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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第8章 弾正軍神!!
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第91話 白い電

【天正二年 山田大隅守信勝】


「能登、越中衆、加賀一向衆、押されておりまするっ!」


「みりゃわかるわ!」


おれは、興奮のあまりどうでもいことにつっかかった。


すごい。包囲されながらぎゃくにこれを押し返すとは。


歴史のマンガや、小説では柴田修理亮は、時代の読めないバカみたいな扱いにされているが、それは間違っているということを確信する。


気骨溢れる猛将だ。


単身、先頭に立ち、兵を叱咤し、切りつけ、そして尚且つ押し返すなど並の芸当ではない。


思わず唾を飲んだ。


おもむろに隣の信忠殿が立ち上がった、


「出陣ぞ!」


なぜか、鎧のすれる音が遅れて聞こえた。


「出陣ぞ!出陣の御下知だ!」


おれは信忠殿の命を大声で繰り返しながら、馬に飛び乗った。


加賀一向衆を突き破り、柴田殿に攻撃を受け、押されている能登、越中衆を蹴散らし、越後衆を丸裸にし、総攻撃を加え謙信の首をとる。


絵図は描いた。あとは進むのみ。


軍神の首をこの手で抱こうか。


「出るぞぉぉ!!」


「おう!」


兵たちの威勢のよい返答におれはひとまず満足だ。


【天正二年

上杉不識庵謙信】


フム。やはり柴田修理亮は名将よ。包囲の危機を水際で防ぎ、更には自身のいのちを惜しみもなく投げ出し、単身にて押しきるとは。


これほどの強者を使いこなす信長、その信長が指揮を任せている信忠。


興味がわいてきた。


血、湧き肉おどるこの戦場にあって勝敗を決めるのは、一杯の酒を飲み干すほどの短い時間だ。


それはおそらく向こうもわかっていることであろう。


いこうか。楽しき場所へ。


「馬を引け」


馬上にて天下は望まぬ。ただ馬上にて戦を望む。


【天正二年

山田大隅守信勝】


加賀一向衆は早かった。信長の馬廻り衆と

滝川殿の奮戦で、劣勢だったところにおれたちに攻められたのだ。そりゃ、崩れる。


「押して、押して押しまくれ!」


おれの督戦の声なぞ、当たり前と言うが如く、兵たちは、加賀一向衆を追い立て回している。


よし。能登、越中衆を倒す。


「加賀一向衆には目をくれるなっ!右大将殿と合流し、能登、越中衆に取りかかるぞっ」


信忠殿が、兵を取りまとめている。


しかし、不気味なのは越後衆だ。


まだ動いていない。いつ動くのか。わからない。


だが、わかるのは越後衆が動いたときが最大の正念場になるだろうということだ。


上杉不識庵謙信。


古今に肩を並べし名将との殴りあいはどういう結末をもたらすのか。


そんなことはしったことではない。


おれが、前を向いたとき、ふいに白い電を感じた。


……なんだ。


一直線に迫り来る、白馬に跨がった僧形のものを見た。


まさかっ


不識庵謙信!


気付くのが遅すぎたのかも知れない。


「不識庵謙信ぞ!」


回りの奴等も気づいたようだ。


ある者はその至宝の首を求め、またある者は、

武器をかなぐり捨て逃げ去った。


おれの目の前に迫ってくる。


おれは、口を結んで刀を振りかぶった。


謙信の姿が、射程に入った。


勢いよく降り下ろす。


謙信はまるで、わかっていたかのように刀で

おれの面打ちを受け止めた。


目が充血している気がした。


「お主、中指はどうした?」


「関係ねえ!」


そのまま、手首を返し横に刀を放った。


それを謙信は無表情に防ぐ。


「気に入った」


そういって、口元だけで笑った謙信のその目はおれを吸い込みそうだ。



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