第49話 いい名だ。
その後、陣を張り野営することになった。
この調子だと、明日の朝には拓殖家の北方砦までいける。
「なあ、多羅尾」
「はっ」
「なんか、北方砦のこと知らない?」
「殿……。もしかしてご存知ない?ではなぜあんな大量の松明を?」
けっこう、驚いている顔をしているが、松明の理由なんざひとつだろう。
おれは外を指差す。真昼のように明るい。
「明るくして忍の夜襲を防ぐため、だろ?」
「まあ、それもあるのですが」
コホンと咳払いをしている。
「忍の砦には、隠し間があります」
「隠し間?」
なんだ?そのボーナスステージみたいなやつわ。
そんなんが現実世界にあるかよ。
「壁や床に隙間を開け、そこに忍が入り、弓を放つ間のことでござる」
「……すると、混乱するな。全軍が」
「ええ」
多羅尾が指を立てる
「だから、そこに松明をぶちこむのです」
「ふむ。矢ではいけないのか?」
「矢では」
言葉が途切れる。
「避けられる可能性もあります。松明なら焼き殺せます」
「なるほどね。ありがとう。じゃ、御大将のとこいってくる」
源五郎殿と、その低脳軍師のもとへいこうとしたところ、頭に鈍痛が走った。
「いてっ」
ふと、地面をみると、升が転がっている。
遠くで
「ワハハハハ!山田!こちらで飲めよ!」
何人かと酒を飲んでいる慶次だ。てか、結構距離あるぞ。お前は強肩蒙打の期待の男かよ。
「おれは今から御大将のとこいくんだよ!」
「ちぇっ残念だーワハハハハ!」
なんだあの不良集団。たくおれの部下なのに……
「多羅尾、慶次の酒に付き合ってやってくれ」
「え!?はい」
まあ、寄騎と家臣の仲は良くないとな。うん。
まあ、絡み酒かもしんないけどな。
おれは多羅尾に慶次の相手を任せてダッシュで源五郎殿のもとへ向かった。
◇
「ほう。なるほどな」
やっぱ、源五郎殿はわかってなかった。
「弾正」
「あ?」
「お前には思い付かんかったろう」
軍師(笑)を見る。
「まあな。だがその多羅尾ってやつ、甲賀の上忍だろ?」
「ん?ああ」
なんだ?いきなり。
「よくそんなやつ家臣にできたな」
「誉めるな。気持ちわりぃ」
「誉めてねえよ。バカが」
にやつきながらおれをみる弾正は、悪党の雰囲気満々だ。
「御大将……」
「ん?」
「なに茶なんか飲んでるんすか」
そう。この大和口方面軍の大将、織田源五郎長益殿は、優雅に茶を啜っている。
「風流だろ?」
「ええ、まあ」
「御大将。この山田とかいう蛮族めは天下の九十九茄子を踏み潰した愚か者にござる故、風流など
これっぽっちも理解しておりませぬ」
まだ根にもってやがったか。
「フハハッ。九十九茄子を踏み潰すとは、
おもしろきものよのお!」
なんか、文化人嫌だ。野蛮筆頭の慶次と酒飲みにいこう。
【元亀三年
風間平助】
「お師匠。やつら火のお化けだよ。松明多すぎるだろ」
なんでこんな真夜中なのに、織田の陣は、あんなに明るいんだよ。自然の摂理に逆行してるわ。
朝は明るく、夜は暗い。で、おれら忍は、
夜に生きるってのに、こんな明るくされたら
生きれないだろ。
ちっ。
てか、お師匠無視すんじゃねえ。
【元亀三年 山田大隅守信勝】
朝駆けだ。朝早く攻撃することだ。たく、朝は苦手なんだよね。しかも酒がまだ回ってる。ちょい飲みすぎた。
慶次と、多羅尾はめっちゃ平気そう。ケロリとしてるわ。
祐光は逆に朝元気だ。お盛んだからか?いや無関係か。
「かかれっ!」
北方砦の大手門はあっさりと陥落。さあ
ここからだ。
その、隠し間、ボーナスステージに気を付けないと。
壁が崩れたかと思うと、そこから矢が放たれてきた。しかも違い矢だ。
「火縄で牽制し近づけ!」
火縄銃がズドンと重い音をたてる。
そちらに、このボーナスステージの門番の気を引く。
「松明投げこめえ!」
「うわあああ」
忍の断末魔が聞こえる。そちらを振り向くと、火だるまになった忍が苦しみ悶えている。
「隠し間はすべて封じたな!そのまま拓殖の首をとるぞ!」
ワアと歓声を上げた兵がそのまま階段をかけ上がる。
その瞬間、階段自体が崩れ落ち、横から矢が飛んできている。
「バカタレが!」
階段より落ちた慶次が矢を弾いている。
「ちっ!その階段は偽物ぞ!探せ!あるはずだ!
本物の通り道が!」
ちっ。忍とは手強いな。
「殿!この穴よりいけますぞ!」
多羅尾の声を聞く。
小さい穴だ。そこなら抜けた先らへんに忍が待ち構えているだろう。
「鉄砲衆、入れ!絶えず打ちながら勧め!」
無駄打ちになるがしゃあない。
【元亀三年 風間平助】
「お師匠!まずいよ!あいつら隠し間も、仕掛けにも気づいてやがる!」
「そのようじゃの」
「おれは逃げる。お師匠も達者で」
「ああ」
お師匠はもちろん逃げれるはずだ。
おれは、花隈に行く。
必ずあそこの荒木はなにかやらかす。
そうだな。伊賀は滅亡だ。風間平助の名を捨てねえとな。
新しい名は……うん。
以前使った変名で五衛門。
で、姓はたしか土佐で滅亡した一条家の家臣で石川ってのがあったな。そこの一族とでも称すか。
石川五衛門。いい名だ。気に入った。
【元亀三年 山田大隅守信勝】
拓殖の首は発見されなかったか。
おれたちはそのまま進んだ。既に百地は真っ二つになって死んでいた。
伊賀はその後、三十郎信包殿に与えられた。
そろそろ武田が動くか。




