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エターナル・ワールド・ストーリー  作者: 蒼雲騎龍
K編
166/222

二人の紡ぐ物語~セイルとユリアの冒険~4

                セイルとユリアの大冒険 4 第二章―1部



                 ≪う~ん、島は島でも・・コレはイヤ≫




ユリアが予測した通りに大雨が降った夜が過ぎて、明くる朝を迎えた。


「いいか、霧が濃い。 普通なら直に晴れるだろうが、晴れないと逆に危険だ。 何か影でも見たら、勝手な判断をせず教えろ。 霧が晴れるまで、交代でこの見張りを続ける」


女船長ロザリーが、見張りの船員6名を集め。 早朝にも関わらず、声をしっかり張ってこう言った。


「へいっ」


「了解ですキャプテンっ」


「解りやしたっ」


海族うぞくの船員達は、代々に渡って船乗りの血筋である者ばかり。 若い女船長のロザリーであろうが、その関わりは長きに渡る者が多いらしく。 彼女を軽んずる者は居無い様子からしても、その結束や信頼も固いらしい。


さて。 もう陽は、海上に上がっている様だ。 それにも関わらず白い濃霧が見える以上、曇りが取れていないのだと思われる。


その頃。 明かりもまだ灯らぬ広間へ、真っ先に起きて入ったのがアンソニーだった。


「・・」


無言で座った彼には、睡眠も人の様に必要ではない。 深夜も度々に外へ見回りに出て、今もセイル達が起きるまで待機しようと云う訳だ。


(あの不気味な気配が取れてない・・。 寧ろ、随分と近付いた感じがする)


不安が拭えない以上、警戒が必要だと思って居た彼である。


しかし、だ。


「あの」


人の気配を感じていたアンソニーの背後に、やや低い女性の声がした。


「何でしょうか?」


アンソニーの背中の先に在るは、開かれっ放しの広間への出入り口であるのだが・・。


「貴方、モンスターでしょ?」


と、低い女性の声が続く。


アンソニーは、こう云う人物に心当たりが在った。 だから・・。


「まぁ・・、肉体はそうですね」


すると・・・。 アンソニーの面前に、白いピアリッジ(貴族の好む作りの良い衣服)ドレスの様な衣服を着た女性が立った。 薄暗い中だが、長い足に穿かれたスカートは、際どい部分を露にするかの様にスリットが作られている。 歩けば前と後ろの布が左右に分かれ、下着の部分をチラつかせるのだ。 しかも、上半身は更に露出が強い。 その豊満な胸は、手が大きい男でも手中に収めるのは難しいと思われる程なのだが。 だからと云って、決して肉体が太っていると云うわけでは無い。 その胸の谷間と為る肌から、乳房間近までの胸が丸見えで。 ドレスの上半身は長袖の首の後ろで紐を縛る仕様なのだが、娼婦が遣ってきたと思える姿だった。


アンソニーは、暗がりながらその女性の顔がハッキリと見えていた。 黒い瞳に、後頭部のやや上部に結い上げた髪だが。 その余りがやや甘みを帯びるかの如く色艶を魅せて、長く曲がりくねりながら腰辺りまで伸びる。 右手に白い白銀のステッキを持ち、そのステッキには一周するデザインで寝そべるヴィーナスの絵が彫られていた。


「貴女は、僧侶・・ですかな?」


アンソニーが聞けば、


「えぇ。 チーム、アフロディアのリーダーで御座います」


と、女性から返答が返って来る。 その物言いの落ち着き払った様子に、インテリ然としたやや細面の美顔が似合う美女であった。


「そうですか。 モンスタ-ながら、これは挨拶も遅くなりまして」


丁寧にこう云うアンソニーだが、相手の女性から強い敵意を感じているのは言うまでも無かった。


女性は、窓を行過ぎる人影を見てから。


「相当に隠されていますが、その不死者のエネルギーは消せませんわ。 どうやって人に紛れているのかは知りませんが、冒険者に成るなど気狂いとか思えませんね」


しかし、アンソニーはその言葉に反論をしなかった。


「・・フ」


微笑んだアンソニーは、背後に人がまた来たのを感じている。


そして・・。


「何処の何方か知りませんが、アンソニー様が死者なのは仲間の全員が知り得てますよ」


セイルの声である。


女性の僧侶は、思わず声のした方を向いた。


が・・。


「え?」


誰も居無い。


だが、直ぐに間近、自分の横から。


「アンソニー様、どうやら不安は消えてませんね」


と、声がする。


「あっ」


その露出度の強い服を着る女性は、セイルがもう自分の左脇に来ていて。 仲間であるアンソニーを対面しているのを見た。


「セイル君。 やはり、何かが居る。 我々は、どうやってかその何かに吸い寄せられている気がするよ」


すると、セイルも。


「多分、我々とぶつかる様に待ち構えているのではないですかね。 昨日の雨雲には、瘴気を感じなかったのに。 この霧には、気味悪いものを感じます」


アンソニーとセイルは、完全にその女性を無視していた。


女性は、セイルへ。


「君、モンスターを仲間だと云えるの?」


するとセイルは、少しだけ顔を動かして影に入れると。


「仲間を傷付ける時は、僕が貴女を斬ります。 これでも、賞金首の極悪人ですが・・、一人斬ってますから」


女性は、微かに身動きをした。 “人を斬った”とは、穏やかでは無いからだろう。


セイルは、女性が黙ったので続けて。


「僧侶のクセに、無害なモンスターに喧嘩を売り。 この瘴気の含まれる霧を生み出す相手を、未だに探そうともしないんですね。 行きずりですが、アンソニー様を目覚めさせたのは僕達です。 彼が人を無益に殺す前に、僕達が殺します。 ・・仲間ですからね」


セイルの言葉を聞いて、アンソニーは静かに瞑目した。


(君は、懐が深いね。 僕が言うべきことは、何も無い)


一方、女性の僧侶は、何か強い覚悟と、強い仲間の結束をセイルとアンソニーに感じてしまい。


「・・、私はルメイル。 チーム、アフロディアのリーダーです。 以後、御見知り置きを・・」


と、この場を去ろうとする。


しかし、此処でアンソニーが突然にカァっ目を開き。 セイルも、何かに気付くかの如く船の向かう方を見て。


「止まってっ、何か来ますっ」


と、甲板を覗える窓に動いた。


「えっ?!」


僧侶ルメイルが立ち止まる時、魔力の迸りを目に表すセイルとアンソニーで。 二人が窓に向かっていった時だった。


ルメイルが何事と問う前に、彼女も人や自然の生物では無いエネルギーの接近を感じた。


そして、甲板から。


「キャプテーーーーーンっ、向こうから何かが近付いてきやすっ!!!!!」


と、男の声が。


「セイル君っ」


「はいっ、甲板に出ましょう」


二人の呼吸は、見事に合っていた。


「あっ!」


ルメイルが話し掛ける隙も無く、二人は船内通路へと走り出て行く。


(きっ・緊急事態だわっ)


ルメイルは、仲間に知らせようと通路に飛び出た。


さて。


甲板では、船が向かう方向の彼方に、黒い影が粒の様に浮かび上がったのを船員が見つけた。 後方の全般を警戒していたロザリーは、船員の声を聞いて即座に反応して前に。 船首の際に足を掛けては、その影を見るに・・。


「冒険者を起こせっ!!! 宙をあんな風に動くのは、モンスター以外に無いっ!」


と、船員に剣を抜き払いながら云った。


「はっ、はいぃっ」


「解りやしたぁぁぁ~っ」


やや丈の短い剣で、剣先に向かうほど幅広となり曲りを持たせるスティルソードと呼ばれる剣を抜いたロザリー。 女性用として丈を短くした仕様なのだろうが、剣を片手で持った様にブレは無かった。


船員と入れ替えで甲板に出たセイルとアンソニーは、船内に戻る船員と入れ違いに船首の方へ。


「ロザリーさんっ、確実にモンスターの様です」


セイルが云った。


帆を固定しておくロープを握り、船首の縁に立っていたロザリーだが。 “確実”と聞いて。


「解るのか?」


と、投げかけて来た。


新調した剣の鞘を腰に固定させるセイルは、


「僕もアンソニー様も、魔法が遣えるんです」


と、云う。


ロザリーは、セイルが腰に剣を装備しているし、アンソニーは格闘用のグローブを嵌めるのを見ているので。


「両方遣えるのかい。 器用貧乏は情けないよ」


と。 両方遣う者など、そうそうに居無いからである。


しかし、二人はそんな事より、もっと嫌な事を感じていて。


アンソニーが、先に。


「キャプテン殿、海中からも何かが来ている。 戦闘の準備は、これでいいのか?」


「え?」


甲板に下りたロザリーが、アンソニーに聞き返す時。


「来たぁぁぁっ!!!!!!」


セイルが声を上げ、間近の甲板側面に入る狭い場所に走る。


一方、アンソニーも逆の側面側に走った。


ロザリーは、突如海面から放たれた弓矢の如き速さで甲板に飛び込んで来た何かを見た。 正しく鏃の様に三角の角を持ち、人の大人ほどの身体をした魚の様な物体なのだが・・。 胸鰭と尻鰭が、丸で短い四肢の様に成り。 その鋭い牙を持つ口を、野犬の如く半開きにして“キンキン”と鳴く。


その生物に肉薄したセイルは、抜き打ちに斬り付け。


「はっ!!」


気合諸共に、その角らしきものを斬って飛ばす。


ロザリーは、海の魚類モンスターであるカジキの類だと知り。


「ライオレプターだぁっ!!!! 戦える者は、甲板に出ろっ!!!」


と、セイルとは別の魚類モンスターに斬りかかって行く。 魚類モンスターであるライオレプターと云うのが、群れて襲ってきたのである。


他の応援が出る間も無く、セイルは最初に飛び込んで来たライオレプターを一突きで倒し。 直ぐ様に返す剣の如く、ロザリーを挟み撃ちにする様に飛び込んで来たライオレプターに向かった。


さて。 この曇りと霧の御蔭でモンスターが近付いてきたのであろうが。 逆に、アンソニーには何の支障も無く戦える機会をも与えていた。


「飛礫よっ」


拳に纏わる様に小さな飛礫を生み出したアンソニーは、魔想魔術の異端に踏み込んでいた。 それは、極至近距離に魔法を発生させ、直接触れた物に魔法を喰らわす触直攻撃タッチメントマジックである。


キンキンと甲高い鳴き声を上げ、甲板を這いずりながら噛み付きに来るライオレプター。 その攻撃を鮮やかに回転して避けたアンソニーは、魔法を纏った右手で手刀を撃つ。 その手がモンスターの頭部に当るなら、格闘術として打ち込まれた打撃で甲板に顔を打つモンスターなのだが。 直後にはその頭部で魔力の炸裂が起こり、ライオレプターの頭部の骨が砕かれる。


(次は?)


敵を探すアンソニーの足元で、白目を向いたライオレプターが動かなくなっていた。


海面から飛び出し、甲板へと次々と現れるライオレプター。 海面から甲板まで、高さの在る船なのだが。 海面から飛び出すライオレプターは、その3階建ての建物に匹敵する高さを、苦も無く飛び込んで来るのだった。


更には、下の海面では、ウツボのモンスターが落ちてくる何かを待ち構えている。 人が海に落ちれば、確実に殺されるのは間違い無い。


このモンスターの襲撃が始まり、甲板の後尾では船員達数名とライオレプター二匹の戦いが始まっていた。


「わぁっ、くっ来るなっ」


ただ剣を振り回すだけの腰の引けている船員達で、全く戦いに為って居無いのだが。 此処で、後方出口から飛び出して来たクラークが。


「むぅんっ!!」


と、左右の手にした大小の槍で、固まっていたライオレプターを一突きに倒してしまう。


「わっ、凄い」


「おぉ・・、助かった・・」


船員の一人が、剣を持ったままに足を崩れさせるも。


「まだだっ、気を抜くなっ」


注意を云いながら、槍に刺さったモンスターを海に投げるクラーク。 振るった槍から抜け落ちるライオレプターの身は、ウツボのモンスターの餌食に変わった。


この時と同時期。 側面の出入り口から、甲板にユリアが出た。


「セイルっ・・って、うわぁっ!」


ライオレプターの死骸に片足を乗っけてしまったユリアで、ブニブニの触感に驚いてしまった。


声でユリアの来た事を知ったセイルは、


「ユリアちゃんっ、飛んで来るモンスターが直ぐ近くまで来てるっ!!!」


と、鋭く言う。


その言葉にハッとしたユリアで。 杖を握り締めて、セイルの居る船首へと走った。


ロザリーを守る様に、ライオレプターを次々と相手にするセイル。 ユリアが来たのを見て、


「ユリアちゃんっ、向こうっ!!」


左手だけで相手にする一匹を突き刺し、船首の間近にまで迫る黒い影を指差す。


ユリアは、濃霧の中でも確認できる影の群れを見て。


「わ~~~~~んさか来てるじゃんよ~っ! 船旅ってこんなに危険なのぉぉぉ?!」


と、声を出しながら船首に。


此処までのセイルが魅せる素早く鋭い剣技に、それこそ驚くロザリーだったが・・。 火の灯るカンテラを腰に下げたユリアを見て、何をするのかと見入ってしまう。


船首の際を前にしたユリアは、火の灯るカンテラの上部を開いて。


「火の精霊よ、霧の中だけど応えて・・。 仲間を助ける為に、少しだけ力を貸して・・・」


と、祈り出した。


この時、操舵室では・・。


舵をロザリーから頼まれる魔術師の姪と、航海士のファイラポンが船を操作している最中。 船に近寄る影は四方八方から忍び寄っていた。


目を瞑っている様に思える柄物のローブを来た中年女性は、舵を握るファイラポンへ。


「凄いモンスターに囲まれているみたいよっ!! 急にこんな事って在る訳ぇっ?!!」


その怒鳴り声にも似た言い方は、事態が差し迫っているという意味が滲んでいる。


「とにかく、推進力を落すな。 囲まれても、冒険者が倒せば乗り切れる。 それより、視界が悪すぎて先が見えない。 近場に島などないか、見張りをなんとか・・」


ファイラポンは、まだロザリーが此処に来ない事を心配していた。 戦いは、冒険者に任せてもいいと思っている。 船長の彼女がやられては、船員達が絶望的になるのが解って居たからだ。


一方。 やっと武装を整えた冒険者達が、次々と甲板へ飛び出していた。


「大丈夫かっ?!」


イーサーと仲間の二人が後部甲板に出れば、もう一人で獅子奮迅とした戦い様でライオレプターを倒すクラークが居る。 腰の抜けた船員達を、船の中に戻したクラークで在って。


「おう、イーサー殿。 凄い戦場の様だっ!」


と、飛び込んで来たライオレプターを、槍で迎え撃って串刺しにしてしまう。


「おぉ・・、スゲェ」


スタンストンは、その反応の良さに感嘆した。


だが、ライオレプターは次々と飛び込んでくる。 広い後部甲板の先には、上がって来た何匹かが此方へと鰭で向かって来ている。


「スタンストン、バカ力の発揮時だぞ」


剣を抜いたイーサーは、前進する様相を見せるクラークに追従する姿勢に成った。


さて。


「まだ誰も怪我は?!」


女性だけの仲間3人を連れ、船首甲板に出て来たあの露出度の高い衣服を着た僧侶ルメイルは、そこで驚くべき光景を見てしまう。


「たぁっ、鋭っ!」


広い船首甲板を動き、モンスターを次々と斬るセイルと。 そのセイルに動きを合わす様にして、格闘技でモンスターを叩きのめすアンソニーが居る。 瞬時に、移動を魔法で行うアンソニーからは、暗黒の力を僅かに混ぜる魔力が湧き上がっていて。 その力の強さは、不死の王者たる波動である。 しかし、セイルと視線を交わしながら、交互にロザリーを守りながら敵を粉砕するその連携プレーは、モンスターとは思えぬ思慮が覗えた。


更に、その先では・・。


「不死鳥っ、火回りっ、いっくよおぉぉぉーーーーーっ!!!!!」


杖を振るユリアの頭上には、燃え盛る炎の翼と身を有する鳥が浮かび。 その甲板の際となる手摺には、燃える花を顔に持つ“火回り”と云う小型の精霊が、何匹も現れて一列に並んでいる。


ユリアが炎の玉を飛ばす魔法を頼めば、不死鳥は羽ばたいて炎を宙に生み出し。 火回り達は、仲良く茎の身体を左右へ動かし踊っては、その魔法の形勢を援護していた。


船に近付く黒い影は、海上を飛ぶ虻のモンスターだったり、鮫の顔を持つ鷹だったり。 他には、大型の肉食ツバメ“ヤジュル・イッツナナ”。 ヤジュル・イッツナナは、それこそ人をも鷲掴みに出来る大きさ。 近付かれては、船員などは非常に危ない。


ユリアが、前方から来るモンスターを薙ぎ倒す。 炎の魔法は非常に強力で、モンスターには効果的な力だった。


セイルは、ルメイルに。


「船の脇にもモンスターがっ、手分けして側面をお願いしますっ。 絶対に船内へ入れてはいけません」


と。


思わず見惚れていたルメイルは、ハッと気がついて。


「解ったわ。 船が揺れるみたいだから、気をつけてね」


と。


この意味は、飛んで来るモンスターをかわす為、大きく舵を切る可能性も有ると通達が有ったからだ。


モンスターに剣を振り込むロザリーは、既に船が左右と動いているのを解っている。


「了解っ、この戦力ならこの中を乗り切れるっ!!! 船を壊されない様に、気張ってくれっ」


と、自分の相手したライオレプターにとどめを入れた。


勇ましいつもりは無いロザリーだが、セイルとアンソニーの戦いっぷりに感化され。 近くでは、年下のユリアが魔法で敵を蹴散らしている。 舵は魔法使いの姪と従兄弟のファイラポンでも十分と思っているので、戦い抜いていたいと思ってこの場に居る。 他の見張りの船員達が船内に帰った事等、眼中に無かった。




                       ★




朝も早くから始まった戦いは、ユリアが3匹目の大型肉食ツバメを撃ち落してケリが付いた。


モンスターの死骸を海に落とし、船首甲板に一同が集まれば・・。


「お~、刺されると痛いなぁ。 腕を軽く刺されたが、もう化膿してきてるゼ」


と、大男のスタンストンが言う。


僧侶であるルメイルは、その治療を申し出るのだが。


「・・」


「・・・」


スタンストンと魔法遣いのタジルは、胸元が丸見えのルメイルに釘付けと為った。 大型のメロンの様な張りをした胸の半分近くが露出しているし。 そのスカートの切れ込みも際どく、しゃがめば下着が見えそうな気がする。


黙った男二人に対し、セイルの周りに集まったロザリーと仲間達。 そして、イーサーを含めた6人は、非常に緊張した面持ちだった。


先ず、汗を掻いた額を晒す様に、前髪を掻き揚げたロザリーが。


「助かった、モンスターを撃退出来たよ」


と、云うのに対し。 互いに見合って、怪我の無い事を確認したセイル達。


セイルは、皆を見て。


「あの襲ってきたモンスター、どれも生息域が海岸や岩場・・孤島などに棲むヤツではないですか?」


イーサーは、直ぐに頷き。


「間違いない。 ライオレプターが、こんな遠い海で出るのを始めて見た」


ユリアは、まだコンコース島までは遠いと思って。


「それって、モンスターの棲家が近いって事?」


アンソニーも、倒したモンスターの来た海を見て。


「それか、移動する悪魔の島、ホラーニアンアイランドが近いのか・・だな。 船の角度は、何度も向きを変えた所為で随分と変わっているのに、どうも向かっている方向が変わって居無い。 風と海流の流れに引き寄せられている所為ではないかと思う」


ロザリーは、この船は初期型なれど魔力水晶を積んだ船で、人海戦術的な大掛かりのオールが無くとも自力で進む事が出来ると思っている。


「悪いが、この船は魔力でも推進力を得る事か出来る。 その様な事は、在り得ない」


と、アンソニーへ。


だが、経験の豊かなクラークは、学者の様なアンソニーやセイルとはまた一味違う言葉で。


「いや、それは過信のし過ぎだぞ。 過去には、大型のドラゴンが天候を変えた事もワシは知りえているし。 海のバケモノには、クラーケンの様に触手で渦潮を生み出すのも居る。 強い魔力を持ったモンスターなら、何らかの方法でその様な事も出来るかも知れぬぞ」


セイルは、ロザリーへ。


「とにかく、此処は任せて下さい。 船長のロザリーさんは、一度操舵室に戻った方が」


霧が晴れる気配が無い。 陽も上がって晴れるなら、霧などは大抵晴れてくる。 もう早朝も過ぎた頃なのに、曇った空すら覗えないのも不気味。 第一、今は奇妙に寒く、霧が出る地帯でも無い。


「・・解った。 モンスターがまた来る様なら、撃退を頼む。 上で、叔父達と話をしてくる」


率先して前に立つロザリーの気質は、此処から離れるのが気に入らない様だ。 だが、船長が怪我をされては、なにより困るのは周りで在る。


(仕方ないか・・、此処は先ず船の状態も把握しないと)


船長の仕事をしに船内に戻ったロザリーは、広間の向かい側壇上に上がり。 ドアの奥から階段で操舵室へ。 操舵室に入れば、逃げ帰った船員達から出迎えられた。


「キャプテンっ、ご無事で」


「ロザリー様、御変わり無くっ」


だが、自分以外が逃げた事が釈然としないロザリーで。


「どいつもこいつも、普段の元気は何処に行ったよ。 冒険者が居なかったら、それこそ皆殺しに成ってたよ?」


30代、40代の中年男が多い船員達だが、ロザリーに言われては萎れるしかない。


其処に、ファイラポンが来て。


「ロザリー、大変だ」


ロザリーは、ファイラポンが動揺している顔を珍しく見て。


「舵が効かないのかい?」


良く解ったと思うファイラポンで。


「うむ、そうなんだ。 魔力の推進力を利用しようとしても、何かがそれを妨害してるみたいなんだ」


ロザリーの年上の姪で、魔法を遣う操縦師の女性も。


「ロザリー、何かおかしいよ。 今、アジンタとオーウェンを水晶部に行かせたんだけど、全然返って来ないんだ」


魔力水晶に船員が行った事を聞き、ロザリーはハッとして。


「叔父殿、年明け前にこの辺を漂流していた無人隻だが。 確か・・、魔力水晶船ではなかったか?」


ファイラポンは、知り合いの船だっただけに。


「そうだ。 不思議な事に、水晶に魔力が残ってなかったとか。 その水晶を払い下げて貰った船長が、魔法遣い50人ほどを雇って魔力を入れると云っていたぞ」


ロザリーは、一度仕舞った剣をまた抜き。


「皆は此処で待機っ。 私は、冒険者と水晶を見に行くっ!」


ファイラポンは、水晶部に他人を入れるのは良くないと。


「なら、私が同行しよう」


と。


だが、操舵室から出ようとしたロザリーは、


「モンスターが居たらどうするっ!!! 下の彼らは、信用できるっ」


と、飛び出していく。


叔父であるファイラポンは、今までにないロザリーの言動に驚いた。 人見知りは強い方で、男に対しては冷たい印象しか見せない彼女だったのに・・。


角度の急な階段を駆け下りたロザリーは、甲板に舞い戻った。 其処では、客の一部がモンスターの撃退の事を聞きに来ている処だった。 イーサーやルメイルが、同じ客に説明をしている。


「お、船長サン」


太った商人の男が、話も弾んだ事が無いのに親しげに寄って来た。 ロザリーは、斬る様な視線で、


「まだ脅威は去ってない。 戦えない者は、部屋に戻っていた方が身のためだ」


と、船首の方に向かっていった。


船首では、セイル達が濃霧が掛かる海を見回していて、警戒をしている様子が窺えた。 ロザリーは、冒険者が手分けして見張りをしていると思って、何だか仲間意識が芽生える。


「急な事だが、チョットいいか?」


セイル達に近づいたロザリーは、魔力の入った水晶部に不安が在ると告げ。


「済まないが、槍を遣う者・・名前は?」


クラークは、直ぐに名乗る。


「うん、クラークを此処に残し。 三人は、私と来てくれないか? 水晶部の部屋は、然程に広くないので、彼には此処で見張りを続けて貰うのがイイ」


クラークは、こうゆう部分には非常に柔軟だ。


「うむ、それなら私は甲板を守ろう。 イーサー殿達と一緒に、甲板を見張る」


セイルは、一番重要な稼動部の事なだけに緊張して。


「じゃ、早く見に行きましょう」


「有り難い、こっちだ」


ロザリーは、セイル、ユリア、アンソニーを連れて水晶の在る部屋へと向かう。 広間の右奥に在る地下に下りる木戸を開けたロザリーは、カンテラが天井にぶら下っているのを見て。


「まだ、誰も出てきてないね」


横から覗くセイルは、水晶部は海と繋がっているのかと思い。


「その水晶部とは、海と繋がっているのですか?」


梯子階段を降り始めるロザリーで。


「あぁ。 水晶の下に、魔法を発動する魔法石が在って。 水晶からその石に魔力が行くと、海中に向かって魔法石から衝撃波が出るらしい」


二番目に梯子を降りるセイルは、薄暗い木の床に降り立って。


「其処から、何かが侵入したのでしょうか。 此処に降りると、何かモンスターの気配がします」


次に降りたユリアも。


「わぁ、魔と闇の強いオーラがする」


最後に飛び降りたアンソニーは、


「この蟠りは、悪魔に近いオーラだ。 その部屋に急ごう」


と、ロザリーを急がせた。


木の取り棒を用い、ロザリーは天井にぶら下るカンテラを取ろうとする。 弱めた火を少し強め、視界を良くしようと思った。


が。


「魔法の力を貸そう」


アンソニーが自前の黄金で出来た指輪に光の魔法を宿し、それをロザリーに渡す。 眩い光の魔法を借りたロザリーは、


「あ・・ありが・・と」


と。


だが、アンソニーは先に歩き出し。


「船員が心配だ、急ごう」


セイルも。


「ですね」


と、続く。


ユリアは、ロザリーの左手を引き。


「急いでっ、なんか怖い気がする」


「わ・解った」


下りの通路を、四角を描く様に降りれば。 其処には、金属の部屋に通じる扉が。 重たい錠前で施錠されて、鎖で硬く留められている筈の扉が僅かに開いていた。


剣を抜いたセイルで。


「何か居る」


と、非常に緊張した顔をした。


ユリアも、闇の精霊シェイドと闇玉が来ている中で杖を握る。


アンソニーは、ロザリーに扉の正面に立ち。 指輪に宿る光で、中を照らして欲しいと耳打ちしてから。


「セイル君、僕が開ける」


セイルは、先陣を切って突入する姿勢に入った。


アンソニーが扉を開くと同時に、素早くセイルが部屋の中に入る。 アンソニーが後から続き、ロザリーはその素早い身のこなしに驚くままに入った。


処が。


「あ・・わぁっ」


入ったセイルは、自分より大きな水晶の球体に、びっしりと黒緑色をした物がへばり付いて覆っているのに驚いた。


アンソニーは、水晶の周りにユラユラと蠢く長い物が在り。 その先端に、人らしき者が貫かれて持ち上がっているのを見る。


「くっ、遅かったかっ」


ロザリーが指輪の光で見れば、船員の二人が胸を長い物体に貫かれているのか見えた。


「アジンタっ!! オーウェンっ!!!!」


慌てて二人に駆け寄ろうとするロザリー。 しかし、それをセイルとアンソニーが止める。


「ロザリーさんっ、近寄ったらダメですっ」


「そうだっ、二人はもう死んでいる」


ロザリーは、仲間の船員が死んだと云われて、指輪を落として喚く。


「まだ確かめて無いっ!! 早く二人を下ろさないとっ!!!! はな・・離せっ!!!!」


セイルは、アンソニーに。


「アンソニー様、二人を下ろせますか?」


ロザリーを引き止めるアンソニーは、険しく顰める眉ながら。


「可能だ。 とにかく、此処を閉じて外に出よう」


その二人の話に、ユリアが。


「え? 何でっ?!」


セイルが、暴れるロザリーを押し留めながら。


「あれは、“悪魔の蔦”だよっ。 本体の何かを倒さないと切れない、魔界生まれの植物・・。 触手を操る主を見つけないと、普通じゃ斬れない」


「え゛?」


ロザリーを押し留めながら水晶を見るアンソニーも。


「あんなバケモノが居るとは、思いにも因らなかった。 これは困った・・。 とにかく、一度戻るしかない。 触手部分は、幾ら攻撃しても分裂してしまう異形の生き物が相手だ。 本体を探し出す為にも皆で話し合い、これからの事を考えなければ」


二人の会話を聞いて、ロザリーは二人を見る。


「あのバケモノが何か・・知っているのか?」


セイルは、触手の様な蔦が動き出すのを見て。


「とにかく、話は上に行ってから。 蔦が暴れ出したら、あの二人のご遺体も回収出来ません。 ロザリーさん、とにかく外に出て」


いきなりの事で、いきなりの事態。 驚きと疑問が全てを支配して、この現状を理解できたのは二人だけだった。


甲板でモンスターを撃退したと思われたのに、実はそうではなかった。 近年船を襲う怪異に襲われてしまったのだった・・。

どうも、騎龍です^^


遅くなりました^^;


ご愛読、有難うございます^人^

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