第84話 北陸
【天正二年 随風】
なーにが、戦国最大の悪党だ。
なーにが、天下だ。
ただただ派手に散りやがって。
荒木に、弾正。おれの見る目が無さすぎる。
山田大隅守信勝。
なぜ、おれはこの男を殺したい?別に何をされたわけでもない。
次に行くのは、もう決めた。武田四郎の知恵袋、真田安房のところだ。
今度こそ、次こそは、山田を討ち取ってやる。そうと決まれば落ちるしかあるまい。
ここから、真田の領国の信州上田まではかなりあるな。
ふん。中仙道の旅にでも参りますか。
まだまだ死ぬ気はねえぞ。なあ、山田?
【天正二年
雑賀孫市】
北の空が赤い。これが北東の、安土の方面ならいいんだけど、残念ながら、信貴山の方面だ。
「孫市、どうするつもりよ」
だから、なんで、りんがいんだよ。おれは、この幼馴染みの顔をちらりと見て、唇を尖らせる。
いや、このことをりんに行ったら、
あんたには関係ないでしょ!?
なんて言われて、頬を張られる。地味に痛い。だから、言わないし、こいつの質問に答えてやる。
「大丈夫だ」
「へえ。どうして?」
「軍神さんと、顕如さんがいる」
軍神とかいうふざけた通称をもつ上杉不識庵とは会ったことないが、顕如さんがこのまま終わるとも思えない。
石山の民しか眼中にないのは、紀州しか眼中にないおれと一緒だ。
だからこそ、親近感がわくんだ。
「じゃなくて、あんたが信長を討ち取るんじゃないの?」
「いんや、それは軍神に任せる」
「は!?」
口をあんぐりと開けているりんは面白い。
「正確に言えば、信長の足止めをする」
「足止め?」
ちょこんと小首を傾げたりんを可愛いなんて思ってしまったおれはもう駄目だ。
「松永が自爆してまだ日が浅い。だからこそ大和に出陣だ」
「へえ。引きこもり脱出かぁ」
「うるせ」
【天正二年 織田右近衛大将信長】
「光秀、うぬなら如何する?」
「はっ。岐阜の上様、及び滝川殿を北陸に送りまする」
なるほどな。紀州勢が大和を荒らしている今、われは容易に動けん。それにわれが安土、中央より動かば、謀反が起きる可能性も捨てきれない。
短期間で有象無象の豪族共を取り込み、巨大化してきた織田家は、国とは言えないほど脆い。
「それに、義弟を加える」
「……山田殿にございますか」
少し、意外そうな顔をした光秀を見ていると、
光秀は、その右目を光らせた。
「恐れながら、質朴なる柴田殿、織田家を第一に考える滝川殿とは違い、山田殿は不識庵に魅せられるやもしれませぬ」
そうだな。五郎左を外したのは、やつが聡いからだ。それはつまり敏感であるということでもある。不識庵は、敵味方に関わらず、人を魅了すると聞く。
「いや、義弟には不思議な魅力がある。それは不識庵を陰らすやも知れぬ」
「……はっ」
光秀は平伏する。
「神を信じたことはあるか?」
「いえ、一度たりともございませぬ」
「われもだ」
光秀の手を取った。
【天正二年 山田大隅守信勝】
北陸への出陣命令が下された。無論、敵は軍神、上杉不識庵謙信。
以前、フルボッコにされた武田信玄と、謙信は同格だ。
だが、おれも少しは成長したんだよ。それを見せてやるさ。
「楽しみだ」
「……まあ、それは結構なことだ」
慶次は慶次だ。
「多羅尾と、祐光と、右近はついてこい。留守役は茨木殿と、長盛」
現在、北陸の状況は予断を許さない。
越中がついに上杉の手に陥ち、この越中衆をふくめた2万5千という大軍をもって能登の七尾城を囲んだという。
おれと信忠殿と、滝川殿などが北陸の柴田さんが合流すれば、四万の大軍になる。
以前、信貴山を囲んだ軍と同数だ。ただ、信忠殿が連れていってる兵は紀州勢に備えるため、
以前より少ない。
ただ、越中兵はまだ上杉の組下についてまだ浅い。つまりまだ、指揮系統が満足できない状況であるはずだ。
つまり、謙信に付け入る隙はあるということ。
ポジティブにいくしかないでしょ。
兜の緒を締めた。
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