったがね」
前を歩くセイルも。
「ボっロボロでしたけどね」
ユリアも、頷き。
「ホント、あれはボロボロだったわ」
しかし、アリスは目を見開いたままに。
(ケッ・ケルベロスストライカー? ゴーレムの最強戦士じゃなかったかな、何年か前に有名なチームが全滅したって聞いた様な・・?)
こんな会話の途中。 今度は夥しい数のスケルトンと遭遇する。 死体の骨が怨霊化したものでは無く、明らかに魔法で産み出されたものだ。 島の主の下僕代りに生み出したと思われる。
霧の中を歩いてくるスケルトンの気配を、間近に迫った所で感じたセイル達。 だが、スケルトンの一匹目を見た時、我先にと反応したのはアリス。
「スケルトンぐらいなら、私が相手するっ。 この神聖魔法の加護を受けた、クロスチェーンでっ!!」
ジャラっと鎖の擦れる音がして、先頭に踊り出たアリス。
「わぁ、長い鎖の先に、十字架が付いてる」
初めて見る特殊な武器に、セイルが驚く。
「モーニングスターの類だな。 金属製の鞭と云った処だ」
クラークが見て言うのだが・・。
アンソニーは、その現れたスケルトンの更に後ろの霧を見つめ。
「セイル君、少し数が多いな」
真剣な顔付きに変わったセイルも。
「はい、50は居ますね」
カシャン・・カシャン・・と、スケルトンの歩く乾いた音が木霊し始める。 霧の中から音が大きく響き始めると、アリスが向かった一匹の後ろから何体ものスケルトンが・・。
その現れたスケルトンの首に、特徴的な青い刺繍のボロスカーフが掛かっているのをロザリーは見た。
「あれはっ、先月に乗組員や乗客が全部消えた船のトレードマーク。 このモンスター・・、まさかっ」
船だけが発見され、乗客や乗組員の誰一人として見つからなかった船。 どうやら、この島に上陸していた様だった。
セイルとアンソニーは、この時に反応して動いていた。
「セイル君、護りは任せて貰おう」
「はいっ、クラークさん行きましょう。 あの数は、アリスさん一人では手に負えない」
クラークは、槍を手にして。
「解りました。 一気に蹴散らしてしまいましょう」
アンソニーは、二人がスケルトンに向かったのを見てから、何故かユリアの肩に触れると。
「ユリア君、我々は森に気をつけよう。 何かが、直ぐ其処まで来ている気配がする。 突然に、何かが現れた」
ユリアは、この瘴気で満たされた霧に囲まれていて、その気配を感じる事が出来なかった様で。
「え? 精霊も・・何も云わないよ?」
アンソニーは、左手の林を見て。
「今、ジワジワと近付きながらその力を抑えて来ている。 正直、私の持つ妖術の力と似ているようなのだが・・。 今一、何が来ているのか解らないんだ」
ユリアは、霧に含まれる瘴気の御蔭で、精霊も出て来たがらないと解っている。
「う~ん。 誰もこの状況を嫌ってる。 キューブ君も引っ込んじゃったし・・、闇の精霊で大丈夫かなぁ」
ロザリーは、何を暢気な事と思い。
「何でもいいっ、戦える精霊とやらを召還すればいいだろうに」
と。
だがユリアは、少し眉を顰め。
「アタシは、強引に精霊を召還する術なんて知らない。 それが、私と精霊の約束だもん」
と、ロザリーへ云った。
ユリアに少し険しい視線を向けるロザリーだが。 その間に入る様に立つアンソニーは、林に向いて。
「セイル君とクラーク殿がスケルトンを倒して、此方に戻るまでの足止めでも十分だ。 来てくれる精霊を呼べば良い」
ユリアと精霊の関係を知っているアンソニーは、それが当然だと思った。
そして・・。
ーアオォォォォォーーーーーンー
林の影の地面から、何かがモコっと飛び出した。 犬の様な吼え声を上げて、現れた生き物が視界に入る。
「うわわ、黄土色の犬?」
ユリアが驚くに合わせ、アンソニーも。
「普通の生き物では無いな」
と。
その現れた犬型の生物は、土色の身体に赤みがかった黒い眼を光らせる。 唾液も出ない乾いた口には、牙が生えていた。 しかし、身体が普通ではない。 泥に塗れたのか、毛が固まっている様な感じで。 その四肢も、奇妙に柔かさを見せている。 例えるなら、生肉が足に成った様な柔かさだ。
現れた生物を不思議そうに見つめているアンソニーの近くに、ルメイルが急いで来ると。
「ホントっ、常識で理解できないモンスターねっ。 あれは、貴方も使える妖術で生み出された妖術獣って云うの。 泥に動物の死骸の一部を練りこんで、その動物を魔力で生み出す魔法。 死霊魔術師や、妖術魔術師が僕に生み出すのっ」
ノーライフロードと云う不死の王で在りながら、その魔物への完全な変化を止めたアンソニー。 彼には、その力が備わりながらも、その知識の一部が欠けている。 僧侶で在るルメイルには、そのちぐはぐさが気に入らない。 中途半端で、理解に苦しむのだ。
だが、アンソニーは・・。
「ご教授に感謝する。 して、倒すには・・神聖な力が必要かな?」
問われたルメイルは、今にも走り出しそうなビーストを見て杖を構えると。
「消滅なら、必要だわ。 でも、その核と成る部分を壊すだけなら、魔想魔法や自然魔法でも」
すると、ビーストの体内にその核と成る魔法の光を見れるアンソニーは、薄く笑み。
「なら、君はまだ下がりなさい。 其方の剣士と、ロザリー殿に魔法の加護を与えるだけで事足りる。 私は、これでも魔想魔法が遣えるのでな。 確実に核を狙うとしよう」
ルメイルは、何を云っているのか思うのだが・・。
ビーストに向かって歩くアンソニーは、シルクのマントを靡かせながら。
「魔法は精神力を奪われる。 此処で君が疲れては、後が大変だ。 短期決戦で、消耗を極力避けねば成らない」
と、云うのである。
近付いてくるアンソニーに、次々と湧いて出て来るビーストの中で、最初に現れたビーストが飛び掛る。
「あ゛っ、アンソニー様」
ユリアが精霊を呼び出せずに緊張するのだが。
「フンっ」
顔に飛び込んで来たビーストを屈んでかわしながら、左足を高く跳ね上げてその腹を蹴り上げるアンソニー。
ーギャワンっ!!!-
犬の悲鳴の様な声を出して宙に飛ばされたビーストは、林の木々の枝に当る処で土に変わった。
「あ・・、倒した」
「やるな」
驚いたロザリーが、呟けば。 同じく、ルメイルのチームの剣士リロビナが唸る。
中腰から立つアンソニーは、土を避ける為にマントを盾にして優雅なステップで脇に動くと。 マントを掴んだ手をそのままに、ニヒルな笑みを浮かべて脇目に皆を見る。
「私には、その核が見えている。 弱点の場所が解っているなら、魔法を遣う必要は・・ない」
絶世の美男子と云うべき彼がこう云うと、ユリア以外の女性は一瞬だけ見惚れてしまった。 その様子に気付いたユリアは、前にも見た様な展開が在るのではと思い。
(あんのモンスタァァ~~~、まぁ~たチャームの魔法を遣ってるんじゃあるまいなぁぁぁ)
格好良過ぎだと怒りが湧いた。
どうも、騎龍です^^
ご愛読、有難うございます^人^




