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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第6章 坂祝!!
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第58話 出陣

【元亀四年 織田上総介信長】


「久しぶりどすな」


「ああ」


われは茶室で、大政大臣の近衛前久と向き合っている。



「聞けば、供回りは百名ほどとか」


「そうだな」


聞きたいことがあるなら聞けばいいのに、公家という人種は……


「われは近々、武田と戦をす」


「ほう」


近衛の眉がぴくっと動いた。


「朝廷はどう思っておる?」


「……武家の争いには不介入でございますれば」


「そうだったな」


この日ノ本の権力の武家権力、朝廷権力、寺社権力、どれも抑えるのは至難よの。


「近衛」


「なんでしょう?」


「大政大臣の座はどうだ?」


「人臣の最高位。気持ちがよろしゅうございます」


「そうか」


われはまだ一大名に関わらず、この座は心労が伴うものなのにな。


【元亀四年 山田大隅守信勝】


京、本能寺で宿泊している信長よりこっちにこいとの命を受けた。


なんだ?


くそ。学校の三者面談なんざより万倍も緊張する。


供は無用でこいとのことだ。


なにがあるっていうんだ?


おれは闇夜の京に向かった。


そういえば。ここで幽斎さんと会ったんだよな。で、義輝様に仕えて、信長と会ったりして、大名になったんだよな。


はあ、とため息をつき、空を見上げる。


空一杯に広がる星は、爛々と輝いている。


気付けばおれも27歳。戦国にタイムスリップしてもう11年がたったのか。


ずっと走り続けて来たからな。もうなにがなんだか。


おれは本能寺の門を潜った。



「義弟よ」


「はっ」


胡座をかき、頬杖をついている信長は何を言おうとしているのか、検討がつかない。


「聞けば、中指を落としたそうだな」


「はい」


おかしい。信長はこんな無駄話をしない。もっと

用件を手短にスパッと、それこそ言葉が足りないくらいに。


「うぬを武田戦に連れていく」


「……拙者を?では本願寺は?」


「原田備中に任せる」


……原田備中守直政はたしか南山城の領主だったよな?


「聞け」


「はっ」


「10万の兵を率い、われは本願寺を囲む。さすれば、必ず武田、今川は来る。そこを兵を割いてこれに向かう」


なるほどね。でも、それをなんでおれに言ったんだ?


「義弟よ。そなたには今川と当たってもらう」


……今川か。必ず御家再興に燃えているんだろうな。しかも今川は国。部隊じゃない。


「赤備は?」


ふと、疑問に思った。


「竹千代」


ま、そうだろ。最強の先鋒に当たるのは、強兵の三河兵しか務まらないか。


「年貢で懐は暖まっている。仮に全軍討ち死にでも遺族に報える。」


信長の表情に変わりはない。


……つまり、死ねる準備はあるということか。


慶次も、やつらもこういう気持ちだったのかな?


おれは、花隈の戦いで、あいつらを殺す、失う覚悟をした。


覚悟をする方も、される方も棘の道だな……


【元亀四年 徳川三河守家康】


信長殿からの手紙には、赤備と当たるように、とのことだった。


「ううむ……」


思わず唸ると、弥八郎が不思議に思ったようだ。


「いかがされましたか」


「いや、これを見てくれ」


「拝見いたします」


読み終わったらしい弥八郎は、ほとんど表情に変わりはない。


「驚かぬか」


「ええ」


ほう。不思議だな。


「三河兵は強兵ですし、それに殿は優秀なるお方」


世辞には触れないでおこう。


「……三方ヶ原より二年。わしは片時もこの恨みを忘れたことはない」


「差し出がましながら、存じております」


わしは拳を握り締める。ここで武田に勝てば、太守だ。


武田と織田。古くは今川と織田。いつも強国に挟まれてきたわが家はいつも、どう生きるべきかを考えておった。


……我らが大国にならなければならぬのよ。


そのためにも。


赤備に勝つ。


「信長殿に相わかったと伝えてくれ」


【元亀四年 山田大隅守信勝】


信長の命により、織田、足利全軍10万が本願寺を囲んだ。


石山を囲んだおれたちは一通り陣をひくと、刈田を行った。


まったく。


延暦寺を燃やし、長島の信者を皆殺しにし、

荒木の一族を一人残らず殺したおれららしくない

地味な行動だ。


もっとも、荒木一族皆殺しはおれの行いだが。


この行動に再し、紀州も、本願寺もなんの行動も起こしていない。


つまり、こいつらは待っているのだ。武田の出陣を。


それは本願寺だけではない。おれたちもだ。


もし来なかったら、ここ石山で越年だな。


だが、これは杞憂に終わった。


報がくる。内容は、


諏訪四郎勝頼、今川刑部大夫氏真を総大将とする武田、今川軍、三万、西美濃に出陣。


……西美濃だとっ!?やばい、てっきり徳川領だと思っていた。


勝頼に裏をかかれたということか。

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