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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第7章 包囲網!!
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第75話 安土

【天正元年 山田大隅守信勝】


四ヶ月で安土城の築城は完了した。


朝日を浴び、金色の屋根は光輝き、朝靄を写し出すと同時に、前方の琵琶湖にもそのいかめしい姿を写し出していた。


五層の天主閣、天守閣ではない。

天の主、右大将信長が天の主であることを示しているようだ。


噂によれば、周囲の仏像などを

この安土に安置しているらしい。


神すら従えようとする信長はどこへいこうとしているのか。


将軍である信忠殿は岐阜にいる。


ここまでの規模の城をわずか四ヶ月で完成させるとはな。


天下の面目躍如なり。


築城奉行の丹羽殿を信長はこう誉めたらしい。


おれが安土に来ている理由は、信長に頼むためだ。


播州入りの下知を。


「摂津より御苦労様にございます。ここにてお待ちを」


登城したところ、堀久太郎に待たされた。


この秀才らしさが鼻につく堀はここまで肥大化した織田家の中枢だ。


諸国の使者、大名の取次ぎを任されている。つまり堀がその気になれば

書状を握り潰すことも可能ということだ。


見方によれば幕府管領のおれより上位ともとれる。


信長は幕府を超越している。


「山田様」


「ん?」


「何の御用件でございますか」


「お前には話す必要ないだろ」


増長しているか。おれは堀をちらと見たが、よく考えれば、こいつはおれの書状を見ているんじゃないのか?


―馬鹿馬鹿しい。


やがて、一人の童子が降りてきた。


「右大将様、お目通り可能と」


ふう。ようやくか。


「なあ、堀」


「はい?」


「天守とは、どういうものだ?」


「御自身の目で御確かめを」


「はん」


ただ、説明できなかったんじゃないのか?


おれは階段を登り始めた。


天守は異様だ。


八角形の部屋に、畳は一枚。その周りは全部板。


普通の城のように一段高い間とかはないが、だからこそ、このたった一枚の畳が際立つ。


もちろん、そこに座るのは信長。で、その横にはいつもの堀ではなくて、さっきの童子。


で、信長の前で平伏しているのがおれ。


信長は無言だ。


おれはちらと信長を盗み見たところ、横の童子が目に入った。


イケメンだな。


恐らく、信長のホモ相手だな。


この時代、男と男のホモは普通だ。いや、おれはしていないが。


高校、中学では各部活に一名ずつゲイという不名誉なあだなをつけられるやつがいるが、それも

ゲイじゃない。けどほとんどの武士は、

ゲイだし、女好きだ。


おれはこう考えてみると、このおっかない大魔王が滑稽に見えてくる。


やばい、笑う。やばいー


「義弟」


お、よかったぁ。もうすぐ笑らってしまうところを、タイミングよく信長が呼んだ。


「はっ」


おれは澄ました顔で信長を見詰める。


「毛利司令官は貴殿を任命するつもりだが、しばしまて」


……あれ。めっちゃすんなり行ったぞ。


「ありがたし」


おれは疑問を知られる前に平伏する。


「ふ。昨日、秀吉が四国入りを願ったので許可したところだ」


四国?たしか幕府に反抗する勢力は阿波、讃岐の三好だけだったはず。伊予の河野、土佐の長曽我部は中立のはず。


「四国を秀吉の一手に領させ、銭を流通させる」


なるほど。要するに、銭の流通は一人のほうが上手くいくし、河野、長曽我部は銭を理解していないと判断したためか。


「武田は奇妙と左近に、本願寺は信包と佐久間に任せる。光秀には丹波を」


「はっ」


信長、いつになく喋るな。安土ができて機嫌がいいのか?


「紀州はわれ自ら成敗する」


うん。つまり紀州攻めで何かあったら方面軍壊滅の恐れがあるな。


優勢な北陸方面軍、敵が微弱な勢力しかいない

四国方面軍、まとまった勢力がいない丹波方面軍、建て直しが急務の武田が相手の

甲州方面軍、石山に引きこもっている本願寺方面軍はともかく、毛利は強大だ。


「上杉臣従は大きいがな」


そう。あの上杉不識庵謙信が岐阜の織田幕府に臣従を表明した。


これは大きい。


「そう気張るな。いずれ下知は出す」


頬杖をつきながら笑った信長は上機嫌だ。


ちらりと窓の外を見ると、一面琵琶湖が広がっていた。


湖の青さと空の青さ。


信長はどちらも支配したつもりなのか。

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