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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~  作者: さとう
第二章 火の国ムスタング

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王都へ帰還

「よし、じゃあ四人で大暴れするってことで、さっそく」

「「「待った!!」」」


 アシェ、ハスター、マールの三人はトウマの身体を掴んで動きを止めた。

 放っておけば、ヴィンセントの作戦やら何やらを無視し、すぐにでも支配領域に飛び込んでしまうだろう。一緒に行くとは言ったがあまりにも無策というのは三人も無理だった。

 なので、話をする。


「あのさ、キミ……ああ、トウマでいいか? トウマ……あの『枢機卿』は言ったよね。やるなら万全にとか何とか」

「うん、言ってた」

「で……まだ信じられないけど、キミって水の国の七陽月下を倒したんだよね。つまり、キミが七陽月下を倒す実力者ってことは向こうも知ってる。キミの対策はされてるってことだ」

「最高じゃん」

「……アシェ。彼ってずっとこんな感じなのか?」

「……アンタの気持ちわかる。交代ね」


 ハスター、アシェの位置が入れ替わった。

 アシェは咳払いをして言う。


「こほん。いい? 無策で突っ込むのはダメって言ってんの。アンタはすぐにでも戦いたいし、周りのことなんて関係ないと思ってるけど……その考え、やめて」

「……え、なんで?」

「アンタが二千年眠ってる間に、この世界は、二千年間を生きてきた人たちが作り上げてきたのよ。街道とか、この砦だってそう。マギアだってそう。そして、それを守るために、マギナイツやマギソルジャーたちは戦おうとしているの。アンタがやろうとしてるのは、そういう『守ろう』としている人たちの気持ちを踏みにじる、最低な行為よ」

「……うむむ」

「月を斬りたいなら、ただ力を試したいだけじゃダメ。今の世界をしっかり学んで、二千年前の人間が遺した大事な物を踏みにじるようなことはやめて。それすらできないようじゃ、アンタはただの破壊者よ」

「…………」


 アシェに言われ、トウマは黙りこんでしまった。

 マールがこそっという。


「アシェ、言いますわね」

「毎度、コイツにかき回されちゃ大変だからね。そりゃ、コイツが動けば簡単なのかもしれないけど……それじゃ、頑張ってるマギナイツ、マギソルジャー……お父様たちの努力が意味ないわ。それに、アタシだってもっと戦いたいし」

「ふふ、そっちが本音?」

「う、うっさいわね」


 マールを押しのけ、アシェはトウマに言う。


「ってわけで……これからだけど」


 すると、ドアがノックされた。

 入って来たのはミュウ。そして数人のマギナイツ。


「ミュウお姉様……?」

「アシェ。あなたは私と一緒に、王都へ戻ることになりました」

「王都へ? しかし……」

「我儘はなしよ。二時間後、砦の正面へ来なさい。出発をするわ。もちろん、あなた方もね」


 マール、ハスター、トウマと順に視線を向けるミュウ。

 どうやら拒否はできない。アシェは言う。


「お兄様は……」

「クライブお兄様は、お父様と交代で王都での指揮を執ります。お父様はここで、枢機卿と七陽月下が攻めてくるのを迎え撃つ予定です」

「…………」

「先ほど、『枢機卿』からご丁寧に『総攻撃』のお知らせが入りました。どうやら……敵は本気のようです。四日後に大規模な進軍……そして、『七陽月下』との戦いになりそうです」

「よ、四日後……その情報は、信じられるのですか?」

「不明です。ですが、向こうが情報を出した以上、何の対策もしないというわけにはいきません……話は終わりです。即刻、支度なさい」


 ミュウは出て行った。

 そして、トウマは立ち上がる。


「よし、支配領域に行くか」

「「「待った!!」」」

 

 再び止められるトウマ。

 トウマは、どこかめんどくさそうに言う。


「いやいや。たぶんマジで来るぞ。四日後とかすぐじゃん……俺、戦うぞ」

「……アシェ、どう思う?」


 アシェは、考え込むマールに言う。

 マール、ハスターも考えていた。


「……どうも、嫌な予感がしますわ」

「同感。オレも……違和感を感じている」

「え、なんだなんだ、なんだよ一体」


 アシェは、トウマにビシッと指を突きつけた。


「あのさ。あの『枢機卿』が『四日後に総攻撃します』なんて急に知らせてくるなんて、怪しすぎるでしょ……人間はすでに七陽月下を一体討伐してんのよ? それにトウマのことも知ってるし、馬鹿正直に攻めて来て、アンタと戦うなんてリスクを取るかしら」

「……えっと、つまり?」

「罠って可能性もあるわ」


 ハスターも言う。


「例えば、総攻撃と見せかけ、何もしてこないとか……」

「それ、意味あるのか?」

「精神的な意味ではあるだろうね」

「つまり、総攻撃って向こうが言うだけで、実際は違うってか?」

「私も、そう考えますわ」

「アタシたちが思いつく以上、お父様も同じ考えだと思う。トウマ……アタシの勘だけど、アンタは行かない方がいい」

「えー、なんでだよ」

「アンタと真正面で戦ったら危険って敵が考えたら、ハメ技で来る可能性のが高いってこと。もしかしたら……」


 アシェはトウマに『可能性の話』をする。

 トウマは話を聞き終えると、半信半疑といった顔をした。


「それ、あり得るか?」

「二割くらいの可能性ね。でも……ゼロじゃない」

「……うーん」

「トウマ、アタシは、アンタはアタシたちと王都へ行く方がいいと思う。アンタはどう?」

「…………」


 トウマは少し考え、大きく頷いた。


「わーったよ。じゃあ、俺も王都へ戻ることにする」

「決まりね。じゃ、あと一時間で旅支度して。ハスター、マールもね」

「了解だ。アシェ、キミってリーダーの素質あるよ」

「同感ですわ」

「やめてよ。そんなこと言ったらカトライアのヤツがまたうるさくなるから、学園じゃ絶対に言わないでよ」

「え、誰だ?」

「大地の……って、そんなことどうでもいいわ。とにかく、行くわよ」


 アシェたちは帰り支度を始め、きっかり二時間後に砦入口へ。

 そして、ヴィンセントやクライブに別れを告げることもなく馬車に乗り、王都へ戻るのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 一方そのころ。

 支配領域最奥にあるドーム状の建物内に、月詠教の戦力が揃っていた。

 ドーム内の最奥は七陽月下であるハルベルトの空間。だが、今は玉座すら撤去され、ただの広い空間となっている。

 その空間内いっぱいに蜷局を巻いた大蛇のような『ドラゴン』である、ハルベルトがいた。

 そして、その傍には『枢機卿』シェルバ。


「ふふ……準備なんて、必要ないんだけどねえ」


 シェルバは、顔を寄せてくるハルベルトを撫でる。

 現在、シェルバとハルベルトの前には、十名の『大司教』と、百名を超える『司祭』と『司教』が跪いている。

 そして、大司教の一人がシェルバに言った。


「枢機卿シェルバ……本当に、人間の領地を破壊するのですか?」

「ええ。水の国マティルダが堕ちた時点で、人間はもう一線を越えました。このままでは人間は間違いなく……月詠教が手に負えなくなるレベルまで知恵を付ける。そうなれば『七陽月下』といえども……」

「負ける、かな」


 突如、女が現れた。

 ギョッとする大司教、司祭、司教、そしてシェルバ。

 おっとり穏やかなシェルバが真っ青になり、大汗を流し全力で跪いた。

 

「千年以上ぶりの地上ね」


 女だった。

 着物にスカートを履き、上に純白のマントを羽織り、編笠を被っている。

 腰には二本差し。柄も鍔も鞘も真っ白な刀……いや、『小太刀』が差してあった。

 クセのついた髪は適当に結わえており、歳は十六から十七歳前後。子供にしか見えないが、この場にいる誰よりも年上だった。

 シェルバは、ガタガタ震えながら言う。


「あ、『天照十二月アマテラスじゅうにつき』……『卯月』、ビャクレン様」

「ええ。と……そう怯えなくていいよ。月でも七陽月下が討たれたと話題になってね……三聖女様の許可をいただき、こうして見に来たの」

「……さ、作用で」

「ええ。というか」


 ビャクレンは、『竜化』したままのハルベルトに視線を送る。

 シェルバはびくりと肩を震わせた。


「未熟ね。『竜化』を制御できず理性を失ったか。まあ……攻撃性は増したようだけど。そこの『枢機卿』……コイツは使えるの?」

「は、はい。私の洗脳魔法で支配しているので……このまま、人間たちに当てようと」

「ふーん。その人間たちの中に、ルブランを倒した者はいる?」

「は、はい……」

「それは面白い……一度、会ってみたいね」


 ビャクレンは、ゆっくりと振り返り……明後日の方向を見て、目に殺気を込めた。


「『月の裁き(ジャッジメント)』を斬る……この地上に、そんな人間がいるとはね。ぜひ……死合ってみたい」


 ビャクレンはニヤリと笑い、刀の柄に手を添えるのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


「……──!!」

 

 馬車の中で、トウマは目を開け、馬車の窓を見た。

 

「トウマ? なに、どうしたの」

「…………へえ」


 見られていた。

 そして、面白い殺気だった。


「……王都行き、正しかったかもな」


 トウマは、ハルベルト以上に面白くなる予感がして、ワクワクし始めるのだった。

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