K特別編 秘宝伝説を追って 第二部 ⑧
K長編・秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第二幕
≪島に在る異点と、迫られる判断≫
予想もしない展開で、船はアポカリボン島を離れた。
甲板を見張っていたオリヴェッティ達とアンディ達は、船首の方に固まっていて。 後尾にクラウザーが二度見に行っただけ。 海に落とされた手下の男性は、丁度階段をと繋がる死角部分で落とされたのだ。
手下の男性が落とされた直後に、ウォードは殴られていた。
デッキにて、ガウ団長からこの説明を受けたKは、感情的な素振りは微塵も見せず。
「そうか。 在る意味、仲間の不手際だな」
と。
だが、島の位置と船の角度で航路を落ち着かせたガウ団長は、部下に舵を任せると。
「いや、そうとも云えまい。 カーズ達は、ボルグを誑し込んだのだろう。 下手に発覚が早ければ、行きたくて暴れる彼等の暴動を鎮圧しなければ成らない処だ。 欲で自滅するバカを相手に、彼等が傷つける様な情け無い事態に成らないで良かった。 どうせ、死んだのは街のダニだからな」
Kは、ガウ団長の非情な言葉を聞き。
(このオッサン、死んだ奴等となぁ~んか有ったか?)
と、思うのだが。 これは口に出さずに、記憶の水晶を取り出すと。
「ホラ、見て来たものだ」
と、差し出す。
だが、ガウ団長はそれを受け取らずに。
「話だけでいい。 それについては、追々に願いが有る。 其方を、是非に頼みたい」
こんな返事を聞けば、Kはその意味を察しれた。
「自治政府・・カクトノーズ行きか」
察するのが早いKを、ガウ団長はマジマジと見て。
「流石・・、御主は敏い。 そうだ。 私の正式な依頼書と共に、その記憶を自治領管理部に届けてくれい。 下級でも、悪魔など・・。 私には今でも信じられんがな。 見てしまった以上、捨て置く訳にイカンのだよ」
デッキの奥。 重ね折の仕切りを開いて壁としたその内側に、向かい合う席とテーブルが用意されていた。
温い色しか出てない様な紅茶が出され、Kは喉を潤す意味でそれを飲んでから。
「単刀直入に云う前に、コレを」
と、テーブルの上に何か黒いものを置く。
「?」
ガウ団長は、その黒い岩の塊を手に取り。
「コレは?」
「アンタの見立て通り。 欲望の多い連中が多かったからな・・。 明日まで暴れさせない様に、宝石の原石を少し持ってきた」
ガウ団長は、思わぬ配慮をソレに見て。
「御主・・」
顎で原石を指したKは、
「ソレ、オッ死んだ奴等の墓代にしろよ。 俺達のチームにも不要だし。 アンディ達も、こんなのは返って毒だ。 せめて、アンタの出来る事だろう?」
と、続ける。
「・・、そうか。 御主は、何れ暴走すると解ってたか」
「それよりも。 島の過去には、ゲートが開いた事が在っただろう?」
Kがこう聴くと。
「なっ、何を・・」
と、ガウ団長が急変する。
だが、Kは冷静で。
「余計な話は要らん。 俺は、過去にもゲートの開いた場所を幾つか、開き掛けた処も何回か遭遇してる。 行けば、どんな場所だったかは想像つく」
「・・」
ガウ団長は、何も云えずに頷く。
「見た事から話す。 その一度開いた場所を利用して、極最近に誰かがゲートを開こうとしたみたいだ」
Kがこう云うと、ガウ団長はもう目じりが裂けそうな程に眼を見張らせた。
「ま・・まさか・・・」
ガウ団長を見据えたKは、足を組んで落ち着くと。
「実質、この諸島の見張り・管理の役目は御宅だろう? その御宅の眼を盗んで、誰かが上陸してたって事だな。 ゲートこそは開かなかったが、死体や怨念に引き寄せられて、下級のデーモンが出て来た訳だ。 俺が行って戻るまでに潰したデーモンが10を超える。 島を清掃した訳じゃないから、まだ残ってるかもな」
唇を白くさせ冷や汗を浮かべたガウ団長は、Kに身を乗り出し。
「な・なんで・・開こうとしたのがわ・解る?」
「おいおい、俺は素人じゃねぇぞ。 元の穴が開いた場所で、真新しい魔界開口のマジックサークルが描かれて。 魔法使いらしき奴の不死モンスターなんかが居た。 あの血カビの跡は、人を生け贄にした証だ。 半年・・もっと近い頃に、誰かが目論んで失敗したのさ」
「“失敗”?」
「あぁ。 御宅の守ってる島のモンスター・・奴らに礼を言うんだな。 火山の北東側に、大きな空洞が在って、其処が現場だが。 その内部で、魔法を仕様してぶつけた形跡が在った。 不自然に岩壁が壊れて崩れた場所に、モンスターの死骸の残骸が在った。 魔法で撃退したんだろう」
「なるほど・・」
「ま、島のモンスターは、ゲートを開く輩でも餌でしかない野獣に成り下がったモノ。 不意を突かれたか、一気に畳み込まれたか・・。 何れにせよ、ゲートを開けずに死んで、モンスターに成り下がってンだから。 推測するに、そんな処だろうさ」
その報告を聞くガウ団長は、何故かブルブルと震えた様子で。 手を引っ切り無しに擦りながら。
「そ・・そうか。 解った」
Kは、此処まで語った上で。
「んで?」
と、問う。
「あ?」
何を云ってるのか解らないガウ団長は、間抜けな顔で返した。
「明日だよ。 非常事態って云うなら、採取などしてる場合か?」
「あっ! ・・あぁ」
俯き。 そして、顔の冷や汗を手で拭うガウ団長で。
「いや、明日だけは・・止められない。 必要な薬草が、数種。 ・・明日に行く島でしか採れないのだ」
乱れた話具合から、明らかに動揺しているガウ団長。
Kは、半眼の射る様な視線を保ちながら。
「そうか・・。 処で御宅、隠し事は無いよな?」
と、投げ掛けた。
次の瞬間。
「いっ・いやっ」
息を飲む様に、こう云ったガウ団長の顔。
“隠し事が在ります”
と、書かれている様な驚きと狼狽の混じる顔だが。
「そうか。 ならいい」
Kは、何も聴かずに席を立った。
ガウ団長は、明らかにKが自分の胸の内を読んだと判断した。
(悟られてる)
目の前から去り行く男に、嘘は通じて居無いと理解したガウ団長だった。
さて、デッキの別室。 怪我をしたウォードと共に、僧侶と僧兵が横に為っている部屋を覗くKだが。
「おいっ、呼吸困難を起こしてるじゃないかっ。 コッチは止血が甘いっ!」
と、同じ部屋に居てグッタリする調査団の面々に怒る。
だが。 魔の力が淀み、モンスターの纏う瘴気に成ると、魔法を扱うものは多かれ少なかれその力に襲われる。 負の力は、生の力を弱める働きが在り。 それに抵抗する為には、意思と場慣れした経験が必要に成る。 そうゆう意味では、調査団の魔法遣い達も病人だ。 ガウ団長以外は、その瘴気の毒気に負けて居た。
悪魔が居た事が一番のネックだったと思うKだが、こうも皆が弱るのも情けない。
(チィっ、守り手の割には、腰抜けかよっ)
結局、Kはその処置に追われた。
ブルブルと痙攣し出す僧侶は、今日一日では使い物に戻らない処に踏み込んでいたし。 ウォードも、殴られるのに使用された物が悪かったのか、傷口が少し深く大きい。 ウォードには、しっかりとした止血と傷口の化膿止めを処置し。 僧侶や僧兵に、気付けの薬を飲ませた。
ン・バロソノ島に戻ると、何とか気を失っただけと成る僧兵と僧侶を担ぐKと。 調査団に担架で運ばれるウォードが目に付いた。 その面々は、島の野営地を管理する者が詰める場所に運び込まれる事に。 だが此処には運よく僧侶が一人居て、彼等の面倒を看てくれる事に成る。
その後、昼を大きく回って開放されたKだったが。 外で買い込んだ不ぞろいの丸いパンと、中に挟む為に調理された少しの具材が包まれた紙包みを持って宿に戻れば。 今度は、相談したい事が在ると、オリヴェッティに捕まった。
待っていたらしく、部屋を案内してくれたオリヴェッティだが。 Kは、その内心を読めていて。
「謝りだの言い訳なら、俺は聞かん。 その甘やかしはしないぞ」
と、男全員が寝る大部屋に一人で入った。
廊下に残され、強張った顔を浮かべたオリヴェッティは、
(やっぱり・・)
と、眼を瞑った。
一方で、開かれたドアが閉められるまでに、そんな二人の会話を見聞きしたのは、気疲れして衣服を緩めた老人二人である。 二段ベットがやや間隔を開けて左右に並ぶこの部屋は、最大12人は泊まれる大部屋。 窓側の左右下段に老人二人が陣取って居たが。
「おいおい、カラス。 オリヴェッティちゃんを苛めるなよ」
と、好々爺然とした顔で云うクラウザー。
「うむ。 先程のは、在る意味で不可抗力も在るわいな」
と、呟いたウォルターも、リーダーで在る彼女の肩を担いでいた。
だが、部屋に入ったKは、煩いリュリュやビハインツが居無いので。
「俺は仕事の失敗を咎める気は無い。 俺に相談した所で、失敗も消えないさ。 それより、アンタ等二人だけしか居無いから言うが、なぁ~んかおかしい」
ウォルターの寛ぐベットから、一つベットを空けた部屋の中央付近に落ち着いたKは、云いながら怪訝な様子を窺わせたのである。
「?」
「・・」
このバケモノの様に強い男が、何かを怪しむなど怖い。 先にウォルターが。
「それは、島の事か?」
と、問う間。 パンに鋏む具材が冷めない内にと、鋏む作業に移るKで。
「あぁ」
と、だけ。
話の全容が聴きたいと、クラウザーは何事かと思う様な素振りで。
「どうゆう・・意味だ?」
「ん。 今日、俺が分け入ったあの島。 海に沿って覗う地形や火山と周りの島の位置から察するに、アンディの持ってた地図の一番大きな島だと思える」
クラウザーとウォルターは、歩く通路を隔てた空間で視線を交わし見合った。
Kは、隣のベットの白いシーツに眼を凝らしながら、手だけ動かし。
「眼の島で見た地図と、アンディの持つ島の地図も、実際はあべこべだった様な・・。 島に行って見て、その地形を感じるに地図と食い違う。 このズレ・・このズレは何だ?」
老人二人は、その食い違いについて考察を深めてみようと思案に入ろうとする。
此処で、間合いを空けたKは、もう一つの謎にも触れ。
「・・しかも、島で誰かがゲートを開こうとしてやがったし。 何より驚きは、あのガウのおっさん、その人物に心当たりが在るな・・。 十っ中八九、間違い無ぇ」
魔法遣いで在るウォルターは、ゲートを開こうと試みる事は、魔法遣いの違反でも最大最悪の罪だとは知っている。
「我が友よ・・、本気で云っているのか? それなら、あの団長も怪しく成るではないか」
具材をパンに鋏み終えたKは、指に付いたタレを舐めながら。
「いやぁ・・。 あの追求した時の驚いた顔、今回のハンターに対する処遇・・・。 あの団長は、関わっては居無いな。 だが、人物に強く心当たりが在るんだろう」
かなりの事態だ。 クラウザーは、チームとして考え。
「のぉ、カラス。 それを、オリヴェッティに云わなくていいのか?」
すると、Kは、
「フン」
と、鼻で笑い飛ばしてから。
「ハンターの一件で気落ちしてよ。 俺に相談と云う形で懺悔しようなんて甘い事するリーダーに、こんな事を言ったら混乱するだけだ。 オリヴェッティの周りには、リュリュを含めた甘っちょろい傷を舐めあうバカが揃ってる。 少し、立ち直るまではその辺で悩ませるさ」
クラウザーは、軽く眉を顰め。
「・・、意地が悪いのぉ」
パンを片手にするKは、実に困った呆れの様子で。
「おいおい、この旅の先がもう暗雲立ち込めて来てる。 アレぐらいの事で、俺に相談や懺悔して慰めが欲しい、叱って欲しいなんて大甘えだ。 非情な現実が、若しかしたら其処に在るのかも知れないのによ」
だがウォルターは、そんなKを脇目に見て。
「以前の友なら、直ぐに見捨ててたな。 それに比べれば、随分と甘い対処・・よの」
からかわれた気のするKは、無言で流した。
だが、何よりも地図のそのズレが気に食わないクラウザーで。
「しかし、お前の言う事が本当なら、アンディの一族はどうして・・・」
パンを噛み、一口飲み込んだKが。
「騙されたか・・、逆に隠蔽したか・・・。 只の勘違いかも知れないな」
「ふむ」
謎が一気に噴出したと見たウォルターは、窓の外から入る鈍い陽の光を受けながら。
「明日、もう一つの島を行けば解ろうかの」
此処でKは、言葉を引き締めて言った。
「どっちにしても、明日に行くなら覚悟したほうがいい。 僧兵と僧侶は、後数日は使い物に成らないからな。 島に分け入るなら、誰にも掠り傷すら着かせない覚悟が必要に成る」
老人二人は、Kが云った事に緊張をした。 もし、今日の様なモンスターが、明日の島にも居たら・・。 短期的に色々と有り過ぎた今日で、心配や不安しか残らないのが。 何よりも、Kから聴かされた謎が気味悪かった。
さて。
(はぁ・・)
廊下を行くオリヴェッティは、薄く白い溜め息を吐いて足を止める。 階段の踊り場が近く、冷たい風が下から吹いてくる。 こんな島の宿は、部屋以外の暖房などに気を遣う気すらも起きないのだろう。 下の宿の入り口は開きっ放し。 冷えるに関わらず、防寒の作りは無しの建物なのだ。
更に今、眼の島に観光船が向かった為に、宿は余計にガランとしていた。 人が居なくなったと感じられるのは、寂しく感じる大きな要因である。
足取りが重いオリヴェッティの内心は、犠牲者が出た事と、Kに突っ撥ねられた事が響いて乱れていた。 困惑と苦悩に悩まされて居る。 この先も、Kは自分を叱る事も諭す事も少なく。 全て自分で考えさせられるのだろうと解った。 この意味は、オリヴェッティにとっては酷な仕打ちだ。 叱られるとは、気にして貰える意味であり。 話をし合える事は、許容の要素も含む。 だが、Kはそれを“甘え”と言い切り、切り捨てた。 これからの旅に、Kとの関係で緩い甘えが何処まで許されるのか・・。
優しい仲間の元に戻れば、この気持ちが和らぐのは解って居たオリヴェッティだが。 何となく戻るのも気が引け、廊下でボンヤリと考え込んでしまった。
夕方迫り出す其処へ。
「オリヴェッティ?」
ガウ団長の下に行っていたアンディ達が、丁度戻って来た。 どうやら、同じ宿を選んだのだろう。 名前を呼ばれて、“ハッ”と立ち竦むオリヴェッティと、先頭で階段を上がって来たメルリーフが鉢合わせの形に成った。
「あ・・あぁ。 皆さんも、この宿に?」
自分がどんな顔をしているのだかも解らない様な気持ちの乱れの中で、メルリーフにそう受け答えしたオリヴェッティ。 相手は、先程に仲間を亡くして居る。 笑顔は無論可笑しいし、落ち着き静かな対応をしたかったのだが・・どうだろう。
階段を上がった四人は、揃って神妙な顔付き。 やはり、どんな形でもボルグを失った事は大きいらしい。 特に、アンディに肩を借りで上がって来たウォードは、泣かない男の悲壮感が強かった。
その、頭に手当ての跡を見せたウォードは、オリヴェッティにたどたどしい口調で。
「な・仲間の・・暴走で、其方にもめめ・迷惑を掛けた。 明日は、・・ガウ殿の命令で・・・貴女に従う。 どうか・・どうか・・良く使って欲しい」
急な話に驚くオリヴェッティで。
「あ・えっ? あの・・ウォードさん、大丈夫なのですか? 出血が少し酷かったと・・お聞きしましたが?」
そう、ウォードの鎧にも、彼の血がベットリと付着している。 もう半乾きだが、一夜を過ぎただけで戦える体調に戻るとは思えない。 神聖魔法で傷を塞いでも、それは塞がったに過ぎない。 完全に治るには、それなりに時間も必要なのだ。
だが、フラフラのウォードは頭を下げ。
「だい・だ・大丈夫だ。 明日には、・・元に戻れる」
すると、アンディが黙って居られず。
「ウォードさん、もう今回は止めよう。 僕達だけでも十分だよっ」
涙目を見せるニュノニースも。
「そうだよぉっ。 失うのはボルグさんだけでいいよぉ・・もう」
と、云う。
メルリーフは、オリヴェッティを見てからウォードに向いて。
「みんなの言う事が、一番当たり前だと思うんだが。 確かに、炙れてたボルグを誘おうと言い出したのは御宅で、アンディが心強いって口説きに行ったケドさぁ。 無理する必要は無いって。 明日は、ケイも一緒だろうし」
此処で“あっ”と思うオリヴェッティは、ウォードがボルグを誘った責任を感じていると教えられた。 メルリーフが、事情を会話に乗せてくれたのだ。
“いいか。 リーダーに成る以上、本格的な旅が始まったら判断を付けろ。 良かれ、悪かれ、その判断をどう付けるか。 それがチームを、仲間を動かし。 そして結果が自分の判断の材料に戻る。 一々何でも全て俺に聞くな。 既にこのチームは、君を根幹にして回っている”
この国の交易都市ロンバランダルに向かってくる船の中で、Kが自分に言った事。 思い出すオリヴェッティは、心配をしている自分の気持ちを考えた。 行きたがるウォードに、それを止めさせようとするアンディ達が居る。 最善にして、自分の下せる判断は何かを・・。
怪我をしているウォードは、
「え・ぇいっ、行く・・行くと云ったら・・・行くぞっ」
と、今までに無い荒々しさを秘めた眼を見せて言う。 フラフラだが、その眼には鬼気迫るものが在る。
言い争う様相に突入しそうな彼等が居て。 オリヴェッティは、
「所で、ガウさんは何と?」
困ったアンディは、ムキになり始めたメルリーフを見ながら。
「任せるって・・。 オリヴェッティさんに冒険者の全員を預けて、明日は採取と調査に動くって」
「そう」
それを聴いたオリヴェッティは、心配する余りに熱くなるメルリーフを黙らせて。
「では、明日に判断しましょう。 此処で言い争っては、良く成るものも成りません。 明日、私が判断します。 それでどうですか?」
フラフラしているウォードは、無理やり自分を落ち着かせる様に一呼吸してから。
「か・・構わぬ。 預け・・られた以上は、リーダーにっ・従う」
それでもメルリーフとニュノニースは、無理だと言い張った。 確かに、今の彼を見れば正論だ。
そんな女性の仲間二人に、もう意固地に成ってでも行くと貫き通そうとするウォードが居る。
オリヴェッティは、此処で言い合っても始まらず。 また、このまま居るのは、ウォードの身体にも良くないので。
「とにかく、此処で立っていても寒いだけですわ。 部屋に入って、先ずは休んだ方が・・」
島で大して動いた訳では無いが。 ショックは大きく、必要以上に誰もが感情的に成りそうな雰囲気だ。 客観的に、死人を出した時点でオリヴェッティの内心が乱れている。 これ以上、無駄な犠牲を出す訳にも行かないし。 また、暴走も嫌だ。
だが。 その先送り的な意見を嫌ったのは、何とメルリーフで。
「・・オリヴェッティが責任を持つのか?」
低い声で問うて来るメルリーフは、怖いぐらいの視線で在った。
「はい。 無理をさせられませんし。 可と言って、ウォードさんも心残りを残しては嫌でしょうから」
「それはどうゆう意味だいっ?! 行かすのか? 行かさないのかっ?!」
感情的に成ったメルリーフは、ムキに成ったままで聴いてくる。
云われたオリヴェッティは、一瞬驚いた。 だが、それを面に出さず。
「チームとして預かる以上、判断は私がします。 それが不服なら、ガウさんに掛け合って勝手にしてください」
思わずに近い判断で、熟慮の時間を得る為にこう云ったオリヴェッティ。 とにかく、一旦は冷静にお互いが成らなければいけない。 今は、顔を合わせるだけ関係が悪くなると思えたのだ。
しかし、だ。 仲間を一人死なせてるだけに、それではメルリーフは済まされない。
「アンタ・・何だその言い方は?」
と、オリヴェッティに敵意を向ける。 他人行儀な言い方に聴こえたのだろう。 急に突っ撥ねられた感じがして、怒りが起こったのだ。
「わわっ、メル姐さんっ」
「メルリーフさんっ、こんな事で怒っちゃダメっ!!」
アンディとニュノニースは、慌ててメルリーフとオリヴェッティの間に。 怒ると手が出るメルリーフは、見境が無くなる事も在る人物。 オリヴェッティ達との付き合いが浅いだけに、若い二人は一触即発の騒ぎが怖かった。
すると、一度瞑目したオリヴェッティは、何故か溜め息をしてから。
「その御様子では、協力は無理ですわね。 ・・解りました。 私がこれからガウさんに掛け合い、皆さんを明日は残して行く事にします。 預けられるなら、その判断も出来ましょう。 ウォードさんを行かせないのですから、それで宜しいですね」
この話に、今度はアンディ達4人が驚いた。
「おいっ、そ・それは・・・」
と、ウォードが言葉を失い。
アンディが、それこそ困ると何かを云おうとするのだが。
「勝手な暴走や気持ちの思い込みが、迷惑を掛ける事はさっきで解った事・・。 ですわね?」
オリヴェッティは、二の轍はしないと云う意思を先に出した。
「あ・・」
「・・・」
メルリーフやニュノニースは、何も言えない。
云ってしまった以上はと、オリヴェッティは単身で外に出ようと階段に向かい始めた。 こんな事を、逃げる様にして仲間に云うのもリーダーらしくない。 決めた事には、動こうと足に力を込める。
仲間を失い、仕事を途中で下ろされては、もう冒険者として仕事など出来ないと思えるアンディ。 何とかそれには歯止めを掛けたく、メルリーフの腕をガシィっと掴んで。
「メル姐さんっ、此処で終わっちゃうよっ!!! このままじゃっ、僕達は何も取り返せないよっ?」
と、言い寄る。
すると。
「わっ・・解った」
負けたと思うメルリーフは、苦し紛れで云う。
だが、それでも階段を降りるオリヴェッティに。
「待てっ、判断は任せるっ」
と。
立ち止まったオリヴェッティは、メルリーフに振り返り。
「行かせないだけが、正しい道じゃ有りません。 無念を残せば、それこそ一生悔やみます。 それについてだけは、・・・」
感情が言葉に変わりそうに成ったオリヴェッティだが、それを殺し。
「・・、とにかく今日は休みましょう。 動く事も出来ませんから、無理をしても仕方有りません。 さ、お部屋に」
そう言うオリヴェッティが、アンディ達にはひどく大人びて見えた。 街に篭っている彼等からして、やはり流れて来たオリヴェッティ達は異質と云うか。 在る意味先を行く・・、都会の匂いがする冒険者と感じられた。 こんな冷静な判断を下すリーダーは、街にも居無い。
遅い動きで、黙って歩き出した4人。
だが、一方のオリヴェッティは、何故かもう一度Kの元に向かった。
不思議な光景・・とは違うかも知れないが。 再度Kを尋ねたオリヴェッティは、既に横に成っていたKにこう云った。
「明日、怪我をしたウォードさんを連れて行きたいと思います。 ケイさん、何か飲ませると良い物は在りましょうか」
相談では在るが、ハッキリと何をしたいかの意思が明確だった。
話を聞いた上で、ゆっくりと片目を開けたK。 オリヴェッティの眼を下から見返しながら、当たり前の事を確認してみる。
「あの出血の多かったウォードだ。 前線に出したら、直に傷口が開いて大変だぞ」
「解っています。 でも、ボルグさんを今回の仕事に誘ったのがウォードさんで、凄くそれを気にしています。 今日の明日で島に残しても、彼の為に良く在りません。 採取をするガウさんや薬師さん達の護衛をさせられれば・・」
聴いていたクラウザーとウォルターは、少し無理な話だと思うのだが・・・。
「・・そうか」
身を起こしたK。 脇に置いたサイドパックの中から、取っ手の着いた金属の小さな薬瓶を取り出した。 オリヴェッティの片手にでも収まる物である。
「なら、コイツを飲ませろ。 自然治癒の促進に効能の在るポーション(薬水)だ。 効き目はいいが、今夜はもう起きられないだろう」
「ありがとう御座います」
貰い受けたオリヴェッティは、食事後にと云われたので。 差し入れと共に、部屋を下で聞いてウォードを尋ねた。
話を聞いたウォードは、“今夜は起きられない”に驚くが。
「・・そうか。 り・・リーダーと成る貴女が云うのだ、・・飲ませて貰おう」
と、服用した。
男二人だけが寝る狭い部屋。 一緒に居たアンディは、オリヴェッティとその薬の力に驚いた。 飲んで直ぐ、ウォードがベットに突っ伏して痙攣を起こす。 白目を向いて起こすのだから、それに値する負荷が肉体に掛かったのだろう。
そして・・。
「おぷっ」
直ぐにウォードは気絶してしまった。
薬学の事を本で読んでいたオリヴェッティは、その様子から察した。
(嗚呼・・、効くけど劇薬なのね。 真っ先に、強い副作用が来る薬だったんだわ)
Kに無理を言ったのが解ったオリヴェッティで、それに答えたKが居た。
どうも、騎龍です^^
体調の低迷が続いて居ますが。 遂に2月の15日は、本作も4周年目に入るんですね。 いやいや、書けば長いですが。 まだまだ内容の出した量が、氷山の一角だと云うのが恐ろしい。
このレベルの長編で、まだ書き始めの物がインテリジェンスですが。 膨大な物語ってのは、脳みその中では絵巻の如く入るらしく。 吐き出すと、途端に過去と成って薄れてゆく。
記憶の不思議さを、此処に感じます。
では、次は15日に更新します。
ご愛読、ありがとう御座います^人^




