第45話 純情な少年
【元亀三年 山田大隅守信勝】
およそ1年間続いた長島攻めが終わった。8万もの大軍を1年間張り付けておくことのできる、織田、足利の凄さを諸国に見せつけた。
これだけならよかったのだが……
信長は一旦、和睦に応じて出てきた門徒を騙し討った。で、騙し討ちされた門徒の一部は、
信長の連枝の軍に襲いかかり、その何人かは討ち死に。先鋒の秀吉も危なかったらしいが、
半兵衛の機転でどうにかなったらしい。
だが、これで伊勢は平定。北伊勢20万石を
滝川左近将監一益に、中伊勢10万石を信長の三男、神戸三七信孝に、南伊勢10万石を、信長の次男、北畠三介信雄に与えた。
これで、滝川さんも大名の仲間入りだ。
で、もうひとつ。幽斎さんが正式に北丹後6万石を拝領。
おれとしては、河内の三好笑岩とかいうDQNネームと小競り合い。うん。このDQNの岸和田が堅牢だから落とせない。
信長に出馬を仰ぐか……
なんて考えていたが、北陸の馬鹿がやらかした。
この1年、越前の仕置を任されていた朝倉景鏡が
悪政を行い、農民が反乱。で、元朝倉家の武士も裏切り者の景鏡を倒すべく反乱、で、加賀から流れ込んだ一向衆も大暴れ。
景鏡は討ち取られたらしい。
隠れなき朝倉を捨て景鏡。越前大野の土塊となる。
越前の落首だ。
まあ意味は、日ノ本で有名な朝倉を捨てた景鏡は領地の大野の土塊となりました。っていうことだ。
まあ、で、義昭公からの書状。
山田大隅守、1万の兵を率いて、若狭に集まるよう。総大将は織田勘九郎信忠。兵5万を率いるべし。
で、他は、光秀、柴田さん、秀吉、別喜右近頭〈うこんのかみ〉っていう人と、原田備中守さん。まあ、主な武将はこんぐらい。
途中、あの変人大王の光秀の領地の坂本を通ったんだが、驚いた。
坂本の民が、とても幸せそうだしなんか洗練されている雰囲気を感じた。
「すげえな……」
祐光が思わずもらした言葉におれは頷くしかなかった。おれの治めるというか長盛が治める北摂津は、ここまで治まっていない。
尚更、光秀とはなんなんだ?
おれは、ふあと欠伸をひとつした。
「よく、来てくれたな。隅州」
「ええ。御大将のもと励みます」
よし。そろそろ軍に戻るか。
「では……」
「待て。隅州」
ん?なんだなんだ?まさかわしの代わりに全軍の指揮を任す(キリッ。みたいな少年漫画展開か?
ま、まあ、摂津40万石の太守であるおれならとーぜん?
「その、武田徳栄軒信玄はどうであった?」
……あ、そういうことね。
「とても強かったですね。拙者も殺されそうになりました」
「う、うむ。そうか、で、そういうことはなのだが、その、この……」
「松姫ですか?」
「ぶっ!!」
信忠殿は、椅子から、転げ落ちた。あわてて小姓が抱える。
「そ、そうともいえるな。うん」
なにこの純情な少年。超おもしろい。
「たしか、お美しいとか。まあうちの妻には叶いませぬけど」
「ああ、たしかに叔母上は美しいな」
「浮気?」
「ばっ!ちがう!」
やべえ。楽しい。
「幕府方が、武田を滅ぼせば松姫を勘九郎殿の妻にできますよ」
「だが、殿に、上総介にそのような意気があるのか」
うん?上総介って言ったか?父なのに。
「なんか、上総介殿となにかあったのですが?」
「……」
暫しの沈黙が流れて、
「そちは、幕臣だから申すが……」
て、前置きされて
「わしは、父、織田上総介信長が嫌いだ。わしの幼名を知っておるか?」
「奇妙丸」
これは有名だ。奇妙。まあ、赤ん坊が信長には奇妙に見えたのだろう。
「そう。おかしいではないか。奇妙など。しかも
あやつはなにも歯牙にかけてないし、織田家中はあやつに忠誠を誓っておる。一体、どうなっておるのだろうか」
幕府に毒づかないあたり、おれに気を使っていると見える。
「ま、上総介殿はああ見えて、勘九郎殿みたいに
純情ですよ」
「む?」
はあ?見たいな顔された。
「この越前攻めでわしは力をみせる」
「ええ。勘九郎殿が活躍するのは、上様のお心にかなってますから」
「安心した。隅州には次鋒を任せる。先鋒は権六」
「ええ。では軍義で」
◇
で、越前侵攻が始まった。失地回復に燃える柴田さんの奮戦で、一向衆を追いたて、それにおれら摂津衆が追撃をしかけ、逃げたさきに用意周到な
秀吉が散々に叩き、そこをバラバラに逃げたさきをすでに光秀がおとしたり、とかいうフルボッコにして、一向衆を加賀に追い払い、柴田さんの命令で、免税と免罪を布告し、農民一揆をおさめ、
朝倉旧臣を召し抱える旨を通告し、越前を平定した。
そのなかでも慶次は追い首をめっちゃ取っていた。
首を数えるのめんどいから数えていない。
「加賀に入るぞ!」
「お待ちを!殿は越前平定のみをご命令しております」
柴田さんが、加賀攻めを言い出した信忠殿を止める。
「我は上様に、兵権を与えられておるのだ!
我の命は上様の命と心得よ!右近!」
「は、はっ」
別喜右近頭さんが、慌てている。
「先鋒を命ず!加賀に押し入る!」
「はっ」
「お待ちを!加賀平定は困難!」
秀吉が、手をあげる。
「たわけ!今、一向衆が入って混乱している
手取川以南を切り取るのだ!わしとて加賀の土地柄くらい存じておる!」
「は、失礼つかまつりました」
秀吉が下がる。なんか張り切っているな。信忠殿。
まあ、親父が天下の中心人物だったらこうなるのかな?
加賀侵攻は正解だった。一気に別喜隊だけで
手取川以南を制服できた。
手取川以南10万石を別喜右近頭政正に、信忠殿は
与えた。
これって地味に越権行為だよな?
まあ、家庭の事情ってもんか。
おれは、池田山に帰った。




