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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第7章 包囲網!!
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第72話 三本矢

【元亀四年 山田大隅守信勝】


久しぶりに若狭に入った。上様直轄領だ。


日本助が尼子家を預かっている理由はわかる。彼も、一度は尼子水軍として

駆け回った時代があったからだ。


だが、何故おれに引き合わせようとする。


いや、何故おれを毛利戦線の司令官にしようとするのか。


策が入り乱れ、人が泣き笑うこの戦国時代。


日本助のこの行為がただの善意だとは思えない。


それを見極める。


おれは喉が渇いたので、水を飲んだ。



「よう」


入ると、日本助だけが胡座をかいて座っていた。


「尼子殿一行は?」


「奥だ」


右手で頬杖をついて、左手の親指で示す。


「ひとりでお出迎えとは言いたいことでもあるのか?」



日本助は何も答えない。が、その代わりかにやりと笑った。


「おれはお前を支援するつもりだ。いや、おれだけじゃなく、呂宋ともな」


「お前ら、知り合いだったっけ?」


「お前と言う共通の知り合いがいるだろうが」


成る程ね。友達の友達は友達っていうことか。

違うな。そんな言葉ない。


「そいつはどうも。で、なんでおれ?」


「おれらはお前らにやってほしいことは、毛利討伐じゃなくて、播磨平定なんだ」


播磨……。摂津の隣国。なにかあったか?


……あ。


「瀬戸内海の権益か?」


「ご名答だ」


摂津沿岸から播磨沿岸の瀬戸内海。


たしかにおれが播磨を獲ればかなりの権益を

手に入れれる。


「おれに管理をやらせろ。物流は呂宋。安心しな。播磨平定後もお前に協力は惜しまねえし、

銭だって納める」


おれが迷っていることなんか、構わず日本助は

喋り続ける。


たしかに瀬戸内海の権益は魅力だし、毛利領も

魅力的だ。だが、敵は毛利隆元。そしてそれを

輔佐するは両川と名高い吉川駿河守元春と、小早川左衛門佐隆景。


信長は四方の敵に対処しなくちゃならないから、

山陰山陽には出向けない。


おれが単独でこの大国と当たらなければならなのか。


たしかに大国ならばこそ、討伐が上手くいけば得られる褒美も格別だ。


だが、危険だ。


まず勝てる相手かどうか。


断るなら、今すぐ回れ右をし、尼子一行と会わずに帰ればいい。


だが、会い、こいつらを組下におけばおれは

その時点で毛利方面軍、最有力候補になる。


おれは、どうしたい。


今までのおれは出来すぎだ。侍になり、大名になった。だが。


戦国大名ってのは、もっとぎらつくべきなんじゃないの?


いや、そんな建前とかじゃない。


おれはもっと得たいんだ。大名にしか得られないものを。


おれの答えは決まっていた。


「会おう」


「そうこなくちゃな」


日本助とおれはハイタッチをした。


【元亀四年

毛利備中守隆元】


決断の時よ。


毛利の家の存亡をかける。


足利義栄の名で書かれてある手紙には、自分に臣従することと、もし臣従しなければ領内の

一向衆を蜂起させる旨が書かれてあった。


義昭を動かすのは織田。


坂祝で武田を破った織田方が天下の中央にたったと言うことであろう。


こも義昭方と義栄方の争いは精々、畿内周辺の話であった。それがここまで来た。


義昭公が勝っても、天下を取られまい。必ず織田が、織田上総介が室町を食い破り、天下を獲るであろう。


既に中央を押さえている織田に逆らうのは得策ではないのかも知れぬ。だが。


「兄上」


「すまぬ。そちたち二人を呼んだことを忘れておった」


「しっかりなされませ」


弟を見る。隆景と元春を一瞥する。


三本矢。


父上に言われた言葉だ。


矢は一本なら折れるが、三本纏めれば容易には折れぬ。


そう。毛利家の当主はわしだが、毛利の決定は三本矢によるべきであろう。


「恐らく、信長は来るまい」


「ええ」


海運を握り、諸国の情報を数多く知る隆景が叩頭する。


周辺に多くの敵を抱える信長は山陰山陽にまでこれぬのだ。つまりわしらがもし相手をするなら、それは代官。


代官になるのは、大名級のものであろう。


柴田修理は、既に北陸に出ている故、除くとして、つまり残りだ。


佐久間右衛門尉、明智日向守、滝川左近将監、

丹羽五郎左衛門、羽柴筑前守、山田大隅守のどれかであろう。


「元春、勝てるか」


「信長で互角でありましょう。それ以外なら勝てるかと」


それを聞くと、覚悟を決めた。


「我等毛利は義栄公に御味方する」


「存念を聞いても?」


「我等毛利は、父が豪族風情より成り上がらせた

言わば、成り上がり」


「承知しております」


「父上は仰っていた。我には信がないと。そう、同じ成り上がりたる信長には信がない。対して、我等は領土の拡張には熱をあまり注がず、

領国の信を得るために力を注いできた」


「つまり、我等が天下人たるべし、と?」


元春が天下人という威勢のいい言葉を言い放った。


「いや、違うな。天下を望むなは父上の遺言。これは守るが、信なき者に天下の治世は勤まらぬ。

天下のあるべき姿とは、地方を信あるものが治め、中央を信はあるが微弱なる足利が立つものよ」


「兄上のお考えに、賛成ですな」


たしかに、これは果てしなく険しき道なのかも知れぬ。


だが、我々が築き上げた領国と、信。これは失ってはならぬ。


「元春よ、備中の三村を攻め滅ぼし、備前の浦上は脅迫し、同盟を結べ」


「承知」


周辺の敵と力を合わせ、織田を中央より引きずりおとす。


それはできる。


我等、三本矢を始めとする毛利家臣団ならば。


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