表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第6章 坂祝!!
64/157

第64話 撤退

【元亀四年 穴山彦六郎信君】


あいつは、礼儀を知らぬのか。


信玄公の義弟であるこのわしに対して使番をよこすなど。


用件があるなら、諏訪自らわがもとに来るのが礼儀であろう。


返す返すも苛ついてくる。しかもここで勝っても、結局、天下人になるのは諏訪四郎ではないか。諏訪家に天下を取らせる為にわれは骨を折ったのではない。


わしは、采を力任せに折った。そして。使番を見る。


「わが領国にて不穏な動きありとか。退却させてもらう。四郎殿によろしく」


「穴山殿!?」


わしは、使番を追い返し、馬に乗り陣払いを始めた。


【元亀四年

諏訪四郎勝頼】


「穴山殿、そして逍遙軒殿、退却にございまする……」


「どういうことかぁっ!」


横の長坂が、顔に汗を浮かべながら吠えた。


「左様か」


「……陣代殿、如何なされますか」


如何するか?どういうことだ。


わしが、じっと長坂を見ていると、彼は口を開いた。


「ここで謀反人二人を追いまするか?益田川を渡るまでに攻撃さえすれば、首をとれまするぞ」


「控えい。謀反に非ず」


確かに、これは許されざることだ。だが、まだ勝つ手はある。


上総介の首は諦める。だが、勝つ。


山田大隅守の首。


西部戦線を崩さん。


いや、待て。


グルグル思惑が回る。


これこそ上総介の狙いか?


わしがみだりに兵を動かすことを狙っているのか。


そうか。わしが出てきたところを、あの2万の後詰にて叩くつもりか。


ということは、あの者はふたりの退却を見抜いていたということか。


ぞっとする。まさかこれほどまでの男だったとは。


だが、右翼、左翼とも我らが優勢。


これらを抑え込み、本陣壊滅の意気で本陣に急襲をしかける。


上総介の敗走は畿内諸勢力の反乱を招く。


「隊列を整えよ!!」


「陣代殿、出陣にございますか?」


「いや、準備だけよ。しかし出陣の下知あらば

その命運を天に任せよ」


【元亀四年

掘久太郎秀政】


殿は、これを予測しおったのか!?


なら、ここで後詰投入か?


いや、殿は、相変わらず動かない。


ふと、気付いた。殿の目線が、右翼に注がれていることを。


……山田の陣か?


しかし、何故?


【元亀四年 徳川三郎信康】


穴山、逍遙軒撤退か。つまり赤備に後詰はない。


つまり、一重。


なら、ここで押し込むしかない。


好機はここにあり。


「火縄銃を捨て、刀を抜けい」


「若、どういうおつもりか?」


「全軍突撃。崩したあと、すぐさま父上の援護に回る」


「なっ……」


左衛門尉の驚いた顔から目線を外す。


「……正気にござるか」


「ああ」


采を捨て、槍を手に取った。


「ここで行かなければ、父上は恐らく、討ち取られる。そうなれば徳川の敗けよ。死あるのみ。ならここで希望をもって死ぬべし」


「わかりもうしたぁっ!」


耳がつんざくような大声だ。


「いざいかん!」


馬を思いっきり駆け出させた。


それにつられるように周りの兵もわしに続く。


「一番槍ぃ!鳥居強衛門なり!」


名乗りを聞いたあと、叫ぶ。


「押し込めやぁ!」


【元亀四年

山田大隅守信勝】


前田隊の殿がなんとか防いでいるが、正直これを突破されれば本陣だ。


すでに、多羅尾、右近、茨木殿は右に、左にずれ

包囲の形をとっている。


なんとか刑部大輔氏真を誘き出せないか。


その矢先の、穴山、逍遙軒の撤退。


おれは思わず、祐光の顔を見る。目があった。


「へ。どうやら同じこと考えているみたいだな」


「お前と考えが合うとは珍しいな」


そうだなとおれは笑った。


ここでおれの首が欲しければ、後詰は不可欠。


だが、後詰の二人は撤退。なら、後詰に来れるのは一人。


今川刑部大輔氏真。


確かに四郎勝頼の可能性もあるが、限りなく無い。


ここではそんなに動かせない。


だが、確証はない。なら。


「沼田隊前田隊、及び本陣。前に出るぞっ!」


「その中指でか?」


慶次が不機嫌そうに言う。


「ま、死なない程度になんとかする」


「嫡男いないから不安だな。いや、信勝の血など

残さぬ方がよいか?」


「さよ殿とズッコンバッコンばっかやってる変態軍師らしい発言だな」


おれは、祐光の頭を叩く。


「出るぞっ!刑部大輔氏真を獲れっ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ