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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第9章 播磨平定!!
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第93話 播磨へ

【天正二年 織田左近衛中将信忠】


これが本来のわしの姿であろう。


褌一丁の無様極まりないこの姿が。


父が信長でなければ、わしなどこのような存在なのだ。


いや、わしが次男、三男だったらこんな征夷大将軍などという大層な役職には就いていなかったはずだ。


それぐらいわかる。


だからこそ、父がいなければ何者でもないわしだからこそ、すべてを与える父が嫌いだった。


「信忠」


ふいに名前を呼ばれて振り替える。


大嫌いな父がいた。


「見事よ」


「……」


なにがだ。結局不識庵に負け加賀は奪われた。


「なんにせよ、博打を成功させたのは貴様だ。

与える。徳川三河、滝川左近の指揮権を」


言葉が出ない。ずぶ濡れの髪が風に吹かれた。


「武田戦線、貴殿に一任す」


「ありがたし」


戦は終わった。されど新たなる戦はが始まった。


【天正三年

山田大隅守信勝】


正月だから、酒宴の準備でもしようかな、なんて半ばウキウキで考えていた矢先に届いた信長からの書状。


曰く、安土に登城せよ、とのこと。


ぶっとばされてえのか。おれは今、酒宴のことしか考えてないのになんなんだよ。


「尼子殿。嫌になりますよ」


適当に近くにいた尼子殿に愚痴を溢す。その返答は苦笑い。それと頭をかくというオプションつき。



供回りを連れるのもめんどくさい。


おれはパカパカと馬に跨がって安土を目指すと

坂本に入った。そこでは否応もなしに三層の天守を備えた坂本城が目に入る。


言うまでもなく光秀の城だ。


天守を築けと信長に命令されたらしい。


光秀に会おうかと一瞬思ったが、やめた。

あいつは丹波攻めで忙しいだろうし。


きらきらと空からふるものがあった。


雪かと思ったが、手に取りすぐにわかる。


ただの埃だ。


おれは、はあと溜め息をつき安土まで駒を進めた。



「これを見ろ」


信長の開口一番は挨拶でもなく、労いでもなく

ましてやジョークでもない。用件だ。


手渡された書状には、


至急、兵一万率いて播磨入りを行うべし。毛利家領土切り取り次第領地とするべし。なお、豪族はすべて寄騎とす


だってさ。


まあ、播磨入りだ。織田家筆頭家老への道。


毛利家、その領土は山陰、山陽10ヶ国に渡り

国石は200万石を越える。更に山陰、山陽の王として備前、美作の浦上、但馬、因幡の山名家を従えている。


大国だ。それに毛利と争う前にまずは播磨36万石を平定しないといけない。


「いつあげる?」


信長の言葉はいつもいつもいつも短いが、もう付き合い長いおれにはわかる。


そう、毛利当主、毛利備中守隆元の首をあげるのはいつになるかと言っているのだ。


「10年以内には……」


「5年だ」


信長は、パーをする。だれもジャンケンしようやとは言っていない。それに5年で隆元の首を5年以内とかバカか。


「わかりました!」


「いうたな」


からからと笑う信長は、ほんとうに楽しそうだ。

いや、おれは何一つ楽しくない。びっくり。

この温度差に。



「信勝様。ご武運を」


「犬も達者でな」


お犬様は池田山に残る。だから、ひとまずお別れだ。だが、また会えるから、それに文通もできる。


「山田殿、ありがとうございまする。ありがとうございまする」


「やめて下さいよ。尼子殿。まだ毛利は倒してませんよ」


今にも泣き出しそうな尼子殿を慌ててさとす。


「長盛!」


「兵糧、武具、用意できました!」


おっしゃあと叫び頷く。


「出陣だぁ!えいえい」


「おー!!」


池田山から西へ。播磨へ。



「待っておりましたぞ!山田殿の播磨入りを首を長くして!」


摂津と播磨の国境にこの騒がしい男がいた。


小寺官兵衛だ。


「官兵衛。久し振りだな」


「ええ、山田様」


手を出したわけでもないのに、おれは手を捕まれた。


「播磨の動向は?」


「……別所が応じず難しいものかと」


播磨の豪族共は最大規模の別所の顔色を絶えず伺っているらしい。その別所が中立であるため

ほとんど中立。


だからだ。おれはこいつに小寺家を乗っ取らせて

別所を牽制できる勢力をつくれと言ったんだ。


「お詫びに、わが居城の姫路城を差し上げまする」


「頂戴いたす」


初めはへりくだって謙遜するのが筋なのなんだろうが、なんか腹立つからそんなことせん。



姫路城はちゃっちい。


中途半端に建てられた柵に、新しい木と古い漆喰が混じりあった床。そんなんなのに雑草なき周り。


どこかちぐはぐ。それがちゃっちいなんていう感想で出てくる。


ここがおれの播磨支配の拠点だ。とは言っても、

おれは播磨を支配していない。


支配しているのはここ姫路だけだし、おれの寄騎は御着の小寺藤兵衛だけだ。

だが、それも大方、官兵衛にまるめこまれて

幕府方の旗を掲げているだけだ。


播磨を支配するには別所支配が不可欠。


「祐光、どうすべきか」


おれは祐光を呼ぶ。官兵衛はなんか今一なんだよな。


「竹田攻めをするべきだ」


「ほう」


短い声を出す。竹田とは、但馬国南部の朝来郡の城だ。


「虚をつく」


祐光がギラギラと目を光らしながら、おれの方を見る。


「朝来を抑えれば、毛利は山陰から摂津を窺えぬ」


「あっ」


そうだな。そうだ。石山本願寺と毛利を断てるのか。


「山田は播磨平定に走り回る。これが周囲の見立てだろう」


そうだ。おれもそのつもりだし。


「竹田はいつ落とせる」


「一日」


「正気か」


おれは、祐光の顔をまじまじと見るが、祐光は涼しい顔をしている。


「竹田の主、大田垣新左衛門は粗暴なる振る舞い多くそれに圧政をしき、地侍より嫌われておる。

われらが攻めれば必ず呼応する。竹田を一日で落とさば、別所も服従するであろう」


そりゃそうだ。但馬南部を気付いたら落とすほど山田家が強大と知れば、別所も態度を改めざるを得ない。


「だが、呼応するのか」


「ここしか機会はあるまい。大田垣から解放される機会は」


機会という言葉を祐光は、無意識か、意識してか二度使った。


たしかにな。この時代のやつらは機会を掴めば

どこまでものぼれるのを知っている。


「それでいこう」




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