第56話 雑賀
【山田大隅守信勝】
武田徳栄軒信玄が死んだことで、徳川家の反撃が始まった。三河と遠江の武田領を攻めとり始めている。まさに家康にとっては、武田信玄(笑)みたいな気分なんだろな。
まあ、知らないけど。
で、うちの義兄の第六天魔王はこの隙に、まわりの敵対勢力を打ち倒すことにしたらしい。
加賀か、紀州か、石山か。
「石山を枯らす。あれに輸送している雑賀水軍が本拠、紀州雑賀を討ち滅ぼす」
雑賀か。てことはゲームとかで大人気の雑賀孫市と争うのか。
「義弟よ」
「え……おれ?」
「ああ」
信長がおれのことを義弟って呼んだぞ。なにこの天変地異の前触れは。嫌だぞ。天災とかは。
「うぬを奇妙につける。秀吉と佐久間と共に浜手より攻め上がれ」
海沿いの浜手と山沿いの山手がある。で、おれと秀吉と佐久間さんと信忠殿は浜手か。
「全軍を出すぞ。友閑!」
「はっ」
「補給を一任す」
足利、織田全軍10万の補給ってどんなに大変なんだろな。最早、燃え尽きて白くなっている友閑さんを見て思った。
【元亀四年
雑賀孫一】
「あ、蝶々」
おお。木の上で昼寝から、目が覚めたら目の前に蝶々がいた。いいね。幸せを感じる。
蝶々はいいね。自由に空を飛べる。おれは空を飛べないというのによ。
おれは蝶を取ろうと手を伸ばした。そこに
「こら!バカ一!」
地鳴りのような声が響き、おれは木から落ちそうになる。誰だかわかるが一応見てみる。
ああ、やっぱり。
おれの乳母の娘、りんだ。
てか、おれのほうが目上なのにあいつは、ずっとこんな口の聞き方。
たしかあいつもおれと同じ20歳だったよな。
「うるせえよ」
おれが精一杯の怖い顔で睨んでも、この幼馴染みは意に介さない。
「土豪の皆がよんでるわよ!」
「孫市君は風邪で出られませんって言っといて」
めんどくせーな。本当に。おれは自由でありたいんだよ。おれは遠ざかる雲を見ていると、蝶がそれと交差したように見えた。
「バカ!あんた盟主でしょ!」
盟主ねえ。ただただ紀州で一番デカい家を継いだだけなのに、大層なもん任されちまった。まさに
こんな若造にやらせんなよ。
おれがりんにそう言うと、
「あんたは火縄銃の扱いが上手いでしょうが!ほら!降りる!」
あー。火縄銃は普通では命中率は3割程度だが、おれは9割だ。だけど、こんなもん練習してきたからにすぎん。仮にほかの誰かが、この家に生まれていたら、火縄銃の扱いは上手かったに違いない。
ふああ。眠い。寝よう。
「こら!寝ない!」
「どわぁ!」
りんが木を蹴りやがったので、おれは真っ逆さまに落ちた。いてえ。
「なにすんだよぉ」
「ふん!あんたが起きないからよ!」
おれはりんに手を伸ばすと、このうるさい幼馴染みは、珍しく顔を赤くした。
「な、なななによ!」
「冗談だ」
おれはすくっと立ち上がった。
「バカぁ!」
「おぐっ」
腹を蹴られた。
いてて。
おれは腹をさする。
さて、第六天魔王を名乗る愉快なおじさんの首を拝んでみようかね。
こんなかっこいい事考えているけど、腹は痛い。
【元亀四年
山田大隅守信勝】
10万の大軍ってすごいな。おれが率いる訳じゃないけどな。
これを率いるのは乱世に咲いた毒々しい花、
織田上総介信長。
信長の通り名って第六天魔王だけだから、おれがつけてあげた。乱世に咲いた毒々しい花。
我ながらださい。うん。
「隅州!久しぶりだな!」
信忠殿が、おれの手を取った。なんでおれはこの純情な少年に気に入られているんだろ。
「勘九郎殿。頑張りましょうぞ」
「ああ」
よし。からかおう。
「活躍すれば、松姫の耳に入りますよ」
おれが耳元で囁くと、勘九郎殿は非常に崩れた笑顔をした。
イケメンが台無しだよ。嗚呼……
ほとんど素性が知らないから、創作し放題の
雑賀孫一。だから、こんなテンプレ幼馴染みキャラも登場させられる笑




