第76話 東は結構優勢。でも西が問題。
【天正元年 羽柴筑前守秀吉】
堺とは不思議な街だと思う。
商人の支配下にあったが、右大将様の上洛と共にその支配下に入ったが、その商人らしい雰囲気は随所に感じられる。
ところせましと並ぶ商家に、珍しい南蛮物を扱う露天。
いや、その具体的なことだけではなく、吹く風や、地面の砂。
幼い頃よりいろんな土地へいったから、こう敏感なのか。
ならば、四国とはどういうところなのだろうか。
地図は頭に叩き込んだ。
既に讃岐は内々に幕府への忠勤を誓っている。このまま阿波三好を攻め立て、義栄を殺し、伊予を攻めとり、最後に土佐を攻めとる。
問題ない。
土佐の長曽我部なる大名が勢力を伸ばしているというが、所詮は田舎武士。
百姓より泥を啜りながら這い上がり、
数々の死線を潜り抜け成長してきたわしの敵ではない。
それに、わしの寄騎、家臣団は他に類をなきほど優秀だ。
半兵衛、小一郎、小六、七郎左、弥兵衛、半左衛門、伊衛門、権兵衛……
思い付くだけでもこれだけの優秀なるものたちだ。
これだけではなく、子飼いの市松、虎之助、更に最近小姓に加えた、佐吉も中々だ。
四国を制圧後、九州入りの先鋒を賜り、大功を建て、織田の筆頭家老にまで成り上がってやる。
わしにはそれができるのだ。
この者共とならな。
半兵衛の空咳が聞こえる。
「青瓢箪!どーした!」
「いえ、なんでもございませぬ」
さて、渡るか。
【天正元年
斉藤内蔵助利三】
幕府管領。このわずか八名。いや、関東管領不識庵謙信を含めれば9名しかいない幕府の重職。
その名に偽りなしか。
殿、明智日向守光秀は丹波入りの下知を賜ると、
一戦もせずに調略のみで東丹波を制圧し、人質を執り固めた。
それもすごい。
服従を誓いながら、人質を取ることに難渋していた家には、御自身で赴き、匂いでもするのか、ことごとく嫡男の居場所を突き止め、これを人質としていた。
だが、その後、軍役の軽減と年貢の軽減と、坂本よりの兵糧や銭で丹波を領土を潤し、恨んでいるはずの豪族も殿に心服している状況だ。
「しかし何故、嫡男の場所がわかるので?」
「人が最も隠したい物ほど私の目にはよく映るのです」
そう言うと、殿はわしの右胸に指を差した。
「お見逸れ致しました」
わしは右胸より脇差しを出す。かなりの業物だ。
「ほう。それは?」
「豪族より巻き上げました」
「ハッハッハ」
罪には問われずに済んだ。
【天正元年
山田大隅守信勝】
池田山城はその名の通り、池田山に築かれた城だ。ただただ攻められにくいよう築かれたこの城の回りにはたくさんの木々が咲いている。
春には桜を咲かせ、秋には紅葉をつけ、やがて散る。
今は緑か。
緑の葉が視界の端を捕らえ、独占する。
光秀、東丹波制圧、秀吉、讃岐入り。
これらは否応もなしにおれを焦らせる。
たしかに播磨入りの確約はもらっっているが。
北陸は上杉、柴田がやがて制圧することはもう決まったようだし、関東管領の謙信も北条と争えば、武田は単独で織田と争わなくてはならない。
そこを信忠殿が攻め混む。
東は結構優勢。でも西が問題。
四国はまだ攻め始めたばかりだし、本願寺は健在。紀州も暴れているし、毛利も三村家を滅ぼし、浦上家と同盟を結んだ。
このまま毛利が播磨入りをやっちまうと
播磨が毛利の手に落ちる。
播磨は統一勢力がないからすぐ大勢力に靡く。
いや。三木の別所が東播磨半国を領有しているが、小勢力に変わりはない。
いや、おれより焦っているのは尼子一党。
この前、尼子殿が
「播磨入りはまだでござるか」
「上様の御指示あるまで待機だ」
で、その後、入れ替わるように鹿之助が
「播磨入りはまだでござるか」
「上様の御指示あるまで待機だ」
あれか。これはリプレイか何かか。
御家再興にかけているんだからわからないこともないけどな。
で、おれの寄騎たちは全員、おれの家臣になった。
でも、祐光と右近と慶次はいつもどおり。茨木殿はおれのことを殿って呼ぶようになった。
「そうだ。花隈の多羅尾に播磨の情報を集めるよう申しておけ」
おれは家臣を花隈にやった。毛利が来たら、信長の尻を蹴飛ばしてでも播磨入りの下知を出させてやる。




