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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~  作者: さとう
第二章 火の国ムスタング

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七陽月下『良夜竜』ハルベルトと『枢機卿』シェルバ①

 ハルベルトは、深い傷を負って暴れていた。

 上空をメチャクチャに飛び、血をまき散らしながら痛みに暴れた。

 そして、すでに消えかけている思考が思うのは、理不尽さ。

 なぜ、こんなに痛いのか。

 なぜ、こんなことをされたのか。

 なぜ、いや……『誰』がやったのか。


『……!!』


 ハルベルトの視界に入ったのは、地上に映る様々な建物。

 そして、マギアでシールドを張り、銃口をこちらに向ける『人間』たち。


『グォォ……グガァァァァァ!!』


 ハルベルトは怒る。

 許さない。メチャクチャにしてやる。殺し、丸呑みにしてやる。

 傷は深く、血と共に命も失われたいく。

 だが、ハルベルトはもう止まらない。

 全長五十メートルを超える『良夜竜』ハルベルトは、王都に向けて急降下する。

 そして、クライブは通信マギア越しに叫んだ。


「全兵!! 構え……発射ァァァァァッ!!」


 マギナイツたちは、狙撃用の固有マギアを構え放つ。

 マギソルジャーたちは、一般兵士用狙撃マギア『ヘルハウンド』を構え放つ。

 弾丸が発射された。

 その中でも特に脅威を感じたのは二発。


「私の『貫通弾』……食らいなさい!!」

「大穴を空けてやる!!」


 ミュウとクライブだ。

 専用マギア『ブリジット』からは貫通力を高めた弾丸が、そしてクライブの『スルト』からは超高熱の特大弾丸が発射された。

 弾速のある貫通弾が身体を貫通し、特大弾丸は躱そうとしたがダメージが深く掠った……それだけで身体が焼け、ダメージを負う。

 トウマの斬撃により、本来の半分以下の力しか出せない。

 シェルバもいない。何もかもが不利。


『グオルルルルルルル』


 ハルベルトは、大口を開けて魔力を込める。

 

「……なんだ?」

「お兄様、嫌な予感がします」

「わかっている。ファランクス部隊、シールドに魔力供給!! マギアが破壊されても構わん!! 敵の攻撃を食い止めろ!!」


 王都を覆う『ファランクス』の脅威が増す。

 そして、ハルベルトの口から『巨大な火球』が発射された。

 だが……遅い。徒歩のような、ゆっくりとした速度で火球が落下してくる。

 クライブは弾丸を込め、火球に向けて発射した。


「あの程度の速度なら……!! ──何っ!?」


 だが、発射された弾丸が火球に飲み込まれ、火球が巨大化した。

 クライブたちは知らない。

 これがハルベルトの固有能力『吸収』である。

 ハルベルトが放った火球に触れた全てを吸収し、増幅し、火球の威力に変換する能力。

 ミュウ、そしてマギナイツたちが火球を撃ち落とそうと弾丸を連射したことで火球が大きくなり、ハルベルトはようやく気付いた。


「攻撃中止!! あの火球はこちらの攻撃を吸収し、力に変えている!!」


 攻撃が止まった時にはすでに、火球は直径百メートルを超えていた。

 速度は変わらない。だが、火球は確実に落ちてくる。

 ハルベルトは通信マギア越しに言う。


「攻撃対象をあのドラゴンへ!! 本体を討伐すれば、火球が消えるかもしれん……いや、それに賭けるしかない!!」


 すると、ハルベルトは動き出す。

 蛇のように、上空をグネグネと、高速移動する。

 まるで、照準を付けさせないように。


「……お兄様、あの動き、速度に対応できる狙撃手は……」

「……オレとお前だけか。こうなったら、オレたちでやるぞ」

「はい!!」


 クライブ、ミュウは、落ちてくる小さな太陽のような火球を気にしつつ、上空を這うように飛ぶハルベルトを撃ち落とすことに決めた。


 ◇◇◇◇◇◇


 一方、アシェ、マール、ハスターの三人は。


「ぐぅぅ……このダメージ、しばらく魔力を制限して回復に努めないと、厳しいですね」


 『枢機卿』シェルバ。

 白いシスター服の女は、トウマの斬撃を受け深いダメージを負っていた……が。

 それでも、アシェたちより格上だった。


「……っ」

「おいおい……」

「……ふぅぅ」


 アシェは『ヴォルカヌス&ウェスタ』を両手に持ち、ハスターは『グリフォン』を突き出すように構え、マールは『ハールート&マールート』を両手で逆手に持って構えていた。

 三人は、汗だくだった。

 それもそうだ。死ぬ寸前の傷を負った『大司教』とは格が違う。魔力を制限し、大司教レベルに実力が落ちていても、シェルバは強かった。

 シェルバはニッコリ微笑んで言う。


「月の民は皆、個人差こそあれど、みんな魔法を使えます」

「「「……?」」」


 突如、始まった謎の抗議。

 時間稼ぎ……そう思ったが、シェルバは止まらない。


「地の民……人間は、そのおもちゃ……『魔導器(マギア)』がないと、魔力を変換することができないようですね。ふむ……遺伝でしょうかね。属性術式は身体に刻まれているようですけど」


 属性術式。

 七大貴族しか使えない『地水火風光闇雷』のことだ。イグニアス公爵家の人間が火属性を込めた弾丸を精製できたり、アマデトワール公爵家の人間が水を生み出したりするのができるのと同じだ。

 七大貴族の配下貴族は、この七大貴族の属性を込めた魔石を核にマギアを作ることで、その属性を使用することができる。

 ただの人間には魔力しかない。その魔力を体内で形にし、放出することができないのだ。できるのは魔力を循環させ、身体能力を強化する程度だ。


「月の民はみんな、七属性すべてを自在に行使できます。さらに、保有魔力は人間の数百倍……大規模な魔法も自在に行使できますよ。司祭、司教、大司教ですら単独で大きな町くらいなら滅ぼせます」


 それが、月の民……月詠教が恐れられる理由。

 月で生まれたヒトならざる存在。月神が生み出した人類の進化系。

 

「僅かな魔力しかない、例外を除いて属性も持たない劣等種。それがあなたたち人間」

「「「…………」」」

「わかりますか? 抵抗は本当に無意味なんです。まあ、認めてあげますよ? 人間は足りない頭を使ってマギアを生み出し、魔力を放出する術を手に入れました。まさか、魔獣の魔石に属性を込めるなんてねえ……月には魔獣がいませんし、地上でしかわからない事実です。互角とまでは言いませんが、現にルブラン様は負けちゃいましたから」


 次の瞬間、アシェが双銃を乱射。シェルバは手を前に突き出すと、魔力の障壁が弾丸を弾いた。


「時間稼ぎよ。マール、ハスター、攻めまくるわよ!!」

「──っ、ああ!!」

「ええ、わかりましたわ!!」


 ようやく、三人の身体が動いた。

 シェルバは舌打ちする。確かに、回復に時間が必要なのでお喋りしていた。

 

(傷は深い。魔力を集中させて回復しているけど……完全完治させるには数日必要。大規模魔法は使用できないし、あまり魔力を消費するとハルベルト様へ洗脳するための魔力が尽きる。チッ……この三人を倒すには、効率よく、丁寧に、確実に……よし)


 シェルバは呼吸を整え、傷を押さえていた手をそっと離す。


「さて、子供たち……お相手しましょう。この『枢機卿』シェルバがね」

「イグニアス公爵家、『火』のアシュタロッテ・イグニアスよ」

「アマデトワール公爵家、『水』のマールーシェ・アマデトワールですわ」

「シャルティーエ公爵家、『風』のハスター・シャルティーエだ。ようやく吹っ切れてきたぜ」


 戦いが始まった。

 アシェたち三人、見習いマギナイツとしての本当の戦いが。

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