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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第6章 坂祝!!
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第59話 背水の陣

【元亀四年 山田大隅守信勝】


信長の行動は早い。


武田、今川出陣の報が訪れたと同時に信長の命令が届いた。


織田勘九郎、織田源五郎、佐久間右衛門尉、柴田修理亮、明智日向守、丹羽五郎左衛門、羽柴筑前守、滝川左近将堅、山田大隅守、細川兵部大輔、計4万に西美濃出陣せよ。とのこと。


石山包囲は原田備中守が請け負う。


あと、西国の抑えのおれと光秀、北国の抑えの柴田さんが同時に出陣が命じられている。


つまり、もし西美濃でこの3人が同時に討ち死にしるようなことがあれば、西国、北国から一気に幕府は崩れる。


信長もすべてを賭けているのか……


「なぜ、勝頼は西美濃に出陣した?」


「神のお告げではないでしょうか?」


「阪神の助っ人じゃねえんだぞ!」


右近の答えを一蹴する。


おれは、祐光にさっきと同じことを質問する。


「美濃は富国。遠江より盗る価値はある」


「でも、遠征になるし退路も限られるだろ」


美濃へ出るには信濃の山道を越えなければいけない。つまり退路も限られるということだ。


「四郎勝頼は陣代だ。当主の虎王丸は甲斐にいる。ここで勝頼は討ち死にしても構わないということだな」


しかし、なぜ信玄は勝頼を正式な当主にしなかった?既に諏訪家を次いでいるが武田に複姓したら済む話なのに。


まあ、難しい話はわからんな……


結局、こういう結論に落ち着くんだよな。


【元亀四年 馬場美濃守信春】


武田、今川軍は美濃岩村城に入った。


この美濃出陣は、勝頼の言い出したことだ。家臣、特に穴山殿は猛反発したが、勝頼が押しきった。


織田の本拠である美濃で戦をすることは、危険であるが、勝頼はいい放った。


「死地に赴かねば天下は取れぬ」


静かであるが、鬼気迫る宣言。


なにか、策があるということか……


この、何を思っているのかわからない勝頼の顔を見ると、何とも言えなくなる。


見ると、この無表情なる男が文を書いている。


「なにを書いておる?」


「高坂に向けての文だ」


ほう。留守居役の高坂にか。


「見てもいいか?」


「ああ」


そこには、


此度の合戦におき、信長、家康を討ち取れしこと

確信致した。


とあった。


ふむ、やはり策でもあるようだな。


「奥方には書かなくてもいいのか?」


わしがニヤニヤと尋ねる。


「うるさい」


少しムッとした表情を見せる。まったく、この男は妻に関することではないと、表情を動かさないのか。


【元亀四年 山田大隅守信勝】


おれたちは、岐阜城に入り、そこで家康率いる徳川軍1万と合流した。


「竹千代に、義弟。別室に参れ」


おとうとと呼ばれたら、おれか源五郎殿か見分けつかんだろ。だが、まあ空気を呼んで、おれがいく。


「よく来た」


信長は、立っておれと家康を待っていた。


「主ら、戦国大名となったの」


これに対し、おれも家康も無言。血涙を流しながら、これでも前に進んできた。成長していない方がおかしい。


「恐らく、今川、赤備は右翼、左翼に配される。これを滅ぼすのが、わが策の前提よ」


つまり、できなければ信長の策は泡のように弾けなくなる。


ごくりと、おれは唾を飲み込む。


「主ら二人ならそれが出来る」


信長は、わずかに口角を上げている。


「……恐らく、敵は益田川手前に陣を引くかと」


「ああ」


益田川は美濃を流れる大きな川だ。ここを挟んで両軍激突するだろう。


「徹底した防御ですか?」


史実の長篠の戦いと同じように防御を引くのか。


「そうだ」


これで十分だ。あとはそれぞれの武将の力量と、運だ。


【元亀四年

諏訪四郎勝頼】


「冑を……」


諏訪家の冑を受け取り、これを被る。


わしは武田の家臣に支持されていない。母が諏訪家の者だからだ。


わしは、諏訪家の家臣に支持されていない。父が信玄だからだ。


だが、悲観はしない。


すべては我が責任。それを言い訳になどしない。


武田がため、身を捨てるべし。


「全軍」


われは手を挙げる。


「益田川を渡河」


【元亀四年

山田大隅守信勝】


5万の足利、織田、徳川連合軍は、武儀川を越え、益田川に迫った。


益田川の戦い、とでも呼ばれるのか。


勝者はどちらになるかなど、わかりきっている。


おれだ。おれたちだ。


しかし、坂祝〈さかほさ〉という地に到着したときその光景は広がっていた。


三方ヶ原のような光景とでも言うのか。


広がる武田葵。そして、左翼はつつじのような真っ赤な赤備。


そして、風林火山の旗を持てない勝頼の旗である大の一文字。背後は、益田川。


……はあ?


まさか、益田川を渡ったのか。


益田川を渡り、退却するのは簡単ではない。


つまり、勝頼は退路を断ち、背水の陣を引いたのかっ。


諏訪四郎勝頼……化け物かよ。


いや、化け物だ。


だが、おれらは目の前の今川軍を倒すだけだ。


おれは手綱を握り締めた。


【元亀四年

諏訪四郎勝頼】


「投了よ」


わしは采を掲げた。


【元亀四年

織田上総介信長】


ククク……カカカ……


勝頼めが。われの裏をかくとはやる。


だが、貴様とわれの越えられぬ差を見せてやる。

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