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月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~  作者: さとう
第五章 雷の国イスズ

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雷の国イスズ~港にて~

 イカ料理は、連日続いた。

 アシェは二日で飽きたが、トウマは毎日でも大丈夫だった。何よりもイスズの調味料である『ショウユ』で味付けしたイカ焼きを何よりも好み、美味しそうに食べていた。

 途中、「もっと食おうぜ」と船から素潜りでイカを捕まえに行こうとしたが、アシェが阻止。

 トウマにとって、忘れることのできない船旅となって四日後……ようやくイスズの港に到着した。

 船から降りると、妙な格好をした連中が出迎え、頭を下げる。


「シロガネ様。お迎えに上がりました」

「ああ、ご苦労」


 シロガネが言う。

 アシェは怪訝そうな顔をしたが、トウマにはすぐわかった。


「サムライか」

「さすがトウマ様。ご存じのようで」

「え、え……さむらい?」


 アシェにはわからない。

 トウマが言う。


「サムライってのは……マギナイツみたいなモンだ」

「……それ、説明になってないわよ」

「まー確かに。でも、こいつらの恰好サムライだぞ」


 袴に着物、中には陣羽織を着たサムライもいた。

 シロガネが説明する。


「彼らは、イカズチ家に所属するサムライです。そうですね……アシェで例えるなら、イグニアス公爵家に仕えるマギナイツといったところでしょうか。全員、マギアを装備しているのでマギナイツとも言えますね」

「なーるほど。俺の言ったまんまだな」

「シロガネの説明のがわかりやすいわよ。ったく」


 サムライというのは、雷の国で言うマギナイツだ。

 だがトウマは気付く。


「でもこいつら、一人一人がかなり強い。イグニアス公爵家のマギナイツじゃ相手にならねーな」

「……それ、本当?」

「おう。俺が間違えるわけないだろ」

「トウマ様の言う通りです。イスズのサムライは、普通のマギナイツでは太刀打ちできないほど、対人戦に特化しています」


 すると、サムライの一人が頭を下げる。


「お初にお目にかかります。イカズチ家筆頭サムライ、ゲンジと申します。トウマ・ハバキリ様……お会いできて光栄です」


 ゲンジと名乗ったサムライは、丁髷を結った四十代半ばの男だった。

 一人だけ陣羽織を着ていること、そしてトウマから見て、シロガネよりやや強い印象を受けた。腰には刀を二本差しており、よく見ると鞘が普通よりも太く、マギアであることがわかる。

 

「───御免!!」


 バチィン!! と、アシェもシロガネも反応できない速度だった。

 ゲンジは刀を抜刀、鞘に施されたマギアとしての機能により、刀が爆発的速度で抜けた。

 居合に特化した刀型マギア『ユメウツツ』の抜刀術により、トウマの首を両断……しようとした。


「イスズの挨拶か?」

「ッ!?」


 だが、トウマは『ユメウツツ』の抜刀よりも速かった。

 ゲンジがマギアを起動させ、抜刀し、トウマの首を刎ねようとした瞬間──トウマは動き、ゲンジの刀の柄を押さえ、抜刀を封じた。

 ゲンジの目の前に、冷たい目をしたトウマの顔が見えた。

 その目が、暗い闇に沈んでいくのがわかり、ゲンジの背中に冷たい汗が流れる。

 イカズチ家に仕えて二十年、シロガネの師を務めたこともあるゲンジ。シロガネと同い年の男の目を見て、その深さ、闇に飲まれそうになった。

 そしてようやく、シロガネが言う。


「ゲンジ!! 貴様、何を……!!」

 

 トウマが柄から掌を話すと、ゲンジは下がる。

 そして、ゲンジは往来というのを無視し、部下のサムライたちと一緒に土下座した。


「申し訳ございませんでした!! トウマ様……あなたを試しました」

「ああ、いいよ別に。というかお前、強いな」

「……ええいゲンジ、説明しろ!!」


 シロガネが言うと、ゲンジは顔を上げる。


「お館様のご命令でした。トウマ様を殺せと」

「なっ」


 驚愕のシロガネ。だが、トウマは言う。


「なるほどなあ。殺すつもりで挑めじゃなくて『殺せ』か。もし『殺すつもりで挑め』だと、殺さないよう無意識に手加減が入るかもしれない。だから、『殺せ』と命令したんだな。お前が本気出しても、俺を殺せるわけがないしな」

「おっしゃる通りでございます……トウマ様、ハバキリ家のお方に手を上げた罪、この命を持って」

「待った。死ぬんじゃなくて、美味いメシ奢れよ。それでいい」


 トウマはニヤッと笑い、シロガネに言う。


「お前の親父が命じたんだろ? ふふ、そいつわかってるじゃん……イスズの女皇もだけど、お前の親父とも喋ってみたいな」

「トウマ様……わかりました。ゲンジ!! トウマ様は食事をご所望だ。用意を急げ!!」

「ははぁ!!」

「あ、できれば海鮮系で、鍋とかだと嬉しいな。あとスシとかも食いたい。イカは山ほど食ったし、カニとか食いたいな」

「用意しろ!!」

「ははぁ!!」


 ゲンジは部下を引き連れ、ダッシュで港町に消えた。

 トウマはウキウキしながらアシェに言う。


「おいアシェ、今日は港町グルメ堪能できるぞ!!」

「……来たばかりだけど、アタシ頭痛くなってきたわ……」


 この日、トウマたちは港町の海鮮グルメを堪能するのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 この日は港町に泊まり、翌日馬車で雷の国イスズの首都へ向かうことになった。

 宿屋にて、トウマの部屋にアシェ、シロガネが集まる。

 三人とも、宿屋の浴衣に着替えていた。


「いや~、やっぱ浴衣っていいなあ。しかもこの宿温泉もあったしな。海水泉とか最高だぜ」

「お湯、しょっぱいの驚いたわ。でも、お肌スベスベ……すごいわね」

「イスズは温泉地帯でもあるので。地図に乗っている町や村のほとんどに、温泉があるんですよ」

「最高すぎる……俺、ここ住んでいいかも」


 トウマはニコニコしている。

 うまい食事、温泉と、トウマが好きなものしかないところだ。 

 シロガネが言う。


「明日、イスズの首都へ向けて出発します。道中の護衛はゲンジたちがするのでご安心を。それと、女皇に合う前に我が家へ向かいましょう。父上がお待ちです」

「おう。お前の父、たぶんめちゃくちゃ強いよな」

「はい。私なぞ足元にも及びません」

「確か……アタシのお父様と同級生だったっけ」


 アシェだけでなく、カトライアやマールの父母とも同級生だ。

 それからしばらく話をし、トウマは言う。


「女皇ミドリか……俺の子孫らしいけど、実感ねぇな」

「アンタの家族の子供なんでしょ? 似てるんじゃない?」

「私が見たところでは……似てはいないかと」

「だな。とにかく楽しみだ。それに……たぶん、ここにも来るぞ」

「え、何が?」

「もちろん、月詠教だよ。ここも半分支配されてんだろ? だったら、これまでの展開通り、俺を狙って天照十二月が来る。ワクワクしてきた!!」

「……あ~、アタシは嫌だけどね」

「トウマ様。恐らく……女皇の願いも、月詠教に関することかと」


 こうして、トウマたちの新たな戦いが、始まろうとしていた。

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