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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第6章 坂祝!!
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第61話 孔明

【元亀四年 山県三郎兵衛尉昌景】


数多の戦場を駆け抜けてきたわしでさえ、このような決戦は初めてだ。


だが、決戦においてもわが赤備の目標は決まっている。


徳川三河の首。


赤備の勝利をこの一点に賭ける。


そのためにやるべきことをすぐさま考える。


戦場と一体と化し、息を吸い、吐く。


考えが閃く。


敵の弱点ではなく、予想外のところを叩く。


益田川の下流方面の部隊長は、高名な本多平八郎だ。


なら、ここを。


3千の赤備で1万の徳川軍を破るには、これしかない。


そして、赤備ではなくすべての先鋒は槍の切っ先に似ている。


鋭さが先鋒のすべてだ。


逆に、眼前に広がるような大軍は網だ。


搦め取られる前に破らなければならない。


なら、二点より勢いよく突き刺せば、どんな網でも破れるだろう。


確かに、戦力の分散は勢いの鈍化を意味する。


が、赤備は並の先鋒とは違う。


「8百を持ち、下流に下る。わしがこれを指揮す!」


「なりませぬ!」


赤備の一人が止める。たしかにこれは大きな賭けだ。わしが率いる別動隊は

後詰めを受けれない。


だが、わしは目を見開き怒鳴る。


「貴様らはなんぞっ!」


これを聞いた者共は、カッと顔付きをかえる。


そう。我等は赤備えよ。


【元亀四年 山田大隅守信勝】


やられた。竹束の後ろに隠れていた騎馬隊の強襲を受け、ついに白兵戦。


先鋒の慶次を信じるしかない。


「やるな……」


采をもつ右手が重く感じる。平家物語の木曽の最期の台詞、日頃何とも思わない鎧が今日は重く感じるというのは、こういう気持ちだったのだろうか。


いや、まだ負けたわけじゃあない。


「信勝よ」


「なんだ、祐光」


「包囲殲滅敢行いたすべきかと」


「詳しく言ってくれ」


おお。やっと軍師の出番か。


「わざと、慶次を引かせ、空間をつくりここに入った今川軍を四方に配したほかの部隊で叩く。だがこれには」


祐光が、目線を地面に落とす。


「高度な連係がいる。急造でできるかはわからぬ」


なるほどね。うん。


へ。腹は決まった。


「それでいく」


「いいのか」


軍師が驚いたら様ねえだろが。


「右近、茨木殿、多羅尾、こいつらとなら

不可能でさえ可能に感じれる」


「愉快だな。ま、否定は致さん」


おれは、すぐに他の部隊に使番を急行させた。


「さすが、今子房だな」


子房とは、古代中国の軍師だ。漢の初代皇帝、高祖劉邦の軍師として天下取りを助けた。


「ふん。お主は高祖ではないだろう」


「では、なんなんだ」


「劉玄徳だ」


へえ。あの劉備とおれを並べるのか。え?いや、待てよ。


「てめえはじゃあ孔明かよ」


なんだ、この他人を上げて、自分もあげるやつ。


だが、元気は出てきた。


おれは、しっかりと采を握った。


【元亀四年

羽柴筑前守秀吉】


来たか。


わが羽柴軍三千に向かってきたのは、真田か。


ふう。


信濃先方衆最強の呼び声高いが、不死身の馬場美濃と当たらなくてよかった。


織田のこの前衛一万に当たるべく出てきた武田軍は、馬場、内藤、真田、小山田、原、土屋、小幡の七隊、合計すれば1万2千にもなる。


武田は、勝頼本隊と、後詰めの穴山、逍遙軒〈しょうようけん〉一万だ。


約、5千の兵を持つ馬場美濃は佐久間殿に向かっていった。


真田3千は、わしら。


のこり4千は柴田殿。


三途の川の渡し賃。六文銭の旗印が見える。


真田のようだな……


いつでも死ぬ覚悟ができているとのことじゃろうが……


生憎、わしとてそうよ。


生きたければただ生きたければ、水呑み百姓を続けておればいいだけの話。だが、それをせず、

殿に仕え、死ぬ気で働き、ビビりながら、死ぬ思いをし、大名になった。


たしかに、惜しい。大名の座は。


だが、満足できないのも確かだ。


このとんでもない地位にも。


だから、わしは武功を立て続けなければならない。


そのためには、死ぬ覚悟が必要なのだ。迷惑な話だが。


「千成り瓢箪を掲げろ!」


戦勝の度に増やしてきたこの瓢箪。気付けばもう数えきれぬほどにまでなった。


この瓢箪また増やす。


「火縄銃放てぇ!」


鉄の塊が轟音を出しながら火をふいた。


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