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恩人なのは、間違いないけれど

 それからしばらく王城を散歩して、ジゼルは帰路についた。


 しばらく馬車に揺られた後、屋敷にたどり着く。


「ふぅ」


 自身の部屋に駆け込み、ジゼルは息を吐いた。


 今日は、とても疲れた。何がとは言えないが、とにかく疲れたのだ。


 そう思っていれば、不意にマリーズがやってくる。彼女はワゴンを押しており、その上には湯気の上がる温かい紅茶と美味しそうなお茶菓子が載っている。


「お疲れさまでした、お嬢様」


 マリーズはにっこりと笑ってジゼルにそう声をかけてくれた。


 だからこそ、ジゼルはこくんと首を縦に振る。もう、声を発するのも出来ればしたくない。それくらいには、疲れていた。


 マリーズがワゴンに乗った紅茶とお茶菓子をテーブルの上に置いてくれる。なので、ジゼルはとりあえずと紅茶の入ったカップを口に運ぶ。


(……美味しい)


 輪切りのレモンの浮かんだレモンティーは、ジゼルの喉を潤す以上に心を落ち着けてくれた。


 そのため、ジゼルはカップを元に戻しマリーズに向き合う。


「お嬢様?」


 彼女がきょとんとしたような表情でジゼルを見つめてくる。


「いえ、何でもないわ」


 しかし、そう言葉を告げた。


 実際、言おうとしたことはちょっと困ったことなのだ。


 ナデージュの様子を見てきてほしいなんて、言えるわけがない。


(マリーズがお母様に八つ当たりされちゃうものね)


 帰ってきてすぐに、メイド長にナデージュが自身の部屋にこもっているという報告は受けていた。


 とりあえず、それくらい知っていればいいだろう。それ以上知る必要は現状ない。


「……そういえば、エヴァリスト殿下とはどうでした?」


 ふと思い出したようにマリーズがそう問いかけてきた。なので、ジゼルは少し考え込む。


 ……楽しかったと言えば、楽しかったのかもしれない。疲れたと言えば、確実に疲れた。さぁ、どっちだ。


「まぁまぁ、楽しかったわ。……結構、疲れたけれど」


 結局、当たり障りのない答えを返す。


 すると、マリーズはジゼルの側にあるドレスに視線を向けた。


 バティストの婚約者を選ぶためのパーティーに身に着けていくドレスだ。これだけは、早めに渡しておくと言われたので受け取っていた。


「……とても、お嬢様にお似合いでしょうね」


 マリーズがボソッとそう言葉をくれる。


 その言葉を聞くと、ジゼルの心がぽかぽかと温かくなる。でも……。


(どうしてか、エヴァリスト様に言われるときとは感じる気持ちが違うのよね……)


 お針子たちに褒められたときにも思ったが、どうしてか同性に褒められるのとエヴァリストに褒められるのとでは違うらしい。


 確かにジゼルは彼が嫌いじゃない。むしろ、頼もしいとまで思っている。


 だけど、結局はそれだけのはず……だ。


「お嬢様?」


 黙り込んでしまったジゼルを見て、マリーズがジゼルを呼ぶ。


 そのため、ジゼルは笑った。ぎこちない笑みではあるものの、しっかりと笑えているはずだ。


「いえ、エヴァリスト様のことを、考えてしまって……」


 膝の上で手を握りしめ、ジゼルはエヴァリストに想いを馳せる。


 一度目の時間軸で、ジゼルのことをほぼ唯一気遣ってくれた人。


 だから、ジゼルは彼を『恩人』という意味で好きだったりする。……恋では、ないはずなのだ。嫌いでは、ないけれど。


(私は……)


 そもそも、ジゼルはやり直しの人生で何がしたいのだろうか?


 バティストに殺されたくない。惨めな思いをしたくない。自由に生きてみたい。


 そんな気持ちは抱いているが、実際に何が出来るかはわからない。


 魔法や剣術、商売に関しては勉強しようと行動をし始めた。でも、結局はそれだけなのだ。


 ……明確な未来が、思い描けない。


(ここら辺は、追々考える方がいいのかも……)


 とにかく。今はそんなことを考えている場合ではない。


 だって、バティストの婚約者を選ぶパーティーは数日後なのだ。この日を何とか乗り切らない限り、ジゼルに明るい未来は訪れない……はず、である。


(目は、つけられていないはずだけれど)


 ジゼルはそう思った。


 ……まぁ、それがただの思い込みであるということに気が付かされてしまうのだが。

ちょっと間が空いてしまってすみません……!次回はエヴァリスト視点の予定です(n*´ω`*n)

どうぞ、引き続きよろしくお願いいたします……!


また、かんのぞの方もよろしくお願いいたします……!

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