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乱れしこの世で夢見たり  作者: 泰兵衛
第4章 風林火山!!
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第40話 未練

空は青く、カラスがこの雪の中を飛んでいる。


穏やかだな。空だけみれば。


おれは前方を見る。整然と隊列を組む武田軍が見える。


奥に風林火山の旗。そして先陣に

つつじが咲き乱れるように布陣している赤備。


そうだな。怖い。まんまと武田信玄に

誘きだされた。戦国最強の呼び声高き男を甘くにていたのかもしれない。


三方ヶ原なんて嫌だ。


だが、逃げれない。ここで逃げたらおれはこれからなにもこの手に掴めないかもしれない。


なら、いくしかねえだろ。


「いくぞ!摂津武士の意地をみせるぞ!」


一気に前に出る。


なにかを掴むんだ。


【元亀二年 山県三郎兵衛尉昌景】


ほう。赤備相手に前に出るとはな。

久しぶりによき敵に出会ったようだ。ふん、山田大隅守信勝か。一の一文字とは、中々、おもしろき旗印よの。


「存分にかかれい!」


わしは采を降りおろした。


【元亀二年 山田大隅守信勝】


「おい!祐光!」


「なんだ!」


祐光は赤備から目を背けていない。


「死ぬなよ」


「お前もな」


「おりゃあー」


一番槍は慶次だ。槍を振り回している。


「火縄銃よこせ!」


おれは鉄砲足軽から、火縄銃をぶんどった。


「殿様!この乱戦に打てば味方にあたるやも知れませぬぞ!」


「なに!あの赤いの目指して打ちゃあいいんだろ!」


おれは鉄砲を放った。


「おら!鉄砲衆!赤いのが目印だ!打ちまくれ!」


鉄砲衆は次々と鉄砲を放つ。


たしかに、味方にあたるかもしれぬ非情の策だが、こうしなければ赤備には勝てぬだろう。


このなりふり構わない戦い方が功奏したのか、赤備が次第に押されはじめていった。


「好機だぞ!赤備を粉砕しろ!押しだせえええ!」


おれは馬を駆け出させ、刀を抜いた。


【元亀二年

山県三郎兵衛尉昌景】


「ほう。赤備が押されるとはな」


兄とわしで育てたこの赤備がなぜ武田最強と言われてきたかを教えてやろう。


皆が一騎当千だからだよ。


「わしがでるぞ!」


一気に馬を駆け出させた。


「われの名は、山県三郎兵衛尉昌景!討てる者なら討ってみよ」


わしが出るところに一瞬間隔が広がる。そこに赤備の歩兵が詰め、四方を向く。


「山県!その首もらった!」


「猪口才な!」


ひとりの武者を切り捨てる。


「いくぞ!山田大隅守の首を討て!」


わしらはそれぞれ前だけに槍を出す。


まわりの赤備も息を吹き替えしてきたようだ。


「摂津衆を押しております!」


「口ほどもなき!幻滅したわ!」


【元亀二年

山田大隅守】


「殿、もはや無理かと……」


長盛が憔悴した顔を見せる。


すでに摂津衆は波の如く引いている。もはやおれがひき止めれるものでもない。


これが武田かよ……


桁違いだ。


「慶次、祐光を引かせよ!」


「御意!」


しかし、すぐに情報が入った。


「山県本隊、摂津衆を蹴散らし、更に本陣を捕捉した模様!」


「殿、お逃げを!われら討ち死にの間にお退きあれ!」


馬廻りの一人が言う。


それでいいのか?おれは。


摂津守護職、幕臣、大隅守、大名なんて大層な肩書きをもって結局、逃げるのか?おれが結局、まだ侍になりきれていないのは、そういうことじゃねえのか?


「……平手殿の居場所は?」


「はっ。酒井殿の支援に当たっておりますが、如何に?」


おれは下馬した。


「殿!なにするおつもりか!」


「平手殿に至急、われらの援軍に駆けつけられるよう申せ」


「殿、お引きあれ!」


おれは刀を構え、素振りをする。剣道なんざ、最近全然やってねえな。


「剣道二段の腕前、見せてやるよ」


「殿……」


おれは捨てたよ。現代への未練を。


おれは侍に、戦国大名になってやる。捨て身で行ってやる。


おれは赤備の1人に切りかかった。


「掛かれ!」


おれは叫びながら、赤備の兜に刀を一閃した。


おれの得意技は面なんだよ。


「掛かれ!掛かれ!」



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