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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第8章 弾正軍神!!
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第89話 手取川

【天正二年 山田大隅守】


増水しきった手取川を渡ると、そこには上杉軍が待ち構えていた。


七尾城落城は予想していた。問題はそこではない。


敵の先陣は、加賀一向衆8千。だが、二陣が問題だった。


越中衆と能登衆1万。


能登は制圧したばかりのはずだ。それが何故、兵を動員できる?


できないはずだ。だが、今、現実にそのできないことは目の前に起きている。


認めなくてはならない。きっと、どこかで避けていた答えを。


上杉不識庵謙信は化け物だと。


おれの混乱する思考を助けるように、雲間から一筋の光が降りてきた。


それは淡く、また、美しかった。


くそが。雨が止んだということは、視界が開けるんだ。


開けていない視界の中、前に前に物量差でおしこめば、勝機はあった。だが、晴れれば、視界が広がれば、そうともいかない。


今まで、運を味方につけてきたのは、おれたちだろ?


幸運の女神の寵を受けて、勝ち続けてきたじゃないか。


それが、なんで今回は運が不識庵に味方する?


いや、やめておこう。


空は晴れた。さっきまでの曇天が嘘のように

蒼く澄み渡っている。


この碧空のように、ポジティブにならないとな。


ふと、気が付いた。


遠くにいる、白馬に跨がり、白い頭巾を被り、白い布を鎧に巻いている男に。


上杉不識庵謙信。


観たことはない。が、わかった。


何故だかわからない。


これが、戦国を代表する化け物ということではないか。



【天正二年

織田右近衛大将信長】


斬って、斬って斬りまくり、乱戦に持ち込み不識庵めを誘きだし討ち取る。


これのみよ。


無謀にしか見えぬ。だが、冷静に考えれば考えるほど、これが最も勝算があることがわかる。


思わばわれは不識庵謙信と互角に争った徳栄軒信玄との勝負は、徹底的に避けた。それは

われは信玄には勝てぬと考えたからだ。


だが、謙信には勝てる気がする。


不識庵は、その天賦才能でここまで勝ち続けてきた。信玄は幾度もの失敗を繰り返しながら、

大きくなった。


どちらを相手にすべきかは明白だ。


天賦の才能などは吐いて捨てるべし。


そのようなものを持つものは、河原に転がる石の如くいる。


だが、苦心と幾度もの辛酸を舐め、成功を掴み、

悩み、苦しみ抜いた末に得た才能であれば

それは、天賦の才能より勝る。


織田家とは、そのような者共を集めた。


だからこそ、われの理想とする絢爛豪華なる世も実現する。


「修理めは、どうだ」


「はっ!士気天をつかんばかりにございます!」


そうか。


ならいい。


馬の尻に鞭をやった。


「いくぞっ!軍神の首、その手につかめや!」


【天正二年

上杉不識庵謙信】


「大将信長、前に出ましたっ!」


「加賀一向衆めに一任せよ」


一向衆がどこまでやるか。見物ではある。


わしに味方能う集団であるかどうか。


強者であれ。その姿こそが美しいのだ。言い換えれば美しくあれ。


信長の旗である永楽銭が風に揺れている。


風はそれほど強くはないが、揺れるとするなら

それ合戦の熱気であろう。


狂え、でなければ死ね。


このような合戦は心地がよい。


「酒を」


桜の下でもなく、満月のもとでもなく酒が似合うのは、ここだ。


「義、よの」


酔うほどに飲むのは、やめておこう。


【天正二年

柴田修理亮勝家】


「攻めて攻めて攻め掛かれやぁっ!」


掛かれ柴田に退き佐久間米五郎左に木綿藤吉


かつて世に謳われた文言だ。


そうだ。わしは掛かれ柴田だ。織田家最強の部隊の主として、数々の武功を挙げ、管領の地位まで得た。


まずは、加賀一向衆を打ち崩す。


馬上より、槍を降り下ろし冑を割った。ついで一閃し頭蓋を割った。


―このような雑兵首、価値もなし。


「奮え!そうして掴め!首を、武功を!されば必ず、わしは貴様らに褒美を与えん!」


声を枯らしながら前に進んだところ、加賀一向衆の一部が、崩れ始めたのが見えた。


―そこかっ


「かち割れぇぇぇぇぇ!」


槍を前に向け、顔が崩れるほどに叫んだ。

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